GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
ドアをノックする音が聞こえたのは、それからすぐの事だった。
「入れ」
「失礼します」
野太い声と共にぬっと姿を表したのは、角刈りで筋肉質の巨漢だった。いかにも軍人然とした容貌に違わず、第一小隊の面々を見るやサッと敬礼する。
「フェンリル北米支部・サンフランシスコ基地、『フリーダム』小隊所属のダグラス・ホワイト曹長であります!」
厳密に言えば軍隊ではないフェンリルにあって、ホワイト曹長のそれはまさに「古き良き合衆国軍人」そのもの。制服規定が無いにもかかわらず、律儀に迷彩の戦闘服を着ている点もその印象を後押しした。
「おいダグ、そんな堅苦しい挨拶したら向こうさんも逆にやり辛いだろ。もっとフレンドリーに行こうぜ」
次に入ってきたのは、サングラスの黒人男性だ。人懐っこい笑みを浮かべ、早口でまくしたてる。
「同じく『フリーダム』小隊のエドワード・ジョンソン軍曹だ。エディって呼んでくれ」
こちらは対照的に軽いノリで、随分とはだけた格好だ。金色の指輪やらネックレスやらをジャラジャラとつけており、軍人というよりミュージシャンかラッパーとでも紹介された方がしっくりくる。
続けて小柄なアジア系男性と小麦色に日焼けしたラテン系の女性が入ってきたが、こちらは軽く会釈だけして近くにあったソファに腰を下ろした。タグには、アンディ・ウェンとジェシカ・ハーパーと書かれていた。
アンディの方は神経質にスマホをいじっており、ジェシカの方は寝不足なのか大きな欠伸をしている。
4人が来たことを確認し、アーヴィング支部長が口を開く。
「さて、後はブライアンとセレナが来れば……っと、噂をすれば」
ジョンソン曹長の言葉で到着したのは、フェンリル特殊強襲部隊の制服『F-SAT』に身を包んだ若い男女だった。
年齢は男の方がリンドウと同年代で、女の方がアリサとサクヤの間ぐらいか。どちらも細身で引き締まった体型をしており、いかにもな勝ち組美男美女カップルといった風貌で、コウタが軽く舌打ちしたのをアリサは見逃さなかった。
「申し訳ございません、支部長。神機のメンテナンスが予想以上にかかってしまい……」
女性隊員の方が、もごもごと支部長に謝罪する。
きめ細やかな色白の肌、豊かな胸と細い腰、すらっとしたモデルのような脚線美。顔つきも身体つきに劣らず優美で、くっきりとした目鼻立ちに、エメラルドの瞳が明るく凛とした輝きを放つ。
「構わんさ。それよりセレナ、まずは客人に挨拶だ」
アーヴィング支部長に促され、セレナと呼ばれた女性が第一部隊の方に向き直った。
ゆるやかにウェーブした金髪は光を反射して明るく輝き、アップにした前髪は斜めに分け、サイドは肩まで伸びている。背中まで伸びている後ろ髪は艶を帯びてさらりとしていて、柔らかそうに揺れていた。
「隊長のセレナ・スペンサー大尉です。極東支部との合同訓練、楽しみにしていたので会えて嬉しいわ」
あでやかな澄んだ声が、グロスを塗ったツヤのある唇から紡ぎ出される。
(うわ、向こうの隊長めっちゃ美人じゃん……)
うらやま……いや、きっと凄い優秀な人なんだろうなと自分で自分を納得させるコウタ。
しばらく呆気にとられて見つめていると、向こうも気づいたのか柔らかい笑顔を返してきた。微笑むと大人びた顔立ちから一転、幼いというか純粋無垢な印象を与える。
「よろしくね」
親しげな声と共にセレナが顔を近づけてくると、甘くて華やかなフレグランスの香りがコウタの鼻をくすぐった。コウタの心臓がドキッと跳ね、思わず顔を赤らめずにはいられない。
「えっと、あの、俺はその……」
何か気の利いた返事をしようと口を開きかけた瞬間、横からアリサに軽く小突かれた。
「(痛っ! 何すんだよ……!)」
「(だらしない顔しないで下さい。ドン引きです……)」
そんな二人のやり取りを見て、セレナと一緒に入ってきた男性のゴッドイーターが苦笑する。
「セレナ・スペンサー被害者の会に一名追加かな、こりゃ」
セレナと一緒に入ってきた男だ。
細身ではあるが筋肉質で、スポーツマン然とした印象を受ける。しかし程よく引き締まってた体形のため、アーヴィング所長のような威圧感はない。
(被害者の会って何!?)
地味に気にしていると、そんなコウタの思考を見透かしたようにケイン少尉がニヤリと笑う。自分がイケメンだと分かっている笑顔だ。
「ブライアン・ケイン中尉だ」
「藤木コウタです」
よろしく、と握手する。かなり強い力で握りしめられた。負けじと握り返すと、ケイン少尉が面白いものを見つけたように眉を吊り上げる。
「少年、ひとつ忠告しよう。余計なお世話かもしれんが、セレナを狙ってるのなら気を付けた方がいいぞ。今までに彼女を狙った男のうち、何人かは行方不明になっているんだ」
「え……」
さっと固まるコウタ。慌ててセレナの方を向くと、「試してみる?」と悪戯っぽく返された。やわらかな笑みは華やかで、優しく細められた瞳の上では長い睫毛が美しく反り返っている。
「さて諸君、アイスブレイクはここまでだ。要件に入ろう」
始めるぞ、とアーヴィング支部長が手を叩く。
途端、がらりと空気が変わった。
さっきまで適当にくつろいでいた北米支部のゴッドイーター達も、各々メモ帳やらタブレット端末やらを取り出す。オンとオフをきっちり分ける点は、実にアメリカらしい。
「大まかな状況は既に知っていると思うが、ここにいる極東支部のメンバーたちは本日付けで北米支部に転属となる。半年間、フェンリルの人材育成プロジェクトの一環として、北米支部にて研修を行う」
そこでアーヴィング支部長は一旦言葉を切った。
その間に秘書が配布資料を一つ一つ、各隊員たちに配っていく。全員の手元に届いたのを確認すると、支部長が再び口を開く。
「スケジュールは資料に書いてある通りだ。極東支部の諸君はアルファ・チームに配属とする。ここにいるメンバーと協力しつつ、アラガミを掃討してもらいたい」
極東支部では3人で1部隊を編制するのが基本だったが、北米支部では少しばかりやり方が違うらしい。
「サンフランシスコ・ハイヴでは、12名のゴッドイーターからなる「小隊」が基本単位だ。そして現在、サンフランシスコ基地には「フリーダム」「リベレーター」「パトリオット」の3個大隊が展開中している。この体制によって、我々は3交代制による24時間警備を実現した」
大隊の人数が12名というのにも理由がある。6名編成の2個中隊、あるいは4名編成の3個小隊に分割することで、いざという時には1つの大隊でも24時間活動が可能になるからだ。
現在、北米支部にはサンフランシスコ以外にもバンクーバー、ポートランド、シアトル、サンノゼ、サクラメントに5つの大規模なハイヴがあり、増援として他の基地に派遣される事もあるのだという。
「それからもう一つ、極東支部の諸君に伝えておく。北米支部におけるアラガミ対策の基本方針は『攻勢防御』というものだ。冷戦期のドクトリンちなんで“C3I”とも呼ばれる」
『C3I』とは、Command(指揮)・Control(統制)・Communications(通信)・Intelligence(諜報)をさし、要約すると「アラガミの動きを素早く察知して、居住区にやってくる前に、素早く動いて倒してしまおう」という積極的なドクトリンである。
カナダ方面にはあまりアラガミが現れないため、カリフォルニア州中央部に位置する広大な盆地・セントラル・バレーがメイン戦場になるという。
(そんな事が本当に……!?)
北米支部の大胆な方針に、アリサは驚きと困惑を隠せない。「攻め込まれたら反撃する」という専守防衛が基本の極東支部とはえらい違いだ。
後ろを振り返ると、リンドウも半信半疑といった様子だった。
だが、北米支部のメンバーはそれが当たり前であるかのような顔をしている。それが嘘や誇張で無いことを、まもなくアリサは身をもって知ることになる――。
ポストアポカリプス世界観の中だと、旧政府系の伝統を維持してる系の勢力が好きなので