GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
UH-60多目的ヘリに乗る藤木コウタは、目の前に広がる壮大な景色に興奮していた。
「すげぇ! やっぱデカいな!」
生まれて始めて見るロッキー山脈は、まるで夢の中にいるような光景だった。極東支部も山に覆われた島だが、ここの山脈はコウタの故郷には無い雄大さがある。
何百年もの間に様々な鉱物や砂が堆積され、風化して削れた地層が複雑に重なり、複雑で幻想的な縞模様を生み出している。それらは沙漠に照りつける太陽の強い日差しの下で、地形の変化と共に赤・黄・茶色・緑と鮮やかに色彩を変えていく。
「あの山が見えるか?」
戦場へ向かうヘリの中で、ブライアンが太平洋とは反対側の地域を指差す。コウタたちが目を向けると、そこには長大な山脈が南北に延々と連なっているのが見えた。
「シエラネバダ山脈だ。オレゴン州から北には、カスケード山脈がカナダまで続いている。言うなれば、神の作りし『万里の長城(グレート・ウォール)』って訳だ」
ブライアンの話では、わざわざ山登りをしてまで太平洋側に来ようというアラガミは滅多にいないらしい。
ごく稀に物好きなアラガミが来ることはあるが、山越えにはそれなりの時間がかかる。しかも山脈のさらに東側は見渡す限りの砂漠が広がっているから、山頂に監視ポイントを設置しておけば早期に発見できる。
そのためゴッドイーター達は前線に常時待機せずとも、異常があった時だけスクランブルすれば充分に間に合うのだとか。
「だが、そこで俺たちは考えた。“アラガミの動きが丸見えなら、逆に俺たちから打って出ればいいんじゃないか?”とな」
その思想を体現したのが、先ほどのブリーフィングにもあった“C3Iシステム”なのだろう。
アメリカ西部砂漠そのものを広大な戦略縦深として捉え、ゴッドイーター達を縦横に機動させて対応する。そうすれば強固なアラガミ装甲で守られた壁が無くとも、機動力に長けたゴッドイーター部隊だけで人間の住む領域を防衛できる……。
常に最前線と隣り合わせの生活を送ってきた、リンドウら極東支部の人間からすれば夢のような話だ。
(だが、ここの連中はそれを本気でやり遂げたって訳か……)
現在、北米支部は2重の防衛ラインに守られている。海岸地帯にそびえる山脈を活かした自然の防衛ラインと、早期警戒&機動防御が実施できる広大な砂漠。
それらを徹底的に利用することで、北米支部は『聖域』に勝るとも劣らぬ人類の安全地帯を作り上げた。
だからこそ、サンフランシスコで人々はあれだけ豊かな生活を送れるのだ。
アラガミとの戦いは砂漠の向こう、はるか彼方の戦場で行われる。そうなれば投資や消費といった経済活動も盛んになり、産業も発達する。人々アラガミ出現以前と変わらぬ、豊かで平和な暮らしを謳歌できるのだ。
そして実際、北米支部は順調に工業力、資金力、技術力、そして軍事力を蓄え、フェンリルで最も力のある支部となっていた。
(理想のフェンリル支部の見本みたいな展開だな。その日暮らしの極東支部とは大違いだぜ)
リンドウはタバコを吸いながら、感心したようにふぅと大きな息を吐く。高速で移動するヘリの風にあおられ、煙が長い糸になって後方へと延びていった。
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耳元のインカムから通信が入ったのは、それからまもなくのことだった。
『――司令部より『フリーダム大隊』に告げる。あと10分で目的地に到着する。各自、自分の神機のチェックを怠るな』
通信が切れ、神機の最終調整を行うゴッドイーターたち。隊員たちの表情は明るく、ジョークを飛ばして場を和ませる余裕すらあるようだった。
今回の掃討作戦に参加するヘリの数は2機で、片方にはセレナたち「アルファ・チーム」が、もう片方には「ブラヴォー・チーム」のメンバーが乗っている。
「見えたぞ!」
眼前に広がる広大な砂漠。その空にまるで砂嵐かと見紛うほど沢山のアラガミが舞っていた。見たところ、ほとんどがザイゴート種のようだ。
縦一列に並んで飛行していた3機のヘリは左へ90度逐次回頭し、側面を敵に向ける様な形をとる。いわゆる丁字戦法で、側面の開け放たれたドアからは神機の銃口がのぞいていた。
ヘリはその状態でホバリング。なるべく揺れないよう機体を微調整することで、命中率を少しでも上げるのだ。そして銃型神機使いたちには、長距離狙撃に特化した専用バレットが配られている。
神機を構えながら、ブライアンが説明する。
「この高度なら、地上にいるアラガミから攻撃される事は無い。だから安心して、落ち着いてよく標的を狙うんだ」
北米支部の対アラガミ戦闘マニュアルでは、「まずは制空権を確保すること」が前提条件だ。
「全方位に気を配れるほど、人間の集中力は高くない。稀にそういうエースもいるが、それでも持続時間には限界があるからな」
だから時間をかけてでも、飛行タイプのアラガミを確実に始末する。地上にいるアラガミの掃討はその後でやればいい。それが北米支部のセオリーだった。
「撃て!」
隊長であるセレナの号令と同時に、引き金を絞るゴッドイーター達。間をおかず、銃口からバレットが飛び出す。それは吸い込まれるようにして飛んで行き、いとも容易くアラガミの身体を貫通した。
「いいぞ! やっぱアウトレンジはいいねぇ!」
アラガミとの距離は約1000m。これだけの距離があればまず反撃されることは無いだろうし、仮にアラガミが気付いて向かってきたとしても余裕をもって離脱できる。
アウトレンジ&ワンサイド………敵の射程外から一方的に。
今も昔も変わらぬ、アメリカ人の理想とする戦い方だ。
『――フォックス2より各機へ。本機から500mの距離にザイゴートの接近を確認。安全のため、一時退避する』
こうしたアウトレンジ戦法を可能としたのが、ヘリコプターによる高い機動力と精度の高いレーダーの存在だ。
敵が動けば、こちらもそれに対応して素早く移動し、常に交戦距離を維持。もちろん交戦距離はザイゴートの射程より長く設定している。
「ちょっと使ってみる?」
銃形態を展開するアリサに、セレナが声をかけた。その手には、片目用ディスプレイが握られている。セレナ自身も同じものを装着しており、よく見るとそこから神機までコードのようなものが繋がっている。
「これは?」
「照準器よ。変な見た目してるけど、まぁ胃カメラみたいなもんだと思って」
銃型神機はその巨大な構造上、どうしても腰だめで撃つ形になる。そのため狙いが付けにくく、命中率は神機使いの経験と勘に頼る部分が大きい。極東支部でも新兵が確実に当てるには、危険を冒して近づくしかないのが現状だ。
だが、このデバイスを使えば、神機に取りつけた照準器の映像を片目用ディスプレイで見られるという。照準器もドットサイトにしておけば、新兵でも素早く正確な射撃が可能となる。
「すごい……!」
アリサがデバイスを装着すると、まるで神機に目がついているかのような映像が映し出された。それだけではない。標的を中央の赤いドットに合わせるだけで、バレットが面白いぐらい正確に飛んでいくのだ。
圧倒的に撃ちやすい……自身も銃タイプをよく使うアリサは、それがゴッドイーターにとってどれだけ有難いことか身をもって実感する。
北米支部のゴッドイーターは、こんなものを常に使える環境にあるのか。
対アラガミ戦での威力だけではなく、細部に至るまで使い手の負担を減らすことを考えたユーザビリティにも優れた設計思想。それは極東支部、いや他の支部には無いもので、圧倒的に豊かで潤沢なバックアップのある北米支部だからこそ可能な芸当なのだろう。
「ヒューッ! 今の見たか!? 本日4度目のヘッドショットだ!」
「ハッ、ザイゴートなんてほぼ半分がヘッドじゃねぇか!」
無線からテンション高めの声が響く。たしか、最初に会ったエディとウェンのものだ。
気付けば、あれほどいたサイゴートの数が半分以上減っていた。
(こんなに楽々と、一人の犠牲者も出さずに……)
まるでゲームのようだ、とアリサは思った。安全な場所から撃っているだけで、次々にアラガミを倒すことが出来る。
『――残り4,3,2,1,……0! ザイゴート殲滅です!制空権確保!』
そうオペレーターが告げた直後、一斉に「Yeeaaaaaaaaaahhhh!!」と歓声があがる。アリサの隣にいたセレナ少尉が小さくガッツポーズを決め、反対側でもエディとワンがハイタッチをしていた。
「――まだ浮かれるには早いぞ野郎ども! 制空権の確保をもって、現時点よりフェイズ2に移行する」
ブライアンが指示を出す。『フリーダム』大隊の次の行動は、ヘリの高度を下げて地上にいるアラガミを掃討する事だった。
USA!USA!USA!