GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
空中に比べて、地上にいるアラガミは狙いやすい。しかも空中と違い、アラガミの方からは接近できないのだ。となれば敵の射程ギリギリまで近づく事ができる。高威力のアサルト弾でも十分に届く距離だ。
「よく狙って!スコアが一番高い人にはビールを奢ってあげる!」
セレナの号令と共に、バレットを一斉連射。銃声が鳴り響くと同時に、目標となったアラガミが次々に吹き飛ばされる。
先ほどの空中戦で使った狙撃バレットは長射程と引き換えに威力がやや犠牲になっていたが、今度は高威力のバレットを惜しみなく使える。
――戦果は圧倒的だった。
面白いように当たる。まるで七面鳥撃ちだ。
「よし! この調子なら、あと10匹でスコア更新だぜ!」
「チッ、弾切れかよ!いいとこだったのに!」
「誰かOアンプルをとってきて! そこのボックスに入ってる!」
数分と経たないうちに、ほぼ全てのアラガミが倒されてしまった。まだ息のあるアラガミもいるが、部位のほとんどを破壊されている状態で、弱々しく動くだけ。
ここまで来ると、もはやスポーツ感覚だった。弾数は無制限、照準もデバイスが勝手にやってくれるし、危険が迫ればヘリが自動で安全圏まで退避してくれる。
『――目標の9割を殲滅!第3フェイズに移行して下さい!』
オペレーターが告げると、ブライアンが負けじと声を張り上げた。
「聞いたかお前ら! 楽しい狩りの時間だ!一匹残らず食い尽くすぞ!」
威勢の良い掛け声と共に、剣形態の神機使いたちが降下する。それぞれが適当なことを叫びながら、これまでのうっ憤を晴らすかのように瀕死状態のアラガミにトドメを刺していった。
たまに運よく生き残ったアラガミに遭遇する場合もあるが、北米支部のゴッドイーターたちは数の優位を活かし、確実に一匹づつ仕留めていく。
それは戦いと呼べるようなものではなく、ほとんど一方的な虐殺だった。死にかけのアラガミにトドメをさし、捕食形態に変形させた神機でオラクル細胞を摂取していく。
「うわぁ……」
むしろ一方的すぎて引いてしまう。アリサにしろコウタにしろ今さらアラガミに慈悲などないが、ハイテンションでピクピクと痙攣しているザイゴートに嬉々としてトドメを刺すのもどうかとは思うほどに。
「いい? 貴重なオラクル細胞だから、絶対に無駄にはしないこと。取れるだけ剥ぎ取って、捕限りある資源は有効利用しなきゃ」
しれっと物騒な事をのたまうセレナ。その後ろでは、肌の浅黒いラテン系女性ゴッドイーターのジェシカが、ゴミ掃除でもするかのように鼻歌を歌いながら神機で補食を繰り返していた。
こうやって接種されたオラクル細胞をフェンリルに持ち帰り、Oアンプルの精製に使うのだろう。これだけの数があれば、相当な量が作れるはずだ。
圧倒的な火力でアラガミを捻じ伏せてから、適当に露払いしつつオラクル細胞を回収する。回収されたオラクル細胞は後方の基地でOアンプルに精製され、豊富な物量によって強化された戦力はアラガミ討伐を更に容易にする……。
大量生産、大量消費―――全時代に生きた人類の偉大な発明品である、このサイクルを無限機関のように延々と繰り返す。
そうすれば誰も死なないし、誰も悲しまない。CleanでEasyな戦争。ゴッドイーターが命を危険にさらす、古いやり方は終わった。少なくとも北米支部においては、アラガミへの恐怖は完全に過去のものとなったのだ。
だから、なのだ。サンフランシスコの人々が浮かべていた笑顔の意味が、アリサにもやっと分かった気がする。
“彼ら(ゴッドイーター)”がいる限り、アラガミを恐れる必要はない。
アラガミ出現以前と同じ豊かな生活――コーラを片手にピザを食べながら、アメフトの生中継を楽しむ。その間にも、アラガミははるか彼方で討伐されている。それも、一人の死者を出すこともなく……。
Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に)!
これはかつての大統領選挙で使われていたスローガンらしいが、それはは現実になりつつある。此処(アメリカ)は、新しい人類の楽園なのだ。
***
腹が減っては戦は出来ぬ―――という訳で、戦闘を終えた「フリーダム」大隊の面々と極東支部から派遣された3人は昼食をとっていた。
「午後からまた別の場所でアラガミの駆除があるから、しっかり食べといてね。多分、そんなに時間はかからないと思うけど」
セレナの言う通り、フリーダム大隊は強い。極東支部も精鋭揃いだが、それと同等があるいはそれ以上にタフだ。訓練も装備も指揮官も上回っているし、その上に栄養も行き届いている。
かつて「Materials Resembling Edibles (食べ物に似た何か)」と揶揄され、不味いミリ飯の代表格であった「米軍戦闘糧食(Meal, Ready-to-Eat)」だが、この時代にあっては豪華な食事の代名詞へと名誉回復を遂げていた。
「うっめぇ!おいアリサも食ってみろよ!肉だって肉!肉が入ってる!」
「コウタさんってば、騒がない! もう子供じゃないんだから……そんなに食べすぎると午後の任務に支障が出ますよ?」
西海岸の温暖な気候の恩恵を受けて、北米支部では資材供給から生産・流通・加工に至るまでの大規模な食糧生産システムが機能している。人類の食糧事情が大きく悪化する中、昔とほぼ変わらぬ水準を維持できたMREは得てして好評であった。
「気に入ってもらえたようで嬉しいぜ! ほれ、もっと食いな!」
「サンキュー、エディさんマジ太っ腹!」
「ちょっと、エディばっかりズルいわよ。コウタ君、もし良かったら私の分のビーフ・ラビオリ、ちょっと食べる?」
コウタはすっかり北米支部のゴッドイーターたちに溶け込んだようで、エディやセレナがどこからか持ってきた料理やら菓子やらを振る舞われてる。
「アリサちゃんもどう? 若い子はちゃんと食べなきゃダメよ?」
「いえ、気持ちは嬉しいですけど、私は別に、その……」
「えいっ」
もごもごとアリサがうまい言い訳を考えている間に、セレナは流れる様な動きでアリサの口の中にずいっとラビオリを突っ込んだ。
「むぐっ!?」
アリサの隙のない表情が一瞬のうちに年相応の少女のそれに崩れ、セレナは悪戯を成功させた子供のように無邪気に微笑む。大人っぽい美人にしては幼い仕草が急に可愛く思えて、同性のアリサでさえ思わず照れてしまう。
**
気づけばノリの良い北米支部の隊員に乗せられる形で、にぎやかなランチタイムとなっていた。アリサもなんだかんだで馴染んでいる中、リンドウはただ一人、少し距離を置いて眺めていた。
「加わらないのか?」
ブライアンがリンドウに近づき、蓋の空いたビール瓶を見せる。「セレナのおごりだ」と勧めてくるが、リンドウは軽く首を横に振って逆に問い返す。
「そういうアンタはどうしてまた、こんなところに?」
ブライアンは「さぁね」と肩をすくめて、リンドウの隣に腰を下ろした。そのままビールを一気に飲み干すと、空になった瓶をその辺に放り投げる。
「自己紹介はもう終わったからいいよな。あんたの事はリンドウって呼んでも?」
「構わないさ」
握手をしながらも、リンドウは警戒の姿勢を緩めない。彼には、そうする理由があった。
「ビールがダメならタバコはどうだ?」
「銘柄による」
リンドウはニヤッと笑うと、よれよれになったラッキーストライクをポケットから取り出した。リンドウが受け取ると、ブライアンがジッポーのライターで火をつけた。
「美味いか?」
「アメリカの味がする」
―――それが合言葉だった。
アメリカ料理、カロリーはめちゃくちゃ高いけど、なんだかんだで味は割と美味しい。