GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
昼食後に再び、コウタたちはヘリに乗って平原を移動していた。乾燥地帯とはいえ全てが沙漠というわけではない。ところどころに草木や河川、そしてそこで生きる動物たちの姿が見える。
「マップによると……ポイントDZ7-32はこの近くね」
セレナが手元のデバイスに表示された情報と地形データを照合する。
数十分前に、彼女たちは本部から観測ポイントの一部でデータ送受信が途絶しているという連絡を受け、現地へ向かっていた。セレナによれば、ここ最近で似たような事例が増えているという。
「最後にオーバーホールしたのが2年前だからねー。支部長には何度も総メンテナンスするよう言ってるんだけど、なかなか予算が下りなくて」
北米支部にはあまり強力なアラガミが現れず、ここ数十年にわたって人類は領土を維持している。多くの市民にとってアラガミとの戦いは遠く海外で起こっている戦争のようなもので、当事者意識が薄く、キャリアやローンの返済の方が現実的な問題だ。
必然的に軍備拡大を求める声より、福祉の充実や公共事業の拡張を求める声の方が大きくなる。フェンリルでは失われて久しい議会制民主主義が残っている北米支部は、そうした市民の声を無視できないのだ。
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峠を越えると、そこには不気味な沈黙が広がっていた。隊長のセレナの指示でコウタたちの乗る1号機が着陸し、ブラヴォー分隊を乗せた2号機は周囲を警戒するために再び旋回飛行に入った。
残されたアルファ分隊は周囲を警戒しつつ、セレナの先導について足を進める。しばらく歩くと、彼らの前には無残に破壊された機材の残骸が散らばっていた。
「これもアラガミの仕業、なんですか……?」
コウタがセレナを見ると、彼女は厳しい表情で全身を緊張させていた。
「いつもなら大抵はオウガテイルのせいなんだけど、これはちょっと違うわね。オウガテイルならもっと地味に壊すはず……ブライアンはどう思う?」
「この辺にいる“アウトロー”の連中かも知れないな。奴らは縄張りを荒らされるのを嫌うからな」
「アウトロー?」
聞きなれない単語に首をかしげるアリサ。新種のアラガミだろうか。
「いいえ、私たちと同じ人間よ。一応、ね」
どこか歯切れの悪い調子で答えるセレナ。一応、と前置きが付いているのにも理由があった。
「フェンリル、あるいは旧アメリカ政府に保護されることなく、街に一人や少数で生き残った人々のことを私たちは“アウトロー(Out Law)”、つまり“法の外にある者”と呼んでるの」
もともとアメリカでは自治意識や自己防衛意識が強く、個人が銃を所有することは建国以来の伝統である。アラガミ相手では牽制程度にしかならないが、それでも銃規制の強かった他の先進国に比べれば遥かに多くの人々が、こうした文化のおかげで生き延びることが出来た。
やがて西海岸に逃れた旧アメリカ政府がフェンリル北米支部へと名前を変え、ゴッドイーターによる反攻作戦が始まると、街を解放するたびにこういった人間が多く発見されていく。その多くは安全なフェンリルへの移住を希望したが、中には自分たちの「王国」を荒らすことを許さず、ゴッドイーターに対して攻撃的な者も少なくないという。
「もっとも彼らからしてみれば、“今まで放置してたくせに、何を今さら”って事なんでしょうけど」
実際、アラガミが出てくる前からアメリカには一定数、終末に備えて核シェルターやらを裏庭に作って自給自足できるように備える「プレッパー」と呼ばれる人もいた。その数は実に300万とも400万ともいわれ、彼らは得てして他人に対する不信感が人一倍強い。
あるいはそれだけ警戒心がそれだけ強かったからこそ、今まで生きてこられたとも言える。そして人はそう簡単に生き方を変えることは出来ない。それが今までのやり方で生き延びてきたとなれば猶更だ。
「そんな事があるのかよ……」
傍で聞いていたコウタが唖然とする。
極東支部ではむしろ、ハイヴに入りたくても入りたくない人が大勢いるというのに。保護を自ら蹴るような人間がいるというのは軽いカルチャーショックであった。
その時、遠くの方から低く唸るような音がこだました。獣か、あるいは――。
ブライアンが鋭い声で叫ぶ。
「何か来るぞ!陣形を組め!」
厳しい訓練を積んだ「フリーダム」小隊の反応は素早かった。即座に二人一組でパートナーを組み、前後左右に警戒の目を光らせる。
「前進!」
北米支部のゴッドイーターたちは完璧に統制された動きで、特殊部隊さながらきびきびと歩を進める。セレナとブライアンのタッグが足を止め、神機を構えた。ブライアンが警戒する中、セレナがスコープを覗く。
「―――いた」
セレナが指差す方角を見つめると、数体のオウガテイルが群れで固まっていた。
「数は5,6,7……いけるわ」
北米支部のゴッドイーターたちは敵に気付かれぬよう、ゆっくりと動いた。神機をいつでも発砲できるよう照準を合わせつつ、素早くオウガテイルの群れを包囲していく。
互いが配置についたことを確認し、ブライアンが頷く。一斉射で敵を仕留めようと指をトリガーにかけたその時―――背後から耳をつんざくような叫び声が聞こえてきた。
「なっ……!?」
最初の標的になったのはダグラス曹長だった。彼が振り向くより早く、眩い光線が筋骨隆々の体を貫いた。オウガテイルに出来る芸当ではない。もっと強い、別のアラガミだ。
「サリエル!? どうして―――」
彼らを背後から襲ったのは、女性の体と蝶が融合したようなアラガミだった。サリエル――ザイゴートが共食いした果てに生まれたアラガミとも言われ、額の邪眼から様々な光線を放つ厄介な相手だ。
「まさか、さっきのザイゴートの群れって……?」
セレナの問いに答えるかのように、再びサリエルが光線を放つ。彼女は間一髪でそれを避け、自分の神機をお返しとばかりに撃ち返した。
「撃て! 撃ちまくれ!」
ブライアンの指示で、北米支部のゴッドイーターたちが神機を乱射する。放たれた無数の弾丸がサリエルの目や体を貫き、傷口が結合崩壊を始める。
だが、サリエルは死を目前にしながらもなお暴れ、強力な光線で周囲を吹き飛ばしていく。やや遅れて集まっていた生き残りのザイゴートも加わり、激しい銃撃戦となった。
銃声と怒声が飛び交う中、極東支部のゴッドイーターたちも支援を開始した。遠距離型と近距離型が互いに連携し、コウタの攻撃でサリエルが怯んだ隙にアリサの神機が正確無比にその頭部を粉砕する。
「いいぞ、極東支部!」
サリエルが地面に墜落し、アンディ・ウェン伍長が歓声をあげる。
しかし次の瞬間、その顔が恐怖に染まる。サリエルに手一杯で意識を後回しにしていた、オウガテイルの口が目の前に迫っていたからだ。
オウガテイルはウェン伍長を巨大な口で咥えみ、悲鳴と骨の砕ける音が響いた。
***
「アンディがやられた!」
「見れば分かる!」
慌てふためくエディをブライアンが一喝する。
助けに行きたいのはやまやまだが、敵の攻撃が激しくてそれどころではない。なにせこの場にいるゴッドイーターの数は、たったの8人しかいないのだ。一人がやられただけで、戦力は1割以上も低下する。
「―――こちらアルファ分隊!繰り返します、こちらアルファ分隊! 現在、サリエルと交戦中!至急、応援を!」
無線機に向かってジェシカ・ハーパー准尉が叫んでいる。だが通信状況が悪いのか、それに応答する声はない。ひょっとすると、ブラヴォー分隊の方もザイゴートの群れと戦っているのかもしれない。
「っ……撤収よ!」
ついにセレナが決断した。騒ぎを聞きつけてきたのか、オウガテイルとザイゴートが続々と集まり続けている。このまま戦い続ければサリエルの片方ぐらいは倒せるかもしれないが、こちら側も全滅だ。
ブライアンが大声を上げる。
「極東支部も聞こえたな!? 撤収だ!」
「待ってください! まだウェン伍長が……」
瀕死のウェン伍長に駆け寄ろうとするコウタだったが、傍に寄ってきたセレナがそれを制した。流石に普段の柔和な雰囲気は影を潜め、硬い表情だ。
「コウタ君、気持ちは分かるけど命令には従って。これ以上、犠牲者を増やす訳にはいかないの」
「でも……」
その先のコウタの言葉を遮るように、耳をつんざくような爆発音が響き渡ったかと思うと、コウタの体は宙に浮いていた。ザイゴートの砲撃を受けて地面が吹き飛び、その衝撃波でコウタは吹き飛ばされていた。
「ッ―――!?」
まず鼓膜を殴られたような衝撃を感じ、続けて上下の感覚が無くなる。次の瞬間には地面に体が叩きつけられ、一瞬だけ意識が飛ぶ。
「あ……」
気づけば、コウタは地面に横ばいで倒れていた。周囲には瓦礫が積み上がっている。何かが爆発したのだ。
騒ぎが遠くから聞こえてくる。不思議と痛みは無かった。銃声と爆発音が轟き、砂煙がもうもうと立ち上る中、自分はこのまま死ぬのかとコウタはぼんやりと考えた。
こんなところで終わるわけにはいかない。だが視界は徐々に霞み、だんだんと周囲の喧騒が小さくなっていくような気がする。血が抜けているのかもしれない。
皆は無事だろうか――。
そんな事を考えたコウタの前に、ふっと影が差した。アラガミではない。人の影だった。だが、ゴッドイーターのものではない。
コウタの目に前に現れたのは、見慣れない銃を構えた若い女性だった。
――なぜ、人がこんなところに?
そう問いかけようとしたが、口が動かない。思考もそこまでが限界だった。視界が急速に暗くなっていき、そのままコウタは気を失った――。
気づいた方もいるかもしれませんが、作中の「アウトロー」のモデルは小説『ワールド・ウォーZ』に出てくるLaMOE(Last Man On Earth:地球最後の男)です。
割とゾンビ映画オマージュ