GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
EPISODE08:アウトロー
コウタは固いベッドの上で目を覚ました。
(っ………)
頭が重く、響くような頭痛がする。ザイゴートの攻撃で吹き飛ばされた時に、強く頭を打ったのが原因だろう。軽い脳震盪でも起こしているのかもしれない。
頭に手をあてようとしたが、手錠が嵌められていて思うように動かせなかった。
「あ、起きた。やっほー」
ふと聞こえた声に反応して視線を向けると、ボロボロのソファで寝そべるようにしている女の姿が見えた。
意識を失う前、最後に見たあの女性だ。M字型に分けた前髪とセミロングの後ろ髪は染めた金髪で、青い瞳は気だるげに見える。
あらためて観察すると、中々に派手というかパンクな格好だ。
デザートサバイバー(軽装)のトップスに、ナイトサバイバー(軽装)のボトムスという動きやすそうな組み合わせだが、なぜか防弾チョッキを着こんでいる。胸元はギリギリまで開かれており、太ももは大きく露出しており、全体的にセクシーさを強調するようなファッションだ。
うっすらと見える腹部にはへそピアス、さらに両耳にも複数のへリックス・ピアスが付けられており、左の二の腕には花を模ったタトゥーが彫られている。元は白かったであろう肌は日に焼けて小麦色となり、肉感的な健康さを際立たせていた。
言葉を選ばずに言うなら、親に反発して夜の町で遊んでいる不良少女、とでもいった出で立ちとでもいうべきか。
「えっと……此処は?」
戸惑いながらコウタが尋ねると、少女は変わったものを見る様な目で小さく笑った。
「ふむ、とりあえず英語はしゃべれるようで何より。とはいえ、自分の置かれた状況もうちょっと考えてモノを言った方がいいですよぉ?」
女の言葉には軽蔑の色がはっきりと見て取れた。コウタのことを世間知らずだとでも思っているのだろう。
「捕虜……いや、人質ってことになるのかな」
「おっ、割と物分かりがいいっすね。そういうのヒルデちゃん、嫌いじゃないっすよ」
起きた瞬間は色々と混乱していたが、今なら状況が理解できた。
コウタが手錠をかけられて寝かされていた部屋は、外の様子を知ることが出来ないように窓にはトタン板が打ち付けられている。そのくせ扉だけは強固に補強している上に、ロックは最新式のものに取り換えられていた。当然ながら神機は部屋に無く、他にも凶器になりそうな鉛筆や皿といったものも全て取り除かれている。
そして目の前の女―――ヒルデは恐らく監視役なのだろう。眠そうに目をゴシゴシと拭っているが、いつでも左足のホルスターから拳銃を抜けるよう、動きに隙が無い。
「“アウトロー”……」
「あー、その呼び方はマジで止めてくれませんかね?」
ヒルデは少しばかり嫌悪感を滲ませた口調で言うと、タバコのようなものを咥えて火をつけた。微かに漂う甘い匂いが、それがタバコではなくマリファナであることを示していた。
「まぁフェンリルの連中が何言ったのか知りませんけど……ってアンタもフェンリルだし、えーっと」
一瞬の間が空く。
「……フェンリル北米支部のこと?」
「あー、そうそう、それそれ。それが言いたかったんですよね、北米支部。でも面倒だからフェンリルでいいっすか」
勝手に自分で納得して、ヒルデは話を続ける。
「名前は藤木……コータ、でいいんですよね?」
コウタが頷くと、女はヒルデ・エバンズと名乗った。
「少し捕捉しとくと、フェンリルの連中が言ってたこと、あれ嘘ですから」
「え……嘘?」
「どーせフェンリルの連中の言うことですから、まるで自分たちが政府の保護を嫌って、自分の意思でこんな所に住んでるみたいな言い草だったでしょ?」
「えっと、はい」
「んな訳あるかっての」
ふーっと大きく呼吸してマリファナを吸い込み、ヒルデがトロンとした表情になる。恍惚とした表情は、とても同年代の少女には見えない。
「だーれが好き好んで、こんな辺鄙なゴミ溜めみたいなとこに住むってんですか。どう考えたってフェンリルのあるシアトルみたいな大都市の方が、安全だし快適だしキレイだし、食べ物も服も一杯あるし、出来るならそっち住みたいに決まってますよ。それに引き換え、こっちは……」
それからしばらくはブツブツと不平不満の恨み節が続いた。
曰く、いつアラガミに襲われるとも分からない、冬は寒く必死に薪や毛布を集めないと凍死する、薬が不足して簡単な病気でも命にかかわる、食事がまずい、夜の当直警備が眠い、ロクな男がいない……などなどだ。
このままだと永遠に愚痴が続きそうなので、適当なタイミング見計らってコウタは口を挟んだ。
「つまりヒルデたちは、北米支部から見捨てられたってこと?」
ヒルデは「うーん」と少し唸った後、「まっ、そんな感じかな」と答える。
「細かいこというと、微妙に違うんですけどね。一応、月1きっかりで武器弾薬はパラシュート投下してきますから」
そっちのが余計にムカつきますけど、とヒルデは笑った。
「要するに“武器はやるから死ぬまで戦え”って話ですよ。こっちだって死にたくないから、アラガミが来たら戦うしかない。いい囮になるし、実質ゴッドイーターが来るまでの肉壁っすね」
ヒルデの口調からは投げやりな様子が感じられた。嫌だけど仕方ない、と半ば諦めているようである。どんなに辛くても慣れればそれが当たり前になる、という事なのだろう。
そんな彼女を見ていると、コウタは何故か悲しい気持ちに襲われた。
「もしもの話なんだけど、いっそ逃げちゃうとか……?」
おずおずとコウタが提案すると、ヒルデは一瞬だけ目を見開き、腹を抱えてゲラゲラと笑い出した。
「いやーいやー、君、素直そうな顔しといて結構な不良っすね。ここには動けない病人や老人、子供に妊婦だっているのに」
元々の知り合いもいれば、そうでない者もいる。だが、地獄のような日々を共にしていく中で彼らは掛け替えのない仲間だった。
「そりゃあ、いざとなったら一人で逃げ出す奴だっていますけど。そーいう奴は結局、戦いで生き残れても二度と仲間に入れてもらえない。そしたら後は……分かりますよね?」
ヒルデはニヤリと笑い、手で首を掻っ切る仕草をした。
ただでさえ物資が欠乏気味で、アラガミの襲撃や病気など死と隣り合わせの世界だ。一人で生きていける人間は、そう多くは無いだろう。孤独で野垂れ死ぬのが嫌なら、否が応でも皆で助け合って生きていくしかないのだ。
「それから集団脱走ってのも、とっくの昔に試した連中がいたんですけどね。銃で武装してシアトルだかバンクーバーだかを目指して強行突破、みたいなノリで。……まぁ結局は“対アラガミ用”の地雷原に阻まれて全滅しちゃったんですけど」
改めて絶句する………だが、冷静に考えてみれば極東支部も似たようなものだ。
アラガミ防壁に守られた第8ハイヴに住めるのはせいぜい14万人で、パッチテストで神機適性が無い人間は容赦なく強制退去を余儀なくされる。
それに比べれば、まだ武器を与えられるだけ北米支部の方がマシかもしれない。
GEの衣装けっこう種類が豊富で着せ替え楽しいです。