魔物王の道   作:すー

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第十六話 魔物王Ⅱ

 第四十六層。

 つまり現在の最前線は、今もっとも熱く実力者達が集まる階層である。

 それはというのも、巨大な森林の中でぽっかりと口を開けた場所にある、全長三〇メートルほどの巨大なアリ塚が原因だった。

 周囲を崖に囲まれ、そこに空く巣穴から出現する巨大アリはポップ率が高く、群れて容赦無く襲い掛かってくる。攻撃力が高い割にHPと防御力の低い典型的なパワーファイターは立ち回りさえ気を付ければ効率良く経験値を稼げる場所として認知されていた。

 

 迷宮区のマッピングもあと少し、今日か明日にはボス部屋も見付かると思われる現在、暇な攻略組は一パーティ一時間という協定を結んでまで日夜アリ塚に通いレベリングに励んでいる。

 一度俺も一人で挑んでみたが、正直言って死にかけた。

 

 アリ達の攻撃力は高い。クロマルは別としてプレイヤーよりも防御の劣るポチやタマなら、下手をしたら三発も攻撃を受ければ死んでしまう。故に挑むのは俺とクロマルのみ。

 万が一にも彼等を失う訳にはいかないからだ。

 

 心の底から信用出来ないグループに混じるはずもなく、また借りも作りたくない。《風林火山》なら入れてくれるだろうが迷惑を掛けたくない俺は、必然的にソロでアリ達に挑む必要があった。

 

 結果は敗退。

 

 ただでさえ防御力の低い俺はアリ達に囲まれてフルボッコにされたら即ゲームオーバー。

 普段より緊張を強いられた戦いは精神的な消耗が激しく、それは肉体の疲れにも繋がる。

 結局、三〇分ほどで崖上まで敗走する事になった。どうやらアリ塚はソロで挑む狩場ではないらしい。

 あんな奴等を一時間も相手に出来る黒の剣士は色々と間違っていると思う。

 本当に規格外だ。

 

「うわ、なんかすっごい久しぶり」

 

 さて、攻略組の大半が情報収集かアリ塚で順番待ちの列に並んでいる頃。俺はアリ塚から一キロほど離れた森の中に居て、久しぶりの現状に期待感が膨れ上がっていた。

 それは目の前をプカプカ浮遊している妖精型モンスターが見惚れる程の微笑を浮かべているからだ。

 

 体長は十五センチほど。

 腰まで伸びる艶やかな髪は山吹色。肌は白く手足は細い、正に人形の体躯。

 微かに発光する身体を包むのは花や葉っぱで出来たワンピース。

 蔦で出来た腰紐には小さな短剣が括ってある。

 そして背中から生える二対の羽は背景が透けて見えるほど薄く、微かに葉脈みたいな筋が見えた。

 

 《サンリーフ・フェアリー》。

 

 それがこの稀少モンスターの名前であり、そして妖精の頭上に浮かぶカーソルは黄色。

 五ヶ月ぶりの使い魔イベントだった。

 

「これで四体目。また騒がれるんだろうなぁ」

 

 これは、所謂嬉しい悲鳴というやつなのだろう。今後を思えば鬱になるが新しい仲間は実に喜ばしいこと。このチャンスを逃すつもりは毛頭無い。

 

 使い魔イベントはシンプルだ。

 モンスターの好物を与えて餌付けをすれば主従関係が成立する。

 たまたまそのモンスターの好物が手元にあるか。運よく餌を与えられるか。この二つの壁を突破した幸運の持ち主のみが頼れる仲間を得る事が出来る。

 そしてその餌は一般には知られていない。唯一のヒントはその階層で手に入るアイテムであるという事のみ。

 だからプレイヤーは勘と運を頼りに餌を与える必要がある。

 

 けれども俺には、そのハンデを補う反則的なスキルが存在した。

 

「えっと……餌、餌」

 

 魔物王の戦闘外効果は三つある。

 一つは飼い慣らし可能モンスターの増大。二つ目はイベント発生率の上昇。そして、三つ目がコレだ。

 

「お、あったった」

 

 メインウィンドウのアイテム欄をスクロールさせていた俺は、赤く点滅しているアイテムを見つけて一安心。

 

 これが魔物王の三つ目の効果。

 飼い慣らしイベント中の成功補助。その名も『アイテム指示』だ。命名は俺。

 ご覧の通り使い魔イベントが発生した時、そのモンスターの好物を赤く点滅する事で教えてくれる。

 

 タマの飼い慣らしの時に初めてこの効果に気付いて以来、俺は訪れる町で可能な限り多くの種類の食べ物を買うよう心掛けていた。

 苦節五ヶ月。アイテムストレージを圧迫する食べ物達に四苦八苦していた俺の苦労も漸く報われる時が来たようだ。備えあれば憂いなしと心の中で呟いて、存在を主張している《ミル花の蜜》をオブジェクト化。

 小さな小瓶の蓋をタップすると人差し指に蜂蜜色のライトエフェクトが纏わり付く。

 それをサンリーフ・フェアリーに近付ける。

 可憐な妖精が頬を綻ばせたのは見間違いじゃない。

 小さな両手が人差し指を挟み込む。それから指先に口を近づけ、嬉しそうに舐め取った。

 

「おし、テイム成功!」

 

 ウィンドウのキャラクターデータに『new』の文字を発見してテイムの成功を確信。

 こうして俺は四体目の頼もしい相棒を得る事になった。

 そして次にやる事は決まっている。

 

「あとは名前か。……サンリーフ・フェアリーって言ったら妖精、葉っぱ、こいつは女の子。女の子って言ったらシリカやミナ、ミナって言ったら教会の皆、サーシャ先生、姉みたいな人、姉ときたら妹」

 

 周囲を踊るように飛び回っている妖精を見ながら名前を考える。

 俺が生まれる二十年ほど前に流行ったゲームらしい方法で連想していると、ふと古い記憶が浮上した。

 

「そういや、いつだったか妹さんを『スグ』って言ってたっけ」

 

 もう十層での決意表明から十ヶ月近く経つ。

 月日が経つのは早いもの。感慨に耽りながら、命名の取っ掛かりを得たような気がした。

 

「サンリーフ、太陽と葉っぱ。『スグ』、スグ葉――――スグハ。お、なんか良い感じ」

 

 右手を前に突き出すと、俺の意図を読んだのか。新しい仲間は体重を感じさせない体運びで優しく腰掛ける。

 そして彼女の名前を呼ぶ――その寸前、

 

(……もしコレが妹さんの名前だったらどうしよう)

 

 流石に実在する人の名前をそのまま付けるのは憚られる。

 このクソッタレなゲームをクリアして現実世界に帰還後、その妹さんと対面する時がくるかもしれない。

 名前がスグミという可能性があるも、もし仮に妹さんの名前がスグハなら気まずく思ってしまうのは必死。

 なら、

 

(スーちゃんにしとこう。うん、スグハのスーちゃん。これに決定)

 

 そしてスーちゃんと呼びかけて頭を軽く撫でると、サンリーフ・フェアリーのスーちゃんは擽ったそうに首を竦める。

 そのままスーちゃんのステータスを見ながら今後のフォーメーションを考えつつ、改めて今日の予定を組み直した。

 十四時からはクロノスと洞穴探検。

 ウィンドウ端の時刻を確認すれば、そこには現在一〇時五〇分とある。

 幸いな事に《マジックダイト・インゴット》の在庫は師匠の所に幾つかある。なら、スーちゃん用のモンスターボックスを作るために改めて必要なのは、サンリーフ・フェアリーのドロップアイテムのみ。

 

「一先ず帰ろう。エギルに会わないと」

 

 幸いな事に《黒羽》一回分の強化をするぐらいの素材は集め終わっている。

 新しい仲間という嬉しい誤算に胸を弾ませ、俺は四十六層主街区《ラングイス》に向った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 主街区《ラングイス》は四十六層の中心にある街だ。

 街から見て東から南一帯は森に覆われ、西と北には荒野が広がる。

 ちょうど両極端な印象を受ける自然の境界に位置するこの街に戻ってきたのは、あと数十分で太陽が真上に昇る時間帯だった。

 南門を潜ってからポチをモンスターボックスに収納し、目深く被ったフードの中にスーちゃんを隠して向うのは、四門の一つである東門に通じる大通り。

 

 路上販売という特性上、店を構えるのは当然人の往来が激しい場所になる。

 今はアリ塚の所為で《深淵の森》に行く人達が沢山いるため、転移門広場付近よりも南か東門に店を構える商人達が多かった。

 東門に近付けば近付くほどCPUに混じってプレイヤーが増えてくる。

 その殆どは《ラングイス》から出る事の無い最前線の武具とアイテムを買い求めた中層プレイヤーの人達だが、中には勿論この階層を練り歩くだけの実力を持った猛者達も混じっている。

 

 そして、コレが有名税というやつだ。

『最前線を歩く黒尽くめの子供=俺』という方程式が成り立っている今、例えフードで顔を隠しても誰だか一目でバレてしまう。

 周囲に視姦されながら足を速めた。

 そして殆ど小走りで最早見慣れた中世ヨーロッパ風の街中を進み、やっと浅黒い肌をした巨漢を見つける。

 

 見上げる程のガタイの良さにスキンヘッド。

 お前は何処のマフィアか用心棒だとツッコミを入れたくなる巨体と強面の癖に、その第一印象を相殺して尚お釣りが来るほどの澄んだ優しい目が特徴の男。

 それがボス戦にも頻繁に参加する一線級の斧使いにして、善良な商人プレイヤー。

 人は見かけじゃないの体現者。

 俺が信頼する数少ない大人、エギルだ。

 

「おう、いらっしゃい」

 

 露店商売用の灰色の絨毯、《ベンダーズ・カーペット》の上で胡坐を掻きながら、クロノスよりも深いバリトンボイスでこちらに挨拶をしてくるエギル。

 彼は商人だ。よって彼の目の前にはポーションや結晶アイテムの類。そして目玉商品らしきアイテムが鎮座している。

 当然、売り物がコレだけのはずがない。

 スキルと筋力パラメーターによる水増しのお陰で重量限界が抜きん出ている結果、表に出ていないだけで俺の倍以上のアイテムが、彼のアイテムストレージには保管されているのだ。

 立て看板にある『何でも揃えます』の言葉は伊達じゃない。

 エギルの宿泊している宿にはどのくらいのアイテムが収められているのか。一度見てみたい気もする。

 

 とりあえず俺は客足の遠のいているエギルの前に屈み込み、片手を上げて挨拶に応えた。

 実にフレンドリーな挨拶だ。

 

「午前中に顔を出すなんて珍しいな。普段は夕方以降の癖して」

「ちょっと予想外のイベントがあってさ」

 

 形の良い眉根を寄せて疑問顔を作るエギルも肌蹴させたフードの中を見て納得。

 俺の頭の上にうつ伏せで寝そべっている妖精と巨漢の視線が交錯する。

 ヒューという、無駄に上手い感嘆の口笛が耳に届いた。

 

「こりゃまたなんとも。流石は《魔物王》だな」

「スーちゃんって名前だから今後もよろしく」

 

 そう紹介すると、エギルはフードの中を覗きこみながら『よろしくな』と顔に似合わない愛嬌のある笑みを浮かべる。強面とのギャップが激しいからこその愛嬌だ。

 

 エギルとは十層の攻略戦からの付き合い。彼は俺の事を知っているし、その情報には魔物王やモンスターボックスも含まれている。

 だからエギルは俺が訊く前に欲している物を正確に理解し、悪びれた表情で首を振った。

 

「悪いな、シュウ。《サンリーフ・フェアリーの鱗粉》は現在品切れだ」

「あ、やっぱり?」

 

 サンリーフ・フェアリーは《深淵の森》に出現するレアモンスター。その小ささと機動力を売りにプレイヤーに急接近、斬りつけ、刃に塗ってある麻痺毒で三秒ほどスタンさせる厄介な戦法を取る。

 攻撃力が極端に低いのが救いで、他のモンスターと一緒に出現して場を荒らす嫌らしいモンスター。

 見た目に反してアクティブな妖精として知られるのがサンリーフ・フェアリーである。

 そして、その妖精の目撃例は少ない。

 そうなると必然的にドロップアイテムも市場に出回らなくなり、エギルの反応は半ば予想した通りだった。

 だから落胆は少ない。ほんのちょっぴり、小指の爪程度の小さいがっかり感を覚えるだけで。

 

「それにしても、《シルバー・ヴォルグ》、《メタルハード・スライム》、《サンリーフ・フェアリー》。悉くレアもんばかりテイムするな、お前さんは」

「俺も時々自分の運が恐ろしい」

 

 四体中三体がレアモンスター。

 悪い事があったぶん良い事が起こり、その逆もまた然り。

 正負の法則と呼ばれる運勢の綱引きゲームを信じている俺からすれば、この幸運続きはいつの日かしっぺ返しを食らう様な気がして少し不安になる。

 いや、このデスゲームに巻き込まれている時点で運勢は最下層に落ちているので、この程度ではまだまだ運が凶側に傾く事は無いだろう。

 そういつものポジティブ思考を続けながら、ついでに不足していたポーションの類を購入し、他の商品にも目を通す。その間に世間話を挟みながら。

 

「でもさ、エギルもいつまで路上販売なんてやってんの?」

 

 頑丈そうなランタンを手に取りながら訊ねると、エギルは大仰に肩を竦めた。

 

「気に入った物件が無いんだからしょうがいない。それに話に聞くお前さんの師匠だって似たようなものなんだろ?」

「あー、うん」

 

 ゲーム開始から一年。そろそろ攻略も折り返し地点に差し掛かる時になって、商人や生産職プレイヤーの中には自分の店を持つ者達が出始めている。

 その相場は数百万コル。

 一軒家を数百万で購入出来るのは現実と比較すれば安い気がするも、このゲームに長く居る俺達からすれば『足元見るな!』と声を大にして罵倒したくなる金額だ。

 エギルも、そして師匠も将来は自分の店を持つつもりでいるが、どうやらソレはまだまだ先の話になりそう。

 

 その後も俺達は雑談を交わす。

 どうやら気付かない内にかなり話し込んでいたらしい。

 正午を告げる鐘の音を聴き、情報交換という名のお喋りに終止符が打たれた。

 

「じゃあねエギル。入荷したら教えて」

「おう。毎度あり」

 

 鱗粉を手に入れたら互いに連絡する約束を取り付けてエギルの元を去る。

 お昼時ということもあってか東門の近くは更に賑わってきた様に感じた。

 

「商売の邪魔になるから離れたけど、まだまだ待ち合わせまで時間があるんだよなー」

 

 師匠を鍛冶場から引っ張り出して昼食に誘うべきか、それとも《ラングイス》で適当な食堂に入って一人で食べるか。

 この四十六層が開かれて早五日。

 今までの食事はダンジョンや迷宮内で食べていたので、そろそろこの街の食事を堪能するのも良い気がするし、スーちゃんの顔合わせを師匠とするのも良いかもしれない。そう、どっちにするか頭を悩ませている時だった。

 

「お、あの後姿はもしかしてっ」

 

 目に飛び込んで来たのは人混みの中をすらすらと歩く白と赤の外套に、顔をすっぽりと覆う同色のフード。

 その姿勢の良い凛とした歩き方にも、どこか湖畔を連想させる静かで美しい雰囲気にも覚えがある。

 後姿でも俺が間違えるはずが無い。

 普段はコンプレックスの小ささを生かして人混みの隙間を縫う様に歩く。

 たった数秒で相手に追いつき、腰の近くの外套を引っ張った。

 

「アスナさん見っけ」

 

 気休めかもしれないが昨日完全習得した隠蔽スキルも駆使したドッキリは功を成した様だ。

 相手は――命の恩人にして俺の憧れ。その閃光の如き速さと美しさで強敵を屠る最強の女戦士。

 全プレイヤーでも五指に入る美少女にして皆のアイドル。

 容姿も性格も完璧美少女の《血盟騎士団》副団長のアスナさんは、声を掛けたのが俺だと認識した途端、太陽よりも輝く笑顔を見せてくれた。

 

「シュウくん!」

 

 その反応が凄く嬉しい。胸の内がポカポカしてくる。

 思わず赤面し、見惚れてしまう程の煌びやかな笑顔。

 なんだかもう、この笑顔があれば三日間はぶっ通しで戦える気がした。

 今の俺ならボス戦だって一人でこなしてみせる。

 

「アスナさんはこれからアリ塚?」

 

 互いに目立つ身。

 アスナさんのフード姿が『目立ちたくない』と訴えているので大通りの端に寄ってから訊ねてみる。

 その問いに対し、アスナさんは残念そうに苦笑した。

 

「本当はもう少し外に居たかったの。でも『君はいい加減休め』って怒られちゃった」

 

 どうやらアスナさんはアリ塚と迷宮周辺を往復する生活を送っていたらしい。

 ギルド仲間に順番待ちの列に並んでもらい、順番が来るまでは迷宮に潜るか、又は周辺の村でクエストをこなしボスの情報をゲットする。

 今はその帰りで、ひと眠りする前に昼食を摂る場所を物色していた最中なのだと、僅かに口を尖らせながら説明してくれた。

 

 ああ、そんな生活を休み無しで連日行うのが実にアスナさんらしい。

 これでもマシになったとはいえ時折《狂戦士》の片鱗を垣間見せる人である。

 お陰でアスナさんは休みに限り仲間から微妙に信用されていない。

 今回も送り迎えと称した見張り役の部下を置き去りにしての単独行動で、そんなやんちゃな部分も魅力的に思えるのだから相変わらずのカリスマ性だ。

 

 決して、この印象は俺のフィルターが曇っている訳ではない。ないったらない。

 

「シュウくんはこれからアリ塚か迷宮区?」

「午後の用事の前まで《深淵の森》で強化素材集めをするつもりだったんだけど……ちょっと予定外の事があって」

 

 先程のようにフードをずらしてスーちゃんを紹介。アスナさんは予想通り吃驚した表情を作る。

 そして、その美顔は直ぐに笑みを形作った。

 

「うわぁ! この子ってサンリーフ・フェアリーよね? ――シュウくん、良いなぁ」

 

 可愛いは正義。

 そう訴える笑みを浮かべながら膝を落とし、俺と視線を合わせるアスナさん。

 その体勢のまま手を伸ばし、ゆっくりと優しい手付きでスーちゃんの頬を撫でる彼女は、やっぱり女神並に綺麗だった。

 この可愛いモノを愛でる慈愛に満ちた笑顔を見た者は老若男女関係なく落とされるに違いない。

 綺麗と可憐を両立させる反則的な笑顔だ。

 

「そうだアスナさんっ、《サンリーフ・フェアリーの鱗粉》持ってない?」

 

 アスナさんがフードの中のスーちゃんを撫でるという事は、その女神然とした笑顔と間近で接する事を意味している。

 火照る顔を誤魔化すために声を大きくして訊ねると、アスナさんは撫でるのを止めてメインウィンドウを表示した。

 

「えーっと、ちょっと待ってね……あ、一つだけあるわ」

「本当!?」

 

 思わぬ展開に驚いてしまう。アスナさんと偶然出会った事に天の采配を疑わずにはいられない。

 やはり俺のリアルラックは一部でバグ扱いされるほど高い様だ。今なら俺をバグキャラ扱いしたクラインに同意してやる。

 

 アスナさんは細剣使い。そして彼女が使用するのは師匠の鍛えた最上級の一振り。

 鱗粉を貰う代わりに細剣の強化素材を幾つか提示する。

 その提案にアスナさんは頷いた。

 そして、

 

「そうだなー。じゃあ、それにあと一つだけお願いを聞いてくれたらあげよっかなぁ」

 

 からかう様に言葉を焦らすアスナさん。

 名案を思いついたといわんばかりの表情は、どこはかとなくニンマリという擬音が聞こえてきそうな笑みに変わる。

 思わず唾を飲み込んだ。

 

「お昼、一緒に食べ――」

「喜んで」

 

 言葉を言い切る前に何度も頷く。

 ニンマリとした笑みは師匠の得意技。よって似たような笑みに反応して第六感が警鐘を鳴らしていたが、どうやら杞憂に終わった様だ。

 

 この俺がアスナさんからの昼食の誘いを断わるはずが無かった。

 

 

 

 




流石に更新が遅いので頑張ってみました。
キリが良いのでここで切ります。

あまり更新の速さに拘ると展開や文章が雑になりそうなので、気をつけていきたいと思います。

……それにしても、七千ちょっとの文章量だと凄い違和感があります。書いていて物足りなさが凄いです。
このペースで書き続けたら魔物王がⅦぐらいまでいきそうです。

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