人と魔が共存する街、デモンズロード。
この街には、ちょっとばかり名の知れた怪奇事件専門の探偵、大神狼磨がいた。
大神探偵事務所は繁華街の路地裏にある、潰れたバーの跡地を借りて営業している。
ある日曜の昼下がり、大神は退屈そうにデスクに肘を付き欠伸をしていた。
ビシッと決めたリーゼントに精悍な顔立ち、適度に筋肉に付いた長身に皮ジャンを纏った姿はロックンローラーのようだ。
だが、仕事のない日が続いたせいか、その表情は覇気のないものだった。
その様子を、同じく欠伸をしながら若い女が見つめていた。
オカッパ頭に黒縁のメガネをかけ、素朴で愛嬌のある顔立ちの娘だった。
服装はMA-1ジャケットにショートパンツという動きやすい服装だ。
「ふぁ~っ、こうも依頼がないと暇で死にそうだぜ」
狼磨がぼやいた。
「そうね、ここ3か月、ずっと依頼無し……そして、私の給料も未払いよね」
唯が大きな溜息をついた。
「仕方ないだろ、俺もお前も何もしないで椅子に座ってただけなんだから」
二人が愚痴をこぼしていると、事務所のドアが勢いよく開けて、一人の少女が事務所に入ってきた。
髪を巫女のような水引きでツンテールにした、凛とした顔立ちの少女だ。
少女の名前は万福寺あかり、ある事件で大神に命を救われて以来、大神探偵事務所龍ヶ淵小学校支部を名乗り依頼を受け付けてくるようになった。
「大神さん、仕事の依頼を持ってきました!」
あかりはそう言って1枚の紙を大神に見せた。
紙には犬の写真と文章が書いてある。
大神はあかりの差し出した紙をじっくりと見つめた。
「ひょっとして依頼っていうのはまさか・・・ペットの捜索とかじゃねえだろな?」
大神が不服そうに聞いた。
「ハイッ!大当たりです!同じクラスの香奈ちゃんの飼ってた犬が行方不明なんです。香奈ちゃん、学校でいつも泣いてて・・・何とか見つけてあげたいんです」
あかりが両手の拳をギュッと握りしめながら熱く訴えた。
「そりゃ気の毒だけど・・・悪ぃな、俺は怪奇事件専門の探偵だ。ペットの捜索や浮気調査は専門外なんだよ」
大神がそう言うと、あかりは泣きそうな顔になった。
「そんなっ・・・私を助けてくれた大神さんはヒーローやと思ったのに、そんな冷たい人やったなんて・・・ううっ」
「分かった!!分かったよ。今回だけだからな、その同級生の子の犬を探してやるよ」
大神はやれやれと頭を掻いた。
「本当にええの?」
あかりは嬉しそうに尋ねた。
「ああ、男に二言はねえよ」
「うわー、ありがとう!やっぱり大神さんは私のヒーローや」
あかりが嬉しそうに飛び跳ねる。
「イングリッシュシープドッグか、珍しい犬だから見つけやすそうだ。名前がジェリーね。それじゃ、ジェリーちゃん捜索と行くか」
大神はあかりの持ってきた紙に目を通すと、デスクから立ち上がった。
ちなみにイングリッシュシープドッグとはイギリス生まれのフサフサした長い毛が特徴の大型犬である。