ドールズフロントライン ~プレイヤーズフロントライン~   作:弱音御前

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温かいんだか寒いんだかよく分からない今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

新年にスタートした今作も、本編最終話となりました。
ここまでお付き合いいただいた事に大変感謝っ!

相変わらず、大した内容ではありませんが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです


プレイヤーズフロントライン 11話

 ここまでのプレイヤーズフロントラインは・・・

 

 

 

「必勝の構えで戻ってくるから、それまで3人で頑張ってね~」

 

 

「まさか、必勝の策があるとかウソついてUMP45達を置いて逃げてきたの?」

 

 

「これから私がやろうとしている事は、本来、まともにプレイしていたら〝有り得ない〟状況を

可能にする技、〝チート〟っていう行為なの」

 

 

「これが最終ステップ! 柱に抱きついているキャラに全力で飛び蹴り~!」

 

 

「ホント、このゲーム作ったヤツ馬鹿なんじゃないの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ!?」

 

 逃げ道を塞がれ、脚を止めてしまった隙に銃撃を浴びてしまう。

 小柄である事が幸いして致命弾は受けていないようだが、被弾の影響で41はその場で膝を付いて蹲る。

 

「9、カバー!」

 

 黒45を反対側から挟撃している9が指示を受けて掃射を行う。

 9の射撃線上には45も居るため、掃射は45への被弾の危険性もある。しかし、41を救うためには必要なリスクだ。

 周囲を飛び交う9の弾丸を意にも介さず、45は蹲っている41の元へと駆けつけるや、首根っこを掴んで釣り上げる。

 掴み上げられた41はまるで猫のように身体を丸めてくれるので、こういった緊急時にはとても回収しやすいのだ。

 バリケードに逃げる45の背後から、黒45の銃撃が浴びせられる。

 可能な限り身を屈めながら走ったので、バリケードに転がり込むまでの被弾は掠り傷程度で済んでくれた。

 

「ふぅ、まだ動けそう?」

 

「ふぁい・・・まだまだへいき、ですぅ~・・・」

 

 バリケードに背中を預けた41は眠気を必死で堪えているのがみえみえで、平気そうには見えない。

 時間経過による回復を待たないと、戦闘は不可能な様子である。

 

「ここで少し休んでいなさい。動けるようになったら、加勢をお願い」

 

 コクリと頷いてくれたのを見届け、45はバリケード淵から敵の様子を伺う。

 いつの間にか9も反対側のバリケードまで退いたようで、姿を晒しているのは黒45のみ。

 45の方にはUMP45を、9の方にはUMP9の銃口を向けているのは彼女なりのアテ付けなのだろう。

 こういう所作のいちいちが45は気にくわなくて仕方が無い。

 

「コンビネーション〝サーペント〟! 行くわよ!」

 

「りょ~かい!」

 

 号令と共に2人同時にバリケードから飛び出し、黒45に向けて不規則に蛇行しながら駆け

寄る。

 簡単に言えば同時突撃指令の事で、被弾率を下げる為に蛇行しつつ突撃する為、サーペントという通称を用いている。

 本来、射撃能力の低い敵に接近戦を仕掛ける際に用いる戦法で、黒45のように強力な弾幕を

展開できる敵とは相性が悪い戦法だ。

 しかし、45とて自棄になって特攻作戦に打って出たわけではない。考え付く中でも一番勝算が見込める戦法をとったのである。

 髪の先を、ジャケットの袖を、肌の表面を凶弾が空気を巻き込みながら掠めていく。

 だが、45も9も掠りこそすれ、数十発に及ぶ弾丸は1発もその身体を穿つ事は出来ない。

 それは決してただの幸運によるものではなく、45達が意図して回避している故の事だ。

 今、45に向けられている銃器はUMP45。戦術人形である彼女にとって、それは自分自身に他ならない。射速、弾速、反動によるブレ、弾道のクセ等々、自分に関するありとあらゆるデータを用いれば、黒45が向けている銃口から弾道を限りなく正確に求める事が可能となる。

 これがもし、UMP9が向けられていたのなら回避しながらの突撃は難しいものだっただろう。

 自分の趣向を表に出したばかりに敵に付け入る隙を与えてしまうとは、愚かにも程がある。

 明日は我が身である45は、その教訓をしっかりと胸に刻み込む事にする。

 近接射程に入るやいなや、45は左足のシースケースに収められているナイフの柄を掴む。

 引き抜き際に大きく振り抜いた銀色のブレードが綺麗な孤を描き、黒45の胸元わずか先を通過する。

 この一撃が回避されるという事は織り込み済み。むしろ、これくらいやってもらわないと張り合いが無い。

 

「っ?」

 

 黒45が小さく息をつき、背後を見やる。

 視線の先では45と同様、近接距離まで潜りこんだ9がナイフを振りきっている。

 ステップ回避の直後を狙った斬撃が、見事に黒45の左わき腹を切り裂く。

 

「ぼーっとしてんな!」

 

 左手の中でナイフをクルリと回して逆手に持ちかえると、振り返しの勢いを乗せて黒45の身体に切っ先を叩きこんだ。

 胸の中央、人形であればコアが埋め込まれた位置に深々と突き刺さったナイフを一捻りして、

ダメ押ししておくことも忘れない。

 途端、黒45の身体が力を失ったようにグラリと傾いた。

 

(勝った! 間に合わなくて残念だったわね、ネゲヴちゃん!)

 

 心の中で45は勝利を確信する。

 強敵を葬ったことへの安堵と高揚感から自然と笑みが浮かび・・・そんな45の事をあざ笑うかのように、舌をぺロリと出しておどける黒45と視線が交錯する。

 

「っ!?」

 

 背中に氷柱でも刺し込まれたかのような寒気を感じ、反射的に身を構え直す。

 床に倒れ込むと見せかけて、黒45は身体を宙に浮かせた状態で床に両手を付く。

 両腕、身体、両脚のバネを利用した黒45の強烈な両脚蹴りが背後にいた9の腹部に突き

刺さる。

 

「9!」

 

 9の身体が、爆風で吹き飛ばされたかのような勢いですっ飛んでいく。

 見るからに強力な打撃だったが、それでも、寸でのところで防御が間に合っていたのだろう、

バリケードに激突する直前で踏みとどまった。

 

「ふぅ~・・・危なかった。いちおう無事だよ~」

 

 45に向けて手を振っている9を見て安心したいところだが、今はそれどころではない。

 胸にナイフが突き刺さったまま、平然とした様子の黒45が両手の銃を放り投げる。

 宙を舞っていた2丁の銃は例の如く9に向けて真っ直ぐ飛びかかる。

 

「やっぱり無事じゃない! もう、これイヤなんだよ~!」

 

「反撃は考えないで、逃げる事にだけ集中しなさい!」

 

 泣きごとを喚く9に一言だけ言葉を投げ、目前の敵に全神経を集中する。

 銃口を向ける45に対し、黒45はやはり意に介した様子も無く手を胸元へと運ぶ。

 深々と突き刺さったナイフの柄を掴むと、顔色一つ変えずに引き抜き、ナイフを

45に向けて放り投げた。

 攻撃の為ではない、パスするように緩やかな孤を描いて舞うナイフを45がキャッチしたのを

見ると、黒45は近接格闘の構えをとる。

 それは45にとっては見慣れた構え。

 奇しくも、格闘術の師である指揮官と同じ構えであった。

 

「上等。相手になってやるわ」

 

 黒45がそうであるように、45も銃から手を離し、身体をやや半身に左足を前に出す。

 違いはナイフを持っているかどうかだけで、息遣いや目線までも互いに全く同じ。

 そうなれば仕掛けるタイミングすらも同時になるといきたいところだが、大抵、先に手を出すのは頭に血が昇っている方と相場が決まっている。

 この場合は45の方だ。

 

「ふっ!」

 

 一息で踏み込み、ナイフを構えた右手を振り抜いた。

 鋭い風切り音をあげて刃が虚しく空を切る。

 ならば当たるまで何度でも。

 上下左右縦横無尽に刃を奔らせる。

 秒間4撃にも届こうかという怒涛の攻撃は、しかし、それでも黒45の身体を捉える事が

できない。

 最低限の体捌きだけで避けるその動きは、まるで霞みでも相手にしているかのようで手応えの

欠片も感じられない。

 攻めているにも関わらず、明らかな劣勢に立たされている事が分かってしまうだけに45の苛立ちも更に募っていく。

 

「このぉ! 私の姿でおっぱいプルプルさせやがって! ムカつくのよ!」

 

 攻撃が当たってくれないのならせめて、ということで、目の前でやたらと揺れる黒45の胸に

向けてありったけの罵声を浴びせてやる。

 それで少しだけ気が晴れてくれたが、状況は一向に変わりやしない。

 ムキになる45をからかうのもついに飽きたのか、黒45は回避際、45の腕を掴み

捻り上げた。つい先ほど、指揮官が見せた投げ技である。

 

「くそっ!」

 

 身体が宙を舞い、視界が流転する。この技にはどうしたって力では抗えないという事は指揮官とのやりとりで体験済みだ。

 体勢を崩しながらも、床に叩きつけられる事なく着地。四つん這い状態のそこに、ボールでも

蹴飛ばすかのように乱暴な黒45の蹴りが襲いかかる。

 ガードは間に合うも、やはり規格外の力に負けてそのまま弾き飛ばされた。

 

(コイツ、無茶苦茶だ。私達でどうこう出来るレベルじゃない)

 

 床を転がり、這いつくばり、惨めながらも黒45の追撃を避け続ける45だが、その胸中では、もう勝利を諦めかけていた。

 いくら指揮官の仇とはいえ、あまりにも常軌を逸した性能を持つ敵に勝つ術は無い。

 そんなネガティブな気持ちが動きに乱れを生み、ついに、逃げ回った先でバリケードに逃げ場を塞がれてしまう。

 

「ホント・・・ネゲヴがいなくて良かったわ」

 

 バリケードを背に、惨めな姿をライバルに見られなかった事だけが唯一の救いだ、と乾いた笑いを零す。

 正面から悠々と歩み寄ってきた黒45は手を伸ばし、45の細く華奢な首を掴む。

 指揮官の脚を楽々と握り潰すくらいなので、45の首を落すなど造作もないだろう。

 

(悔しいけど、ここまでね。ごめんなさい、指揮官)

 

 喉が押し潰される嫌な感触。一瞬の後には自分の頭は床を転がるんだろうと覚悟を決めた。

 そんな矢先だった。

 

「あら? 随分と諦めが良いじゃない、UMP45。私に対してもそれくらい素直に接してくれたら良いのに」

 

 前触れも無く響き渡った癪に障る声。しかし、その声のおかげで黒45の手は止まり、寸での

ところで脱落を免れたというのは確か。

 喜んでいいのかどうなのか、45的に難しいところである。

 

「お待たせ、副官。言った通り、必勝態勢で戻ってきたよ」

 

 偉そうに腕組みで立つネゲヴの横には、一緒に部屋から出て行っていたRFBの姿。

 ダメージを負いながらも、なんとか生き残っている9に肩を貸してくれている。

 

「ちゃんと私にお願いできたら、助けてやらない事もないわよ。ほら、助けて下さいお願いします、って懇願してみなさい?」

 

 恐らく、自分に向けて言われていると思っているのだろう、黒45はさっきまで見せた事の無い鋭い視線でネゲヴの事を睨みつけている。

 その怒りが手にも込められ、45の喉がじわじわと締めつけられて、もう声も発せられない状況である。

 助けに来てくれたのはいいが、これ以上ネゲヴが黒45のご機嫌を損ねない事を祈るばかりだ。

 黒45の手に大型の銃器が出現する。

 MG5・・・グリフィンの戦術人形としても存在する強力なマシンガンだ。

 ネゲヴに向けて狙いを付け、トリガーにかけた指が微かに動く。

 まさにその瞬間、MG5の銃身が盛大に弾け飛んだ。

 チャンバー内の弾薬が破裂したかのような状況だが、黒45の脚元に座り込んで傍観するしかなかった45には真相が見えていた。

 黒45のトリガーが引かれる直前までふてぶてしく腕組していたネゲヴが、どういうわけか一瞬のうちに銃を構え、黒45のMG5を撃ち抜いたのだ。

 

「RFBの言葉、聞こえなかったのかしら? 必勝体勢で戻った、って」

 

 ネゲヴの言葉を聞いて頭にきたのか、黒45は首を掴んでいた手を離して完全にネゲヴの方に

向き直る。

 

「ネゲヴさん、さっき私が言ったヤツ試してみたら?」

 

「そうね、本当はそんなの使わなくても勝てそうだけど、せっかくだからやってみましょうか」

 

 一体、何をするつもりなのか。ネゲヴはコホンと一つ咳払いをすると一歩踏み出る。

 それに不穏なモノを感じた黒45と、床に座り込んだままの45も少しだけあとじさる。

 

「今すぐお前は、死ぬ!」

 

 ビシっ! と黒45を指差してネゲヴが高らかに宣言するが、それだけで他には何の変化も起きている様子は無い。

 一体なんだろうこれは? と黒45、45揃って訝しげに首を傾げた。

 

「いやいや、いくらなんでもラスボスに即死は効かないから。もっと常識的なデバフにしようよ」

 

「常識的って何よ? これだけで倒せるなんて、こんなスマートで効率的な事はないでしょう?」

 

「そりゃあそうだけど、そういう問題でも無くて・・・ともかく、それはゲーム的にダメなの! 違うのにして!」

 

「んもう、ゲームってめんどくさいものなのね。じゃあ、武器の無限生成禁止、攻撃力低下、

速度低下、防御力低下とか? あとは・・・」

 

 どういうわけか、この世界はネゲヴが宣言するように改変なったようで、黒45にも変化が現れる。

 武器がハンドガン1丁だけに変わったり、服を脱ぎだしたり、といった具合だ。

 

「って、なんでこの娘いきなり服脱ぎ始めてんの!?」

 

 目の前に黒いジャケットが脱ぎ棄てられる光景を目の当たりにして、思わずツッコミを

入れる45。

 

「このゲームでは衣装によって防御力が決まるからね。基本、薄着だと防御力が低いということなのだ」

 

「丁寧なご説明どうも! もう脱ぐな! お願いだから、私の姿で脱がないで~!」

 

 自分ではないにせよ、同じ姿をした者がストリップするのは恥ずかしくととても見れたものではない。

 ジャケットを拾い上げて着せようと試みるが、操り人形状態の黒45はもう頑として動いてくれない。

 

「ふ~ん? 防御力低下、防御力低下、防御力低下、防御力低下」

 

 顔を真っ赤にしている45を見てこれ幸い、とネゲヴは同じ単語を呪いのように呟き続ける。

 

「だめだめだめ! それ以上はもう本当にダメだってば!」

 

 もう、シャツのボタンなんか半分くらい外していて、大きなお胸がたゆんと外にお目見えしてるような状況。スカートに手をかけたが最後、45はもうこの場で自害して離脱する他ない。

 

「ネゲヴ~! お前ぇぇぇえぇ!」

 

 どうにもならない、と判断して諸悪の根源であるネゲヴにターゲットを切り替える。

 必死な45の形相を見てケラケラと爆笑しているネゲヴをぶっ飛ばしてやろうと、彼女のもとへと駆けつけて・・・

 

『こらこら! 一体何をやってるんだ、キミ達は!』

 

 突如、45とネゲヴの間に割って現れたホロウィンドウによって水を差されてしまう。

 ウィンドウに写っているのはペルシカの顔。彼女にしては珍しく真剣な表情だ。

 

『ネゲヴとエネミーのステータスがメチャクチャになったおかげで、システム全体が盛大にエラーを起こしてるんだぞ? 私のシステムをハッキングするだなんて、いい根性してるじゃないか。やった者は正直に名乗り出なさい。怒らないから』

 

「ハ、ハッキングなんかしてないわよ! ・・・ハッキングにはならないって、RFBが言ってたもの」

 

 そう所在なさげにネゲヴが言うと、ウィンドウがRFBの真正面へ瞬間移動する。

 

『R~F~B~? これはど~いうことかな~?』

 

 明らかに怒り心頭の笑顔を前にして、お気楽なRFBもさすがにヤバいと感じたのか、ちょっとたじろいでしまっている。

 助けてあげたいのは山々だが、状況を全く掴めていない組みは完全に蚊帳の外である。

 

「これは・・・みんな苦戦してるみたいだから、チートを使って形勢を盛り返してあげたいなって思って・・・その・・・」

 

『チート? 裏コマンドみたいなものか。・・・そういえば、使いようの分からないプログラムが隅っこに転がってたっけ。なるほどなるほど。それなら、ここまですんなり書き換えられるのも

合点がいく。そもそも、わたしが組んだシステムはキミ達ごときにハッキングされるような軟弱な代物じゃないしね。あはは~』

 

 自分なりに納得できる事態だったのか、矛を収めてくれたペルシカを見てRFBはほっと胸を撫で下ろす。

 

『ただ、あまりやられちゃうとシステムの維持が面倒だから、ほどほどにしときなさい』

 

「ほどほど、ってどれくらいならいいわけ?」

 

『あとデバフ1回。それでもう十分でしょ』

 

 そう言って、ペルシカのウィンドウが消える。

 

「確かに、弱くしすぎるのもつまらないか。それじゃあ、ペルシカのお許しも得たところで再開といきましょうか」

 

 ネゲヴの言葉で黒45の行動制限が解除される。

 依然としてシャツがはだけたままだが、黒45はお構いなしという感じでネゲヴに向けて

トリガーを引いた。

 USPの9ミリ弾が襲い掛かる中を、ネゲヴは堂々とした足取りで歩み進む。

 当然、弾丸はネゲヴに命中しているが、まるで小石でも当たっているかのように、身体に当たった端からポロポロと床に転がり落ちている。

 

「あの桃色、弾丸をはじいてるんですけど」

 

「黒45さんには高倍率のデバフを、ネゲヴさんには超々高倍率のバフがかかってるからね。

こんな風にもなっちゃうよ」

 

 そうこうしているうちに手の届く距離まで近づくと、黒45は銃を投げ捨ててネゲヴに殴りかかる。

 腹部に向けて真っ直ぐ繰り出された突きは、さっきまでの例であれば、ネゲヴの身体が後方に吹き飛ばされていたところだろう。

 しかし、高倍率のデバフがかかっている今となっては話しは別。

 ぼすん、と可愛らしい音が離れた45の耳にも届いてくる。

 

「あら、随分と可愛らしい事するのね、UMP45ちゃん?」

 

 子供をあやすかのような笑顔で言うと、ネゲブは振りかぶった拳で黒45をぶん殴った。

 チートとやらのバフでネゲヴの力も相当なものになっているのだろう、殴られた勢いのまま

黒45の身体が床に叩きつけられると、部屋中に振動が広がっていく。

 黒くてちょっと見づらいが、床にはヒビも入っているようである。

 

「私の指揮官を痛めつけておいて、このくらいで済むと思わない事ね!」

 

 立ち上がろうと、四つん這いになっている黒45の身体をネゲヴが蹴り飛ばす。

 ライナーで成す総べなく吹っ飛んでいく黒45はバリケードに激突。銃弾を受けても傷一つ付かないバリケードが大きくひしゃげている事から、その勢いの強さが伺える。

 

「うわぁ・・・痛そ・・・」

 

 9も思わず顔をしかめるくらいの光景だが、もっと嫌な気分なのは45の方である。

なにせ、自分と同じ姿をした者がよりにもよってネゲヴに痛めつけられているのだ。

 これほどやられたらさすがにダメージも溜まってくるのだろう、起き上がろうとする黒45の

動きが鈍っているのが確認できる。

 

「ん~、ダメージは受けてそうなんだけど、いつまでも無表情なのは面白くないわね。

・・・〝私を恐れなさい〟」

 

 黒45にデバフをかけた時と同じようにネゲヴがコードを発令する。

 それはデバフなのか? という疑問が真っ先に浮かぶ45だったが、それはいらぬ心配だったようである。

 ネゲブのコード発令の直後、黒45の表情がみるみるうちに曇っていく。

 

「・・・もう、やめて。ヒドイことしないで・・・」

 

 縮めた身を震わせ、恐怖で潤んだ瞳で許しを乞う黒45。

 服装が乱れているのも相まって、知らない人が見たらどうしたってアレな光景である。

 遠目に見ていたって、45ですらちょっと罪悪感を抱いてしまうような仕草。しかし、完全に

スイッチが入っているネゲヴは全く正反対の様である。

 

「ふふ・・・ふふふ・・・そう、良い表情になったじゃない。ほら、もっと私を恐れなさい。もっともっと、良い声で啼けぇ!」

 

「やだ! いたいのはイヤだ! たすけて!! だれか、たすけて!!」

 

 痛々しく泣き喚く黒45の髪を鷲掴みにすると、ネゲヴはひしゃげたバリケードの角に頭を叩きつける。

 黒45の悲痛な叫びが木霊する度にそれを原動力にするかのように、何度も何度も繰り返し打ち付けていく。

 

「うぅ・・・もう見ていられないよぅ・・・」

 

 あまりにも悲惨な有様で、ついに9も眼を逸らしてしまう。41はまだ傍のバリケード裏で

ぐったりとしてこの惨事に気づいていないのが幸いである。

 

「いや・・・これってもしかすると・・・」

 

 最中、RFBがぼそりと呟いた言葉を45は聞き逃さなかった。

 というか、もうこの状況を見ていたくないので、他の瑣末事に敏感に反応してしまうのである。

 

「どうかした? もう、ネゲヴがあれを倒してクリア、っていう状況にしては神妙な面持ちだけど?」

 

「さすが副官、目敏いね。実は、ちょっとマズイ事になるかも・・・ってところでさ」

 

 ゲームマスターがマズイって思うのならそれは本当にマズイ事態に違いない。

 詳しい内容を、というところで、これまで響いていた耳を覆いたくなるような叫びがピタリと

止んだ。

 視線をネゲヴの方に移すと、そこにはすでに黒45の姿はなかった。

 

「アイツを倒したみたいね。やりたい放題やって少しは気が晴れたかしら?」

 

 45達に背中を向けたまま佇むネゲヴからの返答は無い。

 どことなく嫌な予感を覚える45。すると、ネゲヴがゆっくりと振り返る。

 濁った赤色の瞳に三日月のように釣り上がった口元。

 これまで見てきたネゲヴの表情の中でも、ぶっちぎりでイっちゃってる表情である。

 

「あはは。あははははははははははははははは! いいわいいわ! こんなに良い気分になったの初めてよ! こういうのって、なんて言うんだったかしら・・・そう! 〝最高にハイ〟ってやつね! ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 右手の指でこめかみをグリグリと押さえながら狂乱するネゲヴを前に、いよいよ45も本気で

恐怖を感じる。

 

「ゴメンなさい、副官。ネゲヴさん、チートの影響で〝反転〟しちゃってる」

 

「反転? それ、どういうことなの?」

 

 45の言葉を遮るように、突如、ネゲヴの身体が青い炎に包まれた。

 

「っ!!?」

 

 直視するのも困難な光と熱を受け、思わず腕で顔を覆ってあとじさってしまう。

 しかし、それも一瞬だけの事。天井まで一気に燃え上がった炎は何事も無かったかのように消えさり、その後には黒い衣装を纏ったネゲヴの姿があった。

 

「身に余る力を手に入れた者が辿る末路、ってヤツだよね」

 

「力に支配される・・・か。いかにもな感じの見た目、っていうかアレ、つい最近指揮官がアイツに買ってあげたスキンじゃないの」

 

 黒い鎧に薔薇のエンブレムをあしらった棺型のガンケース。青い炎を纏う漆黒の魔姫、

ダークメイズスキン〝黒石姫〟のご登場である。

 

「・・・不敬であるぞ、下郎。誰の許可を得て余の前に立つか。とく頭を垂れよ。余は寛大故、

さすれば不問としてやろう」

 

 時代錯誤もいいところな言い回しだが、言っている内容は普段のネゲヴとそれほど大差ないのものなので、気圧される必要もない。

 頭を下げるどころか、ネゲヴに分かるようにわざとらしく鼻で笑い飛ばしてやる。

 

「反転っていうからどんなのかと思えば、いつものコイツと同じじゃない。さっさとやっつけて

現実に帰りましょう」

 

 完全に無視された事が大層ご立腹だったのだろう、まるで虫でも見下すような余裕の笑みが一変する。

 ネゲヴの周囲が陽炎のように揺らめくのは、可憐な身体から溢れ出る怒りの熱量故か。

 

「虫けらにしては良い度胸をしている。ならば当然、苦しみもがきながら死ぬ覚悟も出来ているであろう?」

 

 ネゲヴが両手を大きく広げると、背後で蒼い炎が燃え上がる。

 まるで生きているかのようにうねりを上げる炎は瞬く間に姿形を変え、4丁のネゲヴが空中に

現れた。

 再びネゲヴの口元が歪に釣り上がり、一斉に銃口が向けられる。

 

「いいねいいね! これ、正規のラスボスよりも強いかも! 燃えてきた~~!」

 

 戦闘態勢のネゲヴを見てRFBはいきなりの大盛り上がり。肩を貸していた9をほっぽり出しちゃうくらいの勢いである。

 

「45副官! 私が戦闘指揮をとっても良いかな? 絶対に勝たせてあげるから。ね? ね?」

 

「え? ああ、まあ・・・そこまで言うなら任せるけど」

 

 ネゲヴ相手なら手加減一切無しの全力全開で叩き潰してやろうと策を練っていた45だったが、RFBのあまりの勢いに押されて、つい了承の返事を返してしまう。

 

「私も41ちゃんもだいぶ回復したから戦線復帰するよ」

 

「ふえ? 黒い45さんがいつのまにか黒いネゲヴさんになってます??」

 

 自らの前に立ちはだかるグリフィンの精鋭4人を前にしても、ネゲヴの余裕は全く揺らいでいない。

 こんなネゲヴを自分の指揮で完膚なきまでに叩きのめしてやったらどれだけ気持ち良い事か、と楽しみで仕方ないところだが・・・そもそも、このシュミレーターテストはRFBの希望に端を

発した一件である。

 最後は彼女に華を持たせてあげるのが筋というものだろう。

 

「どこまでも余を愚弄するか。蟲の領分を超えた行いが招くものは死ではない。滅と知れ!」

 

 ネゲヴの号令を合図に最終決戦の幕が上がる。

 

 

 

 ・・・

 ・・・・・・銃声と閃光、硝煙が奏でる多重奏が終演を迎えたのは数時間後。

 佇んでいた者は只1人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレイヤーズフロントライン エピローグ Coming Soon




本編は今週で最後になります。
次回はエピローグ。本当に何気ないお話なので、気軽に読んでやってください~
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