ドールズフロントライン ~プレイヤーズフロントライン~   作:弱音御前

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そろそろ、黄色いアイツが眼と鼻に襲い掛かってくる時期にさしかかりますね。
アンブレラ特殊作戦班みたいな装備で仕事したいな~、と思う今日この頃。
どうも、弱音御前です。

今週もまた懲りずに投稿してみましたので、どうか、気が向いた時にでも読んでくださればと思います。

それでは、どうぞお楽しみください~



プレイヤーズフロントライン 7話

 ここまでのプレイヤーズフロントラインは・・・

 

 

 

「なんていう美しい光景でしょう! 地球は青かった、とはよく仰ったものですわね!」

 

 

「これは、いつの間にか現実に戻っていたというオチではありませんよね?」

 

 

「来ますわよ。戦闘態勢で待機してなさいな、ファマス」

 

 

「コードネーム〝ガレオン〟。軍が開発した生物兵器っていうのがこのステージでの設定みたい」

 

 

「さすがはファマスさん。戦闘時の悪知恵に関しては右に出る者はいませんわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫ですの? ワンミスが命取りになる作戦なのですから、ウソはいけませんわよ?」

 

「たぶん大丈夫です。もうあの見た目には慣れましたから、今度はちゃんと戦えます」

 

 たぶん、と言ったところがちょっと心配ではあるが、ファマスはさっきよりも明らかに落ちついた様子で答えてくれている。

 長い付き合いでの経験上、問題ないだろうと判断したタボールは、それ以上の追及はしなかった

 

「・・・気にする事はありませんわよ。誰にだって怖いモノの1つや2つあるものです。貴女の

場合はそれだった、というだけの事ですわ」

 

 まだファマスの表情が優れないのを見て、タボールが言葉をかける。

 さきほどから、ずっとファマスをからかうような事しか口にしていなかったせいか、こんな

真面目な会話は気恥ずかしくて、タボールはファマスの顔を真っ直ぐには見られなかった。

 

「そう・・・なのですかね。タボールは何が怖いのですか?」

 

「いくら貴女とはいえ、そればかりは教えられませんわ。ちゃんと私の事を観察して、自分で見つけてごらんなさい」

 

「ふふ、分かりました。あなたがどんなモノを怖がるのか、楽しみにしておきますね」

 

 ようやくファマスの笑顔を見て、タボールの不安も消えたところでタブレット端末を手に取る。

 画面にはタイマーがカウントダウン表示されており、目的の時間まであと少しだ。

 

「そろそろ9さんが戻ってくる頃ですわね。手筈通りに頼みますわよ、ファマス」

 

 ファマスがいつもの眼で頷いた事を確認して、タボールはその場を離れる。

 真っ暗な室内では、避難路案内灯の薄ぼんやりとした明かりだけが、まるで滑走路のように延々と真っ直ぐに伸びている。

 その道に沿ってタボールが駆け抜ける。そこまで急がなくても十分に間に合う段取りは組んでいるのだが、万が一の事を考えて少し早めに着いていたい、というのがタボールのモットーだ。

 非常灯が照らし続ける先に現れたのは、タボールの身長の5倍近くはあろうかというほどに巨大な扉。その横に設置されたコントロールパネルに向き合うと、タボールはIDカードを取り出して構える。

 

(3・・・2・・・1・・・今ですわ!)

 

 タイマーの時間に合わせてパネルにカードを当てると、広大な貨物室が一瞬にして白色の灯りに照らしだされ、耳障りなサイレンの音が反響し渡った。

 サイレンの音と合わせて、ゆっくりと扉が開きはじめる。

 1人がようやく通れるくらい開いたか、と思った矢先にその隙間から9が飛び込んできたものだから、タボールはちょっとだけビックリしてしまう。

 

「ナイスタイミングだね、タボール!」

 

 立ち上がり、タボールに向けて笑顔でピースサインをする9につられて返してしまうが、今はこんなことしている場合ではないのだ。

 

「誘導は大成功だよ。私の後方10メートルくらいでついて来てる」

 

「では、このままポイントまで上手く誘いだしますわよ!」

 

 2人そろって駆けだしたすと、背後から重い足音が響いたのを耳にする。

 チラリと後ろに目を向ける。1メートルと開いていない扉の隙間から、黒い巨体が抜けだしてくる様子が確認できた。

 

「後ろを見ちゃダメだよ。タボールはとにかく全力で走る事だけ考えて。攻撃してきたら私が回避方向を指示するから」

 

「それには及びませんわ。アサルトとはいえ、私もそれなりの回避性能は有しておりますのよ?」

 

「まあまあ、そう言わずに。合図したら右に1歩分ステップだよ」

 

「へ?」

 

「はい、今!」

 

 9の有無を言わさない合図を聞いて、咄嗟に足が動いてしまう。

 タボールの身体が一歩分だけ右に逸れた、その直後、タボールがそれまで走っていたライン上を黒い杭のようなものが高速で通り過ぎていった。

 9の言うとおりに移動していなければ、確実に串刺しにされていたと断定できるだけに、背筋に寒気が奔る。

 黒い杭、ガレオンが伸ばした腕は9の方を薙ぐように振られ、再び後方へと戻っていく。

 もちろん、9はそんなもの気軽に屈んで避けている。

 

「ぜひとも指示をお願いしますわ、9さん!」

 

「オッケー、任せておいてよ!」

 

 初動から相手の攻撃を見抜くのは、回避性能がどうこうという問題ではなく、経験値がモノをいう話である。

 さすが、生き抜く事に自信があると豪語していただけの事はあるな、とタボールは9の事を見直してしまう。

 広大な貨物室内に並べられたコンテナや大型機械の傍を抜け、タボールと9はひたすら真っ直ぐに走り続ける。

 2人の目当ては、その前方50メートルほどの位置に鎮座するコンテナ。走るコース上に置かれ、両扉が開け放たれたその様子は、2人にはトンネルにも見えるような代物である。

 

「はい、ジャンプ!」

 

「よくってよ!」

 

 ピョン、と揃って可愛らしく飛ぶと、足元を鎌のようなモノが薙ぎ払っていった。

 

「ここからじゃあ影になってよく見えないけど、ちゃんと仕掛けられた?」

 

「抜かりはありませんわ。後ろとの距離は上々。私達が扉を閉めたら、後はファマスが上手くやってくれます」

 

「じゃあ、頑張ってあそこまで走るよ~。もっかいジャンプ!」

 

「よくってよ~!」

 

 50メートルの距離などそれこそあっという間なもので、横並びのままコンテナのトンネルに

突入する。

 4人くらい並べるほどの幅の、暗い金属の箱の中を瞬く間に通り抜ける。

 そこで、タボールと9は急ブレーキ。それぞれコンテナの左右に回り込むと、両開き式の扉を

閉じ始める。

 身体が少し大きい分、力も強いタボールが先に扉を閉めてロックまで掛ける。

 9が扉を閉じる少しの間、タボールはその場で待つ事になるのだが、コンテナの向こうから地響きをあげて迫りくるガレオンを真正面に見ているのが怖いのなんのって。

 

「お待たせ!」

 

 9も扉を閉じてロックを掛け終える。

 2人がコンテナから少し離れた直後、耳を劈くような轟音を伴い、目の前の分厚い金属扉が

大きくひしゃげた。

 

「っ!」

 

 もしかしたら、コンテナの扉を破って出てくるのでは? という展開も予想していただけに息を呑むタボールだが、幸い、扉を破るまではいかないようであった。

 

「今ですわ、ファマス」

 

 合図を送ると共に、コンテナの開け放たれたままの側に2人が回り込む。

 コンテナ外周を引き返す最中、ファマスの銃声が貨物室に響き渡る。

 その度にコンテナの中から破裂音とガレオンの咆哮が轟いているところから、作戦は順調に進んでいる事が分かる。

 

「閉めて下さい!」

 

 ジャストタイミングでの合図を聞き、扉に体当たりをぶちかます。

 真っ白い雲のような煙が噴き出ている入口扉を閉め、鍵を掛ければそれで作戦完了である。

 

「さあ、マイナス196度の中でも無事でいられるのか、楽しみですわね」

 

 ガレオンが暴れ回っている影響でコンテナは内側からひしゃげまくっているが、その勢いも段々と収まりはじめている。

 

「コンテナの中で液体窒素漬けにしてみようだなんて、ファマスってスゴイ作戦考えるんだね」

 

「柔らかくなるのが厄介ならば、完全に固めてしまえばいいと思いまして。ただ、喜ぶのは結果を見てからですね」

 

 〝Nitrogen(液体窒素)〟のボンベを並べた密閉式コンテナ内にガレオンを誘いこみ、ボンベを撃ち抜いて液体窒素で満たす。その後にコンテナを閉めれば、超低温冷凍庫の完成である。

 その効果は見てのとおり、閉じ込めてから数分も経たずにコンテナからは、物音一つたたなく

なる。

 

「どうやら、作戦大成功とみて良さそうですわね」

 

 イエ~イ、と3人でハイタッチを交わして勝利を分かち合う。

 

「これでこの船は航行可能になるんですね? 他の化け物は船内をうろついていませんね?

ステージクリアと確定していいんですね?」

 

「うん、そのはずだよ。船内のゾンビどもはファマスとタボールがやっつけたので最後だったから、あとはブリッジで復旧操作をすればそれで終了、と」

 

 9の話しを聞いて、実に安心しきった表情を浮かべるファマス。

 あれだけ慌てふためいたファマスをもう見られないのか、と思うと悲しくて仕方ないタボールである。

 

「でも、凍っている今であれば破壊も可能ですのよ? 念には念を入れておくのもアリだと思い

ますわ」

 

「ん~・・・開けた際に外気が流れ込みますから、それで急激に温度が上がって溶けてしまう可能性もあると思います。ただ、あなたが言うように念を押したいというのなら・・・」

 

 なんの前触れもなく、ファマスの会話が遮られる。

 静まり返っていたと思ったコンテナが、突如、轟音を伴って飛び跳ねたのだ。

 

「きゃあ!?」

 

「な、何事ですの!?」

 

「これは、ちょっとマズイ事態かもしれませんね」

 

 空荷でも数トンはあろうかというコンテナが床を跳ね、内側からのひしゃげ具合もこれまでの

比ではない。

 暴れ回るコンテナに銃口を向けながら後退する3人。

 ついにコンテナを突き破り現れたのは、身の毛もよだつような異形の姿だった。

 

「うぇ~、何ですのあの外見は? キモすぎですわ~」

 

 液体窒素がどういった影響を及ぼしたのかは知らないが、体表はまるで海藻でも絡みついているかのようにズルリと剥がれ、血が混じった赤い粘液を滴らせている。

 

「あはは~、なんかゾンビみたいになっちゃったね。第2形態ってやつなのかな?」

 

 眼球を振り子のようにぶら下げながら鋭い牙を剥くその様は、非常に出来の悪いホラー映画にでも出てくるクリーチャーそのもの。いっそのこと笑えてしまうような見た目である。

 

「こうなっては仕方ありません。応戦しますわよ、ファマス!」

 

 ガレオンと対峙しつつ、後方のファマスに指示を飛ばす。

 返事が無いな? と思いつつ後ろをチラリと見やれば、案の定というかなんというか、貨物室の隅っこで屈みこんで震えているファマスの背中が。

 

「またですの~!?」

 

「この見た目だもん、無理もないよね。とにかく応戦だよ!」

 

 ファマスちゃんは放っておいて、9の言うとおりガレオンに向けて攻撃を行う。

 タボールと9からの掃射を受け、ガレオンの身体から血飛沫が散る。

 

「あら? これはもしかして銃弾が効いているのではなくて?」

 

「そうだね! 弾がまるっきり通ってなかったさっきとは大違いだよ! でも・・・すぐに傷が治ってるっぽいからやっぱりダメだ~!」

 

 弾丸がガレオンの腐った身体を抉り飛ばすが、その直後、肉が膨れ上がって傷を塞いでいるのが視認できる。

 痛みも何も感じていないのだろう、ガレオンはタボール達の銃撃など意にも介さず、ジリジリと間合いを詰めてきている。

 

「くっ、一時撤退して対策を立て直す必要がありますわね」

 

「さんせ~い」

 

 効かないと分かっていて弾丸を消費するのは得策ではないと判断し、撤退を決める9と

タボール。

 しかし・・・

 

〝Aクラスの危険分子を検知、レベル0区画を隔離封鎖します。当該区域の搭乗員は速やかに非難して下さい。繰り返します・・・〟

 

 そんな船内アナウンスと共に貨物エリア内の照明が赤く明滅をしはじめた。

 

「はいはい、そうですわね! こういう展開はお約束ですものね! 知っていましたわ!」

 

「やれる気がしないけどやるしかないかぁ~」

 

 いよいよもって腹をくくり、徹底抗戦の構えを見せる2人。

 

「~~~~~~!」

 

 そんな戦意を感じ取ったのか、ガレオンが威嚇の咆哮をあげる。それと同時に、口から吹き出してきた粘液が2人に襲いかかった。

 

「うわぁ!!?」

 

「9さん!」

 

 粘液の噴射範囲の端に居たタボールは無事に回避できたが、直撃範囲真っ只中に立たされていた9は自慢の回避性能をもってしても避けきれなかった。

 

「何これ!? ベトベトがしつこくて・・・動け・・・ないっ!」

 

 大量の粘液を浴びた9はその衝撃で床に倒され、貼り付けにされてしまう。

 立ち上がろうともがいているが、粘液は想像以上に強力で、もがけばもがくほど身体に絡みつき、自由を奪っていく。

 

「下手に動いてはいけませんわ! 私が引きつけますので、落ち着いて引き剥がしなさい」

 

 自分に注意を惹きつけるように、ガレオンの頭を狙って弾丸を撃ち込む。

 

「そうそう、そのままこちらへいらっしゃいな!」

 

 誘導は成功し、ガレオンの注意は9から離れるように後退するタボールへと向けられる。

 グチャグチャと不快な足音を立てながら迫るガレオンとの間合いを保ち、タボールは弾丸を撃ち込み続ける。

 ・・・タボールには〝撃つ〟以外の戦闘手段というのがすぐには思い浮かばない。

 周囲の状況を把握し、起死回生の策を編み出せるような柔軟な発想力は、まだまだファマスには遠く及ばないのだ。

 制圧力には自信のあるタボールであるが、ファマスの機転を利かせた戦闘スタイルは傍で見る度に羨ましく思っていたほどだ。

 自分もこんな戦い方ができれば、もっとファマスの力になれるのに、と。

 

(こういう時に限って、ですものね。まぁ、ツイていない時はこんなものですか)

 

 真っ向からの攻撃が通じないガレオンこそ、攻略にはファマスの力が必要なのだが、当の本人があの様子では活躍は見込めない。

 自分だけでは、この状況を好転できないという結論はすでに出ている。

 ・・・だが、勝てないとはいえ、後の勝利につなげられる戦いはできる。

 このままガレオンを振りまわし、9とファマスが体勢を立て直すまでの時間を稼ぐ。

 3人で戦えば勝算は十分にあるというのがタボールの見立てだ。

 

「っ! この・・・」

 

 吐き出された粘液を避けきれず足に浴びせられてしまう。9が苦戦しているとおり、強力な粘り気で床から足が離れず身動きをとる事もできない。

 

「逃げて、タボール! そいつに掴まったら・・・」

 

 9の言葉も虚しく、ガレオンの手がタボールの身体を掴む。

 身体を完全に覆えるほど巨大な掌に握られ、タボールは自分が数秒の後にどうなるのか、直感で理解できてしまう。

 勝つ為の時間稼ぎすらもできない、自分の不甲斐なさを思い知った。

 これだけでも今回のシュミレーターテストに参加した意義はあった、としてタボールは自分を慰める。

 

「ファマス、聞いていただけますこと?」

 

 急激に身体に圧力がかかる。痛みはないが、強烈な圧迫感とガレオンの腐った皮膚の感触を感じられるというのは、非常に不快なものである。

 

「9さんのこと、ちゃんと守ってさしあげて。貴女も無事に生き残りなさい」

 

 言いたい事を言いきった直後、視界が自分の意思とは関係なく明後日の方向へと向けられる。

 ガレオンの手に握りつぶされ、消えていく自分の身体を見上げながら、タボールは遅い来る虚脱感に身を任せる。

 

「タボール!」

 

 完全に意識を手放す直前、耳に届いてきたファマスの声を耳に、タボールは自然と笑みを零していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファマス、聞いていただけますこと?」

 

 背後から届くタボールの声を聞き、ファマスが反射的に振り返る。

 貨物室内の数十メートル先には、見るも恐ろしい異形へと変貌したガレオンの巨体と、その剛腕に握られたタボールの姿があった。

 それを見て、胸の奥で小さな火花が散る感触を覚える。

 肩掛けベルトで所在なくぶら下がっていた愛銃のグリップへと、自然に右手が伸びる。

 

「9さんのこと、ちゃんと守ってさしあげて。貴女も無事に生き残りなさい」

 

 その言葉を聞き終えた直後、タボールの身体が無情にも握りつぶされた。

 紺碧の長髪を揺らめかせて落下する頭部を目の当たりにして、ファマスの胸でチリチリと燻っていた火花が一気に燃え上がる。

 胸の底から這い出た炎は、恐怖から凍りついていたファマスの身体を、思考を、弾丸を瞬時に

呑みこみ覆い尽くす。

 

「タボール!」

 

 オーバーフローした熱量を吐きだすかのように、友の名を叫び立ち上がる。

 もう見たくない関わりたくない逃げ出したいと、散々イヤがっていた敵だという事も忘れ、

ファマスはガレオンに向かって駆けだす。

 そんなファマスに気がついたのか、ガレオンは掴んでいたタボールの残骸を投げ捨ててファマスの方へと向き直った。

 宙を舞いながら、タボールの身体が消えていく。

 友の亡骸を雑に扱われたのを見て、ファマスの身体の内で炎が荒れ狂う。

 

「よくもタボールを・・・相応の報いを受けてもらいます」

 

 言葉なんて通じるわけもない事は分かっているが、宣戦布告はいちおうの礼儀というもの

である。

 

「========!」

 

 ファマスの闘争心だけは通じたのか、ガレオンがヤル気の咆哮をあげる。

 

「がおぉおぉぉ~~!」

 

 そんなガレオンに対して、ファマスも威嚇で反撃する。

 一生懸命に怖い顔を作って叫び返すその様子は、タボールが見たら確定キュン死クラスの

出来だ。

 それを向けられたガレオンが少しだけたじろいだように見えるのは、気のせいではない。

 気迫というのは、動物の本能へと直接影響を与える貴重な武器なのだ。

 

「ファマス、1人で戦ったらダメだよ。私が抜け出すまでなんとか逃げきって」

 

「いえ、コイツは私だけで相手をさせて下さい」

 

 ナイフで粘液を引き剥がしている9に向けてハッキリと答えを返す。

 それを聞いて、9が反論できなかった事で、ファマスはそれを答えだと受け取った。

 

「~~~~~~!」

 

 再びガレオンが雄叫びをあげる。同時に、口から飛び出してきた大量の粘液がファマスに襲いかかる。

 瞬時に身を横っ跳びに投げ、粘液の吐瀉範囲から抜けだす。

 床を一回転し、体勢を直したところでガレオンに向けて発砲する。

 頭部の一部分が盛大に爆ぜるが、すぐさま何事もなかったかのように再生するのが垣間見える。

 その様子を見ても、ファマスは顔をしかめるような仕草を微塵も表す事はない。今のファマスの一挙手一投足は、ただ、親友をゴミのように投げ捨てた相手を仕留めるためだけに存在する。

 誘導を確実なものにする為、ガレオンの腕が届く範囲から外れずに、ジリジリと後退する。

 大気を根こそぎ奪っていくような剛腕をかいくぐり、飛び越え、その合間にガレオンを挑発するかのように弾丸を撃ち込んでいく。

 段々とガレオンの攻撃が熾烈になっていくのは、ムキになってくれている証拠だ。

 それで良い。攻撃に夢中になればなるだけ、ガレオンはファマスの術中に落ちていく羽目になるのだから。

 そうしてガレオンから逃げつつ誘導し、数十メートルは進んだだろうか。貨物が置かれていない、床に引かれたラインで区切られた一角にガレオン共々足を踏み入れたのを確認したところで、ファマスは攻撃の隙をついて一気に駆け出す。

 向かうは、壁に設置されたコントロールパネル。ディスプレイ内の〝Air Lock〟と表記された

アイコンをタッチすると、床のラインに沿って透明の隔壁が展開された。

 

〝エアロック起動シークエンスを開始します。しばらくお待ちください〟

 

 一層に耳障りな警報音が、ファマスとガレオンが閉じ込められた数メートル四方のエリア内に

木霊する。

 

「いくらあなたでも、宇宙空間に放り出されてはひとたまりもないでしょう?」

 

 薙ぎ払われる腕をスライディングで滑り抜ける。

 状況を理解していなくても本能で危機が分かるのだろう、ガレオンの暴れっぷりもここにきて

最高潮に達している。

 

〝シークエンス完了。操作、待機中〟

 

 あとは、コントロールパネルの横に設けられた、ガラス板に覆われた〝いかにも〟という感じのボタンを押せば、ファマスの後方にある巨大なハッチが開いてガレオンは宇宙空間に放り出される事になる。

 ただし、この状態ではファマスも同じこと。エリア内は床も壁も平らで、どこかに掴まって大気の放出を耐え凌ぐ、などという映画の様な展開は期待できない。

 

「あなたも死ぬのは嫌でしょう? 私を倒せばハッチが開く事もありませんよ。まぁ、倒せれば、の話しですけどね」

 

 両手を広げ、不敵な笑みを浮かべるファマス。

 

「~~~~~~~!」

 

 そんな意味を知ってか知らずか、ガレオンは本日一番の咆哮をあげると、粘液を飛ばしてきた。

 

「っ! と・・・」

 

 生温かい感触を浴びた左足が床としっかり貼り付けられた事を確認し、ファマスは小さく頷く。

 もちろん、これさえもファマスが組みあげた勝利への道筋である。

 

「刺し違えるのもやぶさかではないのですが、生き残れ、というのがタボールのお願いでしてね」

 

 ハッチの起動ボタンに狙いをつけるファマスに向けて、ガレオンの剛腕が振りかぶられる。

 

「宇宙遊泳は1人でどうぞ」

 

 火薬の炸裂を以って弾き出された5.56ミリ弾が真っ直ぐにボタンを撃ち抜く。

 本来ならば、破損した回路がショートしてボタンは起動すらしてくれないのだろうが、これはゲームのステージなので、そこはご愛嬌。ブザーと共に開きだしたハッチから猛烈な勢いで空気が吸い出されていく。

 掴まれる物もなく、体勢を崩したガレオンは宙に浮き、空気の流れに巻き込まれる。

 対して、ファマスはガレオンの粘液で床に固定されているので巻かれることはない。

 問題はこの後。背後のハッチへ向けてすっ飛んでいく巨体が、ファマスのすぐ目の前にまで

迫る。

 

(さあ、運を天に任せて!)

 

 このポジションになってしまった以上、吸い出されるガレオンを避けられるかは完全に運任せである。

 限界まで身体を密着させて床に伏せる。上着を掠めながら、巨体が自分の背中を無事に通過していくのを感じて小さくガッツポーズ。

 靡く髪を押さえながら、ハッチから宇宙空間へと放り出されたガレオンを確認した。

 脅威を排除し、あとはハッチを閉めれば一件落着である。

 仰向けに寝転んだ状態で、ハッチのすぐ脇に設置されているクローズボタンに狙いをつける。

 強風、無理な体勢という悪条件の中であるが、ファマスにとってこれくらいは大した問題では

ない。

 環境補正もろもろを考慮した狙いを以って、ボタンを撃ち抜くとブザーが止まり、ハッチが閉まっていく。

 段々と吸い出される風圧も弱くなり、やがて、空気の流れが完全に止まってくれたところでようやくファマスは大きく息をついた。

 

「ファマス、大丈夫!? 怪我とかしてない?」

 

 エアロック隔壁が解除され、9がファマスのもとに駆け寄ってくる。

 ファマスがハッチを開けた辺りから、9は心配そうな様子で隔壁にへばりついていたのだった。

 

「ええ、大丈夫ですよ。この気持ち悪いやつを剥がすのを手伝ってもらっても良いですか?」

 

「もちろん、お安い御用だよ!」

 

 すでに粘液剥がしのコツを掴んでいたのか、9は華麗なナイフ捌きで粘液を引き剥がして

くれる。

 

「ファマスはすごいね。本当に1人でやっつけちゃうんだもん。私なんか、タボールの事も助けてあげられなかった」

 

「あなたが気に病む事ではありませんよ。私が初めからしっかり戦えていれば、タボールがやられる事はなかった。非は私にあるのですから」

 

 泣きだしそうな表情を浮かべている9の頭を撫でながら、ファマスは絞り出すように言葉を

かける。

 幸いなのはこれがシュミレーターだったという事。もし、実戦でこのような結果に陥ったとしたなら、ファマスはきっと自分を許せなかっただろう。

 

「お互い、言い出したらキリが無くなるのでこの話しはもう止めましょう。タボールの言いつけどおり、2人揃ってこのシュミレーションをクリアしますよ。もし言いつけを破ろうものなら後が

面倒なんですから、あの娘は」

 

「そうだね。私達、頑張るから。天国から見守っていてね、タボール」

 

「いやいや、死んでないですから。そんな言い方をせずとも」

 

 両手を組み、祈りを捧げる9に華麗にツッコミを入れている自分を少し悲しく思いつつ、ファマスは立ちあがると、航行機能を回復させる為にブリッジへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Dive F 白神湖 湖畔

 

 

「グリズリー! 左側の湖面から敵が出てくるよ! SVDは11時の方向から飛んでくる

トマホークを撃ち落として。それから2秒後に同じ側の湖面から同じ敵が出てくるから

ヨロシク!」

 

「トマホーク? ミサイルでも飛んでくるのか?」

 

「小さい斧の事だよ! さっきから何回も飛んできてるでしょ?」

 

「お、おう・・・すまない」

 

 夜の帳の中、桟橋を走り抜けながらRFBの的確な指示が飛ぶ。

 前衛のRFBとSVDを追うように走るグリズリーは言われた通り桟橋の左側、月明かりに照らされてユラユラと揺れる湖面を見下ろしてみる。

 すると、湖面から橋脚を昇ろうとしている人影が目についた。

 このステージに存在する数人の〝シリアルキラー〟の1人、白いワンピースを着たやたらと長い黒髪の女だ。

 狙いを付けるやいなや、グリズリーは躊躇なくトリガーを引く。マグナム弾の直撃を受け、女はしがみついていた橋脚から吹き飛ばされて再び湖へと消えていった。

 グリズリーに先行し、RFBと並んで走るSVDも言われた通りの方向へと視線を向ける。

 湖に面したキャンプ場という設定の為、明かりに乏しい状況下ではあるが、それでも、こちらへと真っ直ぐに飛来する何かを視認する事ができた。

 走りながらではあるが、名手SVDにとっては迎撃になんら問題の無い距離である。

 一撃で飛来物を撃ち落とすと、飛んできた先をスコープ越しに確認してみる。

 これもシリアルキラーの1人、ホッケーマスクの大男が湖の反対岸で斧を振りかざしているのが視認できた。

 目測で2キロほどの距離があるだろうか。そんな遠いところから斧を投げてここまで届くのだから、さすがはゲームの世界である。

 RFBの言いつけどおり、SVDが斧を撃ち落としてからきっかり2秒後、再びグリズリーが

湖面に視線を落してみると、そこにはさっきと同じような様子の女の姿。これも1発で仕留めてみせる。

 

「はい、ここからは5秒くらいクールタイム。今のうちにボートに駆け込むよ!」

 

 湖を囲うように建てられた広大なキャンプ場を舞台に、シリアルキラー達の襲撃をやり過ごしながらアイテムを探し回る、というこのステージは他と比べて難易度設定が格段に高くなっている。

 しかし、RFBは最短最速のアイテム回収ルート構築、敵の出現場所にアタリを付けての逆待ち伏せ等々、流石はステージデータの元になっているゲームの提供者に相応しい、華麗なる戦術で

難なく最終局面にまで辿りついたのである。

 ・・・そんなRFBに、何が何だか分からないまま終始振りまわされっぱなしだったSVDと

グリズリーは、共に無傷ではあるものの、精神的に満身創痍なのは言うまでもない事だ。

 桟橋の終点に停泊されているモーターボートに3人たて続けに飛び乗る。勢いでボートは湖面上で激しく揺れるが転覆するほどではなかった。

 ようやく終わりか・・・、と無言のまま、お互いに示し合わせたかのように大きく息をつく

SVDとグリズリー。

 

「私がエンジン掛けるから、敵の足止めお願いね!」

 

 もううんざりだ・・・、とお互いに示し合わせたかのように揃って桟橋に視線を移す2人。

 自分達が走ってきた桟橋の先から、これまで襲いかかってきた敵がオールスターで押し寄せてきている。

 これまでの戦いから敵それぞれの戦力は把握できているので、どうしたってくい止めるのは無理だという事も断言できてしまう。

 

「おい、これをくい止めるのは無理だぞ! 私はあのホッケーマスクが大嫌いなんだ! 頭を撃ち抜いたってのに、何だって普通に動き回るんだアイツは!?」

 

「私はあの長い鉤爪男がイヤだ! 素早いし弾丸はじき飛ばすし、なにより見た目が気持ち

悪い!」

 

 いちおう反撃を試みつつ、RFBに向けて愚痴を零す。

 ここまでRFBに頼りっぱなしで来てしまった手前、もう頼れるのはRFBしかいないので

ある。

 

「ほら、これ使って」

 

 制御パネルを弄くりつつ、RFBは赤いポリタンクを2人の元に投げてきた。

 10リットル容量のタンクには液体が一杯に入っており、キャップの淵からは微かにガソリンの匂いを感じる。

 

「SVD、そっち持って! 思いっきりぶん投げるわよ!」

 

「気が合うな! 私も同じ事を考えていたところだ!」

 

 SVDとグリズリーは今まで同じ部隊で戦った事が無く、普段の生活でも接する機会は全く無かった。

 この極限の状況下、2人の間に美しい友情が芽生えた瞬間である。

 

「「せ~のっ!」」

 

 掛け声と共にタンクを大きく振りかぶり、勢いを乗せて全力で前方に放り投げる。

 綺麗な孤を描きながら宙を舞うタンクに向けて狙いを付け、タンクが敵集団の頭上に差し掛かったところを見計らってトリガーを引く。

 爆音と共に炎が周囲を赤く照らしあげ、炎熱が敵を容赦なく飲みこんでいった。

 弾丸はすこぶる効果が薄いが、炎系の攻撃に対してはとても弱いというのがここのステージの敵の特性であるらしく、桟橋の上に広がる炎の海から敵が出てくる様子は無い。

 

「お待たせっ! 逃げるよ~!」

 

 RFBの声と共にエンジンが唸りをあげ、ボートが弾かれたように湖面上を走りだす。

 あっという間に炎に巻かれ、崩れ落ちていく桟橋を遠目に、3人を乗せたボートは対岸へ向けて突き進んでいく。

 

「これでもうクリア同然なんだけど、その前に・・・」

 

「ええ、言わなくてもわかってるよ」

 

「こういうのには付き物の展開だろう?」

 

 ボート前方、左右の3方向に3人それぞれが銃口を向ける。

 最後のダメ押しという事なのだろう、ボートの淵から3体の敵がよじ登り襲いかかるが、そこはちょうど銃口の真正面。

 3種の銃声がキャンプ場に木霊して、それで本当にステージクリアを示すリザルトが表示されてくれた。

 

「さあさあ、リザルトは・・・・・・やった~! マルチプレイの記録更新だ~!」

 

 子供のようにピョンピョンと飛び跳ねて大喜びのRFBをよそに、グリズリーとSVDは床に腰を降ろして今度こそ安堵の息をつく。

 

「アイツ、指揮官よりも指揮能力が高いんじゃないのか?」

 

「このステージの事をよく知ってるからね。・・・それにしたって、RFBの下に就いての任務は

もうゴメンだわ」

 

「同感。人形遣いが荒すぎて、これじゃあ身体がもたない」

 

 ボートが対岸に到着する寸前、次のステージへの移動の為に意識が段々と落ちていく。

 願わくば、今度はちゃんと指揮官のもとで攻略にあたれますように、と切に願いつつ2人は緩やかな流れに身を任せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~NEXT プレイヤーズフロントライン~

 

 

 

「みんな同じタイミングでスタートって事は、これで最終ステージなのかな」

 

 

 いざ、KBF(決戦のバトルフィールド)へ

 

 

 

「あぁ~・・・確かに、アレは45姉ならどうにか出来そうって思う」

 

 

 鏡に映ったアナタと2人

 

 

 

「そのままUMP45をボコボコにしてやりなさい!」

 

 

 戦乱再び

 

 

 

「私が胸が小さいのを気にしてるって言った時、それでも構わないって、言ったくせに」

 

 

 指揮官と副官のヒメゴト

 

 

 

 

 プレイヤーズフロントライン 8話 Coming Soon




オマケになってしまいましたが、RFB達のステージは高難易度という設定になっています。
あんな性質の悪い〝VSシリーズ映画〟みたいなゲームがあったら、私ならゲームディスクで
フリスビーしてやりますけどね。
投げるとよく飛ぶから、うちのマーフィーも大喜びさ!

次回より最終ステージ開幕となります。
どうぞお楽しみに
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