グリット・スクワッド! 〜超人ヒーロー達が、元社長令嬢の私を異世界ごと救いに来ました〜   作:オリーブドラブ

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第11話 結集、グレートスリー

 

「なに……!?」

 

 刹那。輝矢君の両脇に、彼が来た時に出現したものと同じ「門」が顕現する。その光の円から――二つの人影が飛び出した。

 

「……フンッ!」

 

 赤茶色に錆び付いた装甲強化服を纏う、鋼の機械兵士。胸に十字の傷を持つ彼は、手にした逆三角形の盾(カイトシールド)を魔人の顔面に投げ付ける。

 漆黒の巨人はそれを難なく受け止めるが――そこへ駄目押しのように突き刺さった飛び蹴りによって、盾の先端が刃のように沈み込んでしまった。思わぬ追撃に、魔人はくぐもった声を漏らし、片膝をついてしまう。

 

「その位置、悪くねぇなッ!」

『ポピピッ!』

 

 その好機に、乗じるかのように。赤茶色の機械兵士に続いて、「門」から飛び出してきたのは――蒼いパワードスーツで全身を固める、陽気な印象の戦士だった。彼の鎧からは、弾むような「電子音」が絶えず聞こえている。

 新手を迎え撃とうと、腕を横薙ぎに振るう魔人の攻撃を難なくかわし――彼は肘からジェットを噴き出しながら、魔人の顔面にストレートパンチを叩き込んでしまった。

 

 異世界の「門」を越えて、突然現れた2人の屈強な鋼鉄戦士達。科学の鎧に身を固め、艶やかな黒髪を靡かせる彼らの速攻を浴びた魔人は、轟音と共に転倒してしまい――周囲に衝撃を齎す。

 

 なんだあれは、身体強化魔法なのか。あんな威力、見たことがない。一体彼らは何者なんだ、あれが異世界人の力なのか。――そんなどよめきが、民衆や騎士達、家臣達から聞こえてくる。

 

「はー……やっと帝国に着いたみてぇだな。見ろよロブ、SNS映えしそうな城があるぜ。カメラ出せカメラ」

『ポピー……』

「バカはその辺にしておけ、相棒が困ってるぞ」

「あ? 誰がバカだよ、この博物館行き不可避の骨董品野郎が」

「……なまじスーツが最新型だと、中身の知能が付いてこれないようだな。ロブとやらの苦労が窺い知れる」

「旧式の戦闘改人(コンバットボーグ)風情が、言ってくれるじゃねぇか。あのデカブツより先にスクラップにしてやろうか?」

「俺はいつでも構わんぞ。最新技術に胡座をかいている機甲電人(オートボーグ)如き、物の数ではない」

『ポ、ポピポー……』

 

 一方、そんな周囲を他所に――当事者達はなぜかいきなり、険悪な空気を噴出させていた。よほどソリが合わないのだろうか。

 どちらも黒曜石のような髪と眼を持つ、筋骨逞しい長身の美男子なのだが――互いの性質は、水と油のようであった。

 

 蒼いパワードスーツを着た人の「相棒」だという、スーツ内に搭載されたAIが何を言っているのかは推測の域を出ないのだが――たぶん、喧嘩はやめてよと言いたいのだろう。

 

「ちょ、ちょっと叢鮫(むらさめ)! 火弾(ひびき)! 2人とも喧嘩はやめてってば! そんな場合じゃないんだからっ!」

「……チッ、しゃあねぇ。依頼人(ゆうき)に免じて、今日のところは見逃しておいてやる。ホラ、護ってやるから後ろに下がってな」

「それはこちらの台詞だ。そもそも、お前の装備は飛び道具が中心だろうが。ここは近接戦仕様の俺が前衛を務めるべきだ」

「あ? 俺達ゃインファイトもこなせるんだっての。小突いただけで壊れそうなボロいスーツ着てるクセにイキってんじゃねぇ、いいから俺に任せやがれ」

「ヤツは異世界の怪物で、文字通りの規格外だ。最新装備だからと言って慢心していては、超合金製のボディだろうと怪我では済まん。いいから俺に任せろ」

「うるせぇな俺が護るっつってんだろ」

「いや俺が護る」

「あぁぁもうッ!」

 

 今度は輝矢君が慌てて仲裁に入っていく。赤茶色の戦闘スーツを着た叢鮫という人と、蒼いパワードスーツを着た火弾という人は、彼が割って入って来てからも言い合いを続けていた。

 恐らく2人とも、私が元いた世界から連れてきた助っ人なのだと思うが……どうやらここに来るまでの間にも、こんなやり取りがあったらしい。喧嘩を諌める輝矢君の対応が、どことなく手慣れている。

 

 ――すると。ようやく立ち上がった漆黒の巨人が、大きく腕を振りかぶって3人に襲い掛かってきた。

 その奇襲を素早く察知した彼らは、地を蹴って跳び上がりながら散開し、魔人を取り囲むように着地する。

 次の瞬間。叢鮫さんは、盾の裏側に仕込んでいた赤茶色の仮面(マスク)を、手動(マニュアル)で被り――火弾さんは、自動(オート)で蒼い仮面を装着する。

 

「ヴァイガイオン……今度こそ貴様を倒す!」

「無視すんなってキレてんなぁ。お前のせいだぞー、叢鮫」

「……お前がギャアギャアうるさいからだ」

 

 やがて――輝矢君は剣呑な面持ちで鉄球を構え、火弾さんは軽口を交えながら拳を構え、叢鮫さんは冷たく切り返しながら盾を構えた。

 そんな彼ら3人を前に、皇帝陛下は唇を震わせる。

 

「なんだ、なんなのだそいつらは……! お前が、向こうの世界から連れて来たというのか!?」

「……俺が行った地球には、凄い力を持った『ヒーロー』が何人もいます。その中でも信頼に足る、この最優の2人が……俺の切り札です」

「ま、俺は探偵として『人探し』の依頼を受けただけさ。あの嬢ちゃんが見つかった時点で、すでに仕事は終わったようなもんだが……こちとら貧乏でね。追加ボーナスが欲しいのよ」

「……本来ならば異世界の事情など、飢えた子供達への施しを怠る理由にはならん。が、他ならぬ彼女のためだ。……これ以上、あの事故(・・・・)に苦しむ人々を傷付けさせはしない」

 

 陛下の問いに毅然と答える3人の戦士達は、一歩も引くことなく魔人と相対している。

 そんな彼らの勇姿を前に――私はようやく、あの2人のことを思い出していた。

 

 確か2人とも、新聞やニュースで取り上げられたこともある謎のヒーローだったはず。紛争地帯で兵士達を蹴散らしながら、飢えに苦しむ子供達にパンを分け与えているという「CAPTAIN(キャプテン)-BREAD(ブレッド)」。新宿を根城にしていた犯罪組織を壊滅させたという、「ROBOLGER(ロボルガー)-X(クロス)」。

 どちらも正体不明のヒーローとして、世間をざわつかせていた存在だ。まさか、輝矢君が彼らを連れてくるなんて……。

 

 ……ん? 「あの事故」……20年前の旅客機事故のことだろうか。

 彼は私が、その責任を追及された社長一家の出身だということを知っているみたいだけど……何か、関係があるの……?

 

「ええいッ……この命を賭して、魔人にまで頼って、それでも余は永遠に勝てないと……そう証明する気なのかッ! 許さん、許さんぞ……! ヴァイガイオン、なんとしても奴らを斃せッ!」

 

 そんな私の逡巡を断ち切るように、陛下は声を張り上げ魔人に3人の「処刑」を命じる。だが、魔人の獰猛な咆哮を間近で浴びても、彼らには全く動じる気配がない。

 


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