グリット・スクワッド! 〜超人ヒーロー達が、元社長令嬢の私を異世界ごと救いに来ました〜   作:オリーブドラブ

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第44話 キツいジョークとサンダーボルト

 さらに激しさを増していく、GRIT-SQUADと機甲電人六戦鬼の死闘。その熾烈な鉄と鉄のぶつかり合いは、吹雪の音すらも穿つ轟音を放ち続けていた。

 

「ぬぅうんッ! お前達、行ったぞッ!」

「了解ッ!」

「お、おのれッ……ぎゃあぁあっ!」

 

 だが、悠長に観戦などしていられない。大臣の私兵達から私を守らんと奮戦するVAIGAI-MANとJAVELINSの怒号は、すぐそこで響き続けているのだから。

 

「く、くそっ! なんとか奴らだけでも、我々で――ごはぁあぁあッ!?」

「おぉおおッ!」

「でゃあぁあッ!」

 

 猛牛の如き突進。乱れ飛ぶ電撃の拳。彼らが放つ容赦なき必殺技の数々が、私兵達を次々と吹き飛ばしている。

 六戦鬼の相手をしなくてはならないGRIT-SQUADだけだったなら、今頃私はとうに捕まっていた。彼らはまさしく、縁の下の力持ちと言える。

 ……縁の下、というには些か技が派手すぎる気もするが。

 

「おのれェェッ! 身の程知らずのゴミカス共がァアァアッ!」

「――!」

 

 その時、さらなる「新手」が彼らに襲い掛かる。逃げ惑う私兵達を轢き潰しかねないほどの勢いで、1台の戦車が豪雪を掻き分け突っ込んで来たのだ。

 20世紀に運用されていたという、M4中戦車を想起させるその外観(ディテール)から察するに、格納庫の隅で眠っていた旧式を引っ張り出して来たのだろう。現役の戦車は全て、CAPTAIN-BREADに投げ飛ばされてしまったのだから。

 

「ぐ、ぉッ……!」

「JAVELIN-1ッ!」

 

 だが、それでも戦車は戦車。その絶大な質量にモノを言わせる激突は、パワードスーツを着ただけの生身の人間が、容易く受け止められるような威力ではない。

 戦車長の怒号と共に車体前部が、JAVELIN-1と呼ばれる超人兵士に突き刺さる。彼はその勢いのまま戦車に運ばれ、やがて岩壁に叩き付けられてしまった。

 

「貴様らが余計な首を突っ込まなければァッ! 大臣の計画は全て上手くいっていたというのにッ! 我々軍部もお零れに預かれたというのにィッ!」

「ぐぉ、おぉッ……!」

「こうなれば1人でも多く道連れにしてくれるッ! ますはお前からだァアッ!」

 

 狂気としか言いようがない、戦車長の独り善がりな絶叫と共に。戦車は岩壁に押し付けられたJAVELIN-1をこのまま潰してしまおうと、さらにキャタピラを回転させていく。

 やがてメタリックイエローの外骨格が、徐々に裂けていき。その破片が、内側の肉体に突き刺さり――JAVELIN-1という名を背負う1人の青年を、血だるまに染め上げていった。

 

「竜也ッ!」

THUNDER(サンダー)BOLT(ボルト)-JAVELIN(ジャベリン)ッ!」

 

 その惨状に、JAVELIN-2と呼ばれていた彼の親友が、思わず声を上げる。タツヤ……というのが本名らしい。

 彼は戦車の圧力とキャタピラの摩擦に鎧を削られ、傷だらけになりながらも、懸命に電撃の剛拳を撃ち放っていた。しかし威力が足りないのか、戦車は全く止まる気配がない。

 

「ヒャァッハハハーッ、バカかクソガキがッ! そんな蚊が刺したようなパンチで、この戦車が止まるものかッ!」

「ぐ、うッ……!」

「割れた仮面から見えているその顔ッ! お前ッ、さては日本人だなッ! いいだろう、この戦闘を切り抜けた暁にはお前達の祖国に渡りッ! 民という民を踏み躙ってくれるッ! お前達の家族も友人も恋人も全て、嬲り尽くしてッ――!?」

「――FULL(フル)AUTO(オート)

 

 だからこそ、なのか。1発や2発ではない、何十発……いや、何百発もの電撃拳を矢継ぎ早に、タツヤという青年は絶え間なく放ち続けていた。まるで、機関銃のように。

 例えどれほど拳を痛めようと、構うことなく。例えどれほど傷だらけになり、血に塗れようと、痛みに顔を顰める暇すら惜しむかの如く。

 

弥恵(やえ)ッ……!」

 

 譫言のように、誰かの名を呼びながら。雷光の豪雨と化した彼の拳が、戦車の装甲に降り注がれていく。

 だが、それでも装甲は僅かに凹む程度であり、この危機を脱するほどの影響は見受けられない。

 

「……その絶対に諦めないってツラァ! そいつが1番気に食わねぇんだよッ! もう決めたぜ、お前は念入りに挽肉にしてやッ――!?」

 

 何百発撃とうと、所詮は悪足掻き。そう判断した戦車長が、とどめを刺そうとキャタピラの回転を速める――その時だった。

 徐々に赤熱し始めていた戦車から、黒煙が立ち込めきたのである。やがて車体上部のハッチが開かれると、短身痩躯の戦車長が短い手足をバタつかせながら、転げ落ちてきた。

 

「あッ、あづゥウゥァァッ! な、なんだァアッ、なにをしやがったァアッ!?」

「……そうか、電熱(・・)! 竜也の野郎、電撃のパンチを何度も戦車に流し込んで……車体を内側から蒸し焼き(・・・・)にしやがったのかッ!」

「何イィッ!? バ、バカなッ、そんなこと、そんなことがッ……!」

 

 電撃拳によって発生する熱を断続的に電導させ、車内の温度を高めることで、戦車長を外へと追い出す。戦車そのものより、それを動かしている内部の人間を狙った、JAVELIN-1の策略だったのだ。

 割れた仮面から覗いている横顔からは、私とさして変わらない若者といった印象を受けるが……その割には、かなり戦い慣れている(・・・・・・・)らしい。彼は自分の前に転げ落ちてきた戦車長を、冷酷に見下ろしている。

 

「……ハッ!?」

「……」

「い、嫌だなァ、冗談ですよ冗談、ちょっとキツいだけのジョークですよォ! こーんなオンボロ戦車でおたくらの最新装備に勝てるなんて、これーっぽっちも思っちゃいないですし! むしろホラ、おたくらの強さをPRしてあげたみたいな!? だからね、ホラ、手も上げてるし無抵抗ですよ無抵抗!」

「……」

「え……いや、そんなまさか、アハハ。まさか戦車を蒸し焼きにするようなおたくのパンチで、生身の人間を直接殴ったりなんか……しないですよね? そんなことしたら死んじゃいますよ、無抵抗の人間が無残に殺されちゃいますよ! 弱きを助け強きを挫く、正義のヒーロー様がそんなこと、そんなことするわけないですよねェッ!?」

 

 戦車長はこの期に及んで醜く保身に走り、これでもかと両手を上げて無抵抗をアピールしている。一方、JAVELIN-1は割れた仮面から覗く冷徹な眼光で、無言のまま彼を射抜いていた。

 話など通用しない鋼鉄の殺戮者。そんな印象を与える彼の佇まいに、情に訴えれば何とかなるとタカを括っていた戦車長も、徐々に青ざめていく。

 

 その最悪な想像を、実現するかのように。彼は戦車長の胸倉を掴み上げると、無人となった戦車に押し付けながら――拳を振り上げた。

 

「……何か勘違いをしていないか? 僕達はただの兵隊であって、ヒーローでも何でもない」

「へ、へぇッ!?」

「そして……攻撃中止と命じられてもいない」

「ひ、ひッ、ひひひッ、ひぎゃあぁあぁああーッ!」

 

 やがて、恥も外聞もなく泣き叫ぶ戦車長を、永遠に黙らせるかの如く。その電光の鉄拳が、容赦なく振り抜かれ――戦車の装甲へと突き刺さった。

 

「……はが、はががッ……!」

「ただ……皆殺しとも、命じられてはいなくてな」

 

 戦車長のこめかみを掠める、断罪の一撃。それは彼の薄皮一枚傷付けることなく、その意識だけを刈り取っている。

 

「竜也……じゃない、JAVELIN-1ッ! 無事かッ!?」

「このくらい何ともないさ、硬さが売りの設計思想(ブランド)だからね。……これ以上、僕のような少年兵を増やさせるわけには行かないし。こんなところで倒れている場合じゃないさ」

 

 泡を吹いて白目を剥き、失神してしまった彼から手を離したJAVELIN-1は、一瞬だけDELTA-SEVENの方を見遣ると。自身の血を拭いながら、踵を返していた。

 

「せ、戦車長までやられちまった……! 大臣お抱えの最古参が……!」

「戦車ですら勝てない相手に、歩兵が勝てるわけねぇッ……! に、逃げろ、全員逃げろおぉおおッ!」

 

 やがて、その光景を目の当たりにした私兵達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していき。私の周囲は少しずつ、静けさを取り戻していく。

 

「――キツいジョークは、お互い様だったな」

 

 そして、JAVELIN-1が仲間達の元へと合流する直前。戦車長を一瞥して呟かれた彼の言葉は、哀れみと侮蔑の色を帯びていた――。

 

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