「…さむ」
自転車のペダルを漕ぎながら呟いた独り言は、
近くに人がいれば聞こえていただろう
都会の雑音が無い周辺だからこそだが、
それに比例して人もいない
彼は、山道の上り坂を立ち漕ぎしながら
景色を眺めた
澄んだ空気と木々は、やはりとても気持ちが良い
これから向かう場所と行う事の高揚感が合間って
逸りそうになる気持ちを我慢しながら、漕ぎ続ける
途中あるトンネルの出口から差し込む光に入ると……
目的地が見えてきた
「…おお……」
それを見て、小声だが思わず歓声を上げる
青空を反射している湖……汚れも無くて、澄み切っている
感動した彼だが、顔を上げて少しだけ残念そうになった
「雲がかかって見えない……」
本来目の前に聳え立っているだろうそれが、
今日は雲がかかって見えないようだ
「…まぁ、良いか……」
残念だが、天気の事はどうしようもないと言い聞かせて、彼は最終的な目的地へと向かっていく
山梨県にある、『本栖湖』
彼はここにキャンプをしに来ていたのだ
「えっと、一泊お願いします」
「ではここに連絡先と名前を書いてください」
本栖湖のキャンプ場の受付場
眼鏡をかけた受付の男性に言われ、
彼は渡された用紙に連絡先と
"
注意事項等を説明され、高彦は外に止めた自転車に再び股がり、キャンプ場と案内された道へと入っていく
林道を降りて行くと、本栖湖が目の前に広がった
「…滅茶苦茶景色良いじゃん」
本日2回目の思わず出てきた感想
広大な湖が、味わった事が今まで無い解放感を覚えさせた
湖畔の一角に自転車を止めて、深呼吸を何回か
「…(やっほーー!!!)」
心の中でつい叫び、高彦は暫く本栖湖を眺めていた
「…さて、暗くなる前にテントとか張らないと……」
荷物を降ろし、買ったばかりのテントを組み立てていく
「えっと、これをこうして…あ、違うこうか……
あれ?あ、こうか……」
慣れないテント張りに悪戦苦闘する事30分……
「で、出来た………」
漸くテントを張り終えられたのは、
一時半を過ぎた頃だった
テント張りに時間がかかると計算して早めに来たが、
正解だったなぁ…そう思いながら、高彦は湖畔に隣接した林の中に入っていった
林の中に入った高彦は、焚き火に使うと薪を集めていた
「えっと…乾燥したのが良く燃えるんだよな」
事前に調べた通り、良く燃えそうな薪を探す
「あ、これ良さそう…これも」
探すのに苦労すると思っていたが、
意外にそこら辺にいっぱい良さそうな薪が転がっていた
「あと、松ぼっくりも」
松ぼっくりはマッチ1本で火が付く優秀な着火材と
聞いていたので、薪を集めつつ探す
「かさが開いてるのが乾燥して良く燃える…と」
これも沢山あり、そこそこ短時間で集めきる事が出来た
「で、集めた薪を切る……」
小さい持ち運び用の鉈で、薪を丁度良い長さと細さに切っていく
「…疲れた…でも出来た!」
一仕事終えた気分で
テントの前に敷いたシートに腰を降ろす
すると
「…あ、人が来た」
キャンプ場に1人、人が入ってきた
(女の子…1人か?
テント出してる……俺と同じでキャンプしに来た人か)
シーズンオフのこの寒い日なのに変わってる…と自分の事を棚に置きながら、何となく少女の方を見る
高彦が見ている中(凝視はしてない)少女は、
慣れた手付きでテントを張っていた
そして組立式の椅子…ローチェアをこれまたサクサクと組み立てていき
ものの数分で、完璧なキャンプ景色を完成させた
(は、早い……)
自分が30分以上かけていた事をサクサク済ませた少女に、高彦は素直に凄いと感じた
自分も慣れたらあんな風に出来るのかな…そう思いつつ、これ以上寒くなる前にと集めた松ぼっくりと薪で火を起こす
人生初の焚き火
「……これは…………良い」
本日3回目の心の声だった
キャンプ場にやって来た少女、
『志摩リン』
長い坂を苦労して登ってきた分、
景色と澄んだ空気が体に染み渡る気分に浸っていた
貸切状態、シーズンオフ最高…と思ったが
(あ、人がいた)
先客がいたことに気付く
シーズンオフに珍しいなと自分の事を棚に置くリン
(…まあ、ほぼ貸し切りって事で)
そう考えながら、
リンは自分のキャンプ設営を済ませていったのだった
▽ ▽ ▽
(少し早いけど、ご飯作ろうか)
時刻は4時過ぎ
それまで焚き火を眺めながらボーッとしていた高彦だが、陽が陰ってきたのもあって早めながらご飯を作ることに
作ると言っても、具材は家を出る前に下拵えしてある
手提げ程のクーラーバックから
何個かの具材の入ったジッパーを取り出していく
まずカセットコンロを用意した
焚き火の直火を使うと鍋が煤だらけになると調べたときにあったので、家にある物を持ってきた
「地味にこれが一番の荷物だったな……もっと小さいのバイト代貯めて買わないと」
ぼやきを挟みつつ、小型の鍋にオリーブオイルを敷いて
コンロの火で温める
十分に温まったらサイコロ状に切ったベーコンを
良い香りが出るまで弱火で炒める
次に玉ねぎ、人参(これもサイコロ状)を炒め
玉ねぎがしんなりしたらジャガイモ(これもetc.)をサッと炒める(塩を入れると炒まりやすい)
ジャガイモに油が馴染んだら具材が浸る位の
水を加え、煮ていく
ジャガイモ、人参に火が通ったらトマト缶(ダイス)
のトマトとコンソメの素を入れ、もう少し煮込む
トマトの酸味が消えてきたら
塩、こしょうで味を整え、
チーズをお好みで入れて出来上がり
「ミネストローネスープ…外で作ったの初めてだけど、概ね良く出来たな」
自画自賛を挟み、早速出来上がったスープを器に盛り
一口
「…え、なにこれ
滅茶苦茶旨いぞ」
思っていた何倍も美味しく、驚いてしまった
「…これが、アウトドア飯効果………
最高………」
テンションを静かに上げながら、高彦はスープを
食べていく
「…満腹じゃ」
あれから何回もおかわりして、
気付けば満腹となっていた
「ちょっと作りすぎたな…まぁ、明日の朝御飯にすれば良いか。寒いし」
満腹となった高彦
くて~…と寛ぎながら、既に真っ暗になった景色を眺める
「…見事に何も見えないなぁ……月の光だけ………」
あるのは目の前の焚き火だけ
薄暗い…が、不思議と怖さなどは感じず
「…俺、暗がり好きだったんだな」
自分の新たな発見にホクホクした良く分からない感情に浸りながら、寛ぐ高彦
静かな時間を味わっていた彼
それに変化が起こったのは突然だった
────まっでよォー───
「は?」
何か遠くから、声が聞こえた気がした
気のせいか…と思っていると
"まっでぇーー!!"
再び聞こえた。今度はさっきよりしっかりと
「なんだ…?」
流石に気になり、懐中電灯を持って暗がりの
殆ど見えない中を進んでいく
懐中電灯の明かりを頼りに声のした方へ向かう
すると
「はっ、はっ…!!」「ぐす…まってぇ──」
暗がりの中で、2つの人影が見えた
「…なんだこれ?」
そう呟いてしまった程、良く分からない光景だ
どうやら誰かが誰かと追いかけっこ?、追われている?様なのだが………
ドシャアーー 「痛ぁっ!」
「あ、転んだ……」
追いかけていた方が、見事に転けた
「はぁ…!はぁ…!」
追いかけられた方は立ち止まり、全力疾走
だったのか荒くなった呼吸を必死で整えている
どっちも気になったが、取り敢えず見事に転倒した方へ近付く高彦
「あの、大丈夫」
ですか、と言う彼の言葉は止まった
俯せに倒れていた誰かが、
高彦のズボンの裾をガッシリ掴んだのだ
「へ?」
気の抜けた声を出す高彦
「───ヒゥゥゥゥ」
見下ろした彼の顔を、見上げる誰か
懐中電灯の明かりがその顔を照らした
涙と鼻水で顔を濡らし、転んだ拍子に乱れた髪
前髪が顔に張り付き、口元だけが見える
その見えた口から漏れ出た、空気が抜ける音
完全に貞◯だった
◯子以外の何物でも無かった
「タ……ダスケデェ─」「──ひ、ひぃ…ッ」
「でたぁぁぁぁぁぁぁ!!!??!?!?」
「な、なにがぁぁぁぁ!!!?!!?!?」
本栖湖に
2つの悲鳴が木霊した…………
明けましておめでとうございます
ゆるキャン△初投稿です
ゆるーく、書いていきたいと思います
気晴らしなどでどうぞ
オリキャラの高彦がトイレ前でなでしこに会ってないのは、なでしこがやって来る前にキャンプ場に着いたからと言うつもりです