高彦達がキャンプに行く、同日の早朝
リンはまだ陽が出ていない時間に、
防寒着を着込んで外へ出ていた
今日、リンはまたソロキャンへ行く
今回は長野だ
県を跨ぐのでかなりの距離
リンも初めての遠征である
そこまでどうやって行くか?
正解は───
ブロロ…
「免許取り立てなんだから、
車には気を付けなさいよ?」
リンを見送りに外に出ている母・志摩咲は、
娘にそう言った
原付に跨がる、リンに
リンはこの間、原付の免許を取ったばかりだ
今回が、初めての原付での旅になる
母として、心配になるのは当たり前であった
「分かってるよ」キュルルッ
「……あんまり危ない道は通っちゃダメよ?
それからね……」
「分かってるって。
じゃあ行ってくるね」
母親に見送られながら、リンは原付を発車させた
「…全く…」
それを見つつ、咲は小さく笑んだ
「誰に似たのかしら……」
『自分達』にそっくりな、娘に───
▽ ▽ ▽
イーストウッドキャンプ場は、山梨市駅から四キロ
徒歩で50分くらいなので、
ちょっとした遠足のような感じだ
因みにそのキャンプ場、薪がタダで温泉が近く、夜景が綺麗
極め付きは一泊1000円と言うお財布に優しい所らしく、各々楽しみでルンルンで歩いている
その途中、千明はなでしこへ話題を降った
「そうだ、『夕飯は任せて!!』
て言ってたけど何作んの?
言われた通りパックご飯は持ってきたぞ」
そう尋ねられらたなでしこはニコッと笑う
「ふっふっふっ…ズバリ!
キャンプっぽいごはんだよ!何かは夜のお楽しみ!!」
「カレーとか?」「…お お楽しみダヨ」
(カレーか)(カレーやな)(カレーか)
泳ぎまくった目でバレバレだった………
「ていうか、なでしこちゃん、刈谷くん」
ふと、あおいは2人に顔を向けて来た
「そんなに荷物持って大丈夫なん?」
あおいは、特になでしこに向けてそう言った
見ればなでしこは結構な荷物を、しかも肩に背負っている
高彦もなでしこ程では無いが、それなりの大きさのリュックを背負うスタイル
あおいと千明は荷車?の様な手引きに荷物を乗せているので、そこそこ楽だ
ここから先は上りが続くので、高彦は良いかもしれないが、なでしこは大丈夫なのか、あおいは心配していた
その心配がなでしこにも伝わり、「や、やばいかなぁ?」と本人も心配になってきた
「…しかたねぇなぁ」
と、ここで助け船を渡したのは我等が部長
「疲れたときはその荷物───あたしが背負ってやんよ」
男前の言葉に、なでしことあおいは歓声を上げた
「刈谷も遠慮無く言って良いぞ。
このあたしに、任せたまえよ」「あ、はい」
賑やかに会話をしながら、彼女達+は
暫くずっと続く上り坂に入っていった
その頃のリン
ビィーン
原付を走らせ、冬の道路を走っていく
もうすぐで茅野市
信号で止まり、リンは手袋をした両手に息を吹き掛ける
(寒い…)
防寒はしっかりしてるが、やはり冬の道路は寒い
冬キャン大好きな彼女だが寒さに特別得意と言う訳では無いので、寒さをとても感じていた
と、その時
同じ信号で止まっている前の車のリアガラスから、犬が此方を見ているのにリンは気づく
(…すげー見てる…)
思いながら、信号が赤になり一緒に発車
暫く走ってると、また赤信号に
前は変わらず犬の車
リンは今度は車の右側に止まった
ヒョコッ
犬はリンの目の前に動く
また発車
暫くして赤信号
今度は最初と同じく左側に
ヒョコッ
犬はリンの目の前へ
(…かわええ……)
愛くるしいそれに、リンは内心で悶えていた
しかし、それも終わりのようで……
(あ、曲がっちゃうのか……)
どうやら、この信号を曲がってしまうらしい
車は左に曲がり、その間犬はずっとリンの方を見ていた
(バイバイ)
小さく手を振るリン
その前の車のリアガラスから、4匹の犬が此方を見ていた
「!!」
思わぬサプライズにビクッとするリン
暫く、4匹の愛くるしい視線を浴びながら運転をすることになったのだった…………
やがて、この車もリンとは別の方へと行くことに
(…行っちゃうか……)
ずっと向いていた4匹の視線が無くなっていく
(…次のも、もしかして……)
少しだけ期待するリン
4匹を乗せた車を見送って(正確には4匹の犬を見送って)、リンはまた前を走る車を見る
後ろから、犬は見えなかった
「…まぁ、そう何度も続かないよね……」
フゥ…と息を吐き、瞬きする
一瞬の内、目を開けると前の車から16匹の犬が此方をガン見していた
「うおっ!?」
これにはリンもとても驚いて声に出してしまう
「流石に多すぎだろ……」
リンもリンで、原付の旅を楽しんでいた
その頃の野クル+
「…なぁイヌ子…」「…なに?」
そこには疲れはてた姿があった
「あいつに荷物全部持ってもらわねーか…?」
千明とあおいの……
元気すぎる…と呟く千明の前には
「わーーい!!」
子供のようにはしゃぎながら楽しそうに駆けていくなでしこが写っていた
続く上り坂などなんのその、元気一杯のなでしこ
流石南部町から本栖湖まで自転車で行ってしまえる事はあるなぁと、高彦は思っていた(高彦も実は人の事が言えないが)
「1つずつ持とうか?」「「…お願いします…」」
高彦の好意に2人は甘えて、それぞれ1つずつ、高彦に手渡す
荷物は軽くなったが、しんどい事には変わりはない
「…笛吹公園まで600mやって……
あそこで一休みせーへん……?」
「……だな───」
後600m……そう視線を向けた先に、笛吹公園までの道が視界に写った
桁違いの傾斜の上り坂が───
遠くからのなでしこの呼ぶ声を背中に
【笛吹公園まで乗せて下さい!!】と書いた紙を掲げる千明
そんな彼女の切な願いは──
ビュン─ビュン─
届かなかった──
「……も一個持とうか?」「…………うん」
それから数分後
無事、坂を登り終えて笛吹公園に着いた一同
「ふおおお───」
なでしこはそこから見える景色に、目を奪われていた
長い坂の上から見る、山梨の町並み──
そしてその奥に富士山も見える
「うわぁ~!すごい眺めだよここっ!!」
なでしこのテンションは爆上がりしていた
「まぁ…結構有名な夜景スポットだしなー……」
「納得って感じだな」
千明と高彦の説明を聞いて、元々テンションが高くて、この景色にプラスで高くなっており
更にテンションが限界突破したなでしこは
「あきちゃん!!あおいちゃん!!たかちゃん!!
写真撮ろ!!写真!!」カシャ
「こっちも絶景だよーっ!!!」
と、あっちにこっちに走りながら写真を撮りまくるなでしこ………
そこに疲れは全く見えない
「…ホントに元気な子じゃのう…」
「ワシらも昔はああじゃった…」
「大丈夫…?」
はしゃぐなでしこをしゃがんで見詰める千明とあおいに、高彦は心配する
しかし
「あ、中のカフェでスイーツも食べれるんだ~」
と言うなでしこの言葉を聞いて
「「うおおおお!!!」」
全力疾走で駆けていくのを見て
「……………………………」
呆然とするのだった………
カフェの中は暖房が程よく効いていて、
快適な空間だった
四人は売り場でそれぞれスイーツを買い、
四人掛けの席に座る
各々買ったスイーツを一口
「「「う───
んまぁ~~~~~~」」」
「…おいしい」
フニャッとした満面の笑みを浮かべるなでしこ達と、小さくだが微笑む高彦がスイーツの美味しさを物語っていた
「疲れとると甘いもんがウマ~やなぁ」
「暖房きいてる店内で食うアイスうま~」
「季節によっての果物使ってるのか」
「冬の味覚だねぃ」
「なでしこちゃん、あたしのちょっと食べる?」
「ほんとッ!?じゃ、私のもあげる~!」
「あたしのもやるぞ!」
それぞれ自分のをスプーンで取って、
お互いの口へと運ぶ
「「「ん~~~まぁ~~~~」」」
(…旨そうに食べるなぁ……)
食べさせ合いっこしている彼女達を見て、
高彦はそう感じていた
すると
「たかちゃん!私の食べる?」
なでしこがそう言って自分のリンゴソフトを差し出してきた。
「ああ、うん。それなら俺のレモンも…」
「ありがとう!」
そうお礼を言った後なでしこは対面に座る高彦に向かって身を乗り出した
自分のスプーンに掬った、リンゴソフトを差し出して
「…あ~、なでしこ?」「?どうしたの??」
「…あ、いや何でもないです」
高彦はなでしこが差し出したリンゴソフトをパクり
「おいしい?」「…旨いな」
「だよねっ!私も良いかな?」
「うん、良いけど…」
「わ~い!頂きま~す!」
なでしこも高彦からレモンのアイスを貰って食した
自分のスプーンで
(…何を意識してるんだか)
一瞬、意識してしまったが、
ただお互いのアイスを分けっこしただけ
高彦ももうそれ以上気にすることを止めた
「レモンも美味しいねぇ~」
「リンゴも旨かったよ」
やり取りを面白そうに眺めている二人分の視線も、高彦はスルーするのだった
スイーツ完食後
千明はスマホでキャンプ場までのマップを眺めていた
「キャンプ場まで1.7キロかー
温泉の方が近いけどどうする?」
「「おんせーん」」「欲望に正確でよろしい」
「……………あかん、尻に根が張ってもーた」
「……………わたしも~」
「分からんでもないけどさ~……」
「まあ、まだ時間もあるし。
ゆっくりで良いんじゃ無い?」
「…刈谷………」
「お前も尻に根が張ってるだけだろ」
「…バレたか」
野クル+達がマッタリしている時
なでしこから送られた写真を見ながら、
リンも一休みしようとしていた
途中で見付けたお店の中は、
とても落ち着く空間だった
木のテーブルに椅子
そして薪のストーブに外が良く見える大きな窓と、全力で人を落ち着かせる、そんな店内
(…なんかいいなここ……落ち着く…)
落ち着く空間が好きなリンは、直ぐにここを気に入っていた
折角だからここで昼でも…そう思ってメニューを眺めるリン
彼女の目は、【ボルシチ¥1300】に止まっていた
リンは高校1年生の、16才
普通の家庭の子で、懐事情も他と同じ
だからこそ、この間行ったキャンプ場の利用料2000円に怯み、薪代をケチった
…しかし、今はバイト代が入ったばかり
────金はあるんや!!────
…と、プチ贅沢を堪能するべく
リンはボルシチセットを注文した
ストーブの効いた店内で、湯気がたつボルシチを一口
冷えた体に、それは美味しすぎた
思わず涙が出るくらいに
ボルシチの写真をなでしこに送り、
セットのパンを1かじり
(…そうだ、お土産……)
プチ贅沢を堪能しつつ、リンはなでしこへのお土産をどうしようかと考えた
(雑貨……いや、食べ物の方が喜びそうだな)
なにかの食べ物を渡し、それを嬉しそうに受け取るなでしこの姿がはっきりリンの頭の中に思い浮かぶ
考えながらマッタリしていると、不意に彼女のスマホが鳴った
なでしこからのボルシチ美味しそう!、メールと
今日何処に行ってるの?、と言うメール
リンは文字で長野と書こうとして
「……!」
何か、思い浮かんだようだ
またまたその頃、なでしこ達は
温泉へとやって来ていた
『ほっとけや温泉』と言う面白い名前に笑みつつ、場内を歩く四人
大きい荷物を預ける為に、休憩所に向かう
そうして休憩所へと入ったのだが………
「…おお…」
中は広くて
誰もいなかった
圧倒的なくつろぎスペース……
そして、温泉に浸かり力の抜けた客達を完全に、そして確実にオトしにかかる悪魔の刺客達……
1度でも寛いだら……きっと2度と立ち上がれないだろう………その確定された未来予想に千明とあおいは冷や汗をかく
「ふぅ…流石に疲れたな」「「!」」
「よいしょっと…?どうかした?」
「だ、大丈夫か刈谷!?」「は?」
「『起き』上がられるかいなっ?」
「え、なんで?」
そんなコントをする3人を楽しそうに見ながら、
自分の荷物を下ろすなでしこ
と、その時彼女のスマホが着信を知らせた
リンからの、先程自分が送ったメッセージの返事
そこにはアドレスが掲載されていた
なでしこはそのアドレスをタップしてみる
そこに写ったのは
(霧ヶ峰カメラ?)
と表示された動画
ジッとそれを見るなでしこ
「…ん?」
その動画の左下に、何かを見付けた
小さく写るそれを凝視するなでしこ
やがてそれの正体が分かる
「あーーーっ!!
リンちゃんだこれーーーっ!!」
それは此方(カメラ)に手を降るリンだった
「どうした、なでしこ?」
突然大声を出すなでしこに、
千明が訪ねると
「り、リンちゃんが
テレビに映ってるんだよーーーっ!!」
なでしこはそれを3人に見せた
「…ああ、これテレビじゃなくて
ライブカメラだよ」「へ?」
「リアルタイムで、カメラを回してるんだ。
で、それをサイトに載せてるんだよ」
「あ、成る程……」
高彦の説明で理解したなでしこは、
此方に手を降り続けるリンを見詰める
「…霧ヶ峰…って何処にあるの?」
「長野の諏訪湖近くにある高原だな」
「そんな遠くまで…」
原付免許を取った事は知っていたが、
まさかそんな遠くまで行ってると思わなかったなでしこ
とても寒い筈だが、大丈夫なのだろうか……
さすがソロキャン少女……と、各自思う
面白いことするなぁとも感心した
一方、そのリンだが
(…見えてるよな?)
返事が全然来ず、
見てるかどうか分からないので困っていた
高彦がそれに気付いてなでしこが慌てて返事するまで、リンはカメラに向けて手を振り続けていたのだった………
『わん』だふる partⅡ
気が付けば、そこは本栖湖
目の前には、富士山が大きく聳え立っていた
何故自分はここにいるのだろう?、そうボンヤリしながら本栖湖と富士山を眺めていると
富士山の山頂から、ゆっくりと輝くものが昇ってきた
煌々と輝く、朝日
陽の光りが辺りを明るく照らす
写真では見たが、こうして自分の目で実際に見ると更に感動が増す様に感じる
ゆっくりと昇る朝日を眺める高彦
すると
朝日に………なにか黒い線があった
昇ってくる朝日に、途中から黒い線が出てきた
「…は?」
やがて黒い線は四角の形を作る
それはまるで、何かのフレームのような───
朝日は昇る
富士山の山頂から完全に昇る朝日
それは眼鏡をかけ、口を『H』にした
✴️
『◻️H◻️』
「……俺は頭が可笑しくなったのだろうか……
それか目が劇的に悪くなったのか?
朝日が………!」
ここで高彦は何かに気付いた
信じられない
嘘だと思いたい
目の前の富士山が───
「…気のせいだ……気のせいに決まってる………
いや、嘘でしょ」
『ホンマやでぇ~』
「…………」
言葉が、もう出なかった
良く分からなさ過ぎて、逆に冷静になってくる
ああ、そうかこれは───
「たかちゃーん!!」「!」
すると聞き覚えのある、自分の名を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた
ハツラツな、元気な声
間違う筈は万が一にも無い
高彦は振り変える
そこには最早見慣れた、桜色の────
「一緒にキャンプ、しよ!!」
「──────」
…毛並みの犬がいた
―カオスは続く―