魔法科高校の劣等生~世界最強のアンチェイン~   作:國靜 繋

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娘のことが心配し過ぎて唯の変態になったった

2092年――

終夜は、四十四歳となり深夜と真夜もそれなりの年齢になった。

なったはずなのに三人が三人とも年齢と見た目が合致せず、若々しさを保っており、三人ともが三人ともその容姿がずば抜けているため余計目立ってしまっている。

女性からしたら羨ましい限りだろう。

そんな終夜たちは、この十三年間いろいろな変化が起きていた。

一つは、真夜が四葉家の当主の座についたことだ。

この事には、四葉家内外で大いに驚かれることとなった。

四葉家と言うものを知って居る者達は、誰もが終夜こそが四葉家次期当主になると思っていたのだ。

それだけの力を終夜は示し続けてきた。

だが、元造が指名したのは真夜だった。

終夜自身は別段当主になりたいと思っていなかったため、本人達による内部分裂は起きることはなく、それ程問題にはならなかったものの、真夜が当主になることに不服に思った者達は、少なからずいた。

要因の一つとして、男性恐怖症だ。

当時から比べたら幾らか治ってはいるものの、男性恐怖症であるものが当主になるのは如何なものかと言う者たちもいた。

その言い分も分からなくもない。

四葉の当主と為るものが、恐怖症を患っていたら体面に関わるという、四葉一族を思ってこその内縁の者もいれば、今まで終夜が当主になると思っており、必死に取り入ろうとしていた、欲塗れの者もいた。

まあ、欲塗れの者は真夜を否定した翌日から見当たらなくなったのだが。

結局終夜が、正式に四葉の当主にならないことを表明することで一通りの収束は見せたが、真夜が四葉家当主になるにあたって元造の父心が含まれていた。

真夜は、拉致事件救出後男性恐怖症となり最初の内は誰もが優しく接していた。

しかしいつまでも治らない真夜に愛想尽きようとしていた時だった。

七草家からの婚約破棄願い、これが決定的となり次第に人々は真夜から遠ざかるようになり、自宅で在りながら真夜にとって居心地の悪い空間となりつつあった。

真夜の唯一の安らげる空間が、終夜と深夜三人で過ごす時だった。

そんな真夜を不憫に思った元造が、真夜に居場所を作るためにと言う意味も含まれていた。

だが、そんな事だけで真夜を当主にしたならば反感が在るのは誰の目から見ても明らかだった。

そのために元造が用意した建前が、終夜が進んで助けるのは深夜と真夜だけであり、深夜は既に嫁ぐ予定だからといった内容だった。

終夜の実力は、誰よりも四葉の者達が知って居るため、そういうことならと結果的にではあるが、真夜が当主と成ったのだ。

 

 

他にもいろいろあり、終夜の中でも一番エグイことをしたのは、甥の達也の強い情動を司る部分をフォーマットし、仮想魔法演算領域を植え付けたことだ。

現在の魔法師としての基準は、魔法式を構築する速さ(単一系統・単一工程の魔法を0.5秒で5段階行なえると実用レベル)キャパシティ(構築し得る魔法式の規模)魔法の干渉力(魔法式がエイドスを書き換える強さ)だ。

そんな中、達也はある二つの魔法を除いてそれらが大きく劣っていたのだ。

それを補うためにと言う名目で真夜が企画し、深夜の固有魔法で施術し、終夜が達也と深雪との間に枷を作り上げた。

何故深雪との間に枷を作り上げたかというと、達也には唯一『兄妹愛のみ』が残っているからだ。

そうする事で、達也は深雪が枷を解かない限り永遠に守護する存在とすることになり、達也自身にも四葉家での居場所を作り上げることが出来るのだ。

 

他には全国魔法科高校親善魔法競技大会、通称九校戦が定例行事化したことで来賓として呼ばれるようになり挨拶をするようになったくらいだ。

クソジジイじゃなかった、九島烈のジジイも一緒に呼ばれており、毎回ジジイの後に挨拶なのが気に入らないため若干ジジイの株を落としているのが毎年の楽しみとなりつつあるくらいだ。

 

そんな終夜はと言うと、現在USNAに来ていた。

正確に言うならば、来させられていたが正しい。

残念なことにウィリアムに会う事は出来なかったが、合同での魔法研究はそこそこ有意義なものとすることが出来たのでよかった。

 

「って言うとでも思ったか―――――」

 

終夜は一人割り当てられた高級ホテルの最上層スイートルームのテラスから叫んでいた。

理由はどう考えても一つしかなく、今日から深夜は深姫と真姫、達也と鋼也、そして深雪の五人を連れて沖縄へと旅行しに行くのだ。

つまり何が言いたいかというとだ、深夜の柔肌を有象無象の塵芥どもが見てしまうと言うことになる。

そんな欲塗れの視線を深夜が浴びることは、終夜は看過できなかった。

まあ、現在位置から考えて、看過できないからと言って傍に居て守ることは物理的に不可能なのだが。

 

 

 

 

 

 

終夜が叫んでいる頃、深夜たち御一行は、ちょうど沖縄についていた。

 

「行きますよ、深雪さん、深姫さん、真姫さん」

 

「はい、お母様」

 

「「直ぐ参ります、母様(叔母様)」」

 

深夜は、二人の娘と姪を呼んだ。

二人の、と言うとなかなか難しい、何せ深姫は姪の真姫と双子でもありながらも、深夜自身の子でもあるからだ。

深雪とは違う父親であり、二人は同じ父親、母体は同じ母親、ただし使われた卵子は別の母の者と言った本来であれば、かなり立場が微妙なはずの深姫だが、そんなことはなく、むしろ深い愛情を注いで育ったため、歪みなどを抱えてしまうことはなかった。

しかしその歪みは、別の者で生まれており、その一人が達也で、もう一人が鋼也だ。

端的に理由を言うならば、二人のことを深夜が一切愛しておらず、鋼也に至っては産まれてこの方一度たりとも愛情を注いだことがなかったのだ。

 

「さ、行きますよ、三人とも」

 

深夜は、娘たちに声を掛けて出入り口へと向かった。

その間、達也と鋼也は完全な荷物持ちへと化していた。

達也はガーディアンであるため、問題ないとしても、鋼也は違った。

 

(何で、俺がこんなことしなければならないのだよ。まあ、いいか。このイベントで……)

 

内心不満だらけだったが、今回起きる事件を先に知って居るため、上手くやれば深雪との好感度が上がると思っている。

 

(さっきから、鋼也兄さんの視線が気持ち悪い、せっかく大好きなお母様と、お姉様方との旅行なのに)

 

実際そんなうまくいくわけではなく、既に深雪の中での鋼也の評価は、地中にめり込むどころか、そのまま突破して裏側にさえ到達していた。

 

「お母様、お姉様方は来ていますが、伯父様はどうなさったのですか?」

 

「兄さんは、USNAに急遽いかなければならなくなったらしいの。本人は楽しみにしていたみたいなのだけど残念ね」

 

そう言いながら空港から出ると、夏と言う事もあり、日差しが強かった。

 

「お待ちしておりました。深夜様、深姫お嬢様、真姫お嬢様、深雪様」

 

深夜たちが出て直ぐの所に、深々と頭を下げたのは、桜井香波。

形式上ではあるが、終夜のガーディアンとして務めているが、ほぼ秘書のようなことをしている、見た目は可愛らしいのにクールな性格のギャップ差が激しい人だ。

しかし実力は折り紙つきで、終夜が認める数少ない魔法師の一人だが、欠点もあり実力もないくせに偉ぶる男が、大嫌いなのだ。

 

「ご苦労様」

 

「いえいえ、主人に命令された事ですので。では、参りましょう」

 

そう言って、香波は用意しておいた専用のキャビネットに四人を乗せた。

 

「お二人は後ろの方に用意してあるのでお願いします」

 

それだけを言うと、香波は深夜たちを乗せたキャビネットに乗り込んだ。

 

「ちっ、さっさと荷物を載せろ達也」

 

「分かりました」

 

双子でありながら、片方は使い物のならないレッテルを張られ、片方の態度は大きく、人を見下したような性格なため、四葉家の使用人でさえ腫物を扱う様なものだ。

そのことに気づいていないのは本人だけだが。

 

 

 

 

 

 

着いたのは、新しく深夜の法律上の旦那が買った恩納瀬良垣にある別荘だ。

 

「お待ちしておりました」

 

出迎えてくれたのは、香波の姉で在り深夜のガーディアンでもある桜井穂波だ。

 

「穂波さん」

 

「ご苦労様、お掃除は終わっていて?」

 

「はい、午前中の内に済ませておきました」

 

穂波はにこやかに答えながら、深夜たちを迎え入れた。

 

「深夜様、お荷物は各人のお部屋に運んでおけばよろしいですか?」

 

「そうね、お願いするわ」

 

「畏まりました。深夜様たちの荷物は、私が持っていきますね」

 

「恐れ入ります」

 

香波は、達也から深夜たち女性陣の荷物を貰い受けると、そのまま各人の部屋へと持って行った。

 

「外は熱かったでしょう。麦茶を冷やしておりますがどうします?」

 

「ええ、いただくは」

 

「皆さんもそれで構いませんか?」

 

「お願いします」

 

「恐れ入ります」

 

と、皆穂波にお礼を言った。

 

 

 

 

 

 

荷ほどきの為、各人それぞれの部屋へと向かった。

 

「それにしてもお父様残念がっていたね」

 

「そうだね、あ、香波さんその中身は開かなくていいから!!」

 

「分かりました。真姫お嬢様」

 

呑気に話している深姫と真姫だったが、香波が荷物の一つで態々他のと分けてある、”下着”入れを開けようとして真姫は慌てて止めた。

流石に思春期と言う事もあり、嫌がっているというわけではなく、香波は主人である終夜の命令で深姫と真姫がどんなものを穿いているのか調べて来てくれと言う事で調べ、報告した前科があるからだ。

深姫も真姫も流石に終夜と入るのは、生理的に嫌だからというわけではなく、純粋に恥ずかしいからだ。

まあ、娘が何を穿いているのか気になる終夜も十分変態だから嫌がっても仕方がないと思うが……。

 

「終夜様も年頃の娘のことが気になるのですよ」

 

「って、何開けているのですか香波さん!!」

 

「そっちは、私の!!」

 

ホッとしたのも束の間、香波にとって終夜の命令は絶対。

つまり、娘である二人のよりも優先順位が上なのだ。

 

「深姫お嬢様流石に黒は早いかと、真姫お嬢様もヒモパンツは早いかと」

 

「「きゃぁぁぁぁああああああああああ!!」」

 

二人が香波に飛び掛かるが、伊達に終夜のガーディアンをやっている訳では無く、二人の猛攻は軽くかわされてしまい、二人の下着事情が白日の下に晒されてしまった。

 

「お嬢様方、いくら背伸びしたいお年頃とはいえこれらは早いかと……」

 

この戦いは、騒ぎ過ぎて穂波が怒りに来るまで続いたという。

なお、怒られたのは香波だけだったとここに記する。

 

 

 

 

 

 

深夜たちが沖縄に来たその日の夜のことだった。

 

「お母様どうしてドレスに?本日は何もご用事はなかったと思いますが?」

 

「深雪さんたちがお散歩に行かれている時、貢さんから誕生日パーティーのお誘いがありました。貴方達も連れて行きますから直ぐにしたくなさい」

 

「分かりました」

 

「じゃあ、私がお手伝いしますね」

 

「では、私はお嬢様方を」

 

そう言って各々着替えるために部屋へと戻った。

女性の着替えは総じて長く、達也や鋼也はスーツとはいえ五分と掛からなかったが、女性陣は軽く三十分は着替えや化粧に時間を費やしていた。

 

「やはり、深雪は何を着ても可愛いな」

 

「ありがとうございます。鋼也兄さん」

 

深雪は先ほど穂波に注意されたばかりだと言うのに、張り付いた笑顔の下に嬉しくないなという気持ちが滲み出ていた。

 

「深姫姉さんも真姫姉さんもきれいですね」

 

「ありがとう」

 

「どうも」

 

深姫も真姫もそれは、同じで普段は好きに繋がるようなことを徹底して失くしてきている二人でも気持ち悪いと言う気持ちでいっぱいだった。

特に深姫は終夜と深夜の血を引いている分、一種の勘の様なものだが人の心情に異常なまでに機敏であり、特に邪なものを感じ取るのに長けている。

 

「準備が出来たなら向かいますよ」

 

「お車は準備できております」

 

香波が玄関を全開にし、車もドアを開いた状態で待っていた。

それにみんな乗り込んで出発した。

 

 

パーティー会場であるホテルに着くと、穂波と香波はいち早く警備体制について自分の眼で見て確認した。

主人を守ることこそがガーディアンである彼女たちの役目であるから当たり前のことだ。

 

「やあ、待っていたよ」

 

出迎えてくれたのは、主催者である黒羽貢だ。

 

「パーティーのお誘いありがとうございます。貢さん」

 

「いえいえ、深夜さんたちも偶然沖縄に来られているとは」

 

「ええ、そうですね。事前に教えていただけたならばよかったのですけどね」

 

深夜は頬に手を置きながら言った。

 

「私も今日偶然知りましたから、事前に招待できなかったのはすみませんでした。既に家族旅行に行かれると訊いていたもので」

 

「そうでしたか」

 

「おおっと、こんな所で引きとめて済みません、中へどうぞ。亜夜子も文弥も楽しみに待っていましたよ」

 

貢に導かれる形で深夜たちは会場内へと入って行った。

身内だけのパーティーとはいえ、黒羽が主催するだけは有り豪勢なものであった。

 

「深姫姉様、真姫姉様、深雪姉様お久しぶりです」

 

「文弥君お久しぶりね」

 

「亜夜子も元気そうね」

 

「本日はお姉様方お二人だけですの?」

 

「お父様は今USNAの方に居るの」

 

「そうだったのですか。伯父様にしては珍しいですね」

 

「お父様は、残念がってましたね」

 

「それにしても、亜夜子さん文弥君その格好はこの時期熱くない?」

 

「僕だって黒羽の人間です。どんな時でも恥ずかしくない様にしなければなりませんので」

 

文弥の格好は、子供用のスーツにジャケットまで着ている、亜夜子はワンピースにフリルが大量にあしらわれている。

冷房が訊いているとはいえ、真夏の沖縄で着るには、観ている方が熱くなる格好だ。

 

「お美しいお姉様方が来られると訊いていましたので、私も見劣りせぬよう精いっぱい着飾らせていただきました」

 

亜夜子の背中からは、凄みのあるオーラが出ていた。

これがどこかの奇妙な冒険ならば、擬音を背に特殊な立ち方をしていただろう。

 

「そんなことしなくても亜夜子は可愛いじゃないか」

 

今まで一歩下がった位置に折り、どのタイミングで話の輪に入ろうかと悩んでいた鋼也が割り込み亜夜子の頭を撫でながら言った。

和気藹々と話していた空気が一瞬重くなった。

自然な笑みを浮かべ楽しく話していたみんなの表情が、一瞬にして作り笑顔へと変わったことに鋼也だけが気づなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーから帰宅した後のことだ。

リビングに在る電話から香波は終夜へと定期連絡を入れていた。

 

『そうか、分かった。引き続き深姫と真姫の警護を頼んだぞ』

 

「了解しております」

 

『俺も数日以内にそちらへと向かう。どうも大亜連の動きがキナ臭い』

 

「と、申しますと」

 

『奴らが沖縄か、福岡、佐賀、長崎、山口と広範囲ではあるがそのどこへでも攻め込んでくる可能性があるんだ』

 

「早めに本家の方に戻らせた方がよろしいのでは?」

 

『まだ確証が得ていない以上無闇に不安にさせたくはない。それにせっかくの旅行だ楽しんでほしいからな』

 

「……分かりました。では、警護の方は細心の注意を払っておきます」

 

『頼んだぞ』

 

それだけを言うと、通信が切れたので、受話器を元へと戻した。

 

この時は誰も知らなかった。

刻々と大亜連の手が迫って来ていることに。

 




踏み台転生者マジ使えない。
そもそもほとんど登場しないとか踏み台転生者の意味が皆無状態に。
次こそは出そう。

そして、終夜が娘のことが気になるあまりただの変態になってしまった。
名誉挽回を次辺りにさせたい。

次は、戦争・遅れての終夜登場。
その間にいろいろと達也の株が上がる。
使いづらい鋼也をどうしようかな……が、今現在考えている所です。

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