次こそは、次こそは増やしてやりたいです。
「今日のご予定はお決まりですか?」
昨夜のパーティーのこともありみんな朝は、ぐったりと疲れ切った様子だった。
そんな中、深夜はパーティーと言うものになれていることも一人疲れを見せていなかった。
やはりこういった物には慣れが必要なのかと、一同感心していた、ただ一人を除いて。
(今日はクルーザーで出かけて、その際襲われたな。ここでみんなを助けたら……)
などと考えていた。
鋼也にとっての懸念材料は、二つ。
自分が転生したから事件が起きないこと。
そして終夜だ。
自分の伯父であり転生者なのではないかと疑っている、世界最強であることを自他共に認める戦略級など生易しい化け物だ。
あれが介入してきたら見せ場などあったものではない。
しかし転生者ならば、こういったイベントに参加しないはずがない、ならば何故と疑問が尽きないが、とりあえず目先のことから解決しようと短絡的な考えをしていた。
まあ、その終夜からは大事な娘に色目を使うゴミとしか見られていないのだが。
「そうね、特に決まってはいないわ」
「でしたら、クルーザーなどで沖に出るのは如何でしょうか?今日は熱さも和らいでいますので気持ちいいと思いますよ」
「そうね……あまり大きくなくていいわ」
「では、私が手配しておきます」
「そう?じゃあお願いね、香波」
「姉さんもお嬢様方を少しの間お願いします」
そう言って、香波はセーリングヨットの手配をする為に別荘を後にした。
「深雪さんたちもつかれているでしょう?ビーチにでも行って来たらどうです、寝転がるだけでもリフレッシュになりますよ」
「そうですね。そうします」
「ああ、達也を連れて行くのを忘れないようにね」
「分かっております。お母様」
深夜の冷めた声音に深雪は背筋が凍る思いだった。
実の息子にここまで冷たい感情を向けることが出来るのだろうか。
しかしその疑問を持つことを許されないことを知って居る深雪は、すぐさま考えを切り替えた。
「お姉様方もご一緒に行かれますか?」
「私はいくは、真姫はどうする?」
「私は遠慮しておくわ。まだ疲れが取れきっていないから」
「じゃあ、お二人は隅々まで日焼け止めを塗らないといけませんね!!」
部屋へと戻ろうとした深雪と深姫の背後にとても楽しそうな笑顔を浮かべた穂波がそこにいた。
「……穂波さん?」
「わ、私達で出来ますから大丈夫ですよ」
「駄目です!!塗り残しが在ったら奥様や終夜様に顔向けできません」
言っていることは正論だが、その表情がとてもウキウキ顔なため説得力がなかった。
そこから先は、男子禁制の百合百合しい花園が咲き乱れた。
ただの日焼け止めを塗る作業なはずなのに穂波は若返ったかのように肌が艶々しており、深姫と深雪は日焼け止めを塗られただけなはずなのに、頬を赤らめ息も絶え絶えで疲れ切った表情をしていたのは言うまでもない。
何があったかは、三人の口から一切聞かされることはなく想像するしかないのだが。
遅めの昼食となったが、昼食を取り終え香波が用意したクルーザーにみんなで乗り込んだ。
十人乗りのクルーザーで、操舵主と助手、それに深夜たち八人で丁度定員だ。
もし終夜が着いて来ていたならもう一回り大きいのか誰かが置いて行かれることに為っただろう。
「思ったよりも気持ちいいものね」
「そうでしょう」
潮風を浴びながら遊覧の一時を楽しんでいた。
そんな時だった。
穂波と香波、達也の三人が沖合を訝しげな表情で睨んでいたのだ。
助手の人が無線機で必死に何かを語りかけている。
クルーザーは、陸へと引き返す為に急速旋回したため大きく揺れた。
「お嬢様、中へ」
「分かっています」
ここ数日で、深雪は達也のことをそれなりに兄妹としての仲が戻ったと思った。
だが、それは所詮真夜に命令されたからであって、達也の意志ではなかった。
そう思うと、何時になくショックを受け全く意味も必要もないのに深雪は高圧的な台詞を吐きながらも、達也が誘導するようにクルーザーの船室へと入った。
「鋼也君も中に入って、なにが在るか分からないのだから」
「俺は大丈夫です!!」
深夜や深姫、真姫、深雪は穂波や香波、達也の指示通りクルーザーの船室へと退避したが鋼也一人だけが言う事を聞かずにCADをスタンバイさせていた。
達也は虚空を見る様な目をし、右腕を海面へと向けていた。
(達也よりも先に俺がやれば)
まあ、そんなことを考えているから出番を失うわけで。
迫り来る二本の魚雷に対して達也がこの場にいる誰よりも早く魔法を発動した。
この一瞬のうちに起きたことを理解できるのは、達也の魔法を知っているごく一部の者だけだろう。
「達也、お前……」
穂波と香波の二人が水面下に魔法をいくつも発動し、大きな音を立てながら波飛沫がたっていたため誰も聞き取ることはなかったが、鋼也は一人悔しそうな表情をしていた。
しかしその表情は、香波にバッチリと見られてはいたが。
「被害は御座いませんが、終夜様が懸念されていた通り、本日クルージング中に潜水艦より魚雷で攻撃を受けました。」
『なにっ!!』
香波は、通話越しでも終夜が狼狽していることが分かった。
『被害はなかったからよかったが。犯人と特定できるようなものはあったか?』
「特定につながるものは何も……ご期待に沿えず申し訳ないです」
香波は主人の期待に沿えることが出来ず、表情や態度には現れないが内心落ち込んでしまっていた。
『いや、誰も被害はなかったのならば、お前は俺の命令を遂行している』
「そう言っていただけるだけで私は……」
『引き続き護衛を頼むぞ』
「はいっ!!」
香波には珍しく感情が籠った返事をした。
普段がクールなだけ、終夜もそれなりに驚いていた。
それなりにとは、いつも突拍子もないタイミングで香波が感情を露わにしているからだ。
例えば終夜に褒められたり、感謝されたり、怒られたりと、察しが良い人間ならばすぐに気が付くのだが、生憎終夜は、妹で始まり妹で終わっている完全に妹で完結しきっているのだ。
娘が生まれてからは五対五状態になっているのだが。
「それよりも、気になることが」
『気になること?』
「はい、終夜様の甥である鋼也様ですが。私達が襲撃を無事回避できた際、悔しそうな表情を成されていたのです」
『安堵ではなく、悔しそうか?』
「はいそうです」
助かったのならば、安堵の表情を浮かべるのが普通だ。
にも、関わらず悔しそうな表情をした。
『報告御苦労。俺も二、三日後には帰国するから、そちらに着くのは、帰国後の翌日になる』
「分かりました、到着お待ちしております」
そう言うと、終夜との通信が切れた。
終夜に信用され、期待されている。
それだけで香波は、心が満たされ期待を込められた言葉を反芻するだけで酔いしれてしまう。
ここまでくれば、最早狂信と言えるだろう。
ヤンデレ化してないのが、せめてもの救いだが。
襲われた翌日のことだった。
国防軍の風間大尉と名乗る人物が昨日のことで話を聞きたいと言うことで深夜たちの滞在する別荘に来ていた。
何故当日ではなく、翌日かというと沿岸警備隊が来たときには既に不明潜水艦が去った後であり、その時事情聴取を受けようとしたが流石に襲われた直後ということもあり、心身ともに疲れ切っているから翌日に来てもらうことにしたのだ。
流石に四葉家の者であることを伏せている段階で、軍事施設で取り調べ、と言う訳に行かないから態々来てもらったのだ。
「ですから、何度も言っていますように私たちは何も知りません。むしろいきなりのことで動揺しているのです!!」
先ほどから訊かれることは、深夜が先に何かを下から攻撃して来たのでは?と訊いて来るばかりで、初めからこちらに非があるようないいかただった。
それには、さしもの穂波でも憤りを感じずにはいられず、ついつい声を荒げてしまっていた。
「ですが、何かしらの理由がない限りいきなり攻撃する様なことはないと思われるのですが?」
「相手から攻撃して来たから反撃したまでです。自衛での魔法は法律でも許可されています!!」
「それは、こちら側としても理解しています」
「でしたら、これ以上こちらから言えることはございません」
「わかりました。できれば、あの場にいた人全てとお話ししたいのですが、大丈夫ですか?」
「それは、国防軍の大尉として、ですか?」
今まで、ただ話を聞いていた香波が口を開いた。
「そうですが、何か問題でも?」
「問題はありませんが、お断りさせていただきます」
「理由をお聞かせいただけますか?」
「ここに大人が全員居るのにも関わらず、子供たちに何を聞くおつもりですか?」
香波が言っていることは正論だ。
大人に聞いて分からないことを子供に訊いたところで分かるはずがない。
それが、中学生ならばなおのことだ。
子供だからこそ分かることもあると言うが、そもそもいきなり雷撃されて何が分かると言うのだ。
という建前で、国防軍のあまり階級の高くない者が、深姫や真姫と面識がある、その事実を与えたくなかったのだ。
終夜は、自分の子供が国防軍の関わりを持つのをあまり好ましく思っていない、ならば出来うる限り関わりを持たせない様にするのが、終夜のガーディアンであり現在二人の警備にあたっている香波が出来ることだ。
「分かりました。ご協力感謝します」
大尉は立ち上がり敬礼しながら言った。
その後は、大尉を見送るために、穂波と香波、達也の三人が見送るために表へと出たら、初日達也達に絡んでいたらしい『レフト・ブラッド』が、達也に謝罪し国防軍基地に招待された事位だろう。
終夜が帰国したのは、深夜たちが話を聞かれに来た翌日だった。
USNAとの合同魔法研究で、新しい戦略級魔法を開発するには至らなかったが、基礎理論の構築までは行うことが出来た。
元々のベースとして考えられていたのが、大亜連合の戦略級魔法師、劉 雲徳の『霹靂塔』だ。
この戦略級魔法の魔法式を暴くことが出来れば、大漢の戦略級魔法に対策を打つことができ、高度に電脳化された都市はインフラ・都市機能、兵器を守ることが出るようになるからだ。
だが、流石に戦略級魔法を一月程度で暴くことは出来ず基礎理論を作るので、終夜の帰国の日が来てしまったのだ。
終夜ほどの魔法師が、こういった軍事機密に触れるのはあまり好ましくないが、完成したとしてもその魔法を発動することが出来なければ、その性能を確認する事も出来ない。
USNAとしても苦渋の決断だったのは言うまでもない。
まあ、その性能を確認するに至らなかったから言った意味がほぼないのだが。
そんな終夜はと言うと、久々に実家に帰って来て一息ついていた。
「お疲れの様ですね」
「ああ、流石に疲れたよ。一日ゆっくりしただけでは、行く意味もないのに毎回研究施設まで言って、出番が来るまで待機だった精神的疲労からは中々解放されなかったよ」
真夜とともにソファーに腰を掛け、テレビを見ながら言った。
そんな時だった、テレビから緊急速報が流れた。
『沖縄西方海域より、宣戦布告なしの侵攻。潜水ミサイル艦より慶良間諸島を攻撃。繰り返します――』
その瞬間、終夜の頭の中はとてもクリアになり何をすべきか瞬時に理解した。
真夜が誘拐された時と同じだ。
「真夜、国防軍に連絡。深夜たちを直ぐに保護させろ。俺も向かうから超音速巡航機を一つ用意させておけ」
「分かりました」
真夜はすぐさま電話を持ってこさせると国防軍へと連絡を掛けた。
終夜も直ぐに深夜たちの救援の為に準備に取り掛かった。
次回、追憶編最終話。
正義と書いて災害は遅れてやって来るものだ。