思った以上に原作でどういった立場で終夜を出すか悩み、中々書けませんでした。
春――
春、会社の転勤然り、学生の入学や進級然りと新しい年度に移り変わり慌ただしくなる時期だ。
むろんここ国立魔法大学付属第一高校もまた春の青空の元新たな門出を迎えようとしていた。
「納得いきません」
大亜連の沖縄侵略以来ブラコンを発症した深雪は達也が二科生であることに不満を隠せずにはいられなかった。
成績は間違いなくトップであり、魔法を利用した戦闘でもずば抜けた才能を持っている。
ただ学校の選定基準として使われている魔法技能試験が達也と合っていないが為に二科生であると評価された。
そのことが深雪はただただ許せずにはいられなかった。
敬愛する兄が周りの勝手な決めつけできちんと評価されない、そのようなことがあっていいはずがないと思いこそすれ口にはしなかった。
もし口にすれば、兄に迷惑がかかると分かっているからだ。
だが、それでも言いたいことはあった。
「入試の成績はお兄様がトップだったではありませんか。本来であれば私ではなくお兄様が……」
何処から入試の成績を知ったの普通ならば気になるところだが、自身の血族の特殊性。
さらに、異常なまでに娘と姪に甘い伯父、特に伯父の部分がネックだ。
あの人は、深姫や真姫、深雪の欲しいと言った物は基本的に買い与えて来ている。
教育上余りよろしくないことだが、その伯父を止めることが出来る人たちは基本的に伯父の味方である以上諦めるしかない。
これが、達也の今までの人生で学んだことだ。
「深雪、ここではペーパーテストより魔法実技が優先されるんだ。補欠とはいえ一校によく受かった……」
「そんな覇気のないことでどうしますか!!」
達也が悲観するのも分からなくもないと深雪は思った。
達也が四葉の血を引いている以上どこに行っても正当な評価を受けることが出来ない。
唯一達也を四葉の人間としてではなく、司波達也として評価してくれる人たちとはあまり気軽に会える人達ではない。
「お兄様は、勉学も体術も誰よりも優れていることは深雪が一番知っております。本来なら魔法も……」
「深雪!!それは言っても仕方のないことだよ」
深雪が何かを口走ろうとした瞬間、達也は強めに深雪の名前を呼んで制した。
下手に何かを口走り知られてはいけないことを誰かに知られでもしたら、束の間の平穏を失いかねない。
大亜連の沖縄侵略は、深姫と真姫の機嫌取りなど諸々の事情があったため、終夜が一人で片を付けたので深夜や達也達が困るようなことはなかった。
まあ、しいて言えばその後達也が軍に所属した位だ。
「も、申し訳ございません」
達也に注意された深雪は、しゅんと落ち込んでしまった。
そんな落ち込んだ妹に達也は兄として、頭を撫でながら、
「お前は、俺のために怒ってくれる、その気持ちは嬉しいよ。俺はそれにいつも救われているんだ」
達也が言ったことは、ブラコンと化した深雪には十分すぎる殺し文句だった。
「うそです。いつもお兄様は私を叱ってばかり」
「うそじゃないって、お前が俺のことを考えてくれている用の俺もお前のことを思っているんだよ」
「そんな、思ってくれているだなんて」
深雪は敬愛する兄である達也に思ってもらえてることを心の底から喜んだ。
そんな深雪を見ている達也は何か誤解されてると気づいてはいたが、そこで訂正しようものなら余計面倒な事態になると感じ取り気にしないことにした。
そんな時だった。
「こんな所にいたのか」
太陽の光が反射し煌びやかに光り輝く銀髪、左右の虹彩が違う虹彩異色症俗に言うオッドアイを持ち、深雪同様十人が十人(ホモ含む)振り返る様なイケメンである達也の双子にして深雪のもう一人の兄である鋼也だ。
「深雪もう行きなさい。答辞楽しみにしているからな」
「分かりました。では、お兄様楽しみにしておいてください」
深雪はそれだけを言い残すと講堂へと走り出して行った。
「相変わらずつれないな深雪は」
嫌悪感丸出しだった深雪のことをポジティブに考えられる鋼也の性格は此処まで来ると長所と言ってもいいかもしれない。
そんな鋼也を完全に無視して達也は、時間をどうやって潰そうかと考えていた。
そもそも早く来る必要があったのは新入生代表である深雪だけだ。
それでも早く来たのは、深雪に懇願されたからに他ならない。
鋼也は深雪に頼まれた訳では無く、勝手について来ただけだ。
むしろ着いて来て欲しくなかったから黙っていたと言うのが正しい。
「さて、どこで時間を潰すか」
達也は、適当に時間を潰すことの出来る場所を探すために歩きはじめた、鋼也を置いて。
「ねえ見て、あの子ウィードじゃない?」
「こんなに早くから?補欠なのに張り切っちゃって」
通り過ぎ様に何処か憐れむように言う、一科生の上級生たち。
この学校には、ウィードつまり学校の校章を着けていない者達を指す、特有の差別の蔑称がある。
ちなみに校章を着けている者達はブルームと言い、自分達でウィードに勝っていると言う優越感に浸り、努力しない者達もいる。
むろんこの程度の差別で今さら何かを感じるほど達也は子供ではない。
「あ、達也だ」
達也が歩いていると、背後から呼ばれる声がしたので振り返ると、そこには腰の位置まで伸ばした夜を思わせるほどとても深い黒色の髪を靡かせ、幼さの中に持つ艶やかさ、大人の中に隠された可愛らしさが同居している双子の姉妹であり、隠されているが、達也の従姉であり姉でもある四葉深姫と四葉真姫がいた。
「深姫様、真姫様」
「ここでは様付けはいいですよ。せめてさん付けか先輩でお願いしますね。いきなり身分がばれるのはお父様たちの望むところではないですから」
「分かりました。深姫先輩、真姫先輩」
四葉家の身分で言えば、ほぼ最上位と言っても過言ではない雲上人である二人だが、あの夏の日以来二人は、達也のことを他の使用人と同じ扱いをしなくなった。
元々従姉弟なのだから、仲良くすること自体おかしなことではない、普通の家系であったのなら。
「あら、みーちゃんにまーちゃんじゃない!!」
いきなりあだ名で呼ばれた二人は、達也の後ろにいた第三者に苦い顔をした。
「七草先輩ですか。その呼び方はあずさともどもやめてくれと言っているでしょ!!」
「えぇ、良いじゃない。可愛いわよ?」
七草、十師族において四葉と並ぶとされる一族であり、元ではあるが真夜の婚約者であった弘一が現当主を務めている一族だ。
「って、あら新入生かしら?もしかしてお邪魔だった?」
「いえ、問題ありません」
「そう、ならよかった」
真由美は異性ならば見惚れる様な笑みを浮かべた。
まあ、妹しか目に入っていない重度のシスコンである達也には、全くと言って良い程効果を現さなかった。
「それで、えっと――」
「司波達也です」
「司波君ね。私は七草真由美、当校で生徒会長をしています。それで司波君、二人を狙っているなら気を付けてね。二人は学校内でも人気が高くてファンクラブ何て物もあるらしいから。最も本当に気を付けないといけないのは二人のお父さんの方なんだけど」
「七草先輩何を言っているんですか!!」
「そうです。それに何故お父様のことを!!」
真由美は、達也と深姫と真姫が初対面ではないにしても、精々知り合い程度の関係だと思い先輩として忠告したつもりだったのだが、深姫と真姫には違った意味で効果を表した余だった。
そんな時だった。
「会長、探しましたよ。リハーサルを始めるんですから早く来てくださいよ」
「あずさも大変ね」
「あ!!深姫さん真姫さんおはようございます。もう来られていたのですね」
「ええ、お父様が一緒に行こうとしまして、さすがにこの歳で一緒に向うのは……」
「ですから、私達は香波さんにお願いして先に連れて来てもらったのです」
「深姫さんと真姫さんのお父さんは二人のこと本当に好きですからね」
深姫と真姫は恥じらう様に顔を赤らめ、あずさはそんな二人をよそに素直に良いご家族ですねと言った意味合いで言った。
「それであずさ、七草先輩を探しに来たのではなかったのですか?」
「あ!!そうです、会長が来てくれないとリハーサルが進められないんですから!!」
「ごめんねあーちゃん。じゃあ、私はこれで」
そう言って、あずさは真由美の手を引きながら講堂へと向かった。
「それじゃあ、私達もこれでそろそろお父様が来られるから……」
流石に高校生ともなると父と一緒にと言うのは恥ずかしいのだろう二人は父、終夜と会わない為にか逃げるように去って行った。
この事を終夜が知ったら間違いなく落ち込むだろうがな。
「で、もう深姫と真姫は先に行ったと」
「はい。お二人は先に行ってやらないといけないことがあると言われましたので」
やられた、終夜は直ぐに二人が先に行った理由を悟ると内心悔やんだ。
去年は一緒に行って写真撮影もしたと言うのにそれがまずかったのか?それとも、数えればきりがないためこれ以上のことを考えるのはやめた。
「着替えを持ってきてくれ、俺も直ぐに行く」
「そう言われると思い既にスーツの準備は出来ております」
香波は、すかさず終夜にスーツを渡した。
今日は第一校の入学式だ。
ほぼ何もしていないが、一応PTA会長として新入生の祝辞なんていう面倒な役割をしなければいけない。
まあ、PTAの役員となり会長となったのも平日の学校に大義名分の元入ることが出来、深姫と真姫に会えるからだったりするがこれはまた別の話。
スーツへと着替えた終夜は、家の前に用意されていた専用の高級車へと乗り込んだ。