「ふざけるな!!」
四葉の屋敷内、その中でも序列の低い者には知らされていない場所で一人喚いている人物、ブランシュの件で一人先走り洗脳された鋼也が居た。
その場所は見た目はただの座敷牢だが、その作りが違った。
一切光の届かない地下に在り、壁にはウルツァイト窒化ホウ素で作られた厚さ50cmの鉄板が仕込まれており、仕切りもウルツァイト窒化ホウ素で作られている。
さらに石綿も壁に織り込まれているため、人が脱出するのは間違いなく不可能である場所であり、CADを取り上げられてなお精霊魔法が発動できる鋼也でも絶縁性が高い場所では無力となっている。
両手足にも枷が付けられており、それももちろん絶縁性である。
「ここから出せ!!俺はオリ主だぞ」
などと喚き続ける鋼也に対して四葉は決断を迫られていた。
元々四葉でありながら、歪なまでに強力な魔法力がある訳でも精神干渉系魔法に特化している訳でもない。
むしろ鋼也が使っているのは精霊を使っての魔法、古式魔法に部類されるものだ。
それが低いレベルであるならばまだよかったが、高い水準でそれも誰にも師事することなく習得しているのが問題だ。
九の家々や第九種魔法開発研究所、さらに古式は法師の伝統派やそれに敵対する派閥からいろいろと話が九島烈を通して入って来ている。
それが友好的な話であるならば良かったのだが、残念なことにと言うべきかやはりと言うべきか、棘のあるものであった。
明確に敵対的な言葉を言っている家もあるらしいのだが、それはやはり背後に四葉が控えていることを知らないからであろう。
何とも無知とは愚かで、恐いもの知らずなのか。
「さて、全員集まった所で話をしようか」
四葉家の本家に連なる者は総て、分家は当主のみが本宅に集められていた。
最も上座に座っているのは現当主である真夜、そして深夜に最も近い上座には終夜と深夜が座っていた。
前当主である元造も参加するべきであったのだろうが、病にこそ掛かっていないものの歳により満足に動くことが叶わないため欠席となっている。
分家の当主たちも既に代替わりが済んでいるため、顔ぶれも若い。
「古式魔術師の伝統派と伝統派に敵対している派閥、そして九に連なる者達から鋼也の存在について聞かれました」
「確かにあれは、四葉において異端」
「しかしDNAは間違いなく深夜様と司波龍郎氏のものであった」
「だが、見た目は失礼ながら深夜様にも龍郎氏にも似ていない」
「今は見た目の話ではない。あ奴が使う魔法だ」
「精霊が関係している段階で古式魔法に部類していいだろうが、規模が違い過ぎる」
「しかり、最早戦術級と言って差し支えないだろう。無論我々に見せていないだけで戦略級に迫るものを持っている可能性もある」
「ならば、こちら側に抱き込むべきではないのか?」
「対外的に秘しておけるならばそれも良かろう。しかしあ奴はよりにもよって一校が攻めて来たとき嬉々として魔法を使っている」
そう問題は鋼也が嬉々として人前で精霊魔法を使った所だ。
一般的な魔法であればここまで問題にはならなかった。
「それでだ。今回集まってもらった理由はこの場で採決を取るためだ」
今まで黙っていた終夜が口を開いたことで場が一気に静まり返った。
「今我々が選択すべきは、鋼也を文字通り抹殺する事。四葉に関する記憶の一切を消して九の家に養子として出す事。四葉に関する記憶の一切を消して伝統派または、それに敵対する派閥の家に養子として出すかだ」
「禍根を残す恐れのある養子は反対です」
「しかし抹殺となると、あ奴の背後に四葉が控えているのを知らない今いらぬ探りを入れられる恐れも」
「俺や深夜と真夜に一時とはいえ魔法を教えた
「何故です?四葉が背後にいることを教えた方が無駄な諍いが起きないで済むと思いますが?」
「いや、逆だ。四葉が背後にいると分かれば九以外の家も口を出してくることは明白だ」
ただでさえ四葉は今、過剰な戦力である。
終夜が居なければ世界最強と言われたであろう『夜の女王』四葉真夜に禁忌とされ終夜と言う例外を除けば深夜のみが使える精神構造干渉魔法を使える。
人数こそ七草などと比べれば少ないが、その分質が高い四葉の分家筋、その分家の家々に仕える者達も一流の者達ばかりだ。
さらに四葉は秘匿している技術も多く、十師族という枠組みから頭一つ飛び出している。
そこに終夜が加われば、四葉は十師族という枠組みを超えた上位存在に成りえる。
しかしなぜ上位存在に成りえるで留まっているかというと、単に終夜と言う存在が押し上げると共に足を引っ張っているからだ。
抑止力としては良いだろうが、24時間365日各国の技術の粋を集めた最新の軍事衛星が居場所を常に監視しているのだ。
その状態で何かをしでかそうと思うほど四葉の人間は自惚れてはいない。
だからこそ、鋼也と言う新しい戦力と成りえるであろう人材の背後に四葉がいると分かれば他の十師族や師補十八家が黙ってはいない。
達也の場合は軍と言う守りが既に付いているから、そこまでも心配する必要はないのだが。
「ならば、精霊魔法と言う観点、そしてお三方と親交のある九島閣下の九島家に養子に」
「九島か、しかし九島の戦力強化につながるのではないか?」
「でしたら兄さん七草はどうでしょうか?」
「七草、確か真夜の……いや、ダメだな」
過去の件も含めて水に流すにはちょうどいい気もするが、今の当主である七草弘一はハッキリ言って詰めが甘く、黒幕になろうとして成りきれない小物と称していいほどだ。
そんな家に送りだしたら最後、何に使うか分かったものではない。
下手をしたら、対四葉などを他の十師族師補十八家と組んでその先兵にしそうなものだ。
そんなリスクを負うなど考えられない。
「ならばUSNAに送り出すのはどうでしょうか?」
そんな中黒羽現当主である貢が案を出した。
「USNAのスターズ元総隊長ウィリアム・シリウスとは大越戦争おり、親交があるとか」
「ああ、だが奴は既に他界しているぞ」
「確かにそこが問題ではありますが、スターズを含めUSNAには四葉終夜と言う名前が刻まれています。ならばそれを活かさない手はないと思いますが?」
「国内や十師族師補十八家ならば、今後のことを考えて関係強化と言う手を打てるでしょうが、状況次第ではそれが悪手にも成りえる」
「その点を考えるならば海外勢であっても四葉と手を組みたいまたは、関係を持ちたいと思う国家や機関、組織は多い」
「秘匿すべきは技術である。ならば奴はその手には一切手を出していないため、記憶を消すなどと言う面倒な作業をしなくて済むが……」
「USNAには確か九島烈の弟が根を下ろしていたと記憶していますが」
「そこまで問題にならないでしょう。いくら九島と言えど国内組織ではない海外、それもUSNAの組織や軍には影響を及ぼすことができないでしょうから」
「その点を考えるならば終夜殿は、軍部と面識もあります」
「奴も見た目は白人種に近いため差別も少ないと思います」
見た目だけを考えるならばそうであろうが、血縁は純日本人。
奴が誰かと結婚したりでもすれば、産まれた子の見た目次第では直ぐに分かるとおもうのだが。
「しかし奴をUSNAに送り出すとして、今度は国や他の家が文句を言ってくると思うが?他にも古式魔法使い連中も口を出してくるだろう。そこはどうするつもりだ?」
「それならば、九島と言う前例があるのでいくらでもこちらで対処できます」
「ならばその方向で話を進ませるとして、次に問題になるのは送り先だ。USNAには人間主義が多い州もあるそこの選定はどうするつもりだ?」
「それも問題ありません。奴をUSNAの軍属にすれば幾らか融通が利くはずです」
「スターズでなくとも戦略、戦術価値を見出されれば身の安全は保障されるはずです」
「そうですね。何か他に意見がある人はいません?」
真夜が一同を見渡すと、誰も意を唱える人が居ないのを確認した。
「では、USNAの受け入れなどの話を進めましょう。受け入れと国内においての調整の二つが終わった段階で、此方であの子に幾らか処置をして送り出すと言うことで」
「処置は俺が中心となってする」
「分かりました。では処置の方法は兄さんに一任しますが、内容はこちらで決めたものをお願いしますね」
「分かった」
こうして鋼也の処分と処置は決まって行った。
一般的な過程であるならば、悲しむべき内容であるのだろうがここは四葉。
特に対象が司波鋼也であると言う事実も相嵌り、悲しむどころか、裏で内々に処理しなければならない案件が減ると安堵する者が出る始末であった。
しかし誰も咎めない、誰もあれを愛していないのだから。
完全実力主義の四葉において、ガーディアンであると言う事実もあり、一部の人間が蔑んでいる達也のことを深夜の子である事だけは認めている家臣団でさえ、鋼也を深夜の子と認めていないのだから。
「ならば、対外的なことを考え、あれを早い段階で復学させておくか」
「手続きはこちらでしておくは兄さん」
真夜がそう言うと、手ものとベルを鳴らした。
ベルが鳴ると、何時から控えていたのか?と思うほど直ぐに葉山が入って来た。
「お呼びでしょうか?」
「あの子の謹慎を解いて、一校に復学できるようにしておいてちょうだい」
「かしこまりました」
用件だけを聞くと葉山は直ぐに出て行った。
父であり四葉家前当主である元造の代から当主に仕えているのだ。
手際もさることながら、信用も家臣の中では群を抜いている。
そのためある程度重要な案件も任されることもしばしばある。
「じゃあ、
「ええ、そうね」
終夜が、立ち上がり扉へ向かうと扉が開いた。
自動ドアと言う訳では無い。
少年執事が待機しており、中の様子を察して開けたのだ。
終夜の後に続くように深夜と真夜が退出して、初めて分家の当主たちも退出しだした。
「それで兄さんは今年も行くの?」
「ん?九校戦か?」
「ええ、あそこには毎年九島先生が」
「ああ、
「それは、そうですが」
「それにあのジジイもいい歳だしな」
「御歳を取られているからと言って油断ができる相手ではありませんよ?」
「一線を引いて尚軍部に影響力があるからな。だが、その程度ならばいいのだが、あれは魔法師を兵器から人にしたいらしいからな」
魔法師を兵器ではなく人に、その裏には九島の家にある問題が関わってくるだろうが、そのことを非難することを終夜にはできない。
近親間で生まれた子供が両者の家に存在するからだ。
研究の段階でも忌避されたそれを実行しているため、対外的にそのことを四葉は九島を避難できないし、するつもりもない。
何より差が生まれたのは、四葉の二人は健康体であるが九島の子は病弱である。
今後もないとは限らないため、常に体調確認が必要であり、そのための香波だ。
もし二人が二人暮らしを始めたら、終夜は香波を二人に付ける気でいる。
「人を兵器にすることは簡単だが、兵器を人にする事は出来ない。何故そのことが分からない、いや認めようとしない」
終夜の後を着いて来ている深夜と真夜には聞こえない小声、しかしこれ以上ない程悲痛な思いを込めて呟いた。
一時期、僅かな月日だけとはいえ、師となった相手の無様な姿は流石の終夜も見たくはなかった。
気に喰わないからこそ、他人ではなくせめて自分でいつかは引導を渡すべきだな。
終夜は改めてそのことを思い直した。
――――九校戦開催三か月前の話であった。