魔法科高校の劣等生~世界最強のアンチェイン~   作:國靜 繋

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海上に向って出発します……過保護じゃないと書いたばかりで、どう見ても過保護な対応が有ったり……

八月一日――

発足式では達也のクラスメイト達だけが、壇上に近い位置を占拠していると言う面白いことをしていたり、達也がエンジニアの担当をするのが女子ばかりと一種のハーレムを築いたりと、話の種が尽きず中々見ものなことが続いていたりする。

そして現在、いよいよ九校戦へ出発する日になった。

八月と言う名の通り日差しも強いため、皆冷房の効いたバスの中で家の用事で遅れて来る一人を待っていた。

 

「深姫、真姫今年も来てるわね」

 

「ごめんね。私達はいらないと言ったんだけど」

 

「それなら一年に事情を説明してやってくれ。光井など目に見えて脅えていたからな」

 

「そうですね。そうしておきます渡辺先輩」

 

花音が来ていると指しているのは、バスの近くに止まっている二台の黒塗りの車のことだ。

フロントガラスを除いた全てが外部からの透過度0%と違法のスモックであり、近くにはサングラスを掛けた黒服が立っている。

何故そんな奴らが居るのかと聞かれたならば、単に深姫と真姫の護衛と遅れて会場に向かう終夜のために、事前に危険物が無いか確認する役割を追っているのだ。

軍の施設だからその心配はない、と当初は軍部の人間も断った。

しかし、三年前の大亜連合による沖縄侵攻。

それに伴う軍に所属する者の裏切り、そして四葉の人間に危害を加えていると言う事実。

そのことを持ち出されてなお、終夜を目の前にして大丈夫であると言い切れるものは誰もいなかった。

むろん年がら年中調べる訳では無く、九校戦に伴い終夜や一族の人間が入る時のみ事前に安全確認をするだけであるから、軍部の人間も許可をしたのだ。

 

「それにしても真由美の奴遅いな。そろそろ着いても良い頃だろうに」

 

「仕方ないですよ。会長は私達と違ってお見合いをしなければならないんですから」

 

「そう言うが、お前たちはどうなんだ?」

 

「私達の場合は、卒業まで待ってくれるそうですね」

 

「そうなのか?いやそうだろうな。四葉家と親密な関係を持ちたい者達は大勢いるからな」

 

国内外問わず四葉と親密になりたい者達は大勢いる。

それも個人で国を落せる魔法師の血筋ともなるとその価値は計り知れない。

そのため縁談も多く舞い込んで来ており、四葉としても今後のことや関係を考えると全てを無碍にするわけにはいかない。

しかし深姫も真姫も学生であり、学生の本分は学業であると言うこと。

四葉との関係強化または、親密になりたりあわよくば縁者になりたいと思っている者が大多数と言うこともあり、全ての縁談は高校卒業後か、二人の進路が決まり次第ということになっている。

その点を考えると遅れて来る七草は、社交的で娘の誕生日などでは多くの人を呼びホームパーティーを開いている。

社交的すぎるが故に縁談やお見合いをあまり断ることができないでいる。

 

「あ、会長来たみたいですよ」

 

「遅いぞ真由美」

 

「ごめんごめん」

 

今回真由美が急遽呼ばれたのは、正式なお見合いではなく、その話を受けることにしたので正式な日程や場所など細々とした話であった。

そのため、遅れて来るだけで済んだのだ。

正式なお見合いであったのならば、間違いなく懇親会が始まるギリギリになっていたことだろう

 

「全員そろったようなので、バスから出発してください」

 

達也はそれだけを言うとバスから降り、CADのチューニングする機材が乗った作業車に乗り込んで行った。

バスが閉まり、緩やかに進みだすのを確認した黒服たちも車に乗りこみ、バスの前と最後尾の作業車の後ろに付いた。

少ない護衛であるが、終夜自ら選出した指折りの者達ばかりだ。

十師族の当主やそれに等しい力を持つ者達であったとしても魔法だけに限らず、文字通り戦争の様になんでもありならば倒すことが可能な者達ばかりだ。

むろん四葉に牙を向けないように終夜直々に処置をしている。

 

「そう言えば今年は三校に一条と吉祥寺が入学したらしいね」

 

「一条って十師族の?でも吉祥寺って?」

 

「そう、一条将輝よ。私達は直接関わり合いがない家だからそこまで詳しくはないけど『クリムゾンプリンス』の二つ名は有名でしょ。吉祥寺のフルネームは吉祥寺真紅郎。カーディナル・ジョージの方が有名ね」

 

「カーディナル・ジョージどこかで聞いた気がするけど……」

 

「はぁ、花音いくらなんでもそれはないだろ」

 

席の前後で花音と真姫の会話に花音の横に座っていた摩利が呆れ声で割り込んできた。

 

「ちょっと度忘れしているだけです摩利さん!!」

 

「ほう、なら思い出すまで暇つぶしに舞ってみるとするか。リミットはバスが到着するまでだ」

 

「ちょっ!!」

 

摩利が意地悪そうな表情でそう言い、花音が慌てた表情をした。

 

「ついでに言うと、時間以内に思い出せなかったら五十里に言うからな。花音が覚えていなかったら勉強を教えた五十里もショックだろうなぁ」

 

「ちょっ!!摩利さん冗談ですよね!?」

 

五十里に言うと摩利が言った瞬間、本気で夏音は慌てだした。

啓に幻滅されたくないという、乙女心が働いた結果であるが、おかげで先ほどまで啓と一緒になれなかったと憂鬱そうな表情をしていた花音は日頃の自然体に戻っていた。

だからと言って思い出せるかどうかは別問題なのだが。

 

「さてどうだろうな」

 

「酷いですよ摩利さん」

 

花音が窓もたれ掛かり景色を見ることで逃避しようとした、その時だった。

 

「危ない!!」

 

対向車側の車が傾いた状態で路面を走行していた。

そしてその車がスピンを起し、どんな偶然かガード壁に衝突、宙返りを起しながら飛び込んで来たのだ。

バスに急ブレーキがかかり、全員が一斉につんのめり、シートベルトをしていなかったものは前の座席にぶつかった。

だがバスは停車し、直撃することを避けることができたが、進路上に落ちた車は勢いを落しながらではあるが、炎を巻き上げ滑ってくる。

しかし遅れてブレーキをかけた一校生徒を乗せたバスの前を進んでいた黒塗りの四葉の車にぶつかろうとした。

 

「吹っ飛べ!!」

 

「消えろ!!」

 

「止まって!!」

 

パニックを起こさなかったことは褒めるべきであろう。

しかし無差別に魔法を放ったことが帰って状況を悪化させてしまった。

無秩序に発動された魔法が、無秩序に事象改変を同一の物に働きかけてしまった。

その結果、バスの前方を走っていた車に乗り込んでいた終夜の手の物が魔法を発動しようとするが、魔法が相克をお越し事故回避を妨げることになってしまった。

 

「ぶつかる!!」

 

バスに乗っていた誰かが叫んだが、それが誰なのかを確かめる余裕を残している者は誰もいなかった。

嗢鉢羅、大きな声ではなかったのにもかかわらず、その声はバスの中にいる者全員が聞いた。

瞬間、炎を巻き上げながら滑って来た車が一瞬にして凍りつき氷が地面と車を縫い留めた。

想子(サイオン)が無秩序に荒れ狂う車周辺諸共を凍りつかることで、車にかかっていた魔法を無視したのだ。

 

「まさか今の」

 

「間違いない。お父様が彼を投入するなんて」

 

「二人はさっきの魔法が誰がしたものか知っているのか?」

 

「知っています。氷川仙志、お父様も認める指折りの実力者です。まあ何となく関わり合いになりたくはない人なんですけど」

 

「ただ、彼を投入して来たと言うことは今回の九校戦に何かあるか、彼を連れて行くほど重要な案件があるか」

 

氷川もまた、四葉に仕える調整体魔法師、『氷』シリーズの第一世代であり、『桜』シリーズが盾としての役割を持つ者達ならば、『氷』シリーズは矛としての役割を持つ。

攻撃こそが最大の防御を体現する存在で、敵性存在を狩ることこそが役割であり、氷川仙志は戦術級の力を持っている。

 

「そこまで信を置いているとは……」

 

摩利は、改めて氷漬けにされている車を見た。

 

 

 

 

「相変わらず凄い手際ですね仙志さん」

 

「そうでもありませんよ」

 

サングラスを掛けた黒服の男が件の男、氷川仙志に称賛の言葉を送ると、仙志は苦笑い気味に答えた。

目を閉じているかと思うほど細い目をして、常に作ったような笑顔を張りつかせている。

体型も大よそ要人警護に向かない線の細い体型をしている。

 

「しかし危なかったですね。私が居なければ今頃バスを捲き込んで爆発していましたよ」

 

「バスには深姫様や真姫様、それに深雪様も乗っておられますし、十文字家の当主いえ、代表代理でしたね。それに七草の長女も乗っておられますから事故に発展しなかったのでは?」

 

「確かにそれがただの自爆特攻であれば問題なかったでしょうが、誰も爆発物には気が付いていなかったようですからね。このまま人命救助や現場記録だのをやり始めていたら間違いなく人死にになっていたでしょうね」

 

「自爆特攻、誰かが四葉の者を?」

 

「いえ、それにしてはやり方が杜撰すぎますね。目的はもっと別の……そう、例えば九校戦に出場する選手が標的であったとしたら?」

 

「確かにそれならば、この程度の手口で十分でしょう。ならば何故爆発物を?学生程度ならばただの自爆特攻で十分では?」

 

「ええ、そうでしょうね。しかし相手も選手の中に四葉姓の者がいると事前に知っていたら?」

 

「まさか、九校戦の運営委員が外部に情報を洩らしたと」

 

「十分考えられますね。少し先を急いだ方がいいかもしれません。運営委員は後でいくらでも調べられますが、会場となると時間が掛かりますからね」

 

「そうですね。後続に後のことを任せて我々だけ先を急ぎましょう」

 

「連絡は私がしておきますね」

 

「お願いします」

 

仙志は、細い目を僅かに見開き窓の外にある氷図気になっている車を見据えると懐から連絡用の携帯電話を取り出した。

見た目こそ今では珍しいアナログ式ではあるが、目的が個人ではなく組織で運用する物。

それも連絡用ともなると、通信が如何に傍受されないか、またデータの暗号化書式が如何に丈夫であるかが求められた結果、今の物に落ち着いたのだ。

そこから連絡する相手の名前を見つけると、通信のボタンを押した。

ツーコール鳴らしてあえて一度通信を切、もう一度かけ直すとワンコールなった後直ぐに通信が繋がった。

 

『こちら二号車』

 

「こちら一号車、前方の氷漬けになっている車は見えますか?」

 

『いえ、こちらからはバスが死角となって見えません』

 

「分かりました。ではこちらの状況説明をします」

 

そう言うと、仙志は状況を簡単にまとめて伝えた。

対向車線にあるガードを乗り越え車が飛び込んできたこと。

その車に学生が一斉に魔法をかけた事。

相克を起した状態では、魔法が真面に発動しないやむを得ない状況と判断し、車諸共社内の運転手を瞬間凍結したと伝えた。

また、車内には時限式の爆発物があり、それも一緒に凍結しているため現状は大丈夫だが、いずれ解凍する可能性を考えると警察に連絡する際、爆発物処理班を呼び解体してもらう必要が有ることを伝えた。

時限式の爆発物が通常の車にあるのはおかしく、自爆特攻もしくは人為的なものの可能性が高いが計画があまりにも杜撰であり狙いが四葉ではなく九校戦に出場する一校生徒が標的の可能性が高いと考え、会場の確認を早めるために、警察などの事後処理を頼むことを伝えた。

 

『状況を理解した。あとはこちらで処理をしておく』

 

「分かりました。ではこちらは一足先に安全確認をしておきます」

 

それだけを言うと通信を切った。

 

「出してもらって結構です。あとは後続が諸手続きしていただけることになりましたから」

 

「分かりました」

 

仙志を乗せた車は、一校のバスを置いて先に進むことにした。

元々の役割が護衛よりも事前の安全確認が優先されているため、後々終夜から怒られると言うことはない。

それに後続が継続して護衛の任に着き、先ほどの一件もあるため警察から護衛も着くことが予想されるため、問題ないと仙志は考えた。




氷川仙志の人気があるようなら、今後も使って行きたいと思います。
元々使い捨て予定のキャラですから。



終夜にブラックホールクラスター使わせるのセーフですかね?

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