転生から十年――
終夜は現在十歳になり、深夜、真夜は七歳、ちょうど小学生になったばかりだとなった。
そんな終夜の悩みは、二人が第二次性徴の兆しが見えはじめて来た事だ。
思春期早発症の可能性があったが、まだ兆しということと、年齢のことを考慮するとそこまでも可笑しくないそうだ。
この調子で成長するならば第二次性徴は普通に来るそうで、問題はないと診断されて若干安心した。
そもそも何故こんなことを心配するかというと、身贔屓なしに見ても、文句のつけようのない美少女な二人だ。
そんな二人が女の体になり始める兆しが見え始めた。
これは、忌々しき事態だ。
もし思春期早発症だったなら最終的身長が小さくなるし、そうなればロリな人の需要にこたえる事に為ってしまう。
終夜としては二人には、健やかに育ってほしいし、そう言った輩の魔の手に置かされたくないからだ。
という建前があるが実際は、兆しだからいいが本格的に思春期に入って、二人から「兄さんなんて嫌い」や「兄さんあまり近づかないでくれますか?」、何て言われた日には、間違いなく塞ぎ込むこと必至という事情があったりする。
とまあ、こんなことを考えて現実逃避している終夜は現在、夏休みを利用して父である元造に連れられ十師族の一つである九島家へと向かっている、というよりは連れて行かれている。
九島家には、『世界最強の魔法師』であり最高にして最巧と謳われ、『トリックスター』の異名を持つ日本で最も有名な魔法師だ。
歳も四十の半ば程と今なお、国防軍で現役の魔法師部隊を指揮する軍人だ。
何故そんな人と何故会うかというと、それは終夜自身聞かされていなかった。
「父さん、なぜ九島殿の元へ」
「それは着いてから説明する」
昨日から帰ってくる返答はこればかりだ。
父が何を企んでいるのか、終夜はそればかりが気になって仕方がなかった。
それからは、九島家に着くまで永遠と車の中は沈黙で埋め尽くされていた。
暇をつぶす手段もなく、終夜は終始気まずい思いをするだけだった。
着いたのは、国防軍の富士演習場で九島家ではなかった。
そもそも奈良県に本宅を構えている九島家に向かうはずなのに、嫌に富士山が近づいていることに違和感を持つべきだったのだ。
そこを見落としていたのは、完全に終夜の失態としか言いようがない。
国防軍の基地につくと早々に降ろされた。
「ついてきなさい」
それだけを言うと有無も言わせずに父は歩き出した。
勝手知らない場所ということもあり、大人しく着いて行く終夜だったが、内心気にいらないと思っていた。
絶対いつの日か四葉の当主の席から引きずり降ろしてやるとその日終夜は決意した。
まあ、自分が当主になろうと思わない辺りが終夜らしいところだ。
暫く父の後を着いて行くと、急に立ち止まった。
コンコンコンときちんと三回ノックすると中から返事が返って来たので、父と一緒に入った。
「お久しぶりです烈殿」
「元造殿か」
中には、軍服を身に纏い書類仕事をしている九島烈その人が居た。
「すまんな、本来なら本宅でという話だったが」
「いえ、私どもと致しましてもこちらの方が近いので助かります」
「そう言っていただけると、こちらも助かる。それでそちらが件の息子か」
「ええ、終夜といいます」
「始めまして、烈殿。四葉終夜と申します。烈殿のお話は父からお伺いいたしており、お会い出来て光栄です」
習わされた作法通り、きちんとした言葉使い、礼をした。
最近は、何かといろいろなパーティに連れて行かれることもあるので、こういった話し方はもう慣れた。
「しっかりとしているな、元造殿」
「後のことは、お任せしても大丈夫ですか?」
「ああ、任せておきなさい」
何が任せておくのかと訊きたくなるのを終夜は、グッと我慢した。
むしろ聞いても教えてくれない可能性が高いから諦めたというのが適切だろう。
「では、一週間後に」
父はそれだけを言い残すと部屋から出て行った。
「って、え!?」
状況が全く呑み込めない終夜は、呆気にとられていた。
「呼び方は終夜と呼び捨てにするがよいか?」
「はい、かまいませんが?」
「では、行くとするか終夜」
「え、あ、はい」
とりあえず返事はしたものの、一週間後ってどういうことよ。
というか、何故こんなことに――
烈殿に連れられて来たのは、富士演習場の中でも国防軍の総合火力演習に使われている所だった。
無駄にだだっ広いだけで、ろくに舗装されている訳でもなく凸凹とした地面に手入れの行き届いていない草原が広がっているだけだった。
「では、終夜とりあえずこの場にある的を全て壊してみろ。無論魔法で、だ」
「分かりました」
この場に在る全て、つまり有視界外にもまとが在る可能性があるということか。
終夜は一度目を閉じると、精神を集中させた。
妖精の眼とマルチスコープという知覚系魔法を同時に併用することにより、イデアに直接アクセスしての存在認識とあらゆる死角となる場所を多元的に見ることによって、物理的、情報体的の両方から情報を得ることにより確実に的を見つけ出した。
この二つは知覚系魔法と呼ばれ先天的スキルとされているが、それさえも原理を教えてもらい終夜自身に合う様にチューニングしたため既存の物とは違うが本質的には同じだ。
それにより終夜は文字通りこの二つを同時に発動している時は死角が存在しない。
この二つで見つからないのは、矛盾した言い方をするならば文字通り存在しない存在だけだ。
「的は全部で62個」
「……」
烈はあくまでも無言で終夜を観察し続けた。
的を全て認識した終夜は、魔法を発動した。
加重と収束の複合魔法。
的の中心部に一気に膨大な加重が加わった。
地面を抉り取るようにしながら。
それが、62個同時なのだから烈は感心せずにはおれなかった。
特に興味を引いたのが、魔法に対して何の補助も入れず完全に自分一人であれだけのことをしたことだ。
「ふむ、あれはどんな魔法だ?私は見たことがないが」
「え?あれですか、いま思いついたものですが?」
「なんと!!」
これで合点がいった。
元造が、終夜にCADを買い与えなかったのは、その柔軟性と応用性、そしてそれらの規模が大きすぎてCADのストレージでは直ぐに溢れかえるからか。
そして生まれてから魔法の発動、規模、強度、サイオン量その全てが未だ発展し続けている、これが事実なら確かに四葉だけで育てるには技量が近しくなければならない。
あそこは、良くも悪くも兵器としての魔法師に特化し過ぎているためか、一点特化の者が多すぎて、終夜みたいな万能に近いものを育て上げるには向かない場所でもあった。
だからこそ元造が烈に終夜の教育を頼んだのだが。
「では、次をやるぞ」
「はい」
何故こんなことをしているのか未だに理解できてはいないが、好きにしていいというなら日頃構想止まりだった魔法を存分に使ってみようと思った終夜だった。
終夜は日が落ちるまでの間、永遠と魔法を使わされた。
流石に半日近く魔法を使い続けると、疲れを感じたが、疲れを感じる程度で収まった。
このことに烈はさらに驚いていた。
終夜が創り出した魔法や、使った魔法はどれもが難易度が高い代物だった。
それを使い続けて尚疲労を感じる止まりだけで、烈自身もあれだけの魔法を一切の無駄を省いて行使したとしても動けなくなるだろう。
それだけの代物を使ってこれだ。
その重大性を終夜が気づいていないことに烈は、呆れを感じていた。
「さて、終夜今日見させてもらった魔法だが、はっきり言って無駄が多すぎる。それを失くすのがお前の課題だ」
「分かりました」
流石にあんなに魔法を使わせられていたら終夜でも違和感に気付く。
何故こんなことをしているかと烈本人に訊いたら、一週間自分を教育するということではないか。
それも、深夜と真夜のいないこのむさ苦しい空間で。
その時の絶望は弱い十歳にして人生を諦めた様なものだったと烈は笑いながら言っていた。
「だが、私もお前に付きっきりというわけにもいかない。だから、明日からトレーニングメニューを渡す、それ通りにしておけ。私も暇が出来次第見に来るからサボるなよ」
それだけを言い残すと烈は部屋から出て行った。
「真夜、深夜。お兄ちゃん頑張るからね」
それだけを言うと娯楽の無い軍事施設だ。
残されたのは明日に疲労を残さないことなので早々にシャワーを浴びると寝ることにした。
その頃の妹ズは――
「兄さん、一週間帰ってこないんだね、真夜」
「そうだね、姉さん」
明日は、父さんと出かけてくると聞いてはいたが、父さんが帰ってからも兄は帰ってこなかった。
何かあったのか心配ではあったが、父は「お前たちは知らなくていい」の一点張りだった。
だから、完全に他人行儀で「すみません元造さん、これから下着は別々に洗濯してください」とゴミを見るような目で言って去ろうとしたら、流石の元造もこれには応えたらしく、日ごろの威厳はどこへやら、二人にしがみついて、終夜のことを簡単にゲロったのだ。
「せっかく一緒にプールに行こうと思ったのにね」
「そうだね」
二人の手には、スクール水着が握られており、胸には「よつばみや」と「よつばまや」と書かれていた。
見る人が見たら発狂するだろうそれを終夜は見逃したのだ。
後日これを知った終夜は、無論さめざめと泣いたのだが。