あれから一週間が経ち今日の夕方頃に迎えが付くとのことだった。
途中妹成分が不足してまずいかと思ったが、何とか耐えきった。
というか、何なんだあの爺、十歳のガキに対してあのハードなメニュー。
絶対無理だから。
朝
六時起床からのラジオ体操
確かに夏休みだけどさ、何でこんなところに来てまでやらされるのと思いつつも一人寂しく外でやった。
その間軍人さんたちは、点呼を取っていた。
七時朝食
これは軍人さんと一緒に隊員食堂で食べた。
先ほどから、ずっと何故こんなところに子供がいるのかと奇怪な目で見られている。
まあこればかりは、仕方がないことだと終夜自身割り切って入るが、こう言った事は事前に説明しておいてほしかったと思った。
八時十五分――
軍人さんたちは国旗掲揚・朝礼していた。
その間、終夜は烈に言われていた体育館に来ていた。
そこには、魔法師専用軍事教練用の機材がある場所だった。
烈が準備していたメニューには、指定された複合魔法を使用して機材で処理速度を計るといった単純なものだが、問題は複合魔法に合った。
単一系魔法ならば、簡単に指定速度に達することが出来るだろうが、複合となると中々そうはいかない。
それを指定速度内に収めると為ると、確かに無駄が在ったら無理だ。
事実、烈が指定した処理速度は理論上であれば一切の無駄なく発動できた場合出せる数値ではあった。
「烈殿、いやあのおっさん絶対腹黒いだろ」
一応誰にも聞こえない様に小声でだが、終夜が毒づいたのも仕方ないことだと思う。
そもそも理論上できる=可能かといわれたらそうではない。
それなら、机上の空論何てもの存在せずそれこそ、永久機関が今頃いくつも完成していることだろう。
「まあ、仕方ないやれと言われたらやるしかないだろ今の立場的に」
一週間、子供の夏休みは貴重だ。
それを失われるならせめてなくす以上の価値を見出さなければ意味はない。
それに現在の終夜は、軍の施設を使わせて貰っている立場だ。
何か言われたとしても烈殿に言われたからで何とかなるが。
「まあ、愚痴っていても始まらないか」
終夜は機材の準備を始めようとして、気が付いた。
あれ、使い方分からなくね?と。
昼
十二時昼食。
機材の使い方は、訓練中の人に訊くわけにもいかないので渋々烈の元へと赴き教えてもらってからし始めた。
また、隊員食堂へと来ていた。
一日の時間が全てきちんと決められている軍人は、決められた時間内でしか食事が出来ないため、食堂は混雑していた。
「うわ……」
軍隊である以上女子率は低い。
それが意味することは、先ほどまで訓練していた筋骨隆々な男や細マッチョな汗臭い男どもが所狭しと居るのだ。
ハッキリ言おう、目が腐ると。
既に腐っている男や男色の気が在る奴からしたらご褒美だろうが。
終夜はノーマルだ。
ただ、チョッとばかり妹が好きすぎるくらいで至ってノーマルだ。
終夜は、昼食を貰うと端っこに座り急いで食べて体育館に戻った。
あそこにいたらキツイ。
そもそも子供があんな場所に一人ポツンとのいる光景自体が違和感だらけだ。
そこからは、永遠と出された課題をしていた。
夕方十七時
何とか、出された課題をクリアした。
額に汗を浮かべ、若干息を荒げていた。
一日を同じ作業に費やしていたのだ、かなりの集中力を要すものだ。
それを十歳の子がしたのだ、十分褒められる事柄だ。
「ほう、一日でそれをクリアしたか」
声がした方を振り返ると、入り口の所に烈がいた。
「ええ、おかげさまで何とかなりましたよ」
「そうかそうか、ならば明日からはこれをやっておけ」
そう言って渡されたのは、次の目標だった。
終夜は、引きつった笑みを浮かべながらも
「分かりました」
と答えるしかできなかった。
烈は満足げにこの場を後にした。
何をしに来たんだと思わなくもないが、そんなこと考えるだけ無駄だと思い機材を片付け夕食を食べに行った。
そして、またしても汗臭さが倍増していた食堂でさっさと食事をして部屋へと戻った。
これが一週間エンドレスでやらされるのだ。
主に癒しの時間のはずの食事に心折れそうになったことがあったので、常に自分の周りだけ新鮮な空気が入るように魔法を常時発動させることで何とかなった。
終夜自身、常時発動型魔法がどれだけ価値があるのか知らないため誰にも教えていない。
そもそもこの魔法が生み出された理由が、汗臭い中で食事をしたくないという生理的理由なのだから致し方ないだろう。
そして現在に至る訳だが、最終日ということで烈と簡単な模擬戦という名の死合をすることになったため態々演習場まで来ていた。
ルールは簡単、致命傷を与えたり、今後後遺症を残すような傷を与えたりすることは、禁止といった単純なものだ。
死合い時間は、二十分これは烈の仕事の関係もあるからだ。
「さて、どれほど腕を上げたかな」
「ははは、あなたのえげつない行為のおかげで十二分に上がりましたよ」
「そうかそうか、それは楽しみだ」
お互い表面上は楽しそうに、しかし目は一切笑っていないどころか、ハイライトさえ消えていた。
というのも、烈が見に来るたびに『偶然』にも『誤って』烈の方に魔法を飛ばしてしまうこと17回。
まあ、そんなことがあったのだ。
「それでは始めるか、糞餓鬼」
「そうですね、腹黒爺」
「「ははははははっ!!」」
「「ぶっ殺してやるクソガキ(ジジイ)」」
互いが宣戦布告すると同時に魔法を発動した。
烈はCADから魔法式を読み取る必要があるが、終夜は完全に感覚で魔法式を作り上げ発動させることが出来る。
ここに僅かながらも速度でアドバンテージを取ることが出来る。
「死にさらせクソジジイ!!」
終夜が発動させた魔法は、加速系移動魔法と収束系魔法の複合魔法。
一つ一つが単純なため特別な名前が付くような物でない単純なものだ。
収束系魔法により拳大にまで密度を集約させた土塊を上空へと打ち上げ、上空より加速させながら放つ魔法。
終夜はルール上の致命傷を与えない、今後支障を負う様な傷を負わせてはならないを早速破りにかかった。
密度を上げられた土塊は、情報体強化によりさらに丈夫にされそれが雨霰のごとく烈に降り注いだ。
「甘いな、小僧」
声のした方を避けながら振り返ると、背後に烈がいた。
あの爺、始まる前から魔法を使っていやがった。
精神干渉系は四葉の専売特許なためやられたら感知もしくは違和感を感じるだろうが、あの爺、虚像を作り上げて居場所を誤認させていやがった。
マルチスコープで全体を見ていなかったら本当にまずかった。
これが、経験の差か。
機械などだったならスペックの差がそのままイコールになるが、人間の場合はそうもいかない。
経験によって研ぎ澄まされた勘と経験によって得た物の二つがあり、これは機械は得られないものだ
「ほう、あれを避けるか」
「狡いだろジジイ始まる前から魔法を使っているとか」
「誰も使ってはいけないとは言っていないが?」
烈は恍けた様に言った。
イラッと来てしまった終夜は仕方がないと思う。
そもそも十歳の子供が煽り耐性を持っているはずもなく。
「潰れろ」
加重系単一魔法。
単純なものと侮るなかれ、一定領域内の重力をほぼ無限大に上げ続けるえげつない魔法だ。
簡単に想像すると、鉄板と鉄板に挟まれ徐々に徐々に狭められていき潰されていくのを。
終夜が発動した魔法はまさにそれだ。
しかし相手は最高にして最巧といわれている魔法師だ。
この魔法の穴に気が付いているかもしれない。
「ふむ、悪くないがまだまだ穴がるな」
チッ流石に気づくかと内心毒づくがそんな事は後にして、反撃される前に攻め立てた。
相手は腐っても現役の軍人で魔法師だ。
更に九島家の当主ということもあり、駆け引きに持ち込まれたらこちらに勝ち目がない。
そもそもこの場所も相手のテリトリー内で地の利は向こうにある。
終夜が勝っている部分は、処理速度、演算規模、干渉力、サイオン量だ。
ならばそれを活かさない手はない。
膨大なサイオン量を消費し、膨大な式を無意識領域内で処理する。
その魔法の名は『スーパーセル』――
加速・移動・振動・収束・発散・放出の複合魔法。
この魔法の難易度は桁違いに高いが、この魔法のもたらす破壊規模は想像を絶する。
何せ一度発動させてしまえば、それだけでいいのだ。
自然現象である『スーパーセル』を人工的に発動させてしまえば、後は自然現象として定着し、自然に収まるまでどうしようもないという欠陥も抱えている。
そして、終夜が発動しようとした時だった。
丁度、お昼休みのサイレンが鳴り、勝負時間でもあった二十分が経ったということだ。
「チッ、命拾いしたなクソジジイ」
「ほう、その割に私を傷つけることが叶わなかった様だが?」
確かにそうだ。
烈は終始逃げに徹していた。
それは、烈自身が自身に何が可能で何が不可能か理解しているからだ。
「ほら、行くぞクソガキ」
「へいへい」
烈に対してここまで砕けきった言い方が出来るのは、終夜だけだろう。
そこから終夜は、お昼を食べた後は部屋でゆっくりとくつろいでいた。
烈との戦いは思った以上にきつかったからだ。
ベッドに寝転がり、夕方まで寝ようと瞼を閉じた。
確りとアラームは設定して。
「烈殿この度はお世話になりました」
「こちらも殆ど面倒を見ることが出来ずに申し訳ないくらいだ」
「いえいえ、終夜にもいい経験になったと思いますよ。では、これ以上長居するのも迷惑でしょうからこの辺りで失礼します」
元造は、烈にお礼を言うと、礼をした。
終夜も父の前では日頃のいい子ちゃんモードに入った。
「烈殿この度はお世話になりました。僕もとてもいい経験が出来て光栄でした」
「そうか、そう言ってもらえると私としても嬉しいよ」
父には見えない様に、しかし挑発しきった笑みを烈に向けていた。
「では、失礼します」
終夜は、頭を内心嫌々下げながら部屋を後にした。
そこからは、四葉本宅に着くまで無言の時間を過ごしていた。
内心深夜と真夜とに会いたくて仕方がなかったのは、いつもの終夜というところだろう。
更に次の話で時間が跳びます。