デート・ア・バエル   作:紅ヶ霞 夢涯

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 バエルだ!!



プロローグ

 

 アメリカのとある州のとある都市の上空に、近未来的な装備で身を包んだ女性の一団があった。

 

 ピッタリと張り付き身体のラインを浮かび上がらせるボディースーツを着ていて、背中には大きな箱のような機械を背負っている。その機械には一対の推進機があり、全員が剣や銃などの武器を抱えていた。

 

 ーーー当然、ただの人間がそんな装備を身に着け空を飛ぶ訳がない。

 

 彼女たちは、DEMという組織に所属する魔術師(ウィザード)たち。そして魔術師とは、空間震という災害を引き起こす原因であり、人類を脅かす敵である精霊に対抗するため、人為的に生み出された存在だ。

 

 つまり、だ。

 

 魔術師たちがそこにいるということは、彼女らの持つ武力を向けるべき相手が現れたということに他ならない。

 

『標的確認!』

 

 照準器を覗いていた一人の魔術師が、そう通達する。それを聞いた全員に緊張が走り、直後先頭を進む隊長が指示を出す。

 

『総員散開!そして標的を包囲して、一斉攻撃を仕掛ける!!』

 

『『『『『了解ッ!!!!!』』』』』

 

 互いに援護が可能な距離を保ちながら、上下左右に広がって包囲網を作る。その徐々に狭まる包囲網の中心には、一体の精霊の姿があった。

 

「………………………」

 

 流線的でありながらも、どこか鋭角さを感じさせる純白の鎧。背中には両側に翼に似たものがあり、そこから青白い光ーーー霊力を放出している。腰の後ろには黒い留め具が左右に伸びていて、そこには光り輝く黄金の剣が差されていた。V字の角が付いた兜にあるバイザーのようなもので顔の上半分は隠されていて、兜の隙間から肩まで金色の髪が見えている。

 

 ーーーその精霊が纏う霊装は、魔術師が使用する近未来的な装備、CR-ユニットに酷似していた。

 

「………………………」

 

 自身に迫る魔術師たちにはとっくに気づいているだろうに、精霊は特に反応を示さない。ただ無言で佇んでいる。

 

『あれが、《バエル》』

 

 魔術師の誰かが、精霊の識別コードを呟く。

 

『包囲完了しました、隊長』

 

『よし………総員、構え!!ーーー攻撃開』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ、れ?)

 

 気づけば、視界がくるくると回っていた。時折目に刺さる太陽の光が眩しい。まさか精霊を完全包囲していたという絶好の機会に、随意領域(テリトリー)の操作に失敗してしまったのだろうか?

 

 それならばとすぐに展開し直そうとするが、何故か上手くいかない。

 

(どうして?)

 

 そう疑問を浮かべた時、真っ赤な液体がそこら中に散っているのに気がついた。少し視線を動かせば、首から上がない誰かの身体から吹き出ていると分かった。そしてその側には、赤く濡れた黄金の剣を握る精霊の姿がある。

 

 ーーーあぁ、斬られたのか。

 

 それを理解すると同時に、急速に意識が薄れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隊を率いる立場にある者を殺したことで、一瞬だけとはいえ確実に魔術師たちに隙が生まれた。

 

 ーーーそこを見逃す俺ではない。

 

『ひッ』

 

『バエッ』

 

 程近くに対空していた魔術師を、振り上げた右手の剣で深く斬り殺す。そしてすぐさま別の魔術師に向けて、左手に握る剣を振り下ろした。

 

「ん?」

 

 しかし、肉を斬った感触が伝わって来ない。どうやら随意領域に防護性を持たせたようだ。思っていたよりも反応がいい。

 

(………まぁ)

 

 右脚を伸ばしてその魔術師を蹴る。両手の剣に霊力を流し、一回転して随意領域の上から魔術師を横に両断した。

 

「それがどうした、という話………っと」

 

 そう呟き剣を眼前で十字に構えた直後、数え切れない程の弾丸が私を襲った。爆煙の中でしばらくそれに耐えていると、やがて弾幕は止んだ。

 

 霊装の背部にある翼から霊力を放出し推進力に変えて、勢いよく煙の中から飛び出す。その流れのまま近づいた魔術師に、翼の内部から弾丸を撃った。

 

 ーーーこの弾丸の射程距離は、非常に短い。おまけに追尾性などは一切なく真っ直ぐにしか飛ばない。加えて威力も低く、例え随意領域を展開していない生身の魔術師に当てても死なないだろう。

 

 ーーーだが、それらを差し引いても大きな利点がある。

 

『きゃッ!?』

 

 被弾させた相手に強制的な「よろけ」を発生させることが出来るのだ。その「よろけ」が持続するのは本当に極僅かだが、私にとってはそれだけで十分。

 

 一気に加速しジグザグな不規則の軌道を描いて、周りからの射撃を回避しながら弾丸を当てた魔術師の胸を貫く。

 

「さて」

 

 ゆっくり剣を引き抜く俺の周囲には、未だ多くの魔術師の姿がある。彼女らは最低でも二人一組で固まり、私を近づけないように弾幕を張る後衛と、私が近づいた際の近接戦闘を担当する前衛とに別れていた。

 

(シンプルな策だが悪くないーーーしかし)

 

「ーーー果たすべきを力で果たすまでだ」

 

 今更その程度の小細工で、この俺を阻めるとでも思っているのか。仮にだとすれば人間………否、魔術師共は愚かに過ぎる。本気で俺を止めようというのであれば。

 

最強の魔術師(エレン・M・メイザース)でも連れて来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、遅かったですか」

 

 精霊《バエル》とDEMの魔術師たちとの戦闘があった空域の真下の都市。そこにある高層ビルの一つに佇む、一人の魔術師の姿があった。

 

 風に靡くノルディックブロンドの長髪。身に纏うは他の魔術師とは見た目も性能も違う、純白の装甲を持つ彼女だけに与えられた専用のCR-ユニット〈ペンドラゴン〉。

 

 彼女こそが『最強』の魔術師、エレン・M・メイザース。

 

「それにしても………やってくれますね、《バエル》」

 

 エレンは眼下に広がる光景にそう呟いた。

 

 そこら中に散らばった魔術師の遺体。遺体。遺体。装備していたCR-ユニットは高所からの落下のせいか全壊していて、原形を留めている遺体も数少ない。それら全てに綺麗な切断面がある。

 

 つまりは、全滅。

 

 仮にも対精霊と銘打つ魔術師の一部隊が、私が着くまでの足止めさえ出来ずに皆殺しにされたのだ。

 

 この場合は転がる魔術師たちの実力が低いのか、それとも私がここに着くまでにそれを為した《バエル》が強いのか。

 

「アイクですか?エレンです」

 

 やがてエレンは自身の上司に通話を繋げた。

 

「えぇ、私が到着した時には既に消失(ロスト)していました………分かっています。《バエル》の相手が出来るのは、この私だけ」

 

 視線の先にかつて斬り合った相手を思い浮かべ彼女は言った。

 

「《バエル》はいずれ、私が必ず殺します」

 





オリ精霊
識別名…バエル
空間震規模…???
霊装…???
天使…???
STR(力)…???
CON(耐久)…???
SPI(霊力)…???
AGI(敏捷)…???
INT(知力)…???
統合危険度…S

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