刀鍛冶の刃   作:たぬえもん

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急にお気に入り数と評価増えたから何だ何だと思ったら、日刊ランキングに乗ってたみたいですね。
こんな素人感丸出しの小説でございますが、皆様が少しでも楽しんで頂けているのであれば作者冥利につきます。
これからも頑張っていきますので、どうか応援よろしくお願い致します。

とりあえず20話になるぐらいまでにはじっちゃまを引きたい(決意








第3話

 うたと村正の家に泊まった翌日の朝。私はユサユサと身体を揺さぶられる振動で目を覚ます。

 

「あ、起きた?」

 

「っ!?」

 

 目を開けた途端、視界いっぱいにうたの顔が映ったことで、驚きのあまり眠気でボンヤリとしていた私の意識が一瞬で覚醒へと至った。

 

「おはよう、ぐっすり眠れた?」

 

「う、うん」

 

「ほんと? ならよかった」

 

 そう言ってニッコリと微笑むうたは、私の身体の上へと跨っていた。

 

 私が寝ている隙に乗っかったのだろう。朝起きたら女の子が自分の身体の上に跨っているなんて経験をこれまで生きてきた中で一度もしたことがなく、初めてのことに対して心臓がバクバクと鼓動しているのを私はどこか他人事のように感じていた。

 

 心臓が破裂してしまうのではないかと錯覚してしまうぐらいに身体の異常が起きているというのに、この時ばかりは私の意識は自分の身体ではなく全てうたへと向けられていた。

 

 何故なら、うたの見せた微笑みは亡くなられた母上を幻視させる程に似通っていたのだ。

 

「母上……」

 

「え?」

 

 つい小さく口に出してしまった私の言葉をうたは聞き取れなかったのだろう。

 

 不思議そうな顔をしてキョトンと首を傾げる姿に母上の姿はもはや見られなかった。

 

「どうしたの縁壱? 体調でも悪いの?」

 

「……いや、なんでもないよ」

 

 心配そうにこちらを見つめてくるうたに、私は首を振る。

 

 姿形は似てないというのに、何故私はうたを見ていると母上のことを思い出してしまうのかそれが不思議で仕方がなかった。

 

 うたと母上は全くの別人だというのに。

 

「とりあえず朝餉の支度をするから縁壱も起きて手伝ってね」

 

「分かった」

 

 きっとまだ寝ぼけていたから見間違えたのだろう。そう思い込むことにした私の上からうたは退いて立ち上がると部屋を閉めていた襖を開け、私も掛けられていた村正からの借り物の着物を退かして立ち上がる。

 

 外から差し込む日差しに照らされた部屋の中で寝ている間に固くなった関節を解すため身体を軽く伸ばしたりしていると、ふとこの場に村正が居ないことに気が付いた。

 

「うた、村正は?」

 

「……じい様ならお日様が昇ってからずっとお仕事してる」

 

 顔をムスッとさせながら告げられたうたの言葉に私は少しだけ驚いた。

 

 日の出と共に仕事を始めるのは農民ぐらいのものだと思っていたが……村正はそれだけ刀鍛冶の仕事が好きなのだろうか。

 

「村正はいつもそんな時間から仕事を?」

 

「うん、じい様ってば起きてから寝るまでず────っとお仕事してるもんだから、たまに手伝ってくれるけど家事とか洗濯はほとんど全部うたがやってるの」

 

 昨日ほどではないとはいえ明らかに不機嫌そうにしているうたの様子から、私は彼女が考えていることを何となく察することが出来た。

 

 恐らくだが、仕事ばかりで村正が構ってくれないことがうたには寂しいのだ。

 

 うたと私は同じ年頃の子供だ。私は生まれからして忌み嫌われた存在であったが為に誰かに甘えるということが出来なかったが、普通の子供であるうたはまだまだ誰かに甘えていたいのだろう。

 

 うたにとってはそれが村正であり、しかし肝心の村正が仕事に付きっきりだから構ってもらえず、甘えようにも甘えられない……といったところか。

 

 あくまで所詮これは私の憶測でしかなかったが、しかし昨日の田んぼでの行動や村正と話していた頃の様子を鑑みれば少しぐらいは当たっているのを確信できた。

 

「……そうなのか」

 

 ……まぁ、だからといってどうすればいいかなんて当時の私にはこれっぽっちも分かるはずも無く、ただ頷くことしか出来なかった。

 

「まぁもう慣れたけどね。それに今日からは縁壱も居るし、一緒に頑張ろうね!」

 

「うん……それで、何を手伝えばいい?」

 

「ん〜……そうだなぁ……」

 

 一緒に頑張ろうと言っておきながら何を手伝わせるのか特に考えてなかったのか、うたは腕を組んで頭を悩ませる。

 

 私としては出来る限りのことは何でも手伝うつもりであり、うたから言い渡される手伝いの内容を黙って待ち続けていると不意にカン、カン、カンという音が家の外から聞こえてきた。

 

「……この音は?」

 

「へ? あぁ、この音はじい様がお仕事をしてる時に出る音だよ」

 

 これまで生きてきた中で聞いたことの無い音に疑問を抱きうたへと聞いてみれば、そのような答えが返ってきた。

 

 刀鍛冶が刀を作る時に熱した鉄を叩くというのは聞いたことがあるが、恐らく村正は今その作業の最中なのだろう。

 

 曲がりなりにも武家の元に生まれたからこそ多少なりとも刀のことは知っているが、しかしながら私が知っているのはほんの少し程度でしかない。

 

 刀がどうやって、どのような方法で作られているのか詳しくは全然知らないからこそ、私は少しばかり村正の仕事に興味を引かれた。

 

 出来ることなら1度見てみたいものだが、今の私はうた達の世話になっている身。おいそれと勝手に見に行ってはならんだろう。

 

 朝餉が終わったら村正に許可を取ってみようと内心で思っていると、いつの間にかうたが私の顔をジーッと見つめていることに気が付いた。

 

「……もしかしてじい様のお仕事を見てみたいって思ってたりする?」

 

「っ!?」

 

 思っていたことを言い当てられ、驚いた私は思わず目を見開いた。

 

「やっぱり! 縁壱ってば起きてからずっとボーッとした表情してるのに、音が聞こえてからはなんかソワソワした感じがしてたから、もしやと思ってみたらやっぱり当たってた!」

 

 私の考えていたことを当てたのがよっぽど嬉しいのか、うたはやったやったとはしゃぎ始めた。

 

 自分の顔など数える程度でしか見たことが無いが、周りから見た私の表情というのはいつ見ても同じだから何を考えているのかよっぽど分からないとよく言われてきた。

 

 私に優しくしてくれた兄上や母上でさえも私の考えていることまでは分からなかったというのに、どうしてうたは分かったのだろうか。

 

「凄いな、うたは」

 

「いや〜、そんなことないよ〜」

 

 誰からも私の内心を言い当てられたことが無かったがため、私の内心を見事に言い当てたうたを素直に褒めれば、うたは照れ臭そうにしながらはにかんだ笑みを見せた。

 

 しかしそれも直ぐに一変し、うたは何かを思い付いたのかハッとした表情をした後、ニヤニヤと見るからに悪巧みでも考えているかのようなあくどい笑みを浮かべた。

 

「ねぇねぇ縁壱、朝餉の支度をする前にじい様のお仕事してるところチラッと覗き見してみない?」

 

「は?」

 

 うたから告げられた提案に、私は瞠目した。

 

 その提案は刀鍛冶の仕事に興味を引かれていた私にとってありがたいものであったが、しかし勝手に見に行っては村正の仕事の邪魔になってしまうかもしれないという気持ちが私を押し留めた。

 

 なにより、それで村正を怒らせてしまっては折角泊めてもらった恩に背いてしまう気がしたからこそ、私はうたの提案を断ろうとして……

 

「じい様ってば実はお仕事してる間は集中しちゃって何してもほとんど反応しないの。さすがに刀を打ってる時とかに近付いて邪魔したりしたら怒られちゃうけど、遠くから見てる分には全然気付かれないから大丈夫だよ!」

 

「いや、でも……」

 

 断ろうと……

 

「それにね、じい様が刀を打ってる時の姿は凄いんだよ! 見てるだけでこう、息がキュッとして、胸がドキドキして、身体の底から何かがグワーッとせり上がってくる感じがするの!! ね、凄いでしょ!?」

 

「えっと……?」

 

 断わ……

 

「あぁもう! とにかく縁壱も見て見ればきっと分かるから、ほら早く見に行こ!!」

 

「う、うん」

 

 ……急に気分が急上昇したうたに言いくるめられてしまった。

 

 今でも時折感じることではあるが、どうやら私は人の意見に流されやすい人間であることをこの時初めて自覚したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家から少し離れた所にあるこぢんまりとした小屋。そこが村正の仕事場ということで、私はうたに連れられてその小屋の前へとやって来た。

 

 確かに先程から聞こえていたカン、カン、カンという音はこの小屋の中から聞こえており、村正と思われる人の気配も小屋の中から感じることが出来た。

 

「いい? あんまり大きな音は立てように気を付けてね。前に大声でじい様に話しかけたら『うるせぇ! 仕事してる最中にぎゃあぎゃあと騒ぐんじゃねぇ!!』って怒られたことあるから」

 

 うたからの忠告を聞き入れ、私は言葉を発せずに無言で頷く。

 

「よし、じゃあ開けるね……」

 

 大きな音を立てないように気をつけるためか、うたはゆっくりと慎重に小屋の扉を開けていく。

 

 徐々に扉は開いていき、やがて僅かな隙間が出来上がると、うたは私を手招きしてその僅かな隙間から覗くようにと手で指示を出し、それに従って私は扉に近付いた。

 

 果たしていったいどのような光景が広がっているのか。恐る恐る隙間へと目を近付けていき、小屋の中を覗いた刹那───甲高い音と共に赤い星が宙を舞った。

 

 カン、カン、カンと音が鳴る度に赤い星々がいくつも舞い上がる。

 

 四方へと飛び散っては直ぐに消えてなくなるそれがただの火花でしかないことは知識で知っていたが、しかしいざ実物を目にすればそれはまるで幻想的な光景であるかのように見えた。

 

 しかし、私が目を惹かれたのは火花だけではない。それ以上に目を惹かれたのはその光景を作り出している者───村正の姿だった。

 

 赤く熱せられた鉄の塊を目に捉えて離さず、左手の道具で鉄を固定し、右手の小槌で何度も鉄を叩く。

 

 表情は真剣そのものであり、ともすれば昨日のように真剣味を帯びているせいか見てるだけで息が詰まるような気迫を感じられる。

 

 だが、一点だけ昨日と違うものがあった。村正の目だ。

 

 鷹のように鋭い眼差しは変わりなく、されどその瞳の奥には業火の如く燃え広がる熱意の炎を秘めていた。

 

 見ているだけでこちらが焼き殺されてしまうと錯覚してしまう程の熱量を伴った気迫を渾身の力で鉄へと叩き付ける村正のその姿を目にし、私は昨日言われた村正からの言葉を思い出した。

 

『刀鍛冶にとって打った刀っていうのは自分の子供みてぇなモンだ。失敗作であったとしてもテメェの魂込めて打った作品を勝手にベタベタと触られるのは我慢ならねぇ』と、そう語っていた村正の言葉の意味を私はこの時心の底から理解した。

 

 村正にとって刀鍛冶というのはただの仕事に非ず。村正にとって刀を作るということは、己の魂を吹き込むこと。即ち、命の創造に他ならない(・・・・・・・・・・)

 

 刀というただの道具ではない。刀という名の1つの命を作り上げるが為に、村正は己の持てる全てを以て今この瞬間に魂を込め続けているのだ。

 

 その証拠に、ただの熱せられた鉄の塊でしかなかった物が村正の手によって見る見る姿を変えていく。

 

 鋭く、細く、硬く、強く、1分1秒前よりもさらに洗練された姿(かたな)へと。

 

 もっと、もっと、もっと───刀がそう叫び、村正が応えるようにして小槌を振り下ろす。

 

 そして最後に炉より取り出された時、そこにあったのはもはや熱せられた鉄の塊などではなく、鼓動を携え嘶きを上げる1本の(かたな)が生み出されていた。

 

「凄い───」

 

 これが刀鍛冶。知っているだけではそんなものただの知識でしかなく、実際に目にしたことで初めて私は感動を覚えた。

 

 私の言葉ではこの光景を語り尽くすことなど出来ない。もはや凄いとしか形容するしかなく、それ以外の言葉を思い付きすらしなかった。

 

「ねっ、うちのじい様凄いでしょ?」

 

 私の肩を叩き、小声で話しかけてきたうたはまるで大事な宝物を自慢したいと言わんばかりの表情をしていた。

 

「凄かった……!」

 

「でしょー!? 縁壱も私の言ってたことこれで分かったよね!?」

 

 確かにうたの言う通りだった。見てて村正の気迫に当てられて息がキュッとしたし、ただの鉄の塊がどんどん刀の形へと変わっていくのはドキドキとしたし、打ち終わった後の生み出された刀の姿は心から感動が湧き上がってきて身体中を巡り回ったような気分だった。

 

 これだけ興奮を覚えたのは生まれて初めてやもしれない。そう思える程に村正の打った刀は素人目でも素晴らしかった。

 

「うん、よく分かった」

 

「ならよかった〜。これで何も思わないって言われたらどうしようかと思って少し不安だったんだよね」

 

「それは無い」

 

 うたの言葉に私は即答で断言した。あの素晴らしい光景を見て、そんなことを思える人間は果たしてどれだけ居ることだろうか。

 

「村正の刀鍛冶はとても凄かった。何も思わないはずが無い」

 

「そいつァありがてぇ。お褒めに預かり恐悦至極ってな」

 

 自分らしくもなくうたに向かって思わず力説していると、不意に直ぐ傍から声が聞こえてきた。

 

「けどな、テメェらこんな所で油を売ってないで、何か他にやるべきことがあるンじゃあねぇか?」

 

 私とうたの声ではない。その声が聞こえてくるのは扉の向こう側。ならば、当てはまる声の持ち主は1人しか居ない。

 

「なぁうた、それに縁壱……(オレ)の言いたいこと分かるよな?」

 

 ギギギと音を立てて開いていく小屋の扉。私とうたが恐る恐るそちらの方へと目を向ければ、そこにはニッコリとした笑顔を浮かべているのに目がちっとも笑っていない村正が立っていて───

 

「人の仕事を覗き見してねぇで、さっさと自分の仕事をしろ!!」

 

 静寂の山の中で、村正の怒声が何処までも木霊した。

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