幻想濫觴   作:えのころぐさ

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宇佐美蓮子は聞きはしない

私は時として自身が無知蒙昧だと自覚させられることがある。例えば目の前にいる人物にいいように連れまわされるのもその一つ。仕草と口調からして京都の出ではないのは明白だが彼女を形成している性質というべき性格は破天荒に近しいものが垣間見える。今はただ抑止しているような気がする。

「まずいコーヒーを飲みながらで悪いけど、サークルの話をさせてもらっていい?」

 店の中でどうしてここまでズバッとさも当たり前のようにいえるのだろうか。引っ込み思案の私にはどうしても理解しがたい。目を気にしないのだろうか、自分がどう評価されるのか、世間体を私は気にしすぎだ。だから、この目の前にいる子に惹かれるだろう。自分を構成している物以外の物でできていそうなこの子に。

 私は蓮子の許可を肯きで返した。

「うん。では、サークルを作るのには最低三人いるらしいけどこれは私に考えがあるからクリア。次に我がサークルは行き当たりばったりのサークルの予定。たぶん、都市伝説とかを目当てに都心から地方にかけてお金の続く限り旅するかんじになると私は予想するわ」

 自由奔放なオカルトサークル、どこにでもありそうだ。とは言え他のサークルに魅力のみの字も感じてはいない。どうなろうと入ろうとする意識があったのかもしれない。出会っただけで運命などと信じることはしないが私の心底に潜む惰弱な部分が決定させる。

 蓮子の話は失礼だが聞いていない。ついでにコーヒーのまずさも忘れておきたい。私の自我が頭の中でニューロンを介して「作らない」「信用しない」等々の蓮子に対するマイナスイメージを荒らしてしまう。まるで遠隔操作されているパソコン。マンがで出てくる天才少女にハッキングでもされた証券会社の株。

「今の話を聞いて私のサークルに入る? 入らない? えっと、名前を聞いてなかった。これはごめん、ごめん。名前はなんてーの?」

 ずずっと飲んだまずいコーヒーが私を正気に戻すと本題が目の前に現れた。私は入りたいですと小心な私なりの口籠った返事をした。返事に続いて名前と専攻も紹介する。

 名前より入ることを先に決めてしまったのは浸食された脳のせい。

「私はマエリベリ・ハーン。相対性精神学専攻です」

 パッと蓮子の顔が明るくなった。思惑通りに駒が動いた悪代官のような顔だがたぶん顔通りに悪代官と同じことを思っている。気がする。

 悪さをしているはしていないが、悪だくみはしていそうだ。

「マエ、マリエ、マ……、面倒だからあなたは今日からメリーね。よろしくメリー」

「ぶっ、げほっ、げほっ」

「だ、大丈夫?」

 まずいコーヒーが気管部分に危うく侵入しかけた。まさか、人の親からもらった大切な肩書を変えられるとは思っていなかったからだ。メの字は使われていないのにも関わらず差し込むように改竄してくると思ってもみなかった。

 抑えられていた破天荒が現れたのか。

 心配する蓮子に手の平を強調し大丈夫だと合図を送った。ガソリンスタンドの車の停止サインと似てはいる。

 その合図を理解してくれたのか、蓮子は二枚ほど口を拭く紙を渡してくれた。こういったところでは常識はあるらしい。  

 おかしな子だとは私がいえた義理ではないが。世間一般の世俗にまみれない、悪く言えば離れている。

「メリーと呼ばれたことがなかったので」

 淑女とふるまっている私が馬鹿に思えてきた。変な神経は使わないほうが接しやすいのかもしれない。

「そうか、そうね。そうだもんね。ま、気にしないでね。私の癖というか気に入った子には私はあだ名をつけたりするのが好きなの」

 こういったタイプなのか。イタズラにへんなあだ名の一つでもつけてやろうかと考えたがそれでは彼女と同じになってしまいそうだったのでやめた。やめる。

「蓮子さんは――」

「蓮子でいいよ。同い年だし」

 左様でございますか。

「蓮子はどうしてこんなサークルを作ろうと思ったの?」

 一番の疑問を訪ねると蓮子は眉間にしわを寄せながら目を閉じ「うぅー」と二日酔いのおじちゃんみたく重低音を発しながら考えこんだ末に一枚の写真をカバンから取り出して私に見せた。

 きれいな鳥居が写っている写真だった。どこかの森のなかにある木々が写真の端に移っており、ヘクソカズラと呼ばれるよく捨てられた民家などに張り付くように育っている。その草が絡みついているのにもかかわらず、鳥居本体の塗りは風化をしておらず真新しい深紅の鳥居が写っていた。

 不思議といえば不思議な写真だが初めてみているはずなのに私はどうしてかそこに何度か行った覚えがあったがどう行ったか、どこにそれがあるのかはあやふやで自分に本当にここに見覚えがあるのかと問いただしたいぐらいだ。

 蓮子は机に置いた写真のちょうど真ん中の鳥居を指さし。

「私はね。ここに行きたいの」

 この言葉が私たち二人の冒険と呼ぶには不思議で旅というにはあまりにも長い探し物を探す。いうなれば旅かもしれない冒険の始まりだった。

 

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