幻想濫觴   作:えのころぐさ

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夜のデンデラ野に逝く Ⅰ

 あぁ、なんと世界は素晴らしいのか。嫌になるくらい私は大学生で大学に通っている。今も廊下を歩き階段を下りている。扉の前につくとここ数日、私の足にくっついは振り払っているクモの巣を今日も振り払い、私は中に入った。我がサークルの部室である。 サークルを作るのは高校や中学で部活を作ることとは違い。サークルの手続きは簡単で財務以外は杜撰な管理だったりする。

届け出を出せば即終了。非公式で活動するなら別に届を出さなくてもいいが公式にするのは蓮子の熱き握り拳と不可解な擬音語とともに一時間二三分ほど熱弁してくれた。

 なんにせよ、部室は確保、サークルの名前は決まった。部室の場所は一般的なサークルの部室がある部室練と対面する場所に建てられている耐震ギリギリの旧部室練、一階の右奥部屋と日当たり湿気ともに最悪の間取りだ。

 私たちのサークルが占領する前までは非現実代替エネルギー研究会と呼ばれる大学でも異彩を放っていたサークルだったらしい。研究内容は『魔法』や独自に発見したのと、それらの力を『スペル』と称された非現実的エネルギーを物質に固定したことである。固定された結果がタロットカードの形をした何か。カードは埃まみれの本棚にそれがこれだと言わんばかりにレポートに何枚か挟んでありこのレポートの最後には研究を学会で発表したと書いてあるがどうやら所詮はオカルトサークルだったためか、まともに取り合ってもらえなかったらしい。

 研究結果のカードも不安定で不発が多く何十回に一度や四回に二回と人によって使用不使用もあったのが決めてだった。魔法も同じ原因であった。使用するものが限られ、現存のエネルギーの先入観が取り合ってもらえなかった一因となった。、そんな現実に打ちのめされたサークルの彼らは研究に無気力となり次第にメンバーも卒業や自殺、辞めていくメンバーが多くなり呪われたサークルと俗称がついたころにはサークルはなくなっていたらしい。

 これらの話は九年も前の話らしい。

奇妙キテレツが好きな暇な大学生は部室の呪いを広げまわっていた成果かおかげか、今年までは誰もよりつかなかった部室を蓮子は発見し我が牙城とした。度胸がある。

自分の目で見たものがすべてだと断言してもいた。九年も続いた噂も一人のおてんば娘には意味はないということだ。

 この部室は私達にとって居心地がよかったこともあるが私達を表してもいるようだった。本棚と意味不明な機材とタロットカード数枚しかないこの部屋だが三つのうち二つを譬えるなら、知識だけしか詰め込まれていない偏屈で空想に依存している本棚の私と、タロットカードという不確かで非科学的なこちらは空想ではなく妄想。機械はこのサークルの胡散臭やカルトを指しているように思えた。思えただけでこれが私の妄想からくるものなのか、はたまたそうあってほしい詩人の私からくるものなのかは判断できない。したくはない。

 ともあれ、ここ数日は目立った活動はしてない。蓮子は相変わらずの読書。さすがに読書の時はトレンドマークの白いリボンの巻かれた、黒い中折れ帽は壁に掛けてあった。いつもの彼女だ。

三つほどしかないパイプイスを二つも豪勢に使用し一つは座るためもう一つは足を置くためと女性というより中年サラリーマンのようだった。読んでいるのが経済新聞なら完ぺきなのだが生憎彼女はライトノベルやオカルト雑誌今はライトノベル。中、高学生の美男美女がほのぼの一日を暮らしたり非現実な事件に巻き込まれたりしているありとあらゆる『非現実』『非科学』なものを押し詰めた一般的な大衆向けではないジャンルだ。

 私は蓮子ほどではないにせよ一応は好きだ。鬱蒼とする毎日を乗り過ごすにはいいものだ。

 深く考えないで読めるのが一番気に入っている。トマス・ハリスの『ハンニバル』は面白いが内容が内容だけに楽しめはしない。その点、クラークのSF作品は胸が高鳴りを覚える。

SFといえば、ウェルズの『タイムマシン』もいいかもしれない。私は映画から好きになったが小説と映画を別物と考えれば面白いことこの上ないが蓮子の本は私の知らない本だ。タイトルは『ジムペティが終わらない』聞いたことはないがあそこまで熱中してよんでいるのだから面白いのだろう。今度、貸してもらおう。

 私はあまった窓際のパイプイスに座った。ここは私の指定席でもある日当たりは悪いが日の斜光は好きではない。本が痛む。熱い。日焼けの三つがなければ私は好きなのだがもやしの気持ちがわかってならない。もやしは本を読まないだろうけどなんとなく。

 二冊の本が交互に捲られる音で部室がいっぱいになりそうな頃。私はしびれを切らして本を閉じ、蓮子がいるほうに体を向けた。

 「ねぇ、今日はどんな活動をするの? バイトが休みだからすることないの」

 現実に目を背けていたがここで直視しよう。実はというか、予想はしていたことだがサークルとして活動は今まで一切していない。旅行や調査を目的としているのだからしかたないと言えばしかたないなのだが目標も大雑把で神社を探したいと写真を見せられても奇怪な現代技術の結晶であるパーソナルコンピューターで検索をかければ日本全国ご当地の神社旅なんてことをしなくてもでてくるだろうと踏んで検索するも該当件数は零。検索に引っかかるのは関係のない神社ばかりだった。夢がないことだがそれ以上に旅費がない。リアルはプロトサイエンスよりも想像を許さず、生八つ橋や黒みつより甘くはない。

 蓮子は本にしおりを挟み、垂れたしゃれこうべを上げ天井を見上げ数秒「あ~」と白痴の表情。今度は「いぃ~」とみていてとても不安になる行動を起こした。

 かと思うと、「ハッ!」と頭上に白熱電球がつく。いや、ここまで来るのに時間がかかったので彼女の物は水銀灯だ。後で新しい発光ダイオードに替えておかないと。

「そうだ。来週の月曜って確か教授が発表かなにかで休校日よね。土、日も使って案外近いところにある『ジィッジジジ――い――せ。ジギッ、ギギ――』に行かない? いや、行こう。そうしよう。そう決まった!」

 (最初は伊勢じゃなくてこの場所だった。蓮子はそいう肝試しが好きだったの)

 突如として、ノイズが視覚と聴覚に走った。静電気が発生したときにノイズは似ているが指向性と音声が混在した。意図して場所が隠された違和感。最後に聞こえた淑やかで妖艶な甘い声。場所だけを隠したいのか、タイミングがよくどこに行くかわからなかった。チャンネルの合わない砂嵐の画面と面としていたようなレトロな光景にも見えたが異常なことに不変はない。

 しかしながら私はなにもありはしなかったように蓮子に冷やかな視線を送っていた。聞きとれたわけでもないのだが口が動く。考えが浮かんでくる。あぁ、どうでもよかったことなのか。

――サークルの活動が決まるのはいいが旅費はどうするのかと。二泊三日だといくらお金がかかるのか。

「宿はどうするの?」

「メリーは心配性ね。大丈夫よ」

 この言葉が一番信じられないと分かってきた。数週間の成果かもしれない。彼女の大丈夫は私の大丈夫じゃないと相対関係。対義語。

「それでそのデンデラ野ってどこなの? 聞いたことがいない場所なのだけど」

「別名、蓮台野でもとは墓場だったとかなんとか。面白そうじゃない? こう、ぶわっと海岸に来た時の潮の匂いみたいな、濃厚な不穏のにおいがしない?」

 「しないわよ」とは言わないし言ったと仮定を立てるとしても目の前にいる蓮子には聞こえない。

そのにおいは匂いなのか臭いのどちらなのか蓮子本人だけが知ることだ。

肩をすくませて私は蓮子の説得を放棄した。

サークルで活動できることはいいことだしこれを機会により仲を深めるのだと天使の私が耳元で囁いたからなのだけど、私はこの天使をのちに堕天していたことをしるのは上機嫌に電車に乗ろうとする蓮子が何もないところで躓き転ぶまでは。

「でも、まず堪能するためにはその日が来るまで蓮台野を調べないとね。メリー。図書館行くわよ。図書館」

 

「貴方なら電子の世界で調べそうだったけど以外よ」

 実際私より、蓮子のほうがパソコンの扱いになれている。ただ変な声だけはあげないでほしい。

「メディアリテラシーってやつよ。ネットは海や砂漠のように情報はあるけど、どれが本物なんてわからないじゃない。砂漠でも水があるように海にだって砂や土はあるのはわかるけどそれを探すのは難しいし真偽なんて尚更判別なんてできやしない。なら初めから信用できないけど情報はすくない本で学ぶのが得策よね」

 蓮子の意外な持論に強く共感できた。無秩序の電子空間より秩序ある空間のほうが真実には近い気もする。

 本はいい。どれほど時間が経過しようがデータの零と一になり下がってもいいものだ。さわり心地、捲られる音。匂い、歴史すべてがいい。

「あぁ、そうだ。メリーって料理できるの?」

「一人暮らしで自炊してるし人並みにはね。いきなりどうしたの?」

「うむ、左様か。当日念のため寝袋や食料を用意しておくよーに」

 ここからこの初活動に不安を感じなかったのは単に私の思考回路がどこかで切断されていたからだ。

 きっと蓮子のせいだ。そうだ――いや、私の思考視野が狭いだけか。蓮子と出会ってから私の世界は変わってしまった。追加と変更の毎日。私は好きだ。

 

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