悪ノ華 2021年版   作:ギュスターヴ

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プロローグ
喪服の悪魔・前編


 山岳地帯そびえ立つ、評議院・フィオーレ支部に一人の男が訪問した。

 手に銀色のアタッシュケースを持ち、180cmの長身の身に纏っているのは喪服のような漆黒のスーツ。

 腰まで長く伸ばした髪は、暗闇をそのまま糸状に細工したかのような異様さが垣間見えた。そして、その黒髪の下にある顔は端麗をきわめた。

 肌は雪のように白く、目は切れ長、顎のラインがシャープで鼻が高い──とても人とは思えないほど(・・・・・・・・・)の作り物めいた〝美〟が凝縮されてはいたが、唯一欠点があるとすれば瞳に生気が感じられない所であった。しかも、瞳の色は濁った灰色で、まるで底無し沼のようなどこか危ういもの(・・・・・)を秘めていた。

 

「やあ、待っていたよジル」

 

 そんな妖しい美貌を持つ青年を出迎えたのは、これもまた端正な顔立ちの男であった。青い髪と、顔の右半分に刻まれた不可思議なタトゥーが印象的だ。

 名はジークレイン。評議員の一人にして、大陸で特に優れた十名の魔導士のみ与えられる聖十大魔道(せいてんだいまどう)の称号を持つ若き天才児だ。

 

「遅れて申し訳ございません。前の仕事が長引きまして…」

 

 男の名は何故か女性名だった。喪服の青年──ジル・ギルティは上品な笑みを(たた)えて謝罪すると、ジークレインは気にしてないと言わんばかりに軽薄な笑みを浮かべた。

 

「いや、忙しそうで何よりだ。さぁ、遠慮せずに入ってくれ」

 

 ジークレインは先導し始める。その背を追おうとしたジルであったが、その前に門番に止められた。

 

「失礼。中にいる間はこれをつけてください」

 

 門番は無骨な腕輪を渡した。ただの腕輪ではない。魔封石と呼ばれるもので出来ており、文字通り魔導士の魔力を封じる能力を持っている。

 

「ああ、そんなもの必要ないよ」

 

 ジークレインは首だけ振り返った。

 

「俺は思念体(・・・)。身体はERA(エラ)にある。…まぁ、仮にジルがここで暴れたところでメリットなんか一つもない──合理的に考えてな(・・・・・・・・)

 

 そう言うと、喪服の男が自嘲の笑みを浮かべながら補足した。

 

「それに、私のような脆弱な者など兵隊五人…いや、三人程度でも簡単に捕らえることができますよ」

「ヌかせ、〝喪服の悪魔(メフィスト)〟。ま、あながち間違いではない(・・・・・・・)がな」

 

 二人の美青年のやり取りを見ながら門番ははぁ…と曖昧に相槌を打った。だが、何かあったのでは責任問題を問われかねないため、何の措置もなしに通すわけにはいかない。

 

「…では、せめて腰にある魔導書(・・・)だけでも預からせてもらいます」

 

 門番が目を向けたのは、ジルの腰のホルスターに収められている漆黒の本だった。表紙に逆五芒星の紋章が銀色の線で描かれており、闇よりも暗い色をしている。

 

「ああ、それこそやめといた方がよろしいかと」

 

 ジルは微笑んで忠告した。瞳は相変わらず生気を宿していなかったが、有無を言わさぬ強い圧が込められていた。

 

「これはとても寂しがり屋(・・・・・)なんです。触れた程度では無害ですが、持ち主である私から引き離そうとすると──私でも何が起こるかわからない(・・・・・・・・・・・)

「ジルの言うことは本当だ」

 

 今度はジークレインがジルの言葉を補足した。

 

「前にそれで無理に取り上げた奴が手を潰した(・・・・・)。ジル曰く、まだ運が良い方(・・・・・・・)だそうだ。身体の一部を持っていかれたくなければ、無闇に触れないことだ」

 

 眉目秀麗の男たちの冷笑を向けられた門番は絶句することしかできなかった。

 

 

「お砂糖とミルクは?」

「ああ、結構です。このままで」

 

 一室に通されたジルは、美女から差し出されたコーヒーを笑顔で受け取った。それを見ながらジークレインはにやりと笑った。

 

「この部屋には俺とウルティア以外、誰もいないんだ。その営業スマイルやめてくれ、気持ち悪いぞ。それにいい加減、煙草吸いたいだろう?」

「では、失礼して」

 

 ジークレインに促され、喪服の男はすっと笑顔を崩した。仮面のような無感情な表情──これが彼の素の顔だ。

 虚ろ顔の青年は懐に手を伸ばし、マッチと銀色のシガレットケースを取り出した。通常の煙草よりも長くて細いそれを口にくわえると、マッチで火をつけた。ライターではなく、マッチを使うのは彼なりのこだわりだろう。

 喪服をきっちりと着こなした麗人が紫煙を深く吐き出すと、今度は手帳とペンを取り出した。ページをめくり、紙面に今日の日付と場所を書き込んだ。

 それを見て、ジークレインはぷっと吹き出した。

 

「相変わらず恋人(・・)の尻に敷かれているようだな。悪名が廃るぞ、〝喪服の悪魔(メフィスト)〟」

「廃れて結構。名高い悪名で警戒されるよりずっと良い」

 

 漆黒のスーツを綺麗に着込んでいる姿からは想像しにくいが、ジルは元々一日に煙草一箱も消費するほどのヘビースモーカーだった。

 だが、彼の恋人が愛する男の健康を気遣い、勝手に喫煙管理を始め、勝手にルールを作った。

 煙草は一日三本。遠出して、しばらく帰れない場合は数週間分の煙草を渡すが、喫煙する際、手帳に場所と日付を記載すること。手持ちの煙草が切れたら店などで購入しても良いが、領収書を必ず保管し、帰ってきたときに手帳と一緒に提出すること。以上の三つである。

 

「隠れて吸ってもバレないのではなくて?」

 

 黒髪の美しい女性魔導士──ウルティアがもっともな意見を言うが、ジルはコーヒーを啜って苦笑した。

 

「それが何故かバレてしまうのだよ。彼女曰く、私の顔を見た瞬間にわかるそうだ」

女の勘(・・・)、という奴か。魔法よりよっぽど恐ろしいな」

「あら、男が魔法のように(にぶ)いだけよ」

 

 ジークレインの皮肉を、そっくりそのまま皮肉で返すウルティア。くつくつと一頻(ひとしき)り笑った後、青髪の美青年は本題に入る。

 

「ジル。お前に頼みたい仕事というのはな、この男を尋問してほしい」

 

 渡されたのは一枚の書類と、中年男性が写った写真であった。

 

「名前はアラン・デグスビー、黒魔術教団の信者だ。ここのところ、拉致事件が頻発していることは知っているだろう? 三日前、町娘を攫おうとしたこの男を捕らえた。教団の信者であることと、攫った人間を儀式の生贄することだけは嬉々として喋ったが、拠点場所や仲間のことについては頑なに喋らなかった。ジジイ共の反対を押し切って、手荒な手段(・・・・・)を使ってもみたんだが、それでもダメだった」

「そうだろうな」

 

 喪服の男はくわえた煙草を上下に揺らした。

 

「この手のタイプに拷問は通じない。むしろ信仰の試練と思って、歓喜させるだけだ」

「…ジル、お前の魔法で記憶を引きずり出せないか?」

 

 問われると、ジルは何故かカレンダーを眺めた。

 

「ああ…この月はダメ(・・・・・・)だな」

 

 淡々と返され、ジークレインは呆れたようにため息をついた。

 

「…お前の魔法は便利なんだか、不便なんだかわからんな。666種類もあるんだろう?」

「私は全知全能の神ではない。高尚なものから下らないものまで、数が無駄に多いだけだ。それに発動条件が厳しい魔法(もの)もごまんとある」

「だが、手段の一つや二つ潰されたくらいで、あっさり身を引くお前ではあるまい?」

 

 ジークレインが挑発するような物言いをしたときには、喪服の男はデグスビーに関する書類を眺めていた。

 

「二日ほど時間が欲しい」

「わかった。では、二日後にまた来てくれ。これが前金代わりだ」

 

 ジークレインは新たに三枚の書類をジルに渡した。解呪の魔法を扱う魔導士について事細かに記載されている。

 

「見つけたのは三人。時間があるときにでも訪ねてみるといい」

「ありがとう、感謝する」

「…本当にその魔導書を解呪するつもりか?」

 

 青髪の美青年は、ジルの腰にぶら下がっている漆黒の本に顎をしゃくった。

 

「なんだかんだ、それ(・・)から手放すのはもったいない気がするがな。あの大賢者の遺産(・・・・・・)なのだろう?」

「…そんなに言うなら、今すぐに差し上げたいところだよ」

 

 ジルは無表情のまま、まだ吸い切っていない煙草を灰皿に押しつけた。

 

「では、また後日」

 

 腰まである黒髪をたなびかせ、喪服の麗人は部屋から出ていった。

 静かに閉まったドアを、ウルティアはしばらくじっと見つめた。

 

「…ジルにあまり変な気を起こさない方が良いぞ、ウルティア。悪魔に祟られたくなければな」

 

 吸殻を片付けながらジークレインは忠告した。

 

「恐らく奴はこちらの事情(・・)をすでに調べあげている。これは男の勘(・・・)、というやつだがな」

「…なら、解せないわね。仮にそうだとして、何でさっさと告発しない?」

「相手の弱みを掴んでおいて損はないだろ? 何より俺たちに利用価値がある──単純な理由だよ。奴の所属しているギルドはただでさえ、ジジイ共に嫌われているんだ。俺たちみたいに評議院内部で擁護してくれる人間は多いに越したことはない」

「…ああ、確か妖精の尻尾(フェアリーテイル)、だったわね」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)とは良い意味でも悪い意味(・・・・)でも噂に名高い魔導士ギルドだ。

 ギルドの規模や、魔導士一人一人の能力は折り紙付き。だが、素行の悪さが玉に瑕だった。

 建物の倒壊は当たり前。ある者は全裸で街中を徘徊。ある者は依頼者へ暴行。またある者は経費と偽って浴びるように酒を飲んだりと、とにかく枚挙に暇がない。

 それ故、評議員の大半が妖精の尻尾(フェアリーテイル)を悩みの種としている。

 

 では、ジル・ギルティもまた素行が悪いかと言われれば、そうではない。少なくとも表面上(・・・)は。

 彼の悪名や悪事は極一部──裏社会の人間たちにだけ有名である。

 ジルは表の顔(天使)裏の顔(悪魔)を使い分けている。

 彼のことをよく知らない人間は、いつも笑顔を絶やさない、顔が綺麗な紳士としか思っていない。

 

「まぁ安心しろ、こちらが下手なことしない限り奴は何もしない」

 

 ジークレインはジルとはそこまで長い付き合いではないし、深く関わっているわけではない。だが、人となりをある程度理解している。

 

「奴は良くも悪くも、周囲の物事に対して一切興味がないんだ。善意もなければ、悪意もない。俺たちが何しようが、評議院がどうなろうが知ったことではないんだろう」

 

 善悪のない人間など、存在するのだろうか? いたとしても、それは人間ではない何か(・・)だ。

 ウルティアはいまいち納得がいかない。

 

「…でも、彼の持っているあの魔導書──あれ、ゼレフ書(・・・・)でしょ? あなたの理想(ゆめ)のために大いに利用できると思うけど」

 

 ゼレフ書とは、魔法界最悪の黒魔導士──ゼレフが作った悪魔の本だ。

 魔導書から溢れ出す禍々しい魔力で判断したのだが、ジークレインは首を大きく振った。

 

「あれはゼレフ書じゃない。ゼレフ書の模造品(イミテーション)だそうだ。まぁ、俺からすれば…」

 

 ジークレインは一旦言葉を切った。その貴公子的な顔立ちに、いつもの冷笑を浮かべてはいなかった。

 

「ゼレフ書なんかよりも、ずっとタチの悪いものだと思うがな。その持ち主も含めて、な」

 

 

 アラン・デグスビーが黒魔術に傾倒したのは、三年前に妻を亡くしてからだ。

 13歳になる一人娘はいたが、愛妻家であった彼にとって、妻が何よりの全てであった。

 働く気力を失い、酒に溺れ、最終的に黒魔術にのめり込んだ。

 彼が入った教団の司祭は厳かにこう言った「黒魔導士ゼレフならば、必ず妻を蘇らせることができる」と。

 ゼレフは最凶最悪などと言い伝えられてはいるが、崇拝する者には愛と祝福を与えてくれる慈悲深い救世主だと言われた。

 ゼレフ復活の手助けをすれば、その暁に死んだ妻を蘇らせてくれるという司祭の言葉を信じ、デグスビーは必死になって教団の活動に励んだ。

 歴史を学び、修行もした。生贄のために拉致した人数は一人や二人ではない。

 家に帰る余裕すらなくなり、娘を一方的に養護施設に預け、黒魔術の研鑽を積んだ。

 娘には本当に酷いことをしたとデグスビーは罪悪感に胸を痛めたが、妻が蘇れば全てが元通りになると信じた。

 またもう一度、あの頃の幸せな家庭に───

 

「アラン・デグスビーさんですね?」

 

 拘置所の一室に奇妙な格好の男が入ってきた。黒衣を纏い、鳥骨をモチーフにした仮面をつけている。見るからに怪しい身なりだ。

 デグスビーは何も答えずに黙って睨みつけていると、仮面の男は全く気にすることなく話を続けた。

 

「私は評議院より、あなたの尋問を仰せつかった者です。二、三お聞きしたいことがあるのですが──」

「黙れ、異教徒がッ!! またこの前みたいに俺を拷問する気だろう!?」

 

 デグスビーは唾を吐きながら怒鳴り散らした。手足を椅子に拘束されていなければ、殴り倒しているところだ。

 

「我々は信徒から金を貪るようなエセ教団ではない!! 心から黒魔導士ゼレフを信仰する崇高なる団体だ! お前たちのような、ゼレフに大悪人の濡れ衣を着せるような恥知らずの異教徒に喋ることなど何もない!! 痛めつけたければ、痛めつけるがいい!! ゼレフの裁きを恐れぬならばなッ!!」

「そうですか」

 

 仮面の男は適当に相槌を打つと、ドアを開けた。すると、部屋に入ってきた少女の姿を見て、デグスビーは大きく目を見開いた。

 

「マ、マーサ…!?」

 

 父親譲りの鮮やかな金髪と、母親譲りの童顔の少女は間違いなく自分の娘であった。

 

「お、お父さん、これどういうことなの…?」

 

 デグスビーの実の娘──マーサはひどく困惑している様子だった。デグスビーの前に置かれている椅子に座らされた彼女は父親と同様に手足を枷で拘束された。

 

「貴様! 私の娘をどうする気だ!? 娘は関係ないだろう!?」

「あなたがお話ししてくだされば、すぐにでも施設に帰しますよ」

 

 仮面の男の言葉は、温度が一切感じられないほど無機質なものだった。そして、男の手が優しい手付きで娘の小指を握り込むと、あらぬ方向へ捻じ曲げた。

 

「ぃあぁああぁああぁああああぁあああぁッ!!!!」

 

 密室で少女の絶叫が木霊した。骨折させられた小指がぷらぷらと力なくぶら下がる。

 

「こ、この人でなしがッ!!!!」

 

 デグスビーは目を血走らせて怒号をあげた。

 

「これが評議院のやり方かッ!? 悪魔め!! 黒魔導士ゼレフが必ずお前に裁きの鉄槌が下るぞ!!?」

 

 仮面の男の返答は、薬指を骨折する形で答えた。罪無き少女の悲鳴が再度響き渡る。

 

「き、きき、貴様、絶対に許さぬぞ!!!」

「おや。あなたの言う裁きとやらはいつ下るのですかね?」

 

 仮面の男はわざとらしく腕を広げた。

 

「あなたは黒魔導士ゼレフを熱心に信仰していて、罪のないご息女をこうして痛めつけているのに、私に何も起きない。ゼレフは随分のんびり屋さんのようだ。評議院の裁判手続きと良い勝負ですよ。私に鉄槌が下るときには、指──全部折れちゃいますよ? いや、その前にショック死してしまうかも」

「お、お願い…お父さん、助けて…」

 

 涙を流しながら助けを求める娘の姿を見て、デグスビーは激しく動揺した。今すぐにでも助けたい。だが、仲間を売るということは黒魔導士ゼレフを裏切るということだ。

 そんなことをすれば、妻を蘇らせることなどできない。今まで払ってきた犠牲が無駄になるではないか!

 

「た、頼む、お願いだ…」

 

 憤怒から一変。デグスビーは(こうべ)を垂れ、残虐非道な男に懇願した。

 

「娘だけは…娘だけは許してくれ…。私はどうなってもいい、だが娘は解放してくれ…」

「よし、殺そう」

 

 鳥骨の裁判官は非情且つ非常に軽い口調で死刑を宣告した。

 

「今からここに魔獣を召喚します。人肉が大好きな飛び切り凶暴なタイプです。自分の娘が生きたまま喰われる光景をご覧に入れましょう」

 

 まるで今日の献立を教えるようなその言い方が、よりデグスビー親子の恐怖を増長させた。

 

「お願い、お父さん!! 助けて!! やめさせて、やめさせてよ!!」

「マ、マーサ! 大丈夫だ! 大丈夫だから!」

 

 拘束から逃れようと、椅子の上で激しく身体を揺さぶる娘をデグスビーは必死になって落ち着かせようとした。だが、それでもなお、教団の情報を話す気にはならなかった。

 はったりの可能性だってある。それに、もし最悪、ここで娘が死んだとしても、後でゼレフを復活させられれば妻と一緒に蘇えらせてもらえると思ってしまったからだ。

 だが、その希望(・・)がすぐに風前の灯火となって消えることになる。

 

はったり(・・・・)なんかじゃないですよ?」

 

 仮面の男が床に手をかざした。逆五芒星の魔法陣が浮かび、そこから鋭い牙がびっしりと生え揃った巨大な(あぎと)が生臭い息を吐き出した。

 

「痛めつけても可哀想なのでね。ああ、ご息女を殺して、それで終わりと思わないでくださいね? 悲鳴をあげながら、ゆっくりと喰われていく姿を録画して、その映像をあなたの脳に直接(ダイレクト)且つ死ぬまで永久に流し続けます。自分の娘が〝お父さん!〟〝お父さん!〟と叫びながら内臓をまき散らす光景はどういったものでしょうね? 私には想像もできません。発狂するかもしれない。まぁ、仮に発狂してもすぐに治してあげますよ(・・・・・・・)。私の魔法は、そういうことまでできるんです。 ああ、それとあなたが自殺しないよう暗示もかけます。ご息女が終わりましたら、あなたのご両親も──」

「わ、わかった!! 白状する!! 知っていること全て言うから許してくれッ!!」

 

 デグスビーは、目の前にいる男を決して敵に回してはいけないと心の底から思った。

 

 

 デグスビーの娘と共に部屋から出ると、男は鳥骨の仮面を外した。腰まである黒髪と共に中性的な美貌が露わになった。

 デグスビーの尋問を終えたジル・ギルティは廊下の床の上に(じか)に置かれてある魔導書を手に取った。ページが開かれており、解読不能な文字が黒く発光している。

 美青年が魔導書のページを閉じた瞬間、激痛に悶えていたデグスビーの実娘の姿が忽然(こつぜん)と消えた。

 

「…まったく。やり方もえげつないが、幻術(・・)の完成度もえげつないな」

 

 別の一室から一部始終を見ていたジークレインは苦笑した。

 

「デグスビー、完全に自分の娘だと信じ込んでいたぞ」

「実際に会って、喋り方や仕草などを観察したからな」

 

 大したことはしてないとばかりに、ジルは小さく肩を竦める。

 

「それと、髪の毛を一本拝借した。あとは入念な準備と手間──最後にはったりでどうにでもなる(・・・・・・・)

 

 それでどうにかしてしまうのが、この男の恐ろしい所の一つだとジークレインは思った。

 しかも過激なことをするくせに、自分や自分の所属するギルドへのリスクを最小限に留めている。

 そして、必ず結果を出す。

 

「とにかく感謝するよ、ジル。今から拠点場所に部隊を派遣して──」

「いや、やめておいた方がいい」

 

 黒衣を脱ぎながら、ジルは制した。

 

「話を聞いた限りだと、教団に何人か魔導士がいる。中でも司祭とやらは他と比べものにならないほどの魔力を持っているようだ。しかも、教団自体が金目的ではなく、本気でゼレフを信仰している。そんなタイプは何をしでかすかわからん(・・・・・・・・・・・)。死人を出したくなければ、私一人に任せてくれ」

「…大丈夫なのか?」

 

 ジークレインは懸念する。目の前にいる男の実力はある程度知っている。

 ジル・ギルティの戦闘力は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中では中の中か、中の下。正直、大して強くはない。ジル本人も自覚している。

 だが、それは普通に(・・・)戦ったならばの話だ。

 ジークレインも未だジル・ギルティの能力を測りかねている所もあるため、一概に凡庸な魔導士と判断することができない。

 

「…わかった、お前に任せよう」

 

 熟考の末、ジークレインはジルに一任することを決めた。

 喪服の悪魔(メフィスト)はあらゆる手段を行使して、必ず結果を出す──そこだけは妙な確信があった。

 

「では、報酬の上乗せをお願いしますよ」

 

 喪服の男はちゃっかり手間賃を追加し、返答も聞かずに颯爽と歩き出した。

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