諸王と玉座の罅と混沌石を反応させることによる召喚実験中。
今回モモンガの前に現れたのは一人の青年と女性。
うち青年は、何やら本能が何かを訴え続けていた。
「もっとスリルあるやつで遊びませんか?」
旬のその言葉に、遊園地を出て飛竜の背に乗った向坂雫。
「……きれい」
沈みかけの太陽により黄金に染まった雲海。黃、橙、そして藍色の中に星が混ざった空。その光景に雫は見惚れる。見惚れながら、チラリと旬の顔を見た。
「気に入りましたか?」
「はい、とても」
と、その時だった。旬が突如虚空を睨む。一瞬遅れて、雫も魔力の流れに気付いた。
ピシリ、と空間に亀裂が走る。
「カイセル!」
旬の叫びにカイセルが空間の亀裂から距離をとろうとするが、一瞬遅く空間が砕け紫の光が渦巻く不気味な空間が姿を表す。
「────!!」
それは、轟々と勢いよく周囲の空気を雲ごと飲み込む。あまりの風と突然の出来事、さらには二人で竜の背に立っていたという理由が重なり反応に遅れる。
あっという間に吸い込まれる旬達。彼等を吸い込むと、罅はまるで満足したかのように消えた。後には、静寂だけが残された。
ナザリック地下大墳墓第十階層、玉座の間。諸王の玉座に入った罅に、混沌石を反応される事で起こる召喚現象の、検証実験。
「…………? 何だ、アンデッド達の様子が」
現在ナザリックは決して小さくない損害を受けているため、リソースの削減で兵の殆どはアンデッド兵で賄っている。デス・ナイトというタンクもいる。余程の存在が現れても、逃げる事も可能だろう。
そのアンデッド兵達の様子がおかしい。カタカタと身を忙しなく鳴らし、何かに迷うようにアインズと輝きを増す罅を見つめる。
と、輝きが最高潮に達し、それは現れる。
「くっ!」
「と……」
恐らくは、また「異世界」からの来訪者。
転んで現れてばかりの来訪者に対して、今回の来訪者は普通に立っていて、こちらを警戒している。
「アンデッド? ここは、まさかダンジョン?」
服装はモモンガが鈴木悟だった頃の故郷、資料でしか見たことがないとはいえ、地球の服装によく似ている服を纏った男女。とはいえダンジョンを知っていて、そこに巻き込まれる事があるような反応からして、全く同じというわけではないのかもしれない。
そして…………
「む………」
「何!?」
アンデッド達が、一斉に跪いた。アインズに、ではない。罅から現れた男女にだ。いや、恐らく男の方に、なのだろう。何となく、そんな気がした。
本能が、彼を敬わなくてはならないと、そう訴えかけているような妙な感覚。
「あれは、アークリッチでしょうか? 鎧のは、デスナイト? いえ、それにしては弱すぎるような」
そう呟くのは来訪者の片割れ、金髪の美女だ。その発言からして、彼等の世界にもモンスターなどはいるのだろう。しかし、デスナイトはこちらの世界より強さが上のようだ。
そう納得するモモンガだったが、納得しないものがここに一人。悪魔デミウルゴスだ。
どんな手段を使ったのか知らないが、至高の御方からアンデッドの支配を奪い、あまつさえ偉大なる《オーバーロード》をたかだか《アークリッチ》程度と誤認するどころか、下等種族である人間の分際で至高の御方が生み出したデスナイトを弱いなどと………。
これまでの事を考えれば、モモンガは彼等を罰しようとはしないだろう。だが、それはそれ。これはこれだ………立場というものをわからせねば………
「『平伏したまえ』」
《支配の呪言》を用いて去勢的に頭を下げさせようとする。が………
「っ!?」
「…………」
両者とも、弾かれた。つまりは、一定以上の強さを持つ証拠。人間だからと侮り、不用意に敵対行動を取ったデミウルゴスを、青年が睨み片手を向ける。
「ぐう!?」
途端、喉を万力のような力で締め付けられ、体が浮き上がる。見えない手のような感触があるも、触れられない。
暴れるデミウルゴスを見る青年の目と、デミウルゴスの目が合う。それは、ナザリックの者が人間に向ける目に近い、遥か格下を見る者の目。屈辱、憤慨、しかし恐怖も湧き上がる。
「すまない。私の部下が無礼を働いた、だが少し待ってくれないか?」
「…………え?」
モモンガの言葉に、女性が信じられないものを見たように目を見開く。そんな彼女の反応に青年も訝しむように彼女を見る。
「………向坂ハンター、彼の言葉がわかるんですか?」
「は、はい………」
「…………そうですか」
それは、果たしてどちらの意味なのだろうか。青年の世界ではアンデッドは本来言葉が通じぬ存在で、青年だけが話せたのか、青年にはモモンガの言葉が理解できなかったのか。と、デミウルゴスの体が地面に落ちた。
「感謝する。私は、ここナザリックの支配者モモンガという。状況が飲み込めぬだろう、まずは情報交換といかないか?」