「異世界?」
あ、お茶美味しいと雫は出された紅茶を味わっていると旬とアインズの話は進んでいた。
「ああ、我々の召喚実験に、時折あるのだ。巻き込んでしまってすまない」
「元の世界に帰る方法は?」
「これまでの異世界人の例を考えると、時間経過、或いは何らかの条件を満たすと帰還しています。経過時間も、条件もバラバラ故我々は生活の保証しか出来ませんがこちらの条件も飲んでくれるなら、」
これまでの異世界人の中でもトップクラスの力を持つであろう旬達は、客間に通されていた。デミウルゴスの采配だ。
「生活の保証の為には、
旬が目を細め足元を指さした瞬間、雫と旬の影から悪魔が2体飛び出してくる。雫の影から飛び出したのは西洋甲冑、旬の影からは人型のアリのような影が、悪魔を押さえつけている。
「キィエエエエェェ! 王の影に潜みこもうなど、身の程知らずめが!」
言い直そう。人形のアリが持つのは悪魔の死体だ。
「申し訳ありません、王よ。賊徒の屍を御身の影に放置していた我等が不徳、どうかお許しを」
「俺がそうしろと言ったろ? 気にするな」
「ははあ!」
その場で跪くアリを見て、デミウルゴスは眉間にシワを寄せる。
「俺はともかく、女性の向坂さんまで監視するのなら、此方で帰還方法を模索しますが」
旬が天井を見ると微かに動揺した気配。アインズは、ふぅ、と肩を落とす。
「デミウルゴス、
「は、いえ………しかし」
自身の《支配の呪言》を打ち破るでもなく、そもそも効かなかった時点で、高レベルの実力者。下手をすれば階層守護者以外では勝てぬ可能性も。自身の恥辱を飲み込むのであれば、旬は自身に匹敵、あるいは凌駕する実力者。
守護者クラスとなれば、万が一にでもアインズに勝利出来るとは思えないが手傷を負わせることは出来るかもしれない。
「不用意に敵意を煽るなと言っている。私を思っての事だろう、しかし敵対行動を取られたわけでもないのに監視をしようなどとすれば不審を買う」
「申し訳ありません」
デミウルゴスはアインズに頭を下げる。
「部下が無礼を働いた。謝罪させてくれ」
「いえ、警戒するのは当然です。俺にするぶんにはどうぞいくらでも」
「そのような事をさせぬと私の名に誓おう」
アインズとしてはデミウルゴスを歯牙にかけぬ、つまりLv.100クラスの相手の機嫌を損ねたくないという気の現れなのだがデミウルゴスとしては溜まったものではない。
御方は絶対なのだ。それを脅かす存在など、可能性としてすらあってはならない。しかし名に誓われた以上不用意な行動はアインズの名に泥を塗る、自死よりも最悪な愚行。
「君たちの世界についても、ぜひ聞かせてほしい」
「ええ」
モモンガと旬達は、手短に互いの情報を交換する。
(話を聞く限り、ここはダンジョンとも異なる異世界………強いて言うならレッドゲートに近いな)
旬がまず思いついたのはレッドゲート。基本的に洞窟や遺跡など、地下空間のような迷宮となっているダンジョンの中でも異端な砂漠、氷河、ジャングルなど文字通り一つの世界が広がる特殊ダンジョンだ。
ここも一見地下遺跡かと思えば、外があるらしい。 何なら国も存在するとか………。ダンジョン内で見つかる文明の跡などせいぜい知能を持ったモンスターの集落か、『システム』が用意した『悪魔の城』ぐらいだったが、『悪魔の城』は旬の世界の虚像のようなものだった。こちらは、完全なる別世界。
エシルは気が付いたらダンジョンにいたと言っていた。何処かの世界から来たという事だ。もしや、ここはその世界だったりするのだろうか?
(俺達の居た時代よりも前の日本に、ダンジョンか………違う歴史を歩んだ平行世界とはいえ、同郷の者か……)
以前来たのは五河士道という少年達だったが、そこの世界ともまた違うらしい。
モンスターの犇めくダンジョンと呼ばれる異空間に通じるゲートが現れ、一週間以内に倒さねばモンスターが溢れ出し人に被害を齎す。それに対抗するように現れた覚醒者と呼ばれる力持つ者達。
ランクが存在し、水篠旬、向坂雫は共にSランクという最高峰。《ユグドラシル》でいうトッププレイヤー的な存在なのだろう。ただしSランクは既存の測定器では計測不可能なランクを指し、強さには差が存在するとは雫談。彼女曰くSランクパーティーですら勝てなかった存在を旬は一人で倒す程、隔絶した実力者らしい。
「あ、あとつい最近国家権力級を倒したとか」
「国家権力級?」
「一国の軍事力に匹敵するとして、国と同等の権限を与えられた者達です」
文字通り王と同義。そのうち一人を、旬は降した。それは新たな国家権力級誕生とも言える。
「で、あれば一国の国家元首として対応すべきかな。そこの彼も、君を王と呼んでいたようだが」
「俺はそんな立派な人間じゃないですよ」
「なに、ナザリックの地位の高さはそのまま強さに直結するのだ。一国を相手取れるというのなら、敬語など不要だ」
「そうです………そう、か? なら………」
(あんまり偉そうに接して怒らせたらやだし)
不意をついたとはいえLv.100の動きを封じたのだ。Lv.100である前提に対応することにアインズは決めた。
「…時に水篠旬ど……いえ、水篠様。その者は、我等の不徳と仰っていた。あなたの影には、あとどれだけの兵が居るのですか?」
「それを答えろと?」
「ナザリックに滞在する以上、客人の数の把握は必要でしょう?」
「こいつ等を客として扱う必要はない」
「それを決めるのは我々です」
「此方だけ戦力を見せろと?」
デミウルゴスがどれだけ言葉を飾ろうと真意は変わらないし、その程度を見抜けぬようではかつて最弱で、何度も死の淵に立った旬が生きてはいない。
「では此方も今墳墓にいるだけだが、部下を紹介しよう。それでどうかね、水篠旬」
その言葉に旬は雫を横目で見る。
「………………そういう事でしたら。ああ、それと一つお願いが」
「なんだ?」
「叶うなら、俺と彼女の部屋は同じで」
「ぶふぉ!?」
雫は飲んでいた紅茶を思い切り吹き出した。
(あのデミ………デ………あの眼鏡、明らかに此方を敵視してる節がある。アインズさんはそうでもないが右京の時もトーマスの意向を無視してたみたいだしな)
S級といったところだろう。雫と互角か少し上。勝てない相手ではないがアインズとも敵対した場合、雫の身が危ない。念の為影の兵士を潜ませたままだが、出来るだけ側にいたほうが良いだろう。
(日本の超大型ゲートの件もある。いや、こっちは問題ないか?)
日本に残した影と交換は出来ないが、視界を共有は出来る。それを見る限り、時間の進み方がやけに遅い。時間の流れが違うのだろう。とはいえ、少しずつ進んでいる。出来るだけ速く帰還したい。
(その間、向坂さんをこいつ等に傷つけさせる訳にはいかない)
向こうは此方の力の底を図りたいのだろう。丁度いい、此方も向こうの戦力を知っておきたい。