転生したら、敬愛する上官の部下にまたなった件について。PS.上官は精神的に参ってヘラってるんだけど、相変わらず可愛い。   作:元ジャミトフの狗

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転生したら、敬愛する上官の部下にまたなった件について。

 

 

 「大尉、貴方の下で戦えて良かった」

 

 

 

 国家ではなく企業が地域の秩序を司るようになった世界。齢19にして不慮の事故で死んだ俺は、そういう管理社会の下に転生した。

 

 一から言語を覚え直し、この世界の常識を学んだ時には転生前のモラルを忘れた。スラム生まれの孤児にとって、この世界の現実は手段を選んでいられる程の余裕がないからだ。故に俺は人を殺し、他人の家財を奪い、そしてスラムで培った腕っぷしを武器にして大手企業直下の軍隊に志願した。

 

 軍で日銭を稼ぎ、美味い酒と飯を食らう。気が向けばギャンブルにも手を出したし、戦場で昂った体を鎮めるのに風俗に通った事もある。人の亡骸の上に成り立つ、正に糞みたいな生き方だ。

 

 だがそんな生活も、今日を以て終わりを迎える。

 

 経済戦争という名の人間同士の殺し合いで、俺もその罪を贖う日が来たのだ。振り返るに今世の人生はあまり上等と言える代物ではなかったが、それでも能力、人格共に優れた上官のために死ねるのなら幾分か胸もすく。

 

 「―――っ!!」

 

 太刀を一振り。敵兵の鮮血が舞い、首が落ちる。だが予断は許されない。何故なら更に前方で銃器を構える敵兵が跋扈しているからだ。

 

 だが所詮銃など雑兵のための武装である。少なくとも俺にとっては餓鬼の玩具に過ぎない。だから迫りくる弾丸を最小限の動きで躱し、或いは刀剣で弾く。そして敵兵に近づいたら斬る。それを繰り返すだけでいい。

 

 尤も俺は死に体で、敵は無尽蔵だ。力尽きるのも時間の問題だった。何なら俺と共に残って戦ってくれた部下は皆死んだ。

 

 「あー死にそう」

 

 喧しく喚く雑兵の頭部を握りつぶしながら呟く。足元には夥しい量の死体が広がっているが、それ以上の兵隊が眼前で射撃態勢を整えていた。次に一斉射撃をされたら多分死ぬだろう。それが何となく分かる。

 

 申し訳程度に刀剣を構える。しかしそれで精一杯だった。

 

 「……とはいえ」

 

 殿としての役目はしっかり果たせたように思う。今頃大尉は敵の包囲網を辛くも突破した頃合いだろう。だからそうだな、そこそこ満足だ。

 

 「あ」

 

 いや訂正しよう。心残りは確かにあった。

 

 「畜生、見栄を張らず大尉に告―――」

 

 俺の言葉は続かなかった。人は頭部を撃ち抜かれたら、それで御仕舞いなのだから。

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 「……?」

 

 死を自覚したのに、また眼が覚める。

 

 この奇妙な感覚はこれで二度目だった。しかし今回はどうやら勝手が違う様で、俺はぷかぷかと円柱状の水槽の中で浮いている。

 

 「―――起きたか、この馬鹿者が」

 

 水中にいるというのに声がはっきりと聞こえた。というか、呼吸が出来ないのに生きている。臍の緒が繋がれた赤子でもなし、不思議な心持になる。

 

 だがそんな事よりもだ。

 

 「……だ、た、い」

 

 拙く、そして酷く掠れた言葉遣い。しかしそれでも声を出すことが出来た。感極まって言葉らしい言葉ではなかったとしても、確かに俺は彼女を呼ぶことが出来た。

 

 そう、俺を『馬鹿者』呼ばわりしてくれたのは他でもない。俺がこの世で最も敬愛する人物、ラウラレンティア大尉だった。

 

 ラウラレンティア・ゲッテンハイム。

 

 俺が命を投げ出してまで救い出したかった人。もしこれが死後の世界でなければ、彼女は生きているという事になる。それは本当に、望外に喜ばしいことだ。

 

 「フタジ准尉、いや二階級特進で中尉だったな。良い夢を見れただろうか」

 

 夢よりも嬉しい現実が目の前に広がっている。だが俺の声は届いていないらしく、彼女は背後に控えていた研究員らしき男に指示を出していた。

 

 「暫く待っていて欲しい。すぐに出してやるから」

 

 出してやるというのは、十中八九この水槽からだろう。しかし要領を得ない。隊長の口ぶりから察するに、俺はやはり一度死んだのだろう。二階級特進とは、一部の例外を除いて()()()()という意味なのだから。

 

 研究員の男がパネルを操作した結果、水槽の中で満たされていた謎液体が抜かれていく。しかしどうも身体がかなり衰弱していて、立つことすら儘ならずそのまま壁に凭れかかる。

 

 「当面はリハビリ生活だな。心配するな、私も付き合う」

 

 そう言いながら大尉は水槽の扉を開く。流石に上官の手を煩わすのも気が引けて、貧弱過ぎる体に鞭打って足を前に踏み出す。すると―――

 

 「おっと。無理に動くな」

 

 そっと大尉に抱き留められた。ここで童貞っぽい仕草をしなかったのは、曲がりなりにも軍隊で鍛えられてきたからだろう。いやまぁ、びっくりし過ぎて体が硬直しただけなのだが。

 

 「貴様はいつもそうだ。無茶ばかりして、私に余計な心配をさせる」

 

 すみません、俺はそう返そうとした。しかし出てくるのは壁を引っかいたような掠れた声のみ。とてもじゃないが話せる声帯になかった。

 

 「なんだ何か言いたいのか。まさかあの時、殿を命じた私を恨んでいるのか?」

 

 いやいや滅相もない。大尉の判断に間違いはなく、俺もその合理性を認めて命を捧げたのだ。所詮俺は一兵卒、部隊を預かる大尉に「死ね」と命じられたらそれを実行する覚悟は持っている。

 

 「……だなんて、私は何を言っているのだ。クローン相手に」

 

 マジっすか。俺クローンなのか。じゃあ俺は別に生き返った訳じゃなく、転生した先がたまたま俺(前世2代目)のクローンだった訳か。これはややこしい。

 

 「まぁ良い。貴様を造るのに莫大な予算が投じられている。故に貴様は貴様の存在価値を示さなければならん。明日からリハビリを兼ねた訓練を行うが、分かるな?」

 

 こくりと頷く。すると大尉は「宜しい」と述べる。

 

 「コイツの部屋は」

 

 「はっ。検体αに限っては、第三試験室を自由に扱って頂いて結構です」

 

 「そうか。では我々は―――」

 

 大尉たちが何やら事務的な話を始めたので、俺は周囲を見渡してみた。

 

 室内はまさにレトロフューチャー染みたマッドな研究室といった様相だった。というのも、俺が詰め込まれていた水槽と同じような容器が部屋中に配置されており、当然と言うべきかその中には『俺』が入っていたからだ。

 

 まぁ元々俺が勤めていた企業は中々ブラックなところだった。それは労働環境と言うよりも、人道的な意味である。特に生体工学の分野では他企業に追従を許していなかったと思う。

 

 だから自分と同じ顔がたくさんあるという現実にも驚きはしない。なんなら諦めている。ああ、アイツらならこれ位はやりそうだって感じ。

 

 「ついてこい」

 

 話が付いたのか大尉が俺の前を歩いていく。俺もそれについて行くが、彼女の歩調にはついて行けず転んでしまった。参ったな。明日から訓練がどうこうって言ってたのに、これじゃあ先が思いやられる。

 

 「―――フタジっ!!」

 

 ヒステリックな叫び声が部屋中に響いた。思わず耳をふさぎたくなる程の声量、正直めちゃくちゃ驚いた。

 

 「ああ、フタジ。怪我はしてないか? まだ君は培養液から出たばかりなんだ。傷口から黴菌でも入ったらっ。違う、そうじゃない、私のせいだ。また私が君に無茶を強いたんだ。ああすまない、本当に済まない。君が十分に歩ける状態にないことは考えればすぐに分かる事なのに。どうして私はこうも愚図なんだろう。また君を傷つけてしまった。あれだけ君に教えられてきたというのに何も学べていない。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめなさい。私はやはり君を―――」

 

 やっば。なんかヘラってるんだけどこの人。どうやら俺が死んでからも色々と気苦労が絶えなかったらしい。でなければこの人がこんな醜態を晒すはずがない。

 

 ぶつぶつと繰り言を聞かされては、こちらとしても居た堪れない。なので重い体を引き摺って、彼女の肩に手を置く。

 

 「ふ、たじ?」

 

 「だ、だい、じょ……ぶ」

 

 拙い言葉で告げる。正直声帯がイかれてて喉がしんどいが、大尉をこのままにするのも忍びない。ぶっちゃけた話、すっげぇ特大のギャップ萌えを感じてはいるが。

 

 「……私はお前の、傍にいていいのか?」

 

 もちろんだ。つーか俺、死ぬ間際に顔を思い出すくらい大尉のこと好きなんだけど。むしろこちらから頼みたいくらい。

 

 「もう、死なないでくれ」

 

 当然。死ぬつもりで戦う兵士はいない。

 

 あ。でも、大尉のためならいくらでも命を捧げる事はできる。とはいえそんなことを口にすればまたメンヘラっちゃうと思うので、実際には言わないが。

 

 「……済まない。とんだ醜態を見せた。それに、フタジはもう死んだんだ。姿形が似てるだけのお前に奴を重ねるのは、お前にも奴にも失礼だ。重ね重ね済まなかった」

 

 深く頭を下げて謝辞を述べてくる大尉。こういう誠実で真面目な所が好きだったんだよなぁ。

 

 でも魂は同一人物なんですけどね。それにしても俺の事、結構大事に思ってくれてたんだな。一応俺も下士官として新米だった頃の彼女に色々と叩き込んだから、てっきり嫌われてるもんだとばかり思ってた。

 

 「もう大丈夫だ。だが貴様はここで待っていろ、車椅子を持ってくる」

 

 そう言いながら大尉は立ち上がる。そしてしばらく待っていると、彼女は謎テクノロジーによって浮遊する椅子を持ってきた。

 

 「持ち上げるぞ。いち、に、さんっ!」

 

 割れ物を扱うかの如く、彼女は俺を持ち上げた。戦場では無類の強さを誇る大尉の手は、温かく何より柔らかい。うーん役得だ。

 

 「……クローン体など、奴は怒るだろうか」

 

 車椅子を引きながら大尉は呟いた。よく見れば彼女の腕章は少佐のものになっていた。遅ればせながら、昇進おめでとうございます。

 

 「奴ではない貴様に言っても仕方がないが、私はあの男を好いていた」

 

 マジ?

 

 それはライクっすか、それともラブの方っすか? いやいや答えを聞くまでもなく前者だと思うが。ほら、良くあるあれでしょ? 戦友としてって奴でしょ? 俺詳しいから知ってるんだ。

 

 「いやこんな曖昧な言い方は良くないな。恋をしていた、というのが正しい」

 

 マジ?(二度目) 控えめに言ってエンダーじゃん。でもそれだったら、やっぱり殿する前に告ればよかったなー。

 

 いやでも待てよ。

 

 もし俺があの時に「大尉! 好きっス!」と愛を伝えたところで、俺はすぐに戦死した訳で。むしろ彼女に余計な十字架を背負わせなかったと考えればファインプレーだったのでは?

 

 「無駄話は終わりだ。ここが貴様の部屋だ、好きに使え」

 

 そう言って、大尉あらため少佐は俺を『三』と表記された部屋の中を案内する。試験室と言っていた割には、人が生活するのに困らない日用品が一通り揃えられていた。

 

 車椅子から立ち上がろうとすると、「まぁ待て」と少佐に遮られる。

 

 「……そういえば自己紹介がまだだったな。私はラウラレンティア・ゲッテンハイム。階級は特務少佐。これから貴様の直属の上官となる女だ」

 

 ああこれはご丁寧にどうも。全部知ってるが。

 

 「部下を死なせてばかりの出来損ないだが、どうか宜しく頼む」

 

 手を差し出してくる少佐。それが握手だと分かり手を握ると、彼女は静かにはにかんだのだった。

 

 

 

 

 

 




中途半端に終わってしまって申し訳ありませんが、区切りが良かったのでこれで終わります。
地の分で語る事の無かった設定を下記します。興味のある人は駄文&オタク君のくっさい妄想をどうぞ。

ー世界観ー
 国家が解体されて企業が世界の派遣を握るようになった世界。行き過ぎたテクノロジーが核弾頭やその他もろもろのミサイルを無力化させ、闘争は原始的かつ純粋な武力が求められるようになった。皆大好きACを連想すれば世界観としては想像しやすいかと。でもロボットみたいな巨大兵器ではなくパワードスーツみたいな奴が主流なので、どっちかというとMGSの方が近いかも。

ー主人公ー
 本名はフタジ・ミドウ。漢字表記だと御堂弐児となる。前世からの名前をそのまま使っている。
 くっそハードな世界に転生したが、持ち前のバイタリティーで乗り切った。スラム生まれだったからか早々に人殺しを覚えてしまい、それで吹っ切れてからはスラム街でもそこそこ有名な悪党として覚えられるようになる。
 しかし企業からの勧誘もあって企業直下の軍隊に志願。この時で13歳。使い捨ての兵士として最前線に送られたが、初戦から華々しい戦績を残す。それからも激戦区で活躍しまくって昇進、曹長にまで上り詰める。この時で21歳。
 士官学校に相当する教育機関を卒業したヒロインの指導役と知って色んな事を教える。そしてそれはもう色々あって、互いが互いを強く信頼するようになる。またヒロインからの推薦により、士官昇進の道も進みつつあったため准尉となる。
 26歳の時。絶望的な戦局に陥ってしまい、ヒロインを逃がすために殿を買って出る。そして戦死する。因みにこの世界における実力としては『上の下』。

ーヒロインー
 本名はラウラレンティア・ゲッテンハイム。父親がドイツ軍人だったが、国家が解体されてからは企業の兵隊になるべく士官学校を卒業する。
 主人公とは互いに命を救い、救われる関係となる。最初は兄弟みたいな感じだったけど、気づけば夫婦みたいな感じになってた。なお本人たちは無自覚。そのため部下からは優しい目で見守られていた。
 とにかく腕っぷしが強く、この世界における実力としては『上の上』。指揮能力にも優れており、大尉でありながら独立大隊を率いるようになる。因みに得物は槍。
 性格は真面目かつ柔軟。ただしストレスを貯めやすい性質で、主人公が戦死してからは本音で話せる相手がいなくなってくっそメンタルが弱る。それでも任務を着実にこなし、少佐に昇進する。でも時々主人公の事を思い出しては枕を濡らしていた。
 主人公が戦死してから2年後。企業の新たな軍事戦略としてクローン兵を投入しようという頭の悪い計画が立案される。兵士として優れた者にヒロインは主人公を推薦(因みに髪の毛を持ってたのでDNAとかそういう問題は何とかなった)。主人公を推薦した理由は、ヒロインにとって一番優れた兵士と言えば主人公しか考えられなかったので、軍人として真っ当な進言をしたかったから。そうして何とかクローン計画の責任者に就任する事となる。
 中盤あたりでヘラったのは今までの疲労とか懺悔とかが爆発した結果。普段は真面目で強気な人が唐突に何度も謝り始めるの、興奮するよね。興奮しろ(過激派)。というかこのssもあの長文を書きたかったから。
 年齢? 容姿? 何も考えてなかったです。各々で妄想して下され。


ー追伸ー
感想が来ると予定してなかった次話が投降されるらしい。

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