転生したら、敬愛する上官の部下にまたなった件について。PS.上官は精神的に参ってヘラってるんだけど、相変わらず可愛い。 作:元ジャミトフの狗
めちゃくちゃ伸びてびっくりしてる作者です。
いや本当に、正直プレッシャーがヤバイ。
なんならこのがばがば世界観を考察してくれる読者ニキもいてすっごい嬉しいです。
もっと性癖晒そう? 晒せ(過激派
ビバ、ヤンデレダイスキー!
死んだら転生する。たった一度の人生を懸命に生きる者たちからすれば冒涜にも等しい所業。
だが一つだけ難点を上げるとするならば、生まれ変わる先を自分で選ぶ事ができないという所だろうか。どこまで行っても、人間は親を選べないのだと自覚させられる。いや、そもそも親すら存在しない。何故なら今回も―――
「実験体イータ、準備整いました」
フタジのクローンとして生を受けたからだ。
1度目は事故死、2度目は殿の代償、3度目は愛する人を庇って死んだ。だからきっと4度目もあるのだろうとは思っていた。それがまさかまた同社のクローン体とは、やはりこの世界の企業は始末に悪い。
しかし今回は毛色が違った。
得体のしれない薬液、やたら湿った実験室、痛いくらい締め付けられた拘束具。どうやら今回の『フタジ』はモルモットらしい。
「よろしい。投薬したまえ」
白衣を着た男がそんなことを宣った。すると淡く黄色い薬液が頸動脈に直接ぶち込まれる。これから行われるであろう行為がきっとロクでもない事を予想しつつ、諦観の中で目を瞑った。
激痛、辛苦、倒懸。この世のあらゆる苦しみを一身に受けたような心地になる。そして実際、地獄すら生ぬるい実験を施工されたのだと思う。
だが不思議と受け入れる事はできた。
俺は少佐にあまりにも惨い仕打ちを、それはもう幾度となく繰り返してきた。だから
「……なんて素晴らしい。まだ自我の崩壊が起こらないとは」
研究者の男はそう言って更なる投薬を図る。マジでサイコだな、あんまり人の事は言えないが。
この拷問染みた実験の目的は、端的に言うと『最強のワンオフ』を作り出すことらしい。別に盗み聞きするつもりはなかったのだが、聞いてしまったものは仕方ない。その思惑に乗ってみよう、どうせソレ以外にすることは無いのだから。
そうしてどれだけの月日が流れたか。
何度も正気を失いそうになりながら、俺はこの幼い体躯のまま全盛期以上の力を得た。しかしその代償に右腕が壊死したので敢え無く切除。義手で代用するという。
ともあれ、実験は最終段階に至った。
「これで最後だよ。イータ君。これさえ耐えてくれれば実験は成功する、いいかい? 絶対に死んじゃいけないよ?」
狂った表情のまま研究者の男は最後の投薬を行う。
実験のギャラリーも何時の間にか増えていた。そしてその中には、あの少佐もいた。正確には昇進して中佐になっていた。しかも何だか少し顔がやつれている気がする。気のせいではない、その自覚もある。
でもまた会えて嬉しい。そう思いながら、ガラス越しにいる彼女に向けて笑みを浮かべた。
暫くして左目が弾けた。無理な投薬が祟ったのだろう。今更痛みぐらいで泣き叫ぶこともないが、痛いモノは痛い。とはいえどちらかと言うと、少佐を見るための眼球が一つ減った事の方が辛かった。
狭まった視野と何やら騒ぎ始めた研究者の男を煩わしく思いながらも、やはり俺は少佐を見つめ続けていた。駄目だな。もう死ぬ事に慣れ過ぎてこんな状況でも少佐、いや中佐のことしか目に入らない。我ながら正気ではないなぁ。
気づけば、すーっと頭が軽くなっていた。この感覚には覚えがある。過剰出血による血圧の低下、戦場では割とお馴染みの死因だったりする。だからそのまま意識が薄らいでいくのも同時に感じていた。
霞掛かった世界の中。最後に目にしたのは、果敢にもガラスをぶち壊す少佐の姿だった。
★
「……なぁフタジ。今日は150人も殺したんだ。凄いだろう? その中に一人、
薄暗くどこかほんのりと甘い香りのする室内。俺は毛布に包まる中佐に抱きかかえられながら、彼女と共に21世紀に作成された古めかしいホラー映画を鑑賞していた。
「それでな、また昇進の話が上がったんだ。本当はあまり興味はないけど、部下にいい暮らしをさせるには地位がないといけない。ああ勿論、お前の事も考えてるさ」
よしよしと頭を撫でられる。この小さな体だと彼女の腕の中にすっぽりと嵌ってしまう。正にジャストフィットと言った様相だ。すっごいぬくぬく出来るし快適である。
「それにしても、良く出来た話じゃないか。初めて映画という文化を嗜んでみたが、存外悪くない。とはいえやはり、いつの時代も人間が一番怖いという不文律は変わらないんだな」
俺の頭を撫でる手を止めずに、中佐は映画をそのように評した。そして映画の登場人物が皆死んだ後に、スタッフロールが流れる。すると少佐はリモコンを弄って画面を消した。
「……フタジ。今日も、楽しかったな」
俺が返事をするより先に、中佐は俺を強く抱きしめた。その動作は大切な宝物を扱うかの様に繊細で、それでいて強烈な執着心を感じさせる。
彼女は俺の言葉を求めてはいない。いや、正確には彼女にとって都合の良い言葉しか求めないのだ。だから中佐は『フタジ』でない俺が喋ることを許しはしない。数々のトラウマが彼女を臆病にさせたと言えば、まだ聞こえは良いだろうか。
中佐が未だに俺を『イータ』と呼ばずに『フタジ』と呼んでいる事からも、それは明白である。例によって魂は同一人物だから、俺としては違和感を感じる事はない。ただ一応断っておくと、彼女は俺が転生者である事は絶対に知らない筈である。
だというのに―――
「なんだか、とても幸せだよ」
どろりと滑りを帯びた言葉遣い。彼女は何処までも腐っていた。
拷問が如き日々から数か月。俺は中佐の愛玩動物として日々の生活を送っていた。
中佐とあの研究者の間で如何なる駆け引きがあったのかは、当事者である筈の俺も知らない。ただ次に目を覚ました時には、名実ともに俺は中佐の所有物になっていた。今俺がいる部屋も彼女の私室だ。
「今日の夕飯は豪勢にステーキにしようと思うんだ。私の料理の腕は知ってるだろう? おいしく仕上げて見せるさ」
私服姿の中佐が微笑みながら言った。だから俺もこくりと頷く。さながら犬の様に。
別に言語を使いたくない訳ではないのだ。ただ中佐が俺を愛玩動物として見ているから、俺もその趣向に付き合っているだけの話である。
それに、思いのほか楽しくもあった。前々から狂っている自覚はあったが、この上なく変態でもあったらしい。いや、今更か。
「―――痛っ」
キッチンからそんな声が漏れる。血の匂い、戦場で嗅ぎなれた匂いだ。というか嗅覚が無駄に優れていて、結構離れた位置にいる中佐の流血が分かってしまった。
恐らくは調理中に指を切ってしまったのだろう。彼女にしてはあまり考えられないミスだが、在り得ない話ではない。特にプライベートではちょっとポンコツだったりするのが、ラウラレンティアという女性である。
ここまで分かっていて、何もしないのも決まりが悪い。体の中のナノマシンが勝手に治療してくれるだろうが、それでも応急処置はすべきだろう。俺は救急箱を片手にキッチンに向かった。
「ん? ああ、わざわざ悪いな」
こちらの存在を認めた中佐が、左薬指を差し出してくる。
俺が傷の処置をしようとすると、彼女は「そうじゃない」と言わんばかりに傷口を押し付けてくる。それでようやく「指を舐めろ」という意思表示である事を理解した。
「……ん」
躊躇いはなかった。俺は舌先で中佐の指を舐める。背徳的な気分になりつつも、努めて舌は休ませない。
口の中に溢れる鉄分。とてもではないが飲めたモノじゃない。ハッキリ言ってしまえば、不味いと言えるだろう。でも吐き出すことだけはしなかった。だって中佐は期待している。
「いい子だ」
血を全部舐めきったら、唐突に頭を撫でられた。
子ども扱いされてるようで少し気に食わないが、事実この肉体は幼子そのものなので文句は言えない。何より惚れた弱みである。彼女のすること為すことが一々愛おしくてたまらないのだ。
あ、でも傷口を舐めたままにするのは普通に汚いので消毒する。ついでに治療キッド(キット?パッド?)を貼って、応急処置は完了である。
「ありがとう」
別に大した事はしていない。でも中佐にお礼を言われると嬉しいのは事実。小さくはにかむ中佐につられて、俺も笑みを浮かべて見せる。
「さて、肉を焼くから向こうで待ってくれ。今日は期待していいぞ」
そう言って中佐は調理に戻った。先ほどミスを犯したとは思えないほどの手際良さ。その事実に僅かばかりの違和感を感じつつも、俺はその違和感を敢えて無視したのだった。
★
中佐にペットのように愛でられる日々は思った以上に退廃的だった。
軍務に明け暮れて毎日出社する中佐。だが彼女は絶対に2日以上家を空ける事はなかった。しかも2時間に一回は連絡を入れてくれるので、寂しさとは無縁の生活だった。
しかしどうも落ち着かない。多分、中佐の隣にいる時間が極めて少ないからだろう。
前世も、そのまた前世も。俺は常に彼女の傍にいた。それが当たり前の生活だった。時には互いの背中を預けて死線を潜ったこともある。
このまま二人で腐りきって、どろどろに融け合う生活も悪くないと思う。だがそれは些か刺激に欠ける。というか、いい加減『俺』を見てほしい。
「ふ、たじ? これはどういう」
仕事で疲れて就寝中だった中佐の上に圧し掛かる。どうせガキの体躯である。常日頃鍛えている中佐にとっては重りにもならないだろう。
「俺は、フタジじゃないよ」
ひょっとすると今世でまともに喋ったのは、これが初めてかもしれない。
「何、言ってるんだ。お前はフタジだ。顔も、声も、全部一緒で」
明らかに動揺した様子の中佐。全部同じ、それはそうだろう。なんせこの体はフタジ・ミドウのクローンなのだから。同じになるように設計された使い捨ての兵器だ。
「でも俺はクローンだ」
「……違う」
「違わない。イータという名前もある」
「―――違うっ!!」
暴れようとする中佐の身体を押さえつける。
怠惰な生活が長引いて忘れていたが、確かこの肉体は『最強のワンオフ』を目的にデザインされたのだった。
中佐はしばらく抵抗を続けていたが、それが無意味と悟ると途端に大人しくなった。瞳からは生気が失われ、その内「ごめんなさい」と謝罪から切り出した。
「……君が、初めて微笑んでくれた時、脳裏に彼らの顔が思い浮かんだんだ」
中佐の言う彼らが誰かは分からない。フタジやアルファ、もしかすれば俺の知らないクローンの事かもしれない。だとしたら少しだけ嫉妬する。
「皆、私のために死んでくれた。でも違う。死ぬべきだったのは、私の方だった」
そんな事はないだろう。むさ苦しい男と妙齢の女性。どちらが生きるか死ぬかだなんて、結局はその時の状況に依る。そしてあの時の判断は今でも合理的であったと考える。
「ねぇ、辛いよ。辛くてどうしようもないんだ。手首を何度切ったか覚えてない。ロープで首を括ろうともした。でもそんな事をしてしまったら、何のためにフタジとアルファが命を投げ出してくれたのか分からなくなる。はは、酷い話だろう? 自らの油断が招いた死を都合良く解釈してばかりで、自害する度胸すらないんだ」
いつものヒステリックな声音ではない。どちらかと言うと、懺悔と言うべきか。中佐は胸の奥底で抑えていた冷ややかな想いを暴露する。だから俺は黙って耳を傾けていた。
「……もう、嫌なんだ。なんでフタジもアルファも、こんなどうしようもない女を命懸けで救ってしまったんだ。早く私も楽になりたい。早く私も、二人の所に、いきたいよ」
瞳一杯に涙をため込んで吐露する言葉は、あまりにも切実だった。彼女が真面目で、融通が利かないのは分かり切っていた事なのに。どうして俺は前世の最期であんなことを言ってしまったんだろう。こんなの唯彼女を縛り付ける呪いでしかない。
しかし自分の不用意な一言が中佐を根本から刻んでいるのだと思うと、酷く倒錯的な快感を覚える。或いは愉悦、と言えるだろう。
「……すまない。君を二人と、重ねていた」
知っている。そして今、合点もいった。これは俺の撒いた種であるとも。
「もう、どうにでもしてくれ。そうだな、君の望む事なら何でもしよう。君を傷つけた研究者を殺せと言うのなら、なるべく残虐な手法で殺して見せる。いや、そもそも私が目の前で死ぬべきなのかな?」
勝手に話を進めていく中佐。俺の反応が怖いのだろう。何を言われるか分からない。もしそれが拒絶の言葉であったら、きっと彼女の心は今度こそ壊れる。
だから俺が言うべき言葉は―――
「逃げないで下さい。貴女のすべき事はそんなことじゃないでしょう?」
「……え?」
「俺を見て下さい。俺は中佐を愛しています。なら中佐は?」
俺の言葉が信じられなかったのだろう。目を大きく見開いて驚愕の表情を中佐はつくる。
「実験体として使いつぶされる筈だった俺を救ってくれたのは貴方だ。俺はもう貴方なしでは生きていけないのに、当の本人から死にたいだとか、辛いだとか言われる気持ちが分かりますか?」
ここまでくれば諸共である。死んだら転生する事にかこつけて、俺は随分と彼女を傷つけてしまった。どうしようもないのは俺の方で、罰を受けるのは俺で然るべきだ。
「俺は貴方の言うことならなんだってします。きっと、その二人も俺と同じ気持ちだったんじゃないかな」
ま、事実そうなのだが。ぞっこん度合いで言えば俺も中佐に負ける気はない。互いが互いを依存しているのなら、結末は決まり切っている。
俺の言葉に感銘を受けたのか、はたまた絶望したのか。中佐は「どうして」と言葉を零し、だがその先を続ける事はなかった。ただ静かに頷いて―――
「……私と一緒に、堕ちてくれるだろうか?」
中佐は欲望のまま快楽の海に溺れる事を選んだのだった。
ー主人公ー
実験体イータとして三度目の転生を迎える。ついに本性を現した感じ。というかメンヘラなのは主人公の方じゃなかろうか。
『最強のワンオフ』とかいう頭の悪い計画の検体。そのおかげで体は少年でありながらも既にヒロインに迫るスペックを誇る。なお負荷のかかりまくる投薬を何度もされて右腕と左目が破損。でもまぁこの世界の技術なら義手も義眼も性能凄いので問題なし。というか、右腕を色々改造したらビームソード出したりガトリング銃になったりして、ロマンが広がりそう。
ーヒロインー
アルファ君が死んでからはより一層仕事に励みようになる。感情という感情が死んで、殺戮マシーンと化していた感じ。主人公IN以外のクローンは機械的な反応しかせず、それを造ったのが自分だと実感させられて自己嫌悪に何度も陥る。感情は失っても心までは失くせないので、凄まじい速度で摩耗が進む。
そんな最中に出会ったのがイータ君。実験中のイータ君にニコッとされてコロッと落ちる。そんでもって計画責任者としての権利を遺憾なく行使して主人公をペットにする。多分、戦場に出したらまた死んじゃうと思ったからじゃないかな。
最後の「墜ちてくれるか」発言で、ようやくフタジ君とアルファ君の死から吹っ切れた感じ。その代わり依存先がイータ君に変わっただけなので、イータ君が死んだら今度は絶対立ち直れない。立ち直ったというよりも、腐り切っただけなのかもしれない。
アンケートを取っておきながらおねショタにならなかったことをここにお詫びします。
でも自分がこの話を書き始めたころは愛玩動物の方が票があったんや(言い訳
次回で終わらせるつもりです。ハッピーエンド(当社比)の予定。