労働。それは僕が一番嫌いな言葉である。働かずに生きていたいし、もっと言うならベットの上から動かずに生活したい。しかし現実はそう甘くはない。働かなければ衣食住は得られないし、そのままぽっくり天に召されてしまう。そこでたどり着いた答えは、高校には行かずに、いわくつきの安いアパートに住み、掛け持ちアルバイターとして働き人生を謳歌することである。僕の生き方は万人には定職につかない親不孝者として映るだろう。しかし、考えてほしい。企業に就職したところで上の役職につかなければサービス残業という名の地獄の拷問があり、保険料や、年を取れば介護保険料を給料から引かれ、休日返上で嫌いな人間に接待しなければならない。これの何がいいのか僕には理解ができない。また一軒家を買ったところでローンという名の借金を背負い、固定資産税とかなんとかいう税金を払わなければならない。だからあえて言おう。労働と世間体はクソであると。とりあえず世間でいう青春の真っ盛りの高校時代に相当する3年間を1日14時間(休日なし)になるようにバイトを5つ掛け持ちし、稼ぎまくった。稼いだ金額が1000万に到達したところでバイトを2つにし週2だけバリバリ働き、残り5日はダラダラするという生活を3年間続けている。そして今
「すまない結城君!君には数えきれないほど助けてもらったが、店長が私ではなくなる以上あらたな経営方針にあらがえないのだ。本当にすまない」
「いや~ごめんね~今月でやめてもらうね。さすがに正社員じゃないのに長期で雇うと人件費がかさむから削減として!」
僕こと
1杯目 職探し
「なあ結城」
「なんだい昴晴」
「今日って9月28日だよな?」
「?そうだけどそれが?」
なんの変哲もない月曜日。僕は双子の兄である高嶺昴晴に朝早くから意味不明な質問をされた。
「そうか…じゃあ、あれは夢か?」
「なにがあったのかは知らないけど、そんな確認のために、こんな朝っぱらから僕に電話してきたの?」
いつもなら昼過ぎに目覚めるのに双子の昴晴に鬼電でたたき起こされた。
「ん?そうだけど。」
「『寝る間も惜しんで寝る』が信条の僕に、いい度胸だね」
軽く殺意を覚えた。僕は寝るのが好きだが、寝て起きて寝るを短期間で行えない。つまり一度起きたら数時間経たないと眠れない。
「それはすまないと思ってるけど確認しなきゃいけないことだったんだ」
「そーかい。罰としてバイト紹介しろ」
「俺だって探してんだよ。といううわけで残念。……うん?ねこ?」
ブチ
なんか聞こえたけど無視。というかコンビニのバイトをクビになって結構立つんだが、昴晴のやつ、生活費大丈夫か?
「しかし、金はあるからまだしばらくは生きていけるけど、そろそろバイト見つけないと。昴晴にも頼んでみたものの、あいつもいろいろきついだろうし」
大学生で一人暮らし生活費は自費とくれば、きついだろう。
「父さんのやつ4か月の家賃滞納はいかんだろう。僕が肩代わりしてやってもいいが昴晴は拒否るし」
僕たちの父さんは、海外で風景画を描く画家の仕事と店舗のコンサルタントの仕事を兼任している。海外というのもあるが、仕事を始めて集中すると周りが見えなくなるのが玉に瑕だが、割と自由にすることに寛容なところは尊敬できるところでもある。
「それにしても、父さんクライアントにかなりケチ着けられてんな。今年中に何とかなればいいけど…」
父さんの仕事はどうしてもパトロンありきなため、割と面倒な依頼やケチをつけられるようなことも多々ある。そのため修正に次ぐ修正なんてざらだ。まぁ、とりあえず僕は僕の心配をしよう。
「バイト探しはイン〇ィード、バイト探しはインディー〇」
とりあえず先週すべてのバイトをクビにされたため、僕はすぐにバイトを探さないと。しかし、いまだに布団から出られずにいた。もはや寝ることが人生なため、布団は俺の恋人なのだ。だが、人間生きていればお腹がすく。そうすると必然的に布団から出なざるを得ない。その時、天井から青白い蝶が舞い降りてきた。
「お、ラッキー」
そして僕は降りてきた蝶を、
「
パクリと食した。
この青白い蝶はときたま上の階から出現するものである。この蝶を見て以来、外でも飛んでいる蝶を多々見る。そしてある時何を思ったのか僕はそれを食べた。すると意外に蝶がおいしいことに気づき、またお腹にたまるのだ。そのため定期的に下りてくるその蝶を非常食として食べている。さすがにたくさん食べると体に悪そうだから、週に3回しか食べていない。
「うーん美味」
「もしもし結城か?」
「なんだいこんな時間に」
「バイト紹介しようと思ってな」
「まじ?」
「まじ」
「どうもこんにちは高嶺結城です。昴晴の紹介で来ました今日はよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします。」
昴晴の紹介で来てみたバイトは喫茶店のバイトだった。以前喫茶店でバイトしていたのを覚えていた昴晴がそれなら僕も雇ってくれないかと掛け合ってくれたらしい。だがまさか紹介されたバイトが美人がいるメイド喫茶だった件について。
「おい、昴晴やい」
「なんだい結城君」
「僕は喫茶店のバイトだと思ってきたんだが、メイド喫茶といわれた覚えはないぞ。しかも美人だし」
「まあ、言ってないし。というかメイド喫茶じゃないけど」
「馬鹿な!メイドがいるじゃないか、しかもアキバのパチモンじゃなく割とガチでいそうな」
何だあの奥ゆかしいメイド服を着た黒髪美人はしかもクール系。隣の白髪の美人はメイド服を着てはいないが、おっとり系な感じで良い。おそらくドジっ子属性があるな。
「これそんなに変かな?」
「いえいえ、そんなことありませんよ。なつめさんとってもお似合いです。」
「うん似合ってるから大丈夫。こいつが過剰反応しただけだから」
「なんで僕が悪いみたいな反応なの昴晴さんやい」
納得がいかない。絶対こいつも最初は同じ反応しただろうに
「にしてもこうして接してみるとほんとに双子だって感じるわね」
「どうゆうこと四季さん?」
「どうゆうって、高嶺もおんなじ反応したじゃない」
やっぱり同じ穴の狢だった。
「コスプレ好きの血は争えないわけですか~にしし」
「「こんな奴と一緒にしないでください」」
「ほら息ぴったり」
失敬な。性癖にするほどマニアックではないし、お盛んでもない。こんな童貞と一緒にするな。俺も童貞だがな。
「というか面接とかないんですか?一応履歴書持ってきたんですが」
「あ、そうでした。以前喫茶店でバイトされてたという話を高嶺さん…あぁどっちも高嶺さんですね」
「一応僕弟ですから高嶺弟って呼び方でも構いませんが…」
「さすがにそれは変ですから普通に昴晴さんと結城さんと呼ばせてください」
「まぁそれでいいなら」
確かに姉御系の人に高嶺弟と言われるならば、まだしもこのおっとり系の人に呼ばれると違和感があるな。
「ありがとうございます。実はまだこの喫茶店はオープンもまだでして、人も足りない状況なんです。なので即戦力としてもうすでに採用させてもらいました。昴晴さんの身内の方ですし雇うには問題ないかと思いまして」
「まじすか」
「まじです」
この人の昴晴に対する信頼何なの?彼女かなんか?しかしそれなら僕に紹介ぐらいするはず?まあ細かいことはいいか。
「昴晴。あとでなんかおごってあげる」
「まじか」
「まじだ」
こんなにすぐ決まると思ってなかった。前に唐突に喫茶店をクビにされたから実際紹介でも駄目だと思って面接でいかにごまかせるかと思って練習したのがパーになったが受かれば何でもいい。
「では、改めまして私は明月栞那です。そしてこちらが」
「四季なつめです。高嶺君…昴晴君と一緒の大学の同級生です。よろしくね」
「高嶺結城です。これからよろしくお願いします。」
「ところで結城君は同じ一星大学なの?」
「いや、僕大学どころか高校も行ってないんでただのフリーターです。」
「えーと…」
四季さんの顔がやっちまったというような感じでしかめた。珍しいなこの話をして呆れた顔しないなんて。
「なにかあったの?その…いじめとか?」
あぁーそうゆう勘違いか~別に人間不信とか社会復帰のためにやってるわけじゃないからそうではないんだけどな。
「いや特に普通の生活を営んでますよ昔も今も」
「四季さんコイツ就職したくないって理由で高校にもいかなかっただけだから」
ここでうれしい昴晴フォロー。
「そうなの?」
「だって高校いってからフリーターになって、もし就職しろって言われたら就職できる可能性は上がるけど、中学卒なら今のご時世、田舎に行かない限り就職できないからね」
「なんというか、ずいぶんと思い切りましたね。」
「中学時代に周りと違う道に進むのは結構勇気がいると思うのだけれど」
「僕は、雨風しのげて、飯が食えて、布団さえあれば他に何もいらないですから。」
「無欲ですね~人生楽しめてます?」
「僕は中学時代、教師や職場体験雑誌やネットなのどの体験談を見てこう思いました。」
「ずいぶん急ですね」
「労働はクソである」
「唐突な暴言」
「まあ大変ではありますよね」
「しかし、働かないなんていう考えはもっとクソです」
「ニートはいやよね」
「お金がないと生きていけませんからね」
「どっちもクソならより良いクソである労働の中でも楽であるフリーターという道を選んだのです」
「クソまみれね」
「昴晴さん。弟さん拗らせすぎじゃありませんか?」
「まあ普通に生きていけてるから何も言わないんだけど。」
「そして結論は!」
「あ、まだ続いてたんだ」
「人生クソである!」
「反社会的勢力みたいな演説なんだけど…」
「それに口もすごく悪いです」
「社会批判はそれぐらいにしろ」
失敬な僕は社会が嫌いなんじゃない世間体が嫌いなんだ。
「まあとりあえずまだ開店はできませんが役割やシフトなどなどの話し合いで度々お呼びすることがあるかもしれません」
「いいですよ基本午後はいつでも大丈夫です」
「わかりました。とりあえず今日のところはもう特にありませんが何か質問はありますか?」
「特にないです」
「では、日程は後日に今日はありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。」
「ミカドさん」
「なんだ?高嶺昴晴が連れてきた者の顔合わせはすんだのか?」
「はい。滞りなく」
「そうか。今度来た時には私も顔を出そう」
「そうしてください。ところでどうでした?」
「あぁ。高嶺昴晴のことは今のところ静観するようだ」
「そうですか良かったです」
「?何か他にも心配事か?」
「少しだけ。結城さんのことなのですが」
「高嶺昴晴の双子の弟か、蝶でもいたか?」
「そうではないのですが、昴晴さんほどではないのですが人生を楽しめてるとは思ってないように感じたのです」
「そうか、なら念のために様子を見に行くとしようか。もしかしたら住居などに蝶が現れているかもしれん。そうでなくとも高嶺昴晴の血縁ともなれば注視する必要がある」
「わかりました。」
バイトを紹介してくれたお礼として、居酒屋で二人で飲んでいた。
「いやーバイト先が見つかってよかったー。助かったぜ昴晴」
「いや俺も縁があっただけだ。」
「にしてもどんな縁だ?あんな美人とかかわりがあるなんて?」
「あ~いろいろあったんだよ」
「ふーん。まぁ何でもいいや」
家賃分ぐらい最低稼げれば。
「しかし、悪いなおごってもらって」
「いいって。バイト先を紹介してくれたお礼だ。黙って感謝されろ」
「わかったよ」
「あー動きたくない動きたくない」
男同士は酒が進むからいけない。絶対女と一緒に飲んだら緊張して楽しめないからいやだ。
「酒はうまいけど次の日丸々つぶれるのが痛いな」
それにしても、
「ここのところ毎日いるぞコイツ」
また青白い蝶が部屋に舞っていた。ここ最近やけに頻度多いな?まあ食費が浮くからいいんだけど。
「まあ、腹減ってるしいいか」
今まで害があったわけでもないし。そう思い、口を開けパクリと食べた。
「うーん美味。」
「ミカドさん!今のは!」
「あぁ蝶が食われたな。」
「あれはもしかして」
「あぁ悪鬼食いだろうな。本人はおそらく何を食べているかわかってないのだろう。しかし」
「放置すれば蝶の意思に飲まれてしまうかもしれません」
「はぁ、兄弟そろって厄介な問題だな。虫喰の瞳ならまだ活用法があったものを」
「とにかく明日、昴晴さんも交えて話をしましょう。」
「そうだな」
誤字、脱字報告。感想、評価お待ちしてます。(切実)