好感度数値が見えるようになった。よく話す彼女達は〝13〟だった。泣きたい。 作:鹿里マリョウ
今回もヤンデレ要素が薄くなってしまった。次回はちゃんとヤンデレします。
ワイワイ、ガヤガヤ、騒がしい。その日、学校は平時と全く異なる熱気に包まれていた。大人から子供まで大勢の近隣住民を、この日の為にと準備してきた学生たちがもてなす。そう、遂に文化祭当日であった。
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「あはは、加杉くんおもしろーい」
「ははは、
「えー、私はー?」
「勿論、君も最高だよ、
「「きゃーー♡」」
現在僕は、響きあう笑い声を聞きながら飲み物を用意していた。
予想以上の繁盛に、飲み物の回転率も速い。僕は裏で忙しなく動き回る。
僕のクラスは、教室を布で仕切って、接待スペースである表と、厨房の裏に分けた形にしているのだ。
僕は当然裏、裏方である。広角さんの強い要望で、僕はお客さんから一切見えないここで飲み物を用意する係につかされた。一応ホスト姿ではあるものの、僕のこの格好は女子の何人かの好感度が一段階下がるほど不評だったのだから、人前に出さないように必死なのだ。
︎︎それにしても広角さんのお願い(脅迫)は凄かった。絶対に客前に出ないでねと何度も何度も言われた。
今も何処かで陰口を叩かれているかもしれない。そう考えると、言われてもいない悪口が聞こえて来る気がする。
「あはは〜☆スグっち芋っぽ〜ぃ☆」
メッチャ直接言われてた。驚くほど近くから直球の悪口が飛んできた。
コソコソ言うぐらいなら直接言えよ、という言葉を聞いたことがあるが、僕には当てはまらないみたいだ。是非陰口に留めて欲しかった。
声のした方を見ると、ウェーブのかかった金髪ロングを指先で弄りながら、茶良さんがニヤニヤとこちらを見ている。ちなみに僕のクラスのホストバーは、広角さんや茶良さんを含め女子も皆ホスト姿だ。茶良さんのホスト服、やけに様になってるな。
茶良さんの好感度はいつも通り、〝7〟である。ほかのクラスメイトが基本〝5〟以下だから、低いのに高い気がする。
「前髪もうちょい上げたら印象変わるんじゃないかな〜☆」
茶良さんが跳ねるような足取りで距離を詰め、僕の前髪に触れた。
「────っっ!???」
「え〜とぉ☆これをこ〜して」
何やら僕の髪をセットしてくれているようだ。近い、めっちゃ近い。仄かな香水の香りを感じる。ひっちゃかめっちゃかに目線を泳がせるが、どうやっても茶良さんが視界の中に入り込んでしまう。
「ん〜、ん〜、ん〜〜・・・・・・あっはは☆ど〜やっても芋っぽいや☆」
え?・・・・・・そ、そんな面と向かって言うことなくない?陰口でしてよ。本当に泣くよ?
「あはは〜☆ごめんごめん。スグっちにもいーとこはあるからさ、そんな顔しないでよ〜☆ほら、例えば〜・・・・・・ん〜、ん〜と、ん〜〜と・・・・・・あっ!弱そうなとこ〜☆」
あ、泣いちゃう。
「わー、わーー!泣かないでスグっち!こらえて〜!あっ、はいコレ!あげる!飴ちゃん☆」
茶良さんはワタワタとポケットをまさぐり、その中から可愛く包装された飴を取り出すと、僕に手渡してきた。
︎︎下げてから上げられたせいか、こんな小さな球体でもなんだか嬉しく感じられてくる。そのおかげで、ギリギリのところで涙は零れなかった。
「うんうん☆飴ちゃん舐めて元気だして☆」
「あ、ありがとうございます」
お礼が必要なのかは分からないが、一応言っておく。もう悪口言われたくない。僕の頭には茶良さんが恐怖の対象として認定されていた。
言われた通りに飴を口に入れる。
「・・・・・・」
・・・・・・緊張してて味がわからない。
︎︎僕レベルになると、人前での飲食というのはそれなりの難易度になってくるのだ。
何かを考えているのか、茶良さんは飴を舐める僕を無言で見つめてきた。作法の監視でもしているのだろうか。飴舐める時の作法って何?
居心地が悪く、いつも通り目線を下に傾ける。しかしそこにはホスト服を押し上げる二つの山がある訳で。それを捉えてしまった途端、やけに申し訳ない気持ちになって再び目を背けた。依然無言の茶良さんを前に、口内で転がる飴と連動して僕の視線も四方八方に転がっている。
︎︎そんなことをしているとようやく、茶良さんが口を開いてくれた。
「スグっちさ〜、目ぇ合わせる練習してみよっか☆」
「目を合わせる練習?」
「そっ☆スグっちの芋っぽさっていつもキョドってるのが原因だと思うんだよね〜☆」
︎︎また地味に傷つくことを言われてしまう。
でも確かにその通りかもしれない。目を合わせられない陽キャというものは聞いたことがない。逆に目を合わせられる陰キャも聞いたことがない。つまり、目を合わせられるか合わせられないかが、陰と陽を分ける分水嶺なのではないだろうか。・・・・・・しかし、僕の人見知りは幼少期から刷り込まれたもので、今更練習してどうこうなるレベルではない気がする。────同時に夢想する。キラキラした、沢屋加杉くんのような自分。沢屋くんみたいになれば、皆からの好感度爆上がりも夢ではない。
「や、やや、やってみたいです」
返答が既にキョドってしまった。たぶんめっちゃ必死でキモイとか思われてる。でも許して欲しい。僕にとって人にお願いをするというのは、それだけで一大イベントなのだ。しかもそれが陽キャにしてくださいなどというお願いなら尚更。正直とても恥ずかしい。
「おっけ〜☆じゃ、目ぇ離さないでね〜☆」
俺は意を決して茶良さんの双眸に視線を定めた。視線がぶつかった瞬間反射的に逸らしてしまいそうになるが、手を固く握って何とか耐える。
変わりたいという想い、茶良さんの期待に応えて好感度を上げたいという希望、そして何より失敗したらまた罵倒されるという恐怖、これらが合わさり僕は自分の意思で茶良さんを見続けた。
この〝自分の意思で〟ということが重要である。今まで何度か長時間目を合わせたまま制止するという場面はあった。しかしそれはどれも、逸らしたくても逸らせない状況ゆえだ。
成長している。僕は今成長している!
「えいっ☆」
内心を自身への喜びで満たしていたその時だった。明るく、やけに楽しそうな掛け声とともに、茶良さんの双眸が急接近してきたのだ。
「────っ!!?」
反射で視線を弾かなかったのは完全に偶然だった。意思が強かったとかではない。というかその瞬間、僕の思考は吹き飛んでいた。
「あっはは〜☆スグっちの目ぇ、近くで見ちゃうよ〜☆・・・・・・じ〜〜☆」
ともすれば互いの体温すら伝播しそうな至近距離。そんな状況が唐突に襲ってきたものだから、僕の脳内は真っ白に染まっている。
その間、茶良さんが僕の瞳をじっと覗いてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あはっ♡」
︎︎〝7〟→〝10〟
茶良さんから漏れた小さな笑い。そして上がった数字。僕の脳が、再稼働を始める。
︎︎しかしそれは、茶良さんが更に一歩詰め寄ってきたことで、またもや混乱に引き戻された。茶良さんと体が触れる。その顔は、広角さんが時折見せる猛獣の笑みによく似ていた。
「・・・・・・・・・・・・と、危ない危ない☆ついスグっちのこと襲いたくなっちゃったよ〜☆」
︎︎〝10〟→〝8〟
茶良さんがようやく身を引いた。と同時に数字も下がる。
︎︎顔には既にいつもの明るさが戻っており、先の猛獣は見えない。しかし細められた瞳の奥に、微かに不穏な澱みが残っている。よく分からないが何となくそう感じた。
「う〜ん、スグっちとこれ以上一緒にいると我慢できないかもだしぃ、あーしは表に戻っとくよ☆」
僕の思考がやっと戻ってきはじめた時、茶良さんは仕切り布の向こう側へと行ってしまった。
︎︎・・・・・・ぽつんと残された僕。ようやく明瞭になった頭で、今の今までの自身の行動を一つ一つ振り返る機会がやって来た。
────最初のうちは自分の意思で目を合わせていた。しかし茶良さんの急接近以降はもはや僕の意思ではない。でも茶良さんは僕が頑張っていると勘違いしたのだろう。その証拠に好感度が〝7〟から〝10〟へと上がっていた。・・・・・・問題は、その後だ。好感度が下がって、茶良さんから襲いたくなったなどと言われたこと、これが問題だ。つまり僕は、間近で見ると殴りたくなるほどイラつく顔を持っているということ。
す、救いがない。
︎︎悲しすぎる事実に打ちひしがれる。
どうしようもなくなった僕は、やがて現実逃避を裏方作業に求めることにした。
︎︎横に広がるテーブルを見る。大きなペットボトルジュースが並べられたテーブル。僕の仕事はオーダー通りにコップに注いでいくだけだ。
︎︎さあ、切り替えて仕事を再開しよう、辛い現実なんて忘れてしまおう、と空元気で意気込んだところで、別のものに目が止まった。スマホだ。テーブルの上に置かれた、僕のスマホ。そういえばポケットから取り出したまま放置していたのを忘れていた。
︎︎スマホを手に取る。次いで画面を見ると────、
︎︎秋葉
︎︎未読284件、不在着信112件
︎︎僕は死を覚悟した。
︎︎◼️◼️◼️
「はふ〜〜☆危ないところだったぁ〜☆春香のこと裏切りたくないし我慢できて良かったよ〜☆あーしえらいっ☆・・・・・・いやまあ、あーしがこんな事になってんのも春香のせいなんだけど。はぁーあ、春香ってばさっさとスグっち襲っちゃえばいいのに。じゃないとぉ〜──────
──────あーしそろそろ、我慢できないかも☆」
矢羽猪直来は めをあわす を覚えた
♡はアリなのかナシなのか問題
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モハメド・アリ
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アリだけど多すぎるのはナシ
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どっちでも
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モハメド・ナシ