好感度数値が見えるようになった。よく話す彼女達は〝13〟だった。泣きたい。   作:鹿里マリョウ

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妹に怒られる昼(裏)

 ──私には秘密がある。兄さんには言えない秘密。

 

 

「早急にお風呂に入ってきてください。兄さんを問い詰めるのはその後にします。しっかりと、隅々まで洗うんですよ?」

 

 

 兄さんを風呂に行かせた後、私 、矢羽猪秋葉はこっそりと洗面所に侵入する。

 

 その時には既に、普段兄さんに見せている〝兄嫌いの妹〟という仮面が剥がれていた。

 

「・・・・・・兄さんから、あの女の匂いがしました。辺和夏海、あの雌犬が。下品に擦り寄りやがって・・・・・・」

 

 腹の底から沸き上がる激怒の熱が、思わず口から零れる。

 幸い、シャワーの音が少しの物音はかき消してくれた。

 

 

 ──そう、端的に言ってしまえば、私は兄さんが超大好きなのだ。崇拝しているといってもいい。

 

 

「兄さんが汚れてしまいます・・・・・・それはダメです。兄さんは崇高な存在なんです。私が守らなくては」

 

 洗濯カゴの中から、一番上のワイシャツを取り出す。

 先程まで兄さんが着ていたワイシャツ。

 食虫植物の甘い蜜に誘われる虫の如く、無意識のうちにワイシャツを掴む手が持ち上がっていく。

 白い布地に、鼻先を埋めた。

 

「〜〜〜〜っっっ♡♡♡」

 

 瞬間、脳まで突き抜ける魅惑の香り。

 視界がフラッシュをたかれたように点滅し、平衡感覚すら怪しくなる。

 

「にいさん♡これっ、すごいです♡」

 

 兄さんの匂いが、頭の奥までガツンと響いた。

 

「にぃ、さん♡にぃさんっ♡またおかしくなっちゃいます♡♡いつもみたいに、にいさんにあたまこわされちゃいます♡♡」

 

 毎日欠かさず兄さんの脱ぎたてを嗅いでいるのだが、永遠に慣れが来ないのは何故なのだろう。

 

「はぁぁ♡すぅーーー♡すぅーーー♡・・・・・・・・・・・・チィッッッッ!!」

 

 しかし唐突に、本当に唐突に、蕩けきった瞳が一転、凄まじい舌打ちを繰り出した。

 恍惚から一転、ふつふつと煮え滾る怒りに奥歯を噛む。

 

「辺和、夏海ィ!!!!」

 

 兄さんの素晴らしい香り。

 簡単に私の脳みそを壊し得る魔性の香り。

 そんなこの世で最高の価値を有するとさえ言える至高の香りに、穢れが混じっている。

 卑しい雌犬の獣臭。

 兄さんの香りが良すぎるが故に、その不純物がこの上なく不快だった。

 

 ・・・・・・許さない。

 アイツさえ居なければ、私は今頃完膚なきまでに兄さんの匂いに叩きのめされて、破壊されて、グチャグチャにされて、染め替えられて、狂わされて、支配されて、理性も知性も吹き飛んで、正真正銘兄さん以外何も見えない傀儡になることができていただろうに。

 兄さんに徹底的に壊される。一つの至高である。それを邪魔された。最早生かしておけない。兄さんを汚す者が生きていていいはずがない。

 

「兄さんは私が守ります」

 

 ワイシャツを自分の体に押し付けて、アイツの匂いを上書きする。

 

「他の雌共に、穢させるものか・・・・・・っ!!」

 

 固く誓い、

 気を、引き締めた。

 

 ──それにしても、私は今兄さんとドア一つ挟んだだけの場所でこんな痴態を晒しているんですね・・・・・・♡♡

 

 今一度現状を見直し、

 気が緩んだ。

 

 

 

 ──幼少期の私は、愚かにも兄さんのことを嫌っていた。見下していた。ああ、思い出したら殺したくなる、あの頃の自分を。しかし軽蔑はやがて愛情へと変わり、そしてあの日、崇拝へと昇華した・・・・・・。

 

 

 

 兄さんのワイシャツの匂いを私で上書きした後、私の部屋にストックしてある兄さんの部屋着を洗面所に残して出た。

 それもまたしっかりと体に押し付けてマーキングした物だ。兄さんの匂いと私の匂いが混ざるところを想像すると身体が熱くなる。・・・・・・あとこれは不純物では無い。何故なら兄さんと私は運命で結ばれているからだ。寧ろ正しい状態。

 

 さて、次はリビングでやるべきことがある。

 

 乱れた息を一度整え、リビングに入った。

 他のものには一切の目もくれず、〝ソレ〟へと一直線に進む。

 コーラである。兄さんの、飲みかけ。

 

 兄さんは慈悲深い性格で、時たまこうして恵みを与えてくれる。

 その飲みかけ、食べかけのものに私は毎度口をつける。

 間接キスなどというちゃちなものでは無い。この行為はお互いの愛を確かめ合う愛情表現なのだ。

 

 兄さんと溶け合ってひとつになる感覚。何にも変え難い快感。本当に、いつも壊されそうになってしまう。ギリギリで踏みとどまれる私は凄いと思う。

 

 ・・・・・・さて、そろそろ兄さんもお風呂から上がってくる頃合でしょう。やるなら急がなければなりませんね。

 

 

 ──深呼吸。精神を落ち着けて、兄さんの全てを感じるよう全神経を研ぎ澄ます。

 

「──んっ」

 

 コーラを、飲んだ。

 

「っっっ♡♡」

 

 広がる風味。口が幸せに満たされる。

 

 くぅっ♡き、きたっ♡♡いま♡兄さんと♡ひとつになってるぅ♡♡兄さん♡♡にぃさん♡♡

 

 あぁ、コレだ♡やはり、この頭を壊されそうになる感覚、たまらな────

 

 パチンッ、と口の中でなにかが弾けた。

 

「あぇ?」

 

 瞬間、脳天まで、重い快楽の爆発が轟いた。

 

 くぅふッ!!!??!??・・・・・・はぎゅぅふッッ♡♡♡

 

 えっ♡♡な♡なにこれ♡しらなぃ♡こんな♡きもちいいの♡♡しらなぃ♡♡

 

 パチパチと、口の中で快楽の花火が絶え間なく爆発する。

 

 あああぁぁあああぁ♡♡♡たんしゃん♡たんしゃんだめっ♡たんしゃんしゅごい♡♡くちのなかで♡にぃさんはじけてましゅ♡♡

 

 そう、コーラの炭酸が、彼女の口内を蹂躙していた。

 彼女は、毎回お茶やジュースで自我崩壊寸前まで行っていたのだ。コーラなんて刺激の強いものを飲んだら・・・・・・。

 

 しぬっ♡しぬっ♡♡にぃさんにころされりゅっ♡♡脳みそぐちゃぐちゃに溶かされて♡もどれなきゅなりゅっ♡♡にぃさんにころされて♡♡にぃさんなしじゃ生きれない廃人にうまれかわっちゃいましゅっ♡♡♡

 

 いや、そうはならんやろ。

 

 あああ♡♡だめっ♡廃人なんかになったら、もうにぃさんにさからえない♡♡にぃさんの命令ぜんぶきく奴隷になる♡♡家族の関係から、主従関係に格下げされちゃう♡♡そんなのやだ♡ぜったいやだ♡あっ♡♡でも♡♡むりだっ♡♡むりっ♡こんなのがまんむりっ♡わたしここでおとされりゅんだ♡♡にぃさんにころされりゅんだ♡♡あぁ♡きっとにぃさんが私に堕ちろって命令してる♡♡だってこんなにきもちいいもん♡♡蔑んだ目で見下しながら♡堕ちろって♡♡あああ♡♡堕ちます♡♡♡矢羽猪秋葉♡今日からにぃさんの奴隷です♡♡♡♡絶対服従を誓います♡♡♡とりかえしのつかない屈服宣言します♡♡♡たくさんこき使ってくだしゃい♡♡ああ♡おちる♡おちるぅ♡♡にぃさん♡♡にぃさん♡♡♡

 

 

 理性を手放す。もう、二度と戻ることは無い。しかし引き換えとして、この世のものとは思えない快楽を得られるだろう。

 矢羽猪秋葉が、堕ちる。

 ──その、寸前。

 

「あれ、服だ」

 

 洗面所からの呟きを、耳が捉えた。

 

 ──あっ。

 

 火を灯したのは、微かな未練と絞りカスの理性。

 兄さんの奴隷に叩き落とされるのは幸福の極みではあるが、同時に兄さんの妹という立場が崩れ去る恐怖もあるのだ。

 そしてその、私の中の〝妹〟が、霞に消えようとしていた最後の理性が、〝兄〟という存在の再認識により、今まさに手から飛び立つ私そのものを死に物狂いで捕まえた。

 

 何とか、本当にギリギリで、私の理性は踏みとどまる。

 

 ──が。

 その結果、もっと悲惨なことが起きてしまった。

 

 本来、己が尊厳全てを贄に得られる絶大な快楽。

 ギリギリ過ぎたのだ、理性を取り戻すのが。私の脳は、既に私が尊厳全てを投げ捨てたという信号を全身へと送信してしまった後だった。

 つまり何が言いたいかと言うと、その快楽が襲ってくるということだ。

 しかも、さらに、その上、あろうことか、取り戻したての理性とは、いわば眠りから覚めた直後の脳と同じ状態。まだ、上手く働いていないのだ。そういった脳は通常の何倍も()()()()()。だってまだ狂えるほどの起動がなされていないのだから。

 

 そうして引き起こされるのは、本来狂ってしまうほどの衝撃が、決して狂えない状態の体に流れ込むという現象。

 

「こほっ♡♡♡♡」

 

 脳を直接殴られたような重い快感。

 如何ともし難い衝撃に、決して女子高生がしてはいけない表情を晒してしまう。

 

 まっへぇ♡まっへぇ♡しぬぅぅ♡ほんとにしんじゃうからぁああああ♡♡

 らめっ♡にぃさっ♡♡はやく♡くるわせてぇ♡♡こんなのたえられないぃぃ♡♡♡おねがっ♡しましゅっっ♡♡わらひのりせいぃ♡もてあそぶのらめぇぇ♡♡♡

 

 ホワイトアウトする視界。しかしその脳は依然として鈍らず、新鮮な快楽に蹂躙され続ける。

 私の中で、兄さんの存在がドンドンと肥大化していくのを感じる。愛が、膨れ上がる。

 

 にぃさ♡♡にぃさ♡♡♡つよっ♡♡つよすぎましゅ♡♡こんにゃの♡じぇったいかてましぇん♡♡♡

 

 〝15〟→〝16〟

 一つ、己の中で愛の枷が外れた気がした。

 

 あ゙っっ♡♡♡いまの♡しゅごっ♡♡あたまっ♡にぃしゃんに♡♡つぶされりゅう♡♡♡

 

 〝16〟→〝17〟

 

 あぎゅふっっっ♡♡♡んぅっ♡♡すき♡♡♡すきでしゅ♡♡♡にぃしゃん♡♡にぃしゃぁん♡♡♡

 

 いつの間にか、身体中の感覚が薄れ、ソファにへたりこんでいた。

 

 はぁーーー♡♡はぁーーー♡♡にぃしゃんぅ♡♡

 

 身体が限界を迎え、指一本すら動かないままソファに沈む。

 濁流のような熱が漸く引いていく。長い拷問がやっと終わるらしい。

 少しづつ息を落ち着かせた。

 時折快楽の残滓が脳天から駆け落ち、その度に身体を震わせる。

 

 ──んくぅ♡にぃさん♡すき、です♡はふっ、はっ♡愛して、ます♡♡

 

 ゆっくりゆっくりと、思考力が戻ってきた。だが、暫くはここを動けなそうだ。

 もうすぐ兄さんもリビングに来てしまうだろうし、急いで回復しなければ・・・・・・。

 

 

 ■■

 

 

 軽い瞑想に瞼を閉じること数分。

 熱い疼きを完全に抑えられた訳では無いが、何とか平静を保てるぐらいには復活した。

 と、ちょうどそこで、リビングのドアが開く。

 当然出てきたのは、私の匂いが染み込んだ服を着る兄さん。

 

 ・・・・・・っ♡

 

 ──はっ!?危ない、風呂上がりの兄さんに悩殺されるところでした。

 

 一瞬で沈めた情欲がぶり返しかけた。

 集中しなければ直ぐに持ち上がってくる口端を努めて押し下げ、内心を悟られないようにする。

 

「な、なんで上がってるんだ?」

 

 はぐぅっ♡♡♡

 ま、まさか、密かにニヤけたことが、口端が上がっていたことがバレた!?

 だ、ダメです!そんな事になったら、家族に欲情する変態の烙印押されちゃいます・・・・・・♡

 

「・・・・・・・・・・・・何を意味不明なことを言ってるんですか兄さん。いいから聞いてください」

 

 私は今ちゃんと言葉を発せられているだろうか?もしかしたらバレているんじゃないか、そんな考えが脳を鈍らせる。

 

「──はぁぁ♡♡・・・・・・前々から言っている通り、兄さんの学校内での行動は私の評価にも関わってくるんです。変に目立つ行動は控えて下さい」

 

 

 ・・・・・・

 

 

 結局、兄さんが部屋に戻るまで私が変態だという事実に気づいたのかは分からなかった。

 しかし、何はともあれ、今日も狂わずに耐えきれたのだ。

 毎日、私は兄さんに壊されそうになるが、ギリギリ耐え抜いている。

 耐えれば耐えるほど、壊れた時に襲い来る快楽の津波は大きくなることだろう。その日のことを夢見て、私は毎度正気を守り続けているのだ。

 

 ・・・・・・まあ、そんな私の精一杯の努力も、兄さんにただ一言「堕ちろ」と言われてしまえば、一秒とかからず崩れて消えるのだが。

 私が今まで我慢に我慢を重ねて積み上げてきた努力を、片手間に、手軽に、お構い無しに、まるで目障りな羽虫を払うかのような雑さで、いとも容易く潰されてしまう光景が、脳内スクリーンに映し出される。

 まずい、再度身体が火照ってきた。兄さん、素敵すぎます。

 

 ・・・・・・しかし、最近兄さんの衣服や飲み物から感じる快楽が増している気がする。

 もう、私が狂ってしまうまでそう時間は残っていないのかもしれない。

 その時が来れば、私の秘めた心も露見して、きっと兄さんに蔑まれてしまうだろう。そうして、その後、兄さんの命令がなければ何もできない私を、命令されればどんなことだってする私を、嘲笑しながらも便利なペットとして飼ってくれるのだ。

 

 その素敵な日々を夢想して、私は残り少ない理性を守る。

 

 だが、狂う前に、やっておかなくてはならない事がある。

 辺和夏海。奴を殺す。それと、今日の兄さんから感じたもう一つの雌の臭い。おそらく、兄さんのクラスメイトのあの女だろう。前に兄さんを欲情の篭った目で見つめていたことを覚えている。こいつも、生かして置いてはダメだ。

 兄さんに危害を加えそうな奴らは、一人残らず排除してやる。

 

 ・・・・・・だから、

 

 

 だから、それも終わって、いつかその日が来たら、思いっきり壊してくださいね、兄さん♡

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

「・・・・・・」

 

 暗い部屋で、複数置かれたモニターの画面だけが光っている。

 

「・・・・・・この子は、いつも通り、大丈夫そう、だね」

 

 ぽつりぽつりと、抑揚の乏しい声が零れる。女性の声だ。

 モニター群に写っているのは、紛れもなく、矢羽猪直来の家。

 その女は、矢羽猪秋葉が乱れる姿を、最初から最後まで見ていた。

 その上での、大丈夫という言葉。

 

 納得したように頷くと、その女は矢羽猪秋葉から目を離す。移した視線の先には、矢羽猪直来の姿。数台のモニターが、あらゆる角度から直来の部屋を写し出していた。

 その不気味な存在は、自室で過ごす矢羽猪直来をじっと見つめる。暗い部屋で一人、直来だけを見続けていた。

 

 

 

♡はアリなのかナシなのか問題

  • モハメド・アリ
  • アリだけど多すぎるのはナシ
  • どっちでも
  • モハメド・ナシ
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