好感度数値が見えるようになった。仲のいい彼女達は〝13〟だった。泣きたい。   作:鹿里マリョウ

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遅くなってすみません。今年は滅茶苦茶忙しくなりそうなので、更新ペースさらに遅くなると思います。来年になったら帰ってくるので、よろしくです。


タイトルなんも思い浮かばん

 朝、強い光が瞼を焼く。どうやら、珍しく早起きできたらしい。

 昨日見たあの悪夢が再来するとかもなく、至って健康的な熟睡だったからか、スッキリとした寝覚めだ。

 軽く尾を引く眠気を欠伸で振り払いながら、リビングに向かう。すると、奥のキッチンから包丁がまな板を叩く音が響いてきた。

 

「今日は早いんですね、兄さん。朝早くから兄さんの顔を見なければならないんて・・・・・・」

 

 早起きして怒られることある?

 

 リビングと地続きになっているキッチンを覗くと、やはりと言うべきか、〝17〟を浮かべる秋葉の冷気を纏った眼差し。ありありと拒絶の色示す眼光に、寝起き早々げんなりと気分が落ち込んだ。

 

「もうすぐ朝食の準備ができますので座っていてください」

「な、なんか手伝おうか?」

 

 今更だけど妹のご機嫌取りに努める兄って情けなくない?いや、まあ、今更なんだけど。

 

「は?兄さんに家事をやらせるわけないじゃないですか。少し考えたらわかるでしょう?」

 

 切れ目の双眸を一層細めて吐き捨てるように責めてくる。信頼の薄さが伺えるね。

 

「それに、兄さんの手がかかった料理を食べるなんて、想像しただけで震えてきます」

「・・・・・・え、酷くない?」

 

 本気で顔を青くして戦慄く秋葉に、お兄ちゃんは震えそうだよ。

 

 目尻を濡らしてテーブルの椅子に腰掛ける。

 包丁のトントンリズム以外に音のない気まずい空気を残して、時計の針が焦らすようにゆっくり進んでいた。

 

 

 暫くして、秋葉は白米やら味噌汁やら魚やらを持ってきて慣れた手つきで食卓を準備し始る。

 今日は和風の朝食らしい。

 

 流石の俺も悪いと思い、手伝おうと腰を持ち上げた。

 ・・・・・・が、秋葉に凄まじい眼光で制されて無言で再び腰を落とす。こわい。

 

 目の前に並べられていく和食の数々に、居心地の悪さを抑えて座るしか無かった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 またまた沈黙の時間の後、やっとのことで朝食の準備が全て完了。

 秋葉も俺の斜め前に座る。・・・・・・そんなに離れなくてもよくない?

 

 きっちりテーブル上で一番遠い席に陣取る秋葉。

 何気ない日常の嫌悪が実際かなり心に刺さるのだ。本当に心の底から拒絶していますと見せつけられているようで。

 

「・・・・・・何見てるんですか、さっさと食べてください」

「あ、おう」

 

 食事を、誰かが一家団欒の場だとか言っていた。ソイツはこの光景を前にしたらなんと言うのだろう。

 無言。

 悲しげに鳴る箸の音、それが響いてしまう程の沈黙である。

 なんと息苦しい場なのだ。

 ただただ気まずいだけの食事を、俺はいつもの様に急いでかきこみ、食べ終わった。

 

「ご馳走様でした・・・・・・」

 

 そそくさと食器を洗い場まで持って行く。

 

「──兄さん」

「・・・・・・なんだ?」

 

 食事中に秋葉から話しかけてくるなんて。珍し過ぎて反応が遅れてしまった。

 

「食器はそこに置いておいてください。勝手に洗われても迷惑です」

 

 最早この家で俺がしていいことを探すのすら難しいかもしれない。ここ俺の家でもある筈なんだけど。

 

「あ、はい、じゃあお願いします」

 

 低姿勢。低姿勢を意識するのだ。

 取り敢えず低姿勢でいれば人として大事なもの以外を失わないで済む。

 へへへっ、と薄く笑いながらコップに残った飲みかけのお茶を洗い場に捨てた。

 

「──ぁっ」

 

 飲みかけのお茶が水道に落ちる音に紛れて、とてもか細く、女の子らしい声が微かに聞こえた。

 

 ・・・・・・え?なんだ今の声。秋葉か?いや、あんな声を冷徹を押し固めたような秋葉が出すか。でも、確かに聞こえたよな。

 

「・・・・・・なに突っ立てるんですか。これ以上兄さんと同じ空間にいるのは限界なのでさっさと部屋に戻ってください」

 

 こちらには目線すら向けないで、秋葉は上品に箸を動かしている。

 その姿に、か弱さなど微塵も無い。堂々と、凛とした姿だ。

 やはり、先程の声は聞き間違いだったらしい。まだ寝ぼけているのかも。

 家を出る時間までまだ少しある。部屋に戻って二度寝しよう。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

「──兄さん・・・・・・♡」

 

 兄さんがリビングを後にした瞬間、私は表情筋の制御を手放した。

 

 ・・・・・・危ない。あともう少しで、兄さんの前で下品に蕩けた顔を晒してしまうところでした。

 

 兄さんが同じ空間にいる。それだけで自然と身体が反応する。

 特にあの時、私があさましくも兄さんの飲みかけのお茶を確保しようと画策した時。

 まるで私の心を見透かして、見下して、嘲笑うかのように、お茶を流しに捨てられた。

 私が喉から手が出る程欲したものを、目の前でいとも容易く散らしてしまう兄さん。

 理性が兄さんの気まぐれで転がされている。

 それを理解した瞬間、私は雑魚なんだと否が応でも再認識させられて、思わず兄さんの足元に土下座屈服宣言しようと思った。

 しかし、幸か不幸か、私はその時全身を流れる快楽の電流に腰が抜けていた。土下座以前に、椅子から移動することさえ叶わなかったのだ。

 もしも腰が抜けていなかったら、私は今頃兄さんの足元で無様に這いつくばって足を舐めていただろう。もしくは、四つん這いで椅子になっていたかもしれない。今までの鬱憤晴らしに、サンドバッグになるなんてことも・・・・・・。

 最高の妄想が頭を巡りはするが、身体への直接的な刺激がないため、生殺しである。

 

 焦れったい思いを強制される。おそらくこの身体のほてりは学校に行った後も暫く続くだろう。狂おしい程に腹の奥が疼くのに、それを収めることなく一日を過ごせと言われているのだ。拷問のような、生き地獄のような一日が始まる。

 

 だが、だがそれでも、この苦しみも兄さんから与えられたモノだと意識すると、お腹の奥がより一層、きゅぅっと締め付けられてしまうのだった。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 電信柱の上に、羽休め中の鳩が一匹。

 下の塀では、その呑気な姿を数匹の猫が凝視しながらしっぽを揺らしていた。

 平和な光景を横目に、仮眠のおかげか普段よりスッキリとした頭で俺はいつもの通学路を進む。

 地獄の朝食から一時間ほど。あまりの気まずさに落ち込んだ心持ちも、今は大分マシになった。

 ちょうどその時だ。普段より些か軽い足取りな俺の前方から、何かが猛スピードで迫ってきた。

 

「──ぇぇぇん・・・・・・ぱぁぁあああい!!」

 

 少し小柄な人影の首には、犬の首輪かと見間違える程のサイズのチョーカーが爛々と存在感を放っている。

 数秒後の悲劇を予見して、息が止まる。

 

「──ぐふっ」

 

 猪と化した辺和夏海の顔面ダイブは、なんの減速も無く俺の腹へと突き刺さった。

 

「ナオキせんぱああああああい!!」

 

 受け止め切れず仰向けに倒れる俺の胸板に、追い打ちをかけるが如く好感度〝15〟の不良辺和夏海は頬ずりしてくる。

 

「すぅーーーっ────んぎゅふっっ♡♡♡♡あっ♡♡あぅあぅぅぅ♡♡♡♡ナオキせんぱぁぁぃ♡♡ナオキせんぱぁぁぃ♡♡♡♡」

 

 押し倒され青空を見つめる。これはどういう状況だろう。新手の辱めなのだろうか。通行人全てが五度見くらいして去っていく。

 これはこの子なりの嫌がらせなのかもしれない。しかしだとすれば、感性がズレているとしか言いようがない。

 

「わぅぅぅ♡♡♡ナオキせんぱぁぁぃ♡♡♡♡おはようっすぅ♡♡♡♡今日も、今日も犬ごっこたくさんしてほしいっす♡♡♡♡」

 

 どうやら犬ごっこが相当お気に召したようだ。辺和夏海の好感度上げは結構簡単にできそうだ。

 

「ああ、おは──」

 

 ──兄さん、何度言えば分かるんですか。あの女とは金輪際関わらないでください。

 

 おはよう、と夏海に返そうとする。が、ちょうどその時、昨日の秋葉の言葉が脳裏を掠めた。

 出かかった言葉がせき止められる。

 

 二人で登校してる姿なんて見られたら、俺殺されない?

 秋葉の冷たい眼差しが思い出される。同じ空間にいると常に向けられる、あの人でも殺すのかという目。

 記憶にこびりついた秋葉の眼光の冷たさが、俺の口を固く潰した。

 

「?どうしたっすかナオキ先輩?」

 

 唐突に言葉を区切った俺を訝しく思った夏海が、胸に埋めた顔を持ち上げてくる。

 しかし俺はその問いかけには応えない。彼女と会話したと知られただけでも、俺の家の中での扱いはミジンコを大きく下回るものになるだろう。その事態だけは避けなければ。

 この絶望的な日常の中でも、比較的肩の力を抜ける場所を手放したくはない。

 

 故に俺が選択したのは沈黙。無視である。しかし相手は不良少女、憤慨して殴られることもおおいに有り得る。なのでその時は、ごめんボーッとしてたで乗り切ろう。

 楽観的に過ぎる思考のもと、俺は素知らぬ顔で無視を決め込んだ。

 

「ナオキ先輩?ナオキ先輩?」

 

 俺の腹の上で、首を傾げている。

 ワンコみたいだ、と口に出したらボコされるんだろうことを思う。

 

 頭に疑問符を浮かべて俺の名前──いや、読み方間違えてるけど──を連呼したり、唐突に俺の胸板に頬擦りしたり、そのまま深すぎて死ぬのではと心配になるほどの深呼吸を繰り返したりと、持ち前の自由気ままさを存分に押し出してくる辺和夏海。

 そんな彼女は、何かを思いついたのか、深呼吸を中断した。

 

 夏海は手持ちのカバンを漁る。

 そして取り出したのは、一本の赤い紐だった。端は輪になっており、まるで犬の首輪の取っ手のよう。

 何をするのか、と静かに見守る俺の前で、夏海は首に巻かれたチョーカー、というか首輪と言われた方が自然な大きさのソレの、丁度正面に位置する金具部分に、その紐を取り付けた。

 次に俺の手を取る。

 嫌な予感をビンビンに感じた俺は、全力で拳を握るものの、その息の荒い笑顔には何一つの変化すらさせず、簡単に俺の指を一本一本外していく。

 強引に開かれた俺の掌に、紐の取っ手が乗せられた。

 地面に捨てようとする前に、今度は手を握らされる。圧倒的な力に、俺は抵抗すらままならなかった。

 

 こうして、首輪付き辺和夏海と、彼女を紐で繋ぐ俺が完成してしまった。

 

 妹どころか、普通の人に見られるだけでも社会的に抹殺されること間違いなしである。

 

 というか、もう既に通行人数名が引き気味にこちらを見ていた。朝の通学時間なのだ、周りに他の人がいるのは当然だろう。

 

 あ、ちょっと待ってやばい、あの人携帯取り出して通報しようとしてる。

 

 俺の視線の先には、こちらを怪訝な目で見つめながら、急いで携帯を操作するサラリーマンの姿。

 まずい、俺の人生が・・・・・・。

 

「──ひっ」

 

 突然、サラリーマンが息を詰まらせた。

 顔色はみるみる青くなり、狼に睨まれた兎のように身を固めている。

 息の仕方すら忘れたのか、パクパクと口が無意味に上下して、次の瞬間、彼の手から携帯が零れた。

 地面に落ちる携帯。その音で我に返ったのか、サラリーマンは足をもつれさせながら一目散に逃げてしまった。

 

 一連の流れを訳も分からず見ていた俺だが、一つだけ分かることがある。

 あのおっさんは、なにかに尋常じゃなく脅えていた。

 そして、彼が見ていたのは俺と夏海だ。そう、十中八九夏海が何かしたのだろう。

 

 恐る恐る、未だ俺を押し倒す夏海の方に目を向けてみると、予想に反して満足気な笑みを浮かべた顔があった。もっと怖い顔をしていると思ったんだけど。

 しっぽでもあれば滅茶苦茶に振り回してるんだろうという笑顔に安堵して息を吐く。

 

「さ、ナオキ先輩行くっす!」

 

 夏海が元気に立ち上がる。もしかしてこの子、このまま登校する気じゃないだろうか。

 

 首輪に紐をつけたまま堂々と進んでいく背中に、正気を疑う。

 

 その時、悲劇が起きた。

 

 ・・・・・・俺の事など気にしてないだろう夏海の歩み、首に繋がれた紐、それを持つ俺。

 

「────かふっっ♡♡♡♡」

 

 まあ、そうなるよね。

 

 首が紐によってつっかえる。

 締め付けられた喉から零れた悲鳴は、苦悶に染ったものではなく、むしろ抑えられない喜色が存分に滲んだ声色だった。

 

 ・・・・・・しかし、矢羽猪(やばいの)直来(すぐくる)は気づけない。彼女の欲情に気づけない。

 この男、鈍感である。というか、コミュ障である。好感度が見える見えない以前に、人の本質を見ようとしない。

 だから今も、夏海が肩で切る甘い息を、怒りの発露と誤認して白目を剥いているのみだ。

 

 己の周囲を囲む猛獣たちなどつゆ知らず、今日もいつもの一日がスタートした。

 

 




もうこの話の着地点見失ったんだけどどうしよう。

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