好感度数値が見えるようになった。よく話す彼女達は〝13〟だった。泣きたい。 作:鹿里マリョウ
・・・・・・寝たフリをやめたら広角さんの好感度が上がっていた。
極力存在感を消すという身の程をわきまえた行動が好印象だったのだろうか。
秋葉の言いつけを守りながら、広角さんの好感度も上げられて、なんだかお得な気分になった。
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お昼時、廊下を歩いていると、前方が少しザワついていることに気づく。
癖で伏し目がちになっていた目線を上げると、向かい側に秋葉を見つけた。
騒がしかったのは、周りの生徒が秋葉を見て小声で褒め称えているからだった。
踵を返して逃げようかと思案する──が、唐突に背筋に寒気が駆け抜けて、その思考を中断せざるを得なかった。
再び秋葉に目を向ける。・・・・・・滅茶苦茶睨んできてた。怖い。
秋葉は絶対零度の視線で僕を縛りつけつつ、軽い速足で歩を進めてきた。だいぶ怖い。
遂に秋葉が僕の目の前まで到達する。そのまましばらく無言で見つめてくる。とても怖い。
「・・・・・・付いてきてください」
小声で、僕だけに聞こえるように秋葉が呟く。付いて行ってヤンキーとかがいっぱいいたらどうしよう。
不安が湧くがしかし、僕の中に秋葉に逆らうという選択肢は存在しない。知能は言わずもがな、喧嘩でも負ける自信がある。
僕も秋葉も幼少期に護身術的なものをやっていたが、そこで秋葉に瞬殺されなかったことはない。一種のトラウマだ。
つまり僕は付いていくことしかできないのだ。情けなさすぎて泣きそう。
しぶしぶと秋葉の一歩後ろを追従する。
すれ違う生徒の好感度が下がっていくのを何度か目撃する。また、中には数字が現れる男子生徒もいた。僕に関心を持ったということだ。その人たち皆〝3〟か〝4〟だったけど。外から見れば、今の僕は美少女をストーキングする陰キャみたいな図になっているのかもしれない。もうどうしろと言うのだろうか。
「ここです」
秋葉が立ち止まった。目の前には空き教室。
「入ってください」
秋葉は鍵を開けてから入るように促してくる。なんで鍵もってるの?
大丈夫?入った瞬間に後ろから殴りかかって来たりしない?
しかしどんなに怖くてもやはり秋葉に逆らえるわけもないので、大人しく教室のドアをくぐる。
俺が完全に教室に入ったのを確認した後、秋葉も追って入ってきた。
────ガチャッ。
小さな金属音。
「・・・・・・なんで鍵閉めたの?」
その音は、秋葉が後ろ手に教室の鍵をかけたことをありありと物語っていた。
密室の完成だ。
「邪魔されないためです」
な、なにを!?やっぱり殴られるの!?
「それに兄さんを逃がさない為にも」
やっぱり殴られるのか・・・・・・。
「さて、兄さんに聞きたいことは沢山あるのですが、まずは──」
おお、案外話し合いの余地があるっぽい雰囲気だ。これはなんとか切り抜けられるか?
「──なんで辺和夏海と登校していたんですか?」
無理でした。
明らかに怒ってますという黒い声音。チビりそう。
「昨日散々言いましたよね?辺和夏海には近づくなと」
秋葉が一歩近づく。僕は一歩下がる。昨日もあった気がするこの状況。
「それなのに一緒に登校とは、舐められたものですね」
一歩近づく。一歩下がる。
「さらには辺和夏海に首輪をつけていたとか」
壁際まで追い詰められる。背中に硬い壁の感触を感じた瞬間、顔の横で轟音が響いた。
壁ドギャンッだ。昨日ぶりの。
「私の言うことなど聞くに値しない、そう思ってるんですね?」
顔が近い。目が怖い。声も冷たい。匂いは甘い。
「兄さんにとっては私など雑魚で、そこら辺を飛ぶ羽虫とさして変わらない、そういうことですね?そうですよね?」
「違う違う!全然、そんなこと一度も思ったことないから」
外れそうになるくらい首を振り、否定の意を示す。
「──っ!私のことなど、意識にいれたことすらないと、そういうことですか」
なんでそうなるの・・・・・・。
「ふふ、言ってくれますね。本当に、ふふふ、ふふふふ」
秋葉の顔に朱色が差す。ぶ、ブチ切れだ。
「い、いや、僕なんか秋葉の足元にも及ばないよ」
「は?そんなわけ────いえ、まあ今はそれでいいです。今回の目的は別にありますしね」
「目的?」
どうやら一旦は殴られないらしい。この後の目的とやらではどうか分からないが。
「はい、辺和夏海を兄さんに近づかせないようにすること、それが今回の目的です」
秋葉が冷たく言い放つ。
「は、はあ」
どう反応したらいいのか分からず、曖昧な返事になってしまった。
夏海は好感度を上げたい人の一人だ。頻繁にとは言わないが、偶には会っておきたいと思う僕。
が、同時に、夏海は最も考えが分からない人でもある。笑っていると思ったら急に襲いかかってきたり、怒っていると思ったら急に笑ってきたり。どこが地雷でどこが地雷じゃないのか見当もつかない。そんな彼女に、もう会いたくないと思うもう一人の僕。
というか、そもそも朝家の前で出待ちしてるぐらいだから会わないの無理じゃね、と思うさらにもう一人の僕。
「朝家の前で出待ちしてるぐらいだから、会わないのって難しくない?」
頭の中と現実では口調の強さが全然違う僕・・・・・・。
「いえ、近づかせないなんて簡単ですよ。こう言えばいいんです────『キモイから近寄んな雑魚が』、と」
・・・・・・馬鹿なの?
初めて秋葉にこんなことを思った。
「っ!なんですかその目は。『馬鹿なの?』とでも言いたげですね。はっきり口に出したらどうですか?ほら、今思ったことを正直に口に出してください、兄さん」
鋭すぎる。滅茶苦茶図星で肝が冷える。
「あ、秋葉はやっぱり凄いなぁと思ったよ、ははは」
ごまかし。冷や汗がすごくてちゃんと笑えてるかは分からないが。
「・・・・・・これはこれで・・・・・・」
秋葉が消え去りそうなほど小さな声で零す。
これはこれで、何?これはこれでキモイとかだったら泣くよ?
「では、賛成ということでいいのですね?」
「い、いやそれは・・・・・・」
やばい。俺はどっちにいい顔すればいいんだ。秋葉の機嫌を損ねたくないが、夏海に『キモイから近寄んな雑魚が』とか言ったらその日が俺の命日だろう。
・・・・・・それが狙いだったらどうしよう。自分の手を汚さず俺を始末する作戦。秋葉、恐ろしい子っ!!
「はぁ、まあ兄さんがヘタレなのは分かっています」
シンプルな悪口がいたい。
「なので、練習しましょう」
「練習?」
「はい、練習です。────では、私に言ってみてください」
「・・・・・・え?」
秋葉が身を犠牲にしてまで作戦を成功させようとしてくる。そんなに僕を陥れたいのか。
「さあ、どうぞ、遠慮せずに言ってください。本番だと思って、蔑みたっぷりに、さあ、さあ」
放たれる圧が一層重くなる。秋葉の本気度が伝わってきた。
言うしかないのか。
ここで言えば、この場は凌げる。が、その後はいよいよどうにもならない状況に嵌ってしまう。夏海に言うともちろん殺され、言わなくても身を犠牲に準備してきた秋葉に殺される。
言うべきではない、と理解はしているのに、秋葉の圧に晒されていると徐々に抵抗する気概が萎んでいくのだ。
その時のことはその時考えよう理論が首をもたげた。
先のことよりも、この状況を脱することを優先する。典型的に駄目な思考だと思いながらも、遂に僕は口を開く。
そして、ドアが爆発した。
め、めっちゃビックリした。ドアがとんでもない力で外側から叩かれ、その体を折り曲げながら飛び出したのだ。
ひしゃげたドアが地面に倒れ、けたたましい音が鳴り響く。
その奥から、人影。
「おい、ナオキ先輩から離れろよ」
舞う破片が音を鳴らす中、その声は異様にはっきりと響いた。
人影の正体は、辺和夏海。いくらドアが老朽化していたからとはいえ、どれだけのパワーがあればこんな芸当ができるのか。
息を飲むほど怒気を纏わせながら、無惨な姿になったドアを踏みつけ、彼女は教室へ足を踏み入れる。
やばい、夏海が僕と秋葉を引き離そうとしている。そうなったら最期、守り(秋葉)を失った僕はボコボコのグチャグチャにされてしまう。頼むから僕を守ってください秋葉さん。
「・・・・・・あと少しだったのに」
秋葉が小さく呟いた。壁ドギャンッを解き、夏海と向かい合う彼女も、負けず劣らずの怒りを示している。
「仕方ありません、作戦変更です。ここでこの虫を消す。それで全て解決です」
やばい、虫とは僕のことか。頼むから僕を襲わないでください秋葉さん。
僕は今、怪物二人に狙われているということになる。絶体絶命だ。
「ナオキ先輩、すぐにこいつを片付けるんで、そしたらいっぱいお話しましょっす」
「兄さん、すぐにこの虫を駆除するので、そうしたら先程の続きをしましょう」
お、おお、そうか、僕じゃないのか。
確かにこの子たちは互いに嫌いあっている。いつでも殺れる僕より、より脅威になるのを先に潰しておきたいということか。雑魚で助かった。
二人が睨み合う。ジリジリと距離が縮まって、やがて互いの間合いに入る。
動く、同時。拳と拳がどれだけ交錯しているのだろうか、僕には速すぎて何も見えない。
遂に喧嘩が始まってしまった。恐ろしい。
固唾を飲みながら、僕は教室を後にした。
♡はアリなのかナシなのか問題
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モハメド・アリ
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アリだけど多すぎるのはナシ
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どっちでも
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モハメド・ナシ