好感度数値が見えるようになった。よく話す彼女達は〝13〟だった。泣きたい。 作:鹿里マリョウ
────時は少し戻って、矢羽猪秋葉と辺和夏海の大乱闘の場面。
「ナオキ先輩、すぐにこいつを片付けるんで、そしたらいっぱいお話しましょっす」
「兄さん、すぐにこの虫を駆除するので、そうしたら先程の続きをしましょう」
もう少しで、兄さんが私を堕としてくれる筈だった。しかしそこに割り込んできたこの辺和夏海によって計画は狂わされた。
殺さねば。思考が熱くなる。心が目の前の雌犬を殺せと叫ぶ。
そしてそれは、あちら側も同じだろう。その怒りに満ち満ちた表情から容易に想像できる。
睨み合いながら、ジリジリと距離を詰めていく。
辺和夏海の双眸から、嫌という程伝わってくる。────同類だ。この女は、私と同類。兄さんに使われることを至高としている存在。
だからこそ、生かしておく訳にはいかない。
道具は、私一人で十分だ。
────間合い。踏み込む。
瞬間、目前に現れる拳。
予想より速い。が、対処できない訳では無い。首を捻って避け、同時にカウンターを返す。
辺和夏海の顔を真正面から捉える、その直前で、間に滑り込んできた右手に受け止められた。
辺和夏海はそのまま私の手を引く。体ごと前に持っていかれた。驚異的なパワーだ。しかしここで踏ん張ってはいけない。動きが止まる、今この状況でそれが意味することは、則ち死だ。
私は引っ張られる力をそのまま利用して、辺和夏海に飛び込んだ。掴まれている腕を畳んで肘を繰り出す。狙うは首。
辺和夏海が仰け反る。体を逸らすことで肘打ちを回避したのだ。しかし体勢は崩れた。私も前のめって不安定ではあるが問題ない。このまま押し倒せる。
────そこで、悪寒。
「────っ」
咄嗟に掴まれていない方の腕で腹をガードする。何故腹を守ったか、〝何となく〟である。〝何となく〟ここに来るのが分かる。この化け物じみたと表現されるような天性の勘は、生まれた時からのものだが、今はそんな事を語っている暇はない。
直ぐに、予想通り衝撃が走る。
「────ぐッ!」
いや、予想よりも衝撃は大きかった。
私の腕に刺さったのは膝蹴りだ。辺和夏海が仰け反ったのは、肘打ちを躱すのに加え、この膝の威力を上げる為でもあったらしい。しかしそれを加味しても、膝蹴りがこの威力というは異常と言わざるを得ない。つまり辺和夏海にも天性の
腕を抉る膝蹴りに、私の体が浮く。
「あれ?」
────しかし、膝蹴りが人を宙に浮かすという現象に驚いたのは、私ではなく辺和夏海本人だった。
辺和夏海が、あまりの手応えの無さに一瞬動揺したのが分かる。
その隙に腕を振りほどき、一度距離をとった。
腕へのダメージは、どうやら最小限に抑えられたようだ。
種を明かすと、接触の直前に力を抜いて衝撃を分散させた、それだけの事。まあ、言うは易く行うは難しだが。
────そこで、暫くの静寂が訪れる。
理由は単純。兄さんが移動したからだ。教室から出ていってしまうらしい。
兄さんがいなくなるのはとてつもなく悲しいが、しかしこの教室にいたら怪我をしてしまう可能性もゼロではない。
私も、そして辺和夏海も、それが分かっているからこそ兄さんの退避を容認する。
壊されたことで開放的になった入口から兄さんが出ていくのを確認した後、再び全ての意識を目の前の敵に集中させる。
兄さんという絶対に傷つけるべきではない存在がいなくなったことで、先程以上に辺和夏海が鮮明に見える。
────さて、これでようやく、本気を出せます。
・・・・・・まあ、それはあちらも同じでしょうが。
■■■
拳と拳の攻防。およそ高校生とは、いや、人間とすらも思えぬような闘争だった。
矢羽猪直来が去る前よりも一撃一撃が遥かに速く、重く、目まぐるしい。
一体どれだけの時間が経ったのだろうか。引き伸ばされた思考の中で拳を交える彼女たちには、きっと見当もつかぬだろう。
両者、極限の闘いに肩で息を切っている。それでも尚、拳戟が止まることは無い。
しかし、より呼吸が乱れているのは矢羽猪秋葉の方である。それもそのはず、辺和夏海の打撃は、ただの一撃でさえ致命の意味を帯びる。一秒の攻防でも、精神はどんどん磨り減ってしまう上、ガードしたとして、ダメージが確実に蓄積していく。
対して、辺和夏海の表情も、余裕を持ったものではなかった。
ここまで拮抗した闘争は、彼女にとっても初の経験であったのだ。それほどに、矢羽猪秋葉という存在もまたイレギュラーだった。そしてもう一つ、彼女が余裕を持てない原因がある。放つ拳が、蹴りが、徐々にではあるが、矢羽猪秋葉に届かなくなっている。動きを見切ってきたのか、勘が冴え渡ってきたのかは分からないが、偶然でないことは確かだ。
ダメージが積もっていく矢羽猪秋葉、動きに対処され始めた辺和夏海、どちらにしても辿り着いた思考は同じだった。
────短期決戦、次で仕留める。
二つの闘志が迸る。選択した武器は、両者とも拳。脚の方が破壊力こそ高いが、精度を重視するなら断然拳だ。狙いは〝首〟。正確に撃ち抜いて、それで終わり。
次の数秒で、勝負が決まる。
────同時に踏み込んだ。絶死を掲げた両拳が唸る。時間が引き伸ばされ、二人の視界には辺りの光景がスローモーションに写った。
たったの一撃。絶死の一撃。自分は死なず、相手を殺す。
拳が、喉へ────
「────ッッ!!?」
■■■
校舎裏。この昼時には日陰になるジメッたいその場所には、一人の少女が壁に身を預けていた。
その少女の名は、矢羽猪秋葉。ほんの数分前まで校舎内で喧嘩を繰り広げていたその人である。
彼女は服の乱れを正しながら息を吐いた。
「危ないところでした。もう少しで、こんな無様な姿を兄さんに見られてしまうところでした」
疲労困憊、とまではいかなくとも、少なくない疲労が秋葉の顔に滲んでいて、服も乱れている。
上を仰ぐ。その視線の先には、三階の窓の空いた部屋があった。秋葉の耳が、微かに音を捉える。
「おわあ!?何だこのドア!?壊れてんじゃねえか!!」
秋葉は飛び降りたのである。その窓から。矢羽猪直来に今の姿を見られたくない一心で。
「────しかし、厄介なことになりそうですね・・・・・・」
壁に身を預け息を整えながら、彼女は先の喧嘩の結末を思う。
────一撃。両者魂を込めた一撃だった。私が選んだのはカウンター技。相手の打撃を受け流し、その反動を上乗せして撃ち抜く算段だったのだが、
「────ッッ!!?」
接触の直前、辺和夏海は突然飛び退いたのだ。
そして、その眼前を黒い影が通過した。それは針だった。形状からして、おそらく麻酔針の類い。もし辺和夏海がそのまま私に向かってきていたら、確実に彼女の首元辺りに刺さっていただろう。
辺和夏海が、私から視線を離して針の飛んできた方向を睨んでいる。僅かに窓が開いていた。その隙間から辺和夏海を狙ったのだろう。じっとその隙間を睨めつける辺和夏海に、不意打ちを一瞬考えるが、そんなものが通用しないことは既に分かっている。何より、白昼に麻酔針なんてものを持ち出す存在に、私は心当たりがあった。
────辺和夏海のオーラが一変する。拳を交えている時より更に濃い殺気だ。そして次の瞬間、辺和夏海は窓を開け放ち、飛び降りた。優れた身のこなしで学校の外へと駆けていく。
・・・・・・教室に一人残った私も、近づいてくる足音が兄さんのものだと勘づいた瞬間同様に飛び降りることとなった。
「────しかし解せませんね。あの時の辺和夏海の殺気、尋常ではありませんでした。彼女があれ程までになる理由・・・・・・」
そこで、秋葉の頭に最悪の想定が過ぎる。
「まさか、兄さん?」
秋葉の知る限りでは、辺和夏海が心を動かすことと言ったら、専ら矢羽猪直来関連のことであった。
「ならやはり、あの麻酔針を撃ったのは・・・・・・」
秋葉の双眸が細められる。その瞳は、倒すべき敵を見定めるようであった。
p──ガチャ。
「もしもし、兄さんですか?」
■■
「・・・・・・もしかして兄さん、私を心配しているのですか?」
「え?まあ、そうなるかな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・すき」
〝17〟→〝18〟
♡はアリなのかナシなのか問題
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モハメド・アリ
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アリだけど多すぎるのはナシ
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どっちでも
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モハメド・ナシ