無残じゃない無惨   作:憲彦

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書きたくない病を絶賛発症中です


目覚め

 洞窟に入り込み、奥に一定のスペースを作り天井をわざと崩落させて自分を閉じ込めてから、一体どれ程の時間が経ったことか。何度も空腹による食人衝動に襲われたが、眠って耐えるを繰り返す内に、いつの間にかそれを感じなくなってしまった。

 

 隙間から入ってくる僅かな光で時間を確認し、手頃な岩を削って窪みを作り、染みてきた雨水を溜め込みそれを飲む。眠気を感じたら寝る。たまに間接と筋肉を伸ばすストレッチをして、それ以外はのんびりと過ごす。ブラック企業に勤めていた時とは比べ物にならない程にリラックスした時間を過ごせていた。

 

「少し外に出てみるか……」

 

 一応、酸素確保の為に上の部分には大して瓦礫を積んでいない。故にすぐに崩すことができる。穴を作って頭から入り、身を捩れば外に出られなくはない。しかし、自分を助けてくれた老夫婦を危うく食べてしまいそうになったあの事件。その光景が脳にチラつき、出ることに恐怖を感じてしまう。

 

「すぐに戻ればなんとかなるか……?」

 

 そんな考えを持ち、外へと出た。時刻は日が沈みかけている夕方。試しに少し腕を影から出して様子を見てみる。多少はヒリヒリするが、気にならない程度で、出ても問題ないと判断して洞窟から出た。

 

「あ、」

 

「あぁ?おい!こんなところに人がいるぞ!」

 

 洞窟から完全に出た瞬間、荷車に大量の荷物を乗せて腰に刀をぶら下げ弓矢や槍などをもって武装した集団と鉢合わせてしまった。身なりからして野伏せりの類いだろう。

 

 平安時代は王朝国家体制が確立し、朝廷は地方統治を事実上廃止。更に桓武天皇が軍団を廃止した結果、地方は無政府状態に陥り治安が悪化していた。16世紀までは日本列島の各地で戦乱が頻発していたくらいだ。

 

 故に、目の前にそう言った集団がいるのは何もおかしくないし、どちらかと言えばいない方がおかしい。と、歴史が得意なこの男は考えていた。

 

「俺たちに会うとは、ついてねぇ男だな~。おい、金目の物、全部渡しな。そうすれば命だけは助けてやるぜ?」

 

 刀を抜きながら、先頭にいたリーダーらしき男が近付いてくる。絶体絶命なこの状況だが、何故か恐怖を感じない。冷めた目で野伏せり達を見ている。が、それが野伏せり達の神経を逆撫でしたのか、刀を突き付けながら話をしてくるようになった。

 

「おい。死にたくないならさっさとしろ!今にも死にそうな青白い顔してんだ。命は大事にしろよ?」

 

 男のその言葉に、後ろにいる連中は笑い始めた。確かに、病弱だった頃の名残なのか、四六時中顔色が悪い。何も知らない人からすれば、すぐに医者を呼んで診察を受けさせるレベルだ。だからこそ野伏せりはそう言っているのだが……

 

「気色悪いヤツだな~。まぁ、死んでから持ってるモン奪えば良いかぁ?!」

 

 そう言って、刀を振り下ろしてきた。正直、元の時代でブラック企業の営業マンをやっていた時、取引先や上司からこの程度の罵倒はいつも浴びせられてきたし、時には手も出された。

 

 故に、別に何かしらの反応を示すこともなく冷静だったのだ。しかし流石に斬られるのは不味い。早く避けるために動こうと思ったが、しばらく何も食べていない為か、思うように動けず白刃をその身に受けてしまった。

 

 バキィン!!

 

 が、自分が斬られると言うことはなく掠り傷程度で、逆に刀の方が折れてしまった。この時代の刀、江戸時代以前に作られた刀は古刀と呼ばれるもので、地域ごとに材料や製鉄法方に差があったとされる。その為、強度や切れ味もチマチマであったと予想できる。故に、折れることはなんらおかしくはないのだが、それでも掠り傷しか付かないのは明らかに異常だ。

 

「なっ!?」

 

 それを見て、全員が動揺した。すぐに後ろに居たのが弓で矢を放ち当てるが、男は一切の反応を示さない。辺り所から考えて即死したとは思えない。野伏せり達が固まっていると、男は自分で突き刺さった矢を引き抜いて地面に投げ捨てた。

 

「あの。私別に金目の物なんな一切────」

 

「ハァァァァアッ!!」

 

 また1人槍で突き刺してきたが、当然槍が折れた。それを見て、自分たちの目の前に居るのがとんでもない化け物だと思ったのか、奪ったであろう水や食料、衣服や金目の物を渡して、命だけは助けてくれと叫びながら山の中へと走り去って消えていった。

 

「えぇぇぇぇ…………」

 

 しょうがないと思い、渡されたものを素直に貰い、洞窟の中へと運んでいく。別に欲しいわけではないが、あって困るものではない。誰かから奪ったものであるのは確実だが、ありがたく使わせて貰うことにした。

 

 その日を境に、少し外に出てみようと言う気になり、何度か外を出て洞窟周辺の地理を確認していった。野伏せり達にあったとに、食人衝動に襲われなかった事が、外へ出ても問題ないと言う自信に繋がったのだ。

 

 しかし、どうやら自分の住んでいる洞窟周辺の道は、野伏せり達の通り道のようで、頻度は少ないが毎回別の集団と出会う。その度に金目の物を出せだの着ている服を寄越せだの言われて攻撃されるのだが、毎回自分の武器が破壊されるだけで、一切の傷を負わせられず、その姿に恐怖を覚えて逃げていくのだ。しかも別にいらないのに、これで手打ちにと言わんばかりに全員奪った物品を置いていく。

 

「流石に迷惑だな……」

 

 と言っても、人と極力関わらずに生きていくと言う考えに変わりはない。その為に使えるものは使おうと言う考えで、物は全部洞窟に運び込んでいる。

 

 最初は気付かなかったが、洞窟はかなり広いもので結構な荷物を入れても全く狭くならない。これ幸いにと、荷車は解体して風呂や扉、その他家具に変えて、樽等は水を溜めるために再利用し、布団を作るなどしたら、いつの間にか洞窟の中が住みやすい空間に様変わりしていた。松明で明かりも確保している。もうスゴい事になっていた。問題は金の類いだ。本当にこの空間では必要ない。近くに魚の泳いでいる川を見付けたし、釣り道具もある。網もあるため定置網もできる。生きるためには必要な筈なのに、この状況下ではマジで使い道が無いのだ。

 

「まさか金がいらないなんて台詞を吐く日が来ようとは……!!」

 

 まぁ、そんなこんなで、しばらくリッチな生活を送る男であった。




なんとか書き上げました。疲れたな~

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