「QTの桃井愛莉が事務所出たって話聞いた??」
「聞いた聞いた。これからどうなるんだろー」
翌日の昼休み。
当然桃井愛莉の話題でクラスは持ち切りとなっていた。
QTと言えば今じゃ全国トップで有名なアイドルグループの一角で、最近じゃ海外進出なんかも考えている噂も流れるくらい大きな存在だった。
その中心核の1人である彼女が事務所を抜けた、つまるところQTを脱退した事実は覆らないものとなっている。
アイドルを義姉として持っている俺は、表向きはいい面してるけど内心悲しさとか焦りとか怒りとか色んな感情が蠢いている。
「くっだらねぇ。どんな理由で辞めるかは知らねぇけどお前らが噂したところでどうにもならないだろ」
「そうだな。俺も思う」
「つーかいいのかよ」
「あにが?」
机に足を乗せ、スマホを片手に彰人は言う。
何がいいのかさっぱりわかんないので聞き返すも、ちらりと俺を見るだけで特に返答しなかった。
「全然良くねぇよ。
「は?俺は
お前だってシスコン類の人間だろうに.....
憂鬱な気分のまま、特に言い返さず静かに目を閉じる。
聞こえるのは騒音。
人の歩く音、黒板に書かれたチョークを消す音、女子達の黄色い声、男子達のはしゃぐ声。
全部、全部耳障りに感じてしまい耳を塞ぎたくなる。
───義姉ちゃん。
ただ思い浮かべるのは俺にとって唯一無二の存在。
俺を救い、俺に生きる意味を与えてくれた大事な人の顔。
その大事な人の笑顔と元気が、全てだった。
義姉が笑っているから俺も笑っていられた。
その笑顔が今まさに消えようとしている。
何とかしたい、何とかしなければならない。
「俺にも何か出来ることあるかな」
「なんだよいきなり」
「
「...あっそ」
今度こそ、彰人は返事をしなくなった。
なんで自分の姉にそういう態度が出来るのか理解に苦しむ。
姉という存在は唯一無二。望んで出来る存在ではない。
「(あぁそうか...きっとツンデレってやつだ。好きだけど恥ずかしくて素直になれないのか!!なるほど...)」
「あ?なに」
「まぁそれも愛だよな!!!」
「お前何言ってんのかわかんねぇ」
とりあえず他の人の関係は置いといて、俺のやるべき事を考える。
義姉がアイドルを始めるきっかけになったのは大きくわけて2つ。1つは義姉が幼少期観た、当時のアイドルのようにみんなを笑顔にしたいという願いから。そしてもう1つは俺自身。親を失い、失意の底にいた俺の前にして義姉はこう言った。
───晴も笑顔にする!だからちゃんと前を向いて行こうよ!
その時の義姉の笑顔は忘れない。
まるでさんさんと光り輝く太陽のように眩しい存在だった。
みんなの為、俺のために彼女はアイドルをしていた。
多分"みんなの為"の部分が叶わなくなってしまったから彼女は舞台から降りたのだろう。
彼女はアイドルであって
そこにある義姉と事務所の齟齬が、悪い方向へと進んでしまったのだろう。
...なんで色々考えては見たけど結局はただの一般人に出来ることなんて何も無い。それこそ、気持ちだけで一体何ができるんだって話。
「...行動しなきゃ、か」
1人呟く。
まずは行動。考えるよりまず先に行動起こしてみたいと先に進まない気がする。俺はガタンと椅子を鳴らして立ち上がる。そしてそのままカバンに教材やら筆箱やらしまいこんで、自主下校の支度をする。
「おい桃井。どこ行く気だ?」
「決まってんでしょ。義姉の為に帰るんだよ!先生に言っといて、桃井は帰りましたって」
それだけ彰人に告げ、俺は喧騒の中教室から出る。
まずやるべき事は人に会う。俺が
「待ってて義姉ちゃん.....義姉ちゃんの夢も、俺の希望も必ず叶えてみせるから」
と、
「あ、おい!桃井!!どこに行く気だ!!」
階段をおりる中、三限の数学担当の筋肉ゴリゴリの教師に見つかってしまう。
そう、数学教師である。いかにも体育担当のように見えるタンクトップの暑苦しいオッサンが数学を教えるなんて絵面がヤバいけど、そんなことはどうでも良くて。
「やっば!!ごめん先生!!俺これから一世一代の事するし体調悪いので帰りますバイチャー!!!!」
「おい桃井!!戻れ!」
先生の怒鳴り声をガン無視して、階段をかけおりる。
靴を履き替え、全力で走りながら、胸ポケットからスマホを取り出して
見つけ、迷わず通話を繋ぐ。
「.....あ!もしもし!!!!今お時間ありますか!