ラフト・サイマーは、連邦軍のとある宇宙基地の格納庫へとやって来ていた。
表向きこそ連邦軍の預かりとなっているが、実際にはティターンズによって抑えられていた。
ラフトも所属はティターンズである。
その彼は今、自分の乗機だというMSを見上げていた。
MSと聞かされてはいたのだが、その姿は異様である。
上半身はジムなのだが、下半身は巨大なスカートに覆われていて足がない。
更にジムの腕とは別に、背部からオプションの様にして、上半身の長さにも匹敵する巨大な腕が生えていた。つまり、見かけ上は四本の腕を持っているのだ。
ただし、その腕も左右で非対称となっていて、右腕は指の先端に当たる部分が筒状になっていて空洞化している。
恐らくだが、ビームを撃てる様になっているのだろう。
そして、左腕は前腕に当たる部分が膨らみ、マニピュレータに当たる部分はクローとなっている。更には、膨らみがあるパーツにレールが走ってもいるので、もしかしたらモノアイが搭載されているのだろう。
これでは、MSと言うよりはモビルアーマーに近い気がした。
こんなコンセプトのMS、本当に連邦製かと思った瞬間、彼の脳裏に、かつて見た資料が蘇る。
確か、ジオンが最終決戦に投入したMSに似た物があったはずだ。
そして、彼の推測は正しかった。
「やあやあ、初めまして。 私はグリタス・デンケ。 どうです? このRGM-79Z バウンド・ジグは?」
メガネを光らせて汚れた白衣を着た、研究者なのかメカニックなのか分からない男が突然格納庫に入ってくると、挨拶もそこそこに一方的に話し出した。
「RGM-79? ジオンの技術が入っているっぽいが」
「ほうほう、鋭いですな。 確かに。 コイツはジオンの遺物を解析、再現したMSなのですよ」
「やはり、そうなのか。 最終決戦で、赤い彗星が乗ったかも知れないって奴か?」
「赤い彗星? その話は初めて聞きますが、NT専用と言うスペシャルな機体です」
「オイオイ。 俺は、そんな物じゃないぜ?」
ティターンズの一員であると自負するラフトは、地球圏の物が最高と思い込んでもいたので、その対極にあるNTと言う言葉はあまり好きではなかった。
嫌悪しているとまでは行かないが、少なくとも、自分がそれに類する物に関わるのは気持ちの良いものではないと考えている。
「いやいや。 こいつはシステム的に、それを再現する為の実験機ですよ。 両外に腕があるでしょう? 有線で繋がっていて、遠隔操作できるんです」
「一人で出来る物なのか?」
「そこが、長年の研究って奴ですよ。 予め用意されたプログラムと、腕のAIで自立行動ができる様になってます。 もちろん、本体側からの操作を優先してますので、イザって時には強制介入して自在に操れますよ」
グリタスは、よっぽどこのMSの事を話したかったのか、喜々として語る。
「しかし、連邦…いや、ティターンズがジオンの成果を欲しがるとはな」
「まあ、否定はしませんがね。 もっとも、結局その成果を得た最大の相手は、あのアナハイムらしいって話ですよ」
「アナハイム? 何で、そんな物がここに……」
「バウンド・ジグ自体、アチコチを転がされて来たらしいですからね。 最終的には、厄介者を押し付けあって、流れてきたって感じでしょうかね」
「厄介者って…あんたは、どうなんだ?」
そう言ってラフトがグリタスを見ると、彼はメガネをかけ直す仕草をして、一瞬黙る。
何か不味いことを聞いたかと、ラフトは少し身を引いた。
気まずそうな顔をしたラフトに対し、グリタスは別の意図を持ってラフトを観察していた。
上の連中からは能力の底上げの為に多少弄った為、もしかしたら不安定な面があると聞かされていたのだが、実際には自らを信じ切っている様でむしろ立派にティターンズを演じきっている。
まあ、成り損ないと言う事も聞かされていたので、逆に調整された事で良い方向へと向かったのかも知れない。
何れにしろ、覚悟していた程問題のある相手では無い事に安堵した。
「グリタス…?」
「え?あ、ああ…私は、面白いMSに目がなくてね。 このバウンド・ジグも、誰も触りたがらなかったのを、引き受けたってところです」
グリタスは、ニヤリと笑う。
答えになっていない気がしたが、ラフトもそれ以上の事を聞く気にはなれなかった。
このバウンド・ジグと言うMSにしろグリタスにしろ、複雑な事情が絡んでいる事は間違いないだろう。
それに関わるのも話を聞くのも面倒だとラフトは思った。
「で、俺にコイツの試験をしろと?」
「いえ? バウンド・ジグは既に一通りの試験を終えてますよ。 データ類も引き渡されていますし」
「じゃあ、何で俺はここに?」
グリタスは、どこから出したのか、端末の様な物を取り出して操作すると、ラフトに見せると同時に説明する。
「貴方はバウンド・ジグの専属パイロットとして、出撃する様ですね」
端末を受け取ったラフトはそれを見る。
確かに、指定された日までに当該MSの整備と調整を完了させ、迎えの艦と合流しろとあった。
得体の知れない試作機で実戦投入とか、意図がよく分からなかったが、命令がある以上はやるしかない。
ラフトは、今一度目の前の機体を見上げた。