訓練が中止になった理由は直ぐに分かった。
連絡船だか何だかが接触してくるとかで、その護衛と準備の為に呼び戻されたのだ。
しかも、その船はアナハイムと関係があるらしい。
ただ、護衛と聞いてカールは首を捻る。
ここの宙域が危険とは思えなかったからだ。
第一、訓練中は、ジェミニボックスなど丸裸同然だったはずである。
一応、対空砲火等を備えてはいるが、作られた経緯が色々とアレなだけに、この船は戦闘力が低いと言われていた。
それなのに、訓練とは言えMSを全機出していたのだ。
冗談か本気なのかは分からないがイドの説明によれば、MSの襲撃を受けたらこの船は簡単に沈むらしい。
そんな中でも訓練をしていたのだから、少なくとも危険性は低いと考えるのが普通だろう。
ただ、それについては後で説明がされた。
接近してきている船はコチラの大雑把な位置までは把握しているが、詳しい地点までは知らないそうなので、迎えに行かなければならないらしい。
護衛というのは、あくまでも便宜上の言葉として使われているに過ぎない様だ。
一方で、護衛役に自分が選ばれた事に、カールは疑問を抱かなかった。
ある意味で、すっかりジェミニボックスの一隊員として定着してしまったかの様でもある。
護衛と言う名のエスコートには、カールの他にもグスターブ、そしてリシット・マイロが同行する事になった。
リシット・マイロも元ジオンの兵士であり、本業は偵察部隊とか聞かされたことがあるが、例の如く本人は多くを語らない為、それ以上の事を知る者は少ない。
ウェーブライダー形態にされたゼーラスとヤークトタイプが、メカニックによって彼らの為に用意されたのは、訓練終了から三十分と絶たない後であったのだが、その間は非常にバタバタしてた。
と言っても、それはメカニック達だけの話である。
出発前、既に自分の準備は済んで待機させられていたカールは、落ち着かなくて格納庫に来ていたのだが、そこでメカニック達のてんやわんやの騒ぎを見ていた。
グスターブとリシットのゼーラスに対して何かしていたのだ。より正確に言えば背部バインダーにであるが。
本体から取り外されたそれに対し、塗装と乾燥の作業を同時に行っている様だった。
下ではザッドが檄を飛ばしており、慌ただしい。
「どうしたんです? これは…」
カールはザッドに近づいて聞いてみた。
殴り合った相手故か、まだちょっとカール自身は微妙な距離を取っていたが、向こうは全く気にする素振りがないので、会話自体は普通にできていた。
恐らくだが、ザッドの方がやはり年上らしく懐が深いのだろう。
「耐熱塗料を塗ってんだ。 ゼーラス専用の大気圏突入用オプションとか言う奴」
「地球に降下する予定があるんですか!?」
「まさか。 コイツは整備ノルマだ。 以前からデータ取り用にやる様に言われててな。 もっと先延ばしできると思ってたんだが、アナハイム様が来るってんで急いでやってんだよ」
「整備ノルマ…僕は知らされてないんですけど」
「そりゃそうだ。 コイツは俺達整備班の話だからな。 お前さんのJ型とは別だから安心しろ」
「そうだったんだ…」
カールは内心でホッとする。
またもや見逃しがあったからと考えたからだ。
そして、出発は2機の整備が済むと同時に直ぐに行われた。
数分後、カール達は当該船を発見、接触する事に成功する。
その船はカールが予想していたよりも遥かに巨大だった。下手をしたらジェミニボックスよりも大きいかもしれない。
外観としては一見すると大型の航路船と言った感じだが、急遽ペイントを消した跡があり、代わりに良く分からない文字で社名の様な物が入っている。恐らくペルシャ文字とか、そんな感じだろう。
しかし、元のペイント跡には凹凸がある為、光の具合によっては読み取れた。恐らく、AとEのアルファベットの可能性がある。
その事を踏まえたとしてもアナハイムから譲渡された船を再利用したのか、偽装しているのかは判断がつかない。
今更ながら何の用だとカールも思ったが、専門家が来てくれるのは、やはり良い事だとも考え直す。
自分ではゼーラス・ヤークトに不具合が起きているとは思っていなかったが、それは専門家ではない者の見立てであり、もしかしたら、細かな点では異常が出ている可能性だってある。
最初の導入で既に間違えてもいるので、カール自身も少なからず不安に思っていたので助かるとも考えたのだ。
船と直接接触を持ったのは、グスターブだった。
MSから降りて船内に入り、数分後には出てきた。そして、カール達に指示を出す。
『カール、リシット。 お前達はこのまま、ここに残って周囲を警戒しろ。 俺は、お偉いさんを引っ張って行く』
その言葉通り船に備え付けの小型船が分離すると、グスターブの先導でジェミニボックスの方へと向かって行った。
推進機の火が遠く行ってしまった後、カールは、改めて船を観察してみる。
少し歪な形はしていたが、大雑把に言って四角くて長いその船は、一見すると、ただの貨物船にしか見えない。
白一色の船体に、ブルーの横線が引かれている為、旅客船的なアイコンも持っている。
ただし、窓の様な物は殆ど無いので、実質的には貨物を専門としているのだろう。或いは、元々客船だったのを貨物船に流用したのかもしれない。
こうした船は別に珍しくもない。
同じ船体を利用して多目的に内部を作り変えるのは宇宙世紀では常套手段だ。
中には、ただの貨物船を安いと言う理由だけでコロニー間を行き来する船にしている例もあり、その逆もしかりだ。
要は、今の技術がそれだけ高いと言う事も意味していた。
だとしたら、コイツの中身は何か?
「リシットさん、この船の中身って、やっぱりMSですかね」
『だろうな。 恐らく、整備に出していたゼーラスだろ』
「でも、何でわざわざ、こんな遠くに止めるんです?」
『そりゃ、俺たちが、どこの後ろ盾を得ているかは秘密だからだ。 MSを受け取るにしても、一工夫必要なのさ』
「工夫?」
『まあ、茶番だな。 護衛って事にしているが、俺達は今、この船を拿捕してんだ。 後は、盗賊共を送り込んで、中のMSを頂くってシナリオさ』
「大人の事情ですか。 こんな所にまで来て」
『面倒臭い事を大真面目にやるのが大人なんだよ。 覚えておくと良い』
カールはコクピットで頷いたが、返事はしなかった。
何というか、合点は行ったが、納得は出来なかったからだ。
「任務の変更だと? 当該宙域に深く侵入しろとは、戦争でもさせる気か?」
艦長のハッサスが、今しがた渡された一枚の命令書を顔の前につまみながら、ペラペラとさせて嫌味混じりに言った。
命令書は一見するとただの紙だが特殊な素材になっており、一定時間空気に触れる事で大抵のインクを表面上で拡散、字をモザイク状にして判別不能にする。電子機器が発達した今の世界では、更に高度になった技術に対抗する為に、アナログ的な手段が逆に有効な事もある。
よって、艦長がヒラヒラさせている行為も実は意味があるのだ。同時に、彼の機嫌は、ますます悪くなっていた。
それは単に、任務の危険度が上がったと言う事だけが理由ではない。
お馴染みの16番室には、イドとグスターブ、そして、アナハイム関係者でモルド・サブルと名乗る男が詰めている。
「予定が変更になったとはいえ、通信をデタラメに周囲にばら撒いては困るな。 こちらは、これでも作戦行動中だ」
静かな口調であったが、ハッサスの言葉には怒りが滲む。
「安全な宙域と聞いていましたが」
「隠れていればな」
艦長とやり取りしたモルドと言う男は、スーツをぴっしりと着こなし、脇にはアタッシュケースを抱え如何にもビジネスマンと言った風貌をしている。
だが、中に居る誰一人として、その男の外見に騙される者は居なかった。
そして、最初に口火を切ったのは、イド・ノーガルだった。
「貴殿は、連邦…エゥーゴの者だな。 民間人を装うにしては、姿勢が良すぎるぞ」
ジェミニボックスの隊員であれば、大抵は、その男の隠れた素性に薄々気が付いただろうが、確信を持って発言できたのは細かなことまで気が付くイドならではであろう。
「……まあ、つい数週間前まではね。今は、アナハイムの社員ですよ。 名刺でも受け取りますか?」
その男の言葉にイドは雑に手を振って、拒否の態度を示す。
「ふん。 アナハイムが作戦の命令だ? 矛盾しとるぞ。 我々の雇い主が、誰かは知らない訳ではあるまい」
艦長が嫌味を言うと、モルドは一旦メガネを外してレンズを拭いてから、かけ直してから返答した。
「今回の作戦は、エゥーゴが動くきっかけ作りかと。 RS社にも、既に通達済みです」
「エゥーゴ絡みの任務?。 まだ準備段階ではなかったのか? 支援部隊に出来る事なぞ、限られているはずだが」
艦長のその言葉を聞いて、モルドは、更にアタッシュケースから一枚の紙を取り出して渡す。
何かの設計図…と言うよりは、ピンぼけな青写真のコピーの様だった。
「MS?…これは、ガンダムか!?」
それを聞いて、グスターブがわざわざ覗き込みに行く。
確かに、輪郭はそれっぽい。本物は見た事がないグスターブだが、資料等で大体の姿は知っていので、それと照合する。しかし、部分的に違うと感じる部分もあった。
「新型? 連邦の新しいガンダムか」
グスターブのその言葉で、男たちは一斉にモルドを見たのだが、彼は首を横に振った。
「まだ詳細は不明です。 この所、連邦…と言うよりは、ティターンズ向けの新型が数多く開発されてましてね。 その一機種らしいのですが、どこにあるかは明確になっていないのですよ」
「では、俺達が向かう宙域に、コイツが居る可能性があると?」
イドが鋭い眼光を向けるが、やはり軍人らしいモルドは全く動じない。
「まあ、そう言う事です」
そう言って、モルドは顔をうつむき加減にしてメガネを抑える。そのせいで表情は読みとれない。
「仮に、俺達の向かう所にガンダムがあったとして、どうするつもりだ。 戦ってデータを取れと?」
「いえ、できれば捕獲して欲しいのです」
それを聞いた瞬間、その場に居る誰もが呆れた顔をした。
「本気か? ティターンズの最新機種を、情報も無い状態で捕獲ってなぁ?」
実際に矢面に立つ事になるグスターブが声を荒げる。
「できればって話です。 それに、ハズレって事もありますよ」
うつむいたまま、やはり表情を見せずにモルドは返した。
「別働隊が動いている口ぶりだな」
イドが口を挟んだが、モルドは肩を竦めただけで、それには答えない。
「待て。 あんたはアナハイムとエゥーゴ、結局どっちなんだ? 私の勘が不味いと言っているぞ」
より一層、イドが眼光鋭くモルドを睨む。その鋭さは、もはや視線で貫かんと言わんばかりだ。
「…ゼーラスの新装備を施した機体、今、どうなってます?」
唐突に話をそらすモルドに、何か言いたげなイドを制して、艦長が代わりに答える。
「そっちの護衛に出とるよ。 見なかったのか?」
「ああ……MSを直接渡すからスタッフは来なくていいと言う意味は、そう言う事でしたか」
モルドはそう言ってグスターブを見る。それに対し、グスターブは腕を組んだままで反応しない。
暫く沈黙が続いた。
「…アナハイムも、一枚岩とは行かない様でしてね。 出所不明の怪しい技術とかね。 その一つが、こちらの新装備らしいんですよ」
それを聞いて、モルド以外の全員が顔を見合わせた。
「カールが言ってた、エラーが出るって…じゃあ、あんたは、その出処不明の先を調査しに?」
今度は艦長の眼光が鋭くなる。こちら側を疑っているのではないかと思ったのだ。
しかし、モルドは首を振る。その仕草には、ジェミニボックスは除外すると言う意味が見て取れた。
「こっちの話は、あくまでもMSの発見と、可能な限り捕獲しろと言う事を伝えに来ただけです。 後の事については、上の連中次第でしょう。 ただ、個人的には思う所はありますよ」
「ほう? その思うところを、是非聞かせて欲しいものだな」
「まあ、ティターンズとエゥーゴが戦った場合、一番の勝者は誰かって事ですよ。 もちろん、私の勝手な想像も入っていますがね。 少なくとも、アナハイムの中にも日和見を決め込もうとしている勢力がある…そのせいか、エゥーゴに提供出来る戦力は、明らかに不足する可能性があるんですよ」
「では、この新型ガンダムを奪って、そいつらを出し抜くと?」
その言葉に、モルドは再び沈黙で答える。彼もそれ以上の事は知らないか、確証が持てないのだろう。
恐らくだが、モルドはエゥーゴから、アナハイムに付けられた鈴なのかも知れない。
アナハイムが、あからさまとも言える鈴を受け入れていたのには艦長も疑問に思ったが、その艦長とモルドのやり取りを暫く黙って聞いていたイドが、代わりに鋭く切り込んできた。
「新型ガンダムを欲しがる割には、出どころ不明の技術を、何故こっちに使わせている? カードも揃っていないのに、勝負をかけようとは矛盾しているな。 もしかして、まだ隠している事があるんじゃいないか?」
イドの言葉に、モルドの眉がピクリと動くと、静かに答えた。
「こっちに装備させた奴は試作段階なんですよ。 その上、ティターンズ側に渡る可能性のある技術と比べると、まだまだでしてね。 それを補う手札を確保したいって分けです」
それを聞いたイドが、珍しく長い溜息をついた。
恐らくだがアナハイムは、ティターンズとエゥーゴ、両方に何らかの技術を提供しようとしているのだろう。
あるいは、どちらも利用して技術の取得を試みているか。
アナハイムの裏側と、表の顔が手を繋がずに動いている可能性もあるが、それとて確証は無い。
何れにしろジェミニボックスの連中は、その陰謀に巻き込まれつつあることだけは間違いがないだろう。そして、艦長のハッサスが更に追求する。
「それでも解せんな。 切り札になる可能性がある物にしては、扱いが雑すぎる。 本来、そっちで調整すべきでは無いのか? 何故、専門でもないコチラに任せる?」
しばらくの沈黙の後、モルドが答える。
「現状、どれが物になるかは、分からない段階なんですよ。 球を放った中で、たまたま物になりそうだと言うだけでして。
もちろん、同じ装備で試験をしている別機体もあります。 そっちで色々と出した結果、それに相当する改良を、あくまでも試験的にやるって話しです。 切り札になるかは、まだ何とも言えないんですよ。
だからこそ、別の突破口が必要でしてね。 まあ、アナハイムも打てる手は打っていた分けですが、後手に回っているのと、模索中である事で迷惑をかけている事は否定しませんよ」
モルドは、まるで他人事の様にして言うのだった。
小型船が出て行ってしばらくしてから、今度はジェミニボックス所属のランチがグスターブとドルバの乗るゼーラスに引き連れられてやって来た。
リシットの言う盗賊役たちである。
彼らは、その通りに次々とゼーラスを格納庫から引っ張り出し、運搬の準備を始める。
今回、運び込まれるゼーラスは全部で5機。更に各種の予備パーツや、補給品も運び出すらしい。そう言えば、ゼーラス・ヤークトの新装備も予定には入っているはずだ。
警戒は、そのままカールとリシットに任せられ、グスターブとドルバは運搬の支援を行う。
その為、カール達はウェーブライダー形態のままだが、グスターブ達はMS形態になっていた。
戦闘用のMSだが、元が作業用から発展したと言う経緯もあって、器用に搬出作業をこなしている。
その手際の良さにカールは舌を巻いた。
プチMSを専門に扱っていただけに、MSでの作業は自分の方が上かもしれないと思っていたが、良く訓練された兵士は一々MSの扱いが上手い。
連携が取れていると言う事もあるが、それぞれが出す合図に従い、細かく操って滞りなく作業を進めて行く。
この分ならば、あと数十分程で作業は完了するはずだ。
「……何だ?」
作業を見ていたカールは、全く関係ない遠くの宇宙に何かを見た感じがした。
「リシットさん、前方に何か見えませんでしたか」
『前方って、どこだ?』
「あっと……10時の方向です」
『…センサーに反応は無いが』
確かに。カールのゼーラスでも、色々と弄ってみたが、それらしき物を確認できない。
だが、確かに何かを見た気がしたのだ。
その方向にはジェミニボックスも居るので、それと見間違ったかとも思ったが、位置的に考えると、何かを見た所とは逆になるはずだった。
尚も、カールは注視してみる。
「やっぱり、何かいる」
カールは、我知らずと機体を加速させていた。
「何だ? カールか」
突然、ウェーブライダーの一機が加速したの見て、グスターブが怪訝そうにした。
一旦手を止めると、リシットに連絡を入れる。
「どうした。 カールは、何故離れた?」
『分かりません。 何か見つけたと言ってましたが、センサーには何も。 それに、母艦からも合図だってありませんよ』
念の為グスターブも機体を操って、各種の装置を弄りセンサーの反応を待つ。
しかし、機械は何も返してこない。
少しだけ顎をさすった後、グスターブはリシットに指示を出した。
「こっちは、いい。 カールと行ってくれ」
それにリシットは短く応じて、同じ様にして加速して行く。
ゼーラス・ヤークトの最大加速は、かなりキツイGがかかる。
それでも構わずにカールは怪しい方向へと急行した。
ある程度進んだ所で、右側に光点の様な物を確認する。恐らくジェミニボックスだろう。
やはり、自分が感じた物は別だったのだ。
更に進んだ時だ。明らかに、馴染みの無いMSの姿が確認できた。今度は、センサーも、それを捉える。
「ザク?…いや、ハイザックか!」
各種のデータと情報をミーティングとかでカールも嫌と言う程見せられていたが、それによって相手MSをコンピューターを見ずに言い当てる。
機数は6。
しかし、問題はここからだ。
「威嚇射撃をするか? それとも、ジェミニボックスには気が付いていない? 迂闊すぎたってのか」
カールが行動を迷う刹那、向こうの方から攻撃してきた。
数発のビームがこちらに向かってくる。それを無理やり機体をひねってかわし、速度を維持して相手の周囲を回りながら反撃する。
だが、ポジショニングを取らない攻撃など当たるわけがない。
カールは落ち着けと自分に言い聞かせながら、機会を伺って射撃ボタンを押したが、驚く程に攻撃が当たらない。
そして、そこで初めて、自分がMS形態では無い事に気が付いた。
すぐさま変形させるが、直後にビームが側を掠める。
「当てないで下さいよ。 こっちは、民間人なんだから」
文句を言うが、当然相手に伝わる訳もない。尚も激しい攻撃が繰り出されてきた。
「ハイザックなのに速い」
性能ではゼーラスの方が上と聞かされていたが、実戦で相対したハイザックは、カールが予想していた以上に動きが良かった。
連携が出来ていると言うのも大きいだろうが、グスターブに言われた良く訓練された兵士の能力は、MSに性能以上の力を与えると言っていたのを、まさかこんな形で実感するとは思わなかった。
相手は二機をカールの牽制に当てると、残りは援護弾を撃ちつつ加速を始める。恐らく、狙いはジェミニボックスなのだろう。
「抜かせるものか」
ゼーラス・ヤークトの最大推力を使い、カールは強引に前へと回り込んだが、途端に集中砲火を浴びる。
「ビーム? 誰だ、誰が撃っている? 監視!」
ブリッジに上がっていた艦長のハッサスは、左やや前方にきらめくビーム光を目ざとく見つけると、即座に対応する。
側に居たイドも直ぐに受話器を取って何かの指示を出していた。
「遠すぎます。 センサーでも拾えません」
「全く!」
忌々しげに双眼鏡を掴むと、ハッサスは直接己の目で確認する。嫌な予感が当たったと言う表情が出る。
ビームの色からして、ゼーラスが一機。その他が5から6というところか。
と、その時、視認できるかどうかの距離を、一機のウェーブライダーが横切って通信が入る。
「リシットからです。 どうやら、向こうでドンパチやっているのはカールの様です」
「向こうの状況を知らさせろ。 信号弾を使わせても良い」
「了解」
「警報を鳴らせ。 総員、戦闘配置! MSを動かせる奴は出させろ。 ハッタリでいい。 射点を作って、牽制させるんだ。 直接参加は控えるよう、徹底させろ。 グルード!」
『位置に付いている。 だが、遠くて分からんぞ』
「それで良い」
甲板で待機していたグルードにケーブル通信で連絡を送った直後、 艦内に警報が鳴り響いた。
同時に館内放送により短く状況が知らされると、メカニック数人がパイロットスーツを着込みに走る。
格納庫にイドも降りてきた。床にふわりと着地すると、パイロットスーツが置かれている場所へと向かう。
「イド、あんたまで、出るのか?」
そう言ったのは、ザッドだった。
「先行しているのはカールだ。 素人ばかりに、命を預ける分けにはいかんだろ」
「違いない」
「にしても、俺らがカールの援護に回るとはな」
「全くだ」
彼らは素早く準備を済ませた後、外に駐機されているジム2へと急ぐ。と言っても、乗れる機体は3機しかない。
正規のパイロットとMSは、ゼーラス搬入の為に殆どが出払っていた為、少なからず動かせる彼らが出るしか無いのだ。
メカニックと言えども彼らも傭兵の端くれ。牽制程度の戦闘はこなせた。
それに、ただ一人、静かなるエースと呼ばれるグルードは残っていた為、それによって士気も高い。
戦闘状態へと移行し、ブリッジ内も慌ただしくなった時だ。
戦闘宙域から信号弾が上がる。
敵だという合図と、その機数を6と知らせて来た。
ならば、少なくとも一隻の母艦が近くに潜んでいるはずだ。
「敵の母艦は探せるか?」
「ミノフスキー粒子濃度が高すぎます」
「先手を取られたな。 最大船速。 水平方向にジグザグに動きつつ、円運動をしろ。 死んだ魚の様に動いて、相手の攻撃を誘え。 敵からビームが放たれたら、当たらない様に祈れ。 そして、死んでもその場所を特定しろ」
ハッサスの指示により、ジェミニボックスが加速を始める。
ハイザック6機を一度に相手にし、カールは逃げ回る事しか出来なかった。それには、更に別の理由も加わっている。
「くっ! 何だ、さっきから感じるこのプレッシャー。 これが、戦争だって言うのか」
ゼーラス・ヤークトで増幅される感覚を活かそうとするが、相手の凄まじい気の様な物を同時に受け取り、それがカールを悩ませる。
憎悪、怒り、憎しみ、殺意、怯え、恐怖。
色々な感情の様な物が混じり合ってカールに流れ込み、心をかき乱す。
「こんなんじゃ…!」
単純な回避をしすぎたせいか、敵はカールの動きを読んでいた。そして、ビームライフルが向けられる。
しかし、相手は構えたままで急回避をとった。直後、その空間をビームが通り抜けた。
背後を監視するモニターが、その撃った相手を映し出す。リシットのゼーラスだった。
「リシットさん!」
コクピット内で叫んだが、ミノフスキー粒子が濃いのか、相手からは何の応答も無い。
その代わり、リシット機は加速してハイザック隊に突撃し、その隊列を崩すかの様に撹乱行動を取る。
「僕だって!」
カールもゼーラス・ヤークトの推進機を吹かすと、リシットの後を追った。