戦闘が始まった宙域からやや離れた場所に、大きめの隕石が漂っていた。
その上にはケーブルで繋がれた小型カメラのドローンが張り付いている。
ケーブルの先を辿っていけばサラミス級が隠れる様に潜んでおり、周りにも直掩のMSとしてジム2が二機、警戒に当っていた。
ブリッジでは、そのドローンの映像をモニターを通して数人の人物が見ている。
ミノフスキー粒子を散布した為、高性能のカメラで補正をかけてもノイズが走っていたが、大体の様子は確認できる。更に遠くには、母艦らしき物が移動しているのも見えていた。
「どう思う? このMS、例のフォークシップの奴か」
「何とも言えませんな。 少なくとも、ジオン残党では無いでしょう」
艦長らしき人物と会話をしていたのは、ティターンズ所属のパイロット、モルフィデ・クハーツだった。
独断専行などの問題行為で彼の軍での立場は常に微妙だったが、何故かティターンズには拾われ、そこで本領発揮とばかりに動き回っている。
今回も一部で噂になっていた正体不明とされる組織、その船型からフォークシップと呼ばれる連中を、とある所から入手した情報を元にティターンズ権限を振りかざして出張ってきたのだ。
ただし、情報提供はかなり意図的であった上に、手土産まで持参するなど、怪しさが付きまとってもいた。
故に、半ば半信半疑でここまで来たが、目の前の光景を見せられては、腹を決めるしか無い。
「例の貨物船は、どうしますか」
事前の情報で、"所属不明艦が、貨物船を襲う可能性がある"と聞かされていた為、艦長は一応聞いてみた。
「道案内の役目は済んでる。 フォークシップを沈めれば、どの道用はない。 俺も出撃する。 艦長、後は好きにやってくれて良い」
そう言ってモルフィデが出ていくのを確認した後、艦長は吐き捨てた。
「ティターンズめ」
ブリッジを出たモルフィデは、特別に設えられたMS用格納庫へと入って行く。
このサラミス級を改修した試験艦は、船体の両側に、艦の半分以上に及ぶ筒状のMS格納庫兼出撃用施設を持っていた。
艦名は、その名もツインチューブ。
サラミス改を船体として利用している為、既に一定以上のMS運用能力を持っているが、これによって更に能力が向上しているのが特徴だ。ただ積むだけであれば最大で12機のMSを搭載できる。
追加された格納庫が筒状になっているのは、砲塔の設置も考えての事であり、実際、格納庫外壁には連装式の砲塔がそれぞれ一基ついていて、しかも筒の外郭自体が回転する事により砲塔が移動し、死角をある程度補える様になっていた。
MSが主力となった今となっては疑問が残る装備だが、だからこそ、試験運用に留まっているのだろう。
見えないはずの砲塔を見上げる様にしてから、モルフィデは格納庫を暫し見渡し、そして奥のMSへと目をやった。
そこには、彼への手土産とされたMSが鎮座している。
ベースはハイザックらしいのだが、追加装甲に加えて、背部にも大型の装備品が施されており、スペックだけを見たら化け物と言って良いMSとなっていた。
大型の推進機とジェネレーター。それを遺憾なく利用する為の大型ビームライフルに、背部に折りたたまれた二門のビームキャノン。そして、これまた大型のミサイルポッドが左右に一基づつ、推進機の側面についている。
ティターンズシンパと言う連邦の上官に秘密裏に呼び出されたモルフィデは、例の情報と共に、このMSを譲渡された。
限りなく怪しいと思ったが、目の前に機材を並べられては興味が無いとは言えない。
ただし、彼も軍人の端くれである。それを見て直ぐにアナハイムと関連があると見抜く。
それに付いて提供者は何も口にする事はなかったが、ティターンズの腕は長いのだと意味深な事だけは言っていたので、ある程度納得はする。
「クハーツ大尉、出撃ですか?」
メカニックの一人が話しかけてきた。現場主義のモルフィデは、部下に対する当たりは良いので、そこら辺の人気は高い。ある意味、ティターンズとなれた要素は、少なからずここにあったのかも知れない。
「おう。 ハイザック・エクスの調子はどうだ」
「準備万端ですよ」
メカニックが親指を立てる。
それに満足した様に頷いたモルフィデだったが、険しい目でMSを見上げる。すると、その表情を伺っていたメカニックが心配そうに声をかけてきた。
「何か、駄目でしたか?」
「ああ、いや、違う。 コイツを見て、何か思う所はないか」
それを受けて、メカニックは言葉を選びながら答える。
「…コイツの装備品、アナハイム、の奴ですよね」
「その通りだろうな。 拝金主義者のMSは、連邦から締め出したって話しだったのに、未だに食い込んでやがる。 どうも解せなくてな」
「コイツがここに来た経緯は分かりませんが、連邦内部にも、袖の下って奴でヒョイヒョイ動く輩が居ると聞いた事があります」
「だこらこそのティターンズか」
モルフィデは、まるで自分がティターンズでは無い様な口ぶりで言った。
コクピットに潜り込んだモルフィデは、手早く各種のチェックを行っていく。
周囲も慌ただしく動いており、周りを再確認しつつ、同時に退避も行ってMSの発進に備えている。
『チェック終了。 前に出せ』
念の為に通信とは別に外部マイクも通じて連絡を入れる。すると、MSを懸架しているアームが前方へと移動し、発射用カタパルトへと機体を乗せて行く。
この格納庫の欠点の一つは、積み込んだ順にしかMSを出せないと言う事だ。
予め通常のハイザックは先行して出す事が決められていたので、このハイザック・エクスは奥へと押し込まれていた。
カタパルトに足が固定されると、二重になっている壁面が前へとスライドして加速用の距離を稼ぐ。
『ハイザック・エクス、発艦を許可する。 火を炊くのは、念の為に十分に距離を取ってからにして下さい』
「了解した」
艦の位置がバレるのを避ける為、カタパルト射出後の推進機の利用を念押しされる。
「ハイザック・エクス、発進する」
途端に、凄まじいGがモルフィデを押さえつけた。
ある程度直進した後、機体の四肢を振って機体を回転させると、そこで初めて推進機を吹かす。
敵に対して正面に位置を取る事で、少しでも推進機の光を見え難くしようと言う試みだった。
もっとも、この状況で気が付く者がいるとも思えない。
「さて、獲物を試させてもらおう」
モルフィデは、両腕に抱えた大型の兵装を肩に担がせた。
名称的にはビームライフルとなっているが、その大きさから言えば、メガ・ビームランチャーとでも形容していい代物だ。
一回のチャージには時間がかかるが、その威力と射程は戦艦の主砲に等しいと言う。
ただし、不完全な為に、限りなく絞られたビームしか撃てないらしく、範囲と言う意味では問題があるとも説明されている。
「ダメ元で当たれよ」
超望遠にしたモニターに、敵の母艦らしき物を捉えて彼は引き金を引いた。
混戦著しい戦場に、一筋のビーム光が駆け抜け、それはジェミニボックスの近くを通過する。
「砲撃? 敵の母艦からか!? 対空監視、位置は?」
「駄目です。 諸元を得られません。 目標、視認不能」
ブリッジに詰める船員らのやり取りを聞いて、ハッサスが推測を口にする。
「砲撃にしては、単発過ぎる。 恐らく、今のはMSか何かだ。 迂闊には撃つな。囮の可能性もある」
そう言って受話器を取ると、幾つかの操作をしてから通話をする。
「グルード、今の砲撃を見たな? そっちで牽制の弾を撃て。 当たらなくて良い。 目標を散らせ」
レーザー通信も既に途切れ途切れになっていたが、雑音混じりに何とか指示を出すと、それで悟ったグルードのジム2がジェミニボックスの近辺から離れて、射撃を始める。
「直ぐに反撃が来た? 連中、やるな」
既に最初の射点から移動していたモルフィデだったが、ほぼ正確に、自分が居た場所にビームが撃ち込まれた事に感心する。
ハイザック・エクスのビームより更に細いが、それには見覚えが合った。恐らく、スナイパータイプのビームライフルを装備している機体が居るのだろう。
あっちはエネルギーパックを利用しているので、威力こそ定格になるが、連射が可能だ。
更に、探る様に数発が周囲へと撃ち込まれる。それだけで、かなりの手練だと言うのも分かる。
「元連邦の軍人か? スペースノイドに感化されるとは、感心しないな」
撃ち方の癖とでも言うのだろうか、それで彼は勝手に相手が連邦軍兵士と推測した。
そして、機体を最大速度で加速させつつ、二門のキャノンを前方に回す。大型ビームライフルは、まだチャージに時間がかかるからだ。
「なに?戦闘? グスターブ、搬出だけじゃ駄目だよ」
遠く僅かに見えた信号弾に気が付いたミュリアムは、自分が搬出する役目に付いたゼーラスのモニターを拡大しながら、レーザー通信でグスターブに連絡を取る。
全周囲モニターの幾つかは、電源をオフにしていた為に真っ暗となっており、そこに彼女のピンク色のパイロットスーツ姿が映し出されていたが、直様それらにも明かりが灯ると、全システムがスタンバイの状態となる。
『よせ、今は作業に集中しろ』
動こうとするミュリアム機に機体を接触させ、通信を送ると共にグスターブが制止する。
「冗談でしょ。 あっちはパイロット居ないんだよ!?」
『心配するな。 メカニックの連中も牽制くらいはできる。 それに、グルードが居るんだ。 そうそう沈められんよ』
しかしミュリアムは、その言葉を無視してゼーラスを滑らせる様に動かすと、グスターブのビームライフルをかっさらって発進させた。
「ミュリアム! くそ。 作業を急げ、離脱の準備をするんだ」
本音ではミュリアム同様、今直ぐ戦場に駆けつけたいグスターブであったが、この場をおざなりにすれば他の隊員たちまでもが動揺してしまう。
何より、ここも狙われる可能性があるのだ。できるだけ速やかに作業を終え、安全を確保する必要がある。
「死ぬなよ。 カール、ミュリアム」
モニターに遠ざかるゼーラスの推進機の瞬きを見送りながら、グスターブは呟いた。
「ティターンズの大尉殿も、役に立つな。 敵母艦は、今ので気を取られたはずだ。 こっちも打って出るぞ。 機関始動」
ツインチューブが偵察用ドローンを回収しつつ、その姿を隕石から現す。
同時に、側面のチューブに設けられた砲塔がそれぞれ回転し、砲撃体制を取った。
側面という正位置にあった各砲塔は、右舷の物は上・・と言うよりは、左へと旋回しつつも基部が回転して下へ。左舷の砲塔は、右へと旋回して基部を回して上へと位置を取り、ほぼ真横を向く。加えて、艦橋真後ろにある砲塔も右を向いた。
これで、全部で五門の砲口が狙いを定めている事になる。
直後、5つのビームが一斉に放たれた。
ジェミニボックスの前後を5つのビームが横切って行く。その数と威力で、直ぐに敵母艦の物だと分かる。
「来たぞ、艦砲射撃だ。 向こうが見ているなら、こっちにも見える。よく探せ。 ジム2隊、牽制しつつ下がれよ。 こっちは、まだ撃つな。 尻尾を巻いて逃げる準備が先だ」
ハッサスの指示が飛ぶと、予め手順を決めていたのか、それぞれが所定の行動を取る。
それにより、ジェミニボックスは水平のジグザグ行動に加えて、縦方向にもそれを始めた。
「逃げてくれよ、ジェミニボックス」
全周囲モニターに開いていた小モニター越しに、ほぼ背後の船を見つつ、グルードは更に牽制のビームを放つ。
敵母艦の位置に数発。そして、敵MSの推進機が見えた当たりにも数発。
しかし、当たらなかったのか、ビーム光は宇宙に吸い込まれただけで消えた。
今のでエネルギーパック分を使い切ったので、新しい物と交換しつつ移動する。
ミノフスキー粒子が濃い。モニターでは相手の姿が補正されて映し出されてはいるが、それでも不鮮明だった。しかも、正確な位置と距離が測れない。
そもそもジム2は汎用MSであり、狙撃能力は限定的なので、どうしてもスナイプ能力にカスタマイズした機体よりは劣るのだ。
故に勘で撃つ。もちろん、当たれば儲けものぐらいの感覚でしか無く、あくまでも牽制が目的だ。
しかし、向こうもそれが分かっているのか、一向に攻撃の手を緩める様な真似はしない。
再び敵母艦らしき物から数本のビームが立て続けに発射される。
グルードは今度はよく狙いを定めて撃とうとしたが、センサーに反応が出たために咄嗟に急機動をかけた。
途端に、彼の居た場所に二本のビームが突き抜けていく。後少しでも反応が遅かったら、やられていた。
ホッとしたのもつかの間、更に連続してビームが放たれ、その内の一つが味方ジム2の一機を捉え、爆発する。
「ちぃっ、誰がやられたんだ。 あのMS!」
既に接近してきていた敵MSに、グルードは素早くモードを切り替えると、連射して対応する。だが、速い。
「ハイザック…じゃない? 何だ、新型か!?」
ゼーラス以上のスピードで横切っていった敵は、更に速度を維持したまま旋回、再びビームを撃ちながら向かってくる。
「散れ、止まると狙い撃ちにされるぞ」
MSの腕を振って味方に合図しつつ、片手で大型の獲物を振って反撃する。しかし、敵はそのスピードのままかわすと、ミサイルまで撃ってきた。
「ジム2隊が狙われた? MSに抜かれたってのか。 こっちのハイザックは囮?」
多勢に無勢の状態でありながらも、カールは良く戦っていた。事前に逃げろと言われていた事など忘れている。
遅れて到着したリシットも加わっていたが、彼もカールを必要と認めたのか、退けとは言わなかった。
もっとも、手練と言える6機のハイザックを相手にしていては、そんな余裕などなかっただけかも知れない。
それを示すかの様に、ちょっとした気の逸れを敵は見逃さなかった。
ジム2隊にホンの少し注意を向けたカールの僅かな隙きに、ハイザックの一機が滑り込む様にして動くとビームライフルを向ける。
モニターから見た感じでは距離がある様にも見えたが、MS同士の戦闘と言う状況では、その位置は絶対かわせない必殺の間合いだった。
「しまった!」
カールは刹那に死を覚悟したが、直後にハイザックの頭部をビームが貫き爆発する。
機体に微かな振動が走り、怒鳴り声が入ってきた。
『カール、迂闊だぞ。 生き残りたかったら、気を逸らすな』
リシットがカバーに入ってくれたのだ。こちらの機体に、接触回線を行っている。
「リシットさん、ジム2隊が、ジェミニボックスが」
『大丈夫だ。 向こうにはグルードが居る。 こっちが数を抑えて置かないと、向こうも駄目になるぞ…来る!』
リシットは、自らのゼーラスの手でカール機を思いっきり押し、回避と運動エネルギーの両方を確保しようと動く。
それを見て、カールも気を引き締めた。
「しっかりしろ、カール。 やれる事をやるんだ。 僕にだって、囮以上の働きはできる…!」
狙ってビームを撃つのだが、尽くかわされる。敵は常に動き回っており、こちらのコンピュータで補正した射撃さえ上回って見せた。
「何で、当たらないのさ」
苛立ちながらカールは機体を振り回し、敵を追いかけつつ射撃するが、やはりかわされる。
敵は複数がジグザグに動いて、回避と攻撃を代わる代わる行う。
そのせいで全く隙がない。実際、カールが撃てるチャンスは彼らが許した範囲でしかなく、完全にコントロールされていた。
「上手いだけじゃ戦場で通じないってのは、良く分かりましたよ」
カールは予備のビームパックを連携機動中の敵目掛けて投げつけ、それを撃ち抜いた。
途端に爆発が起こる。これで、ビームライフルは、あと数発しか撃てない。
爆発は相手の姿まで隠してしまったが、カールはゼーラスの感覚を頼りに切り込んだ。
流石にこれは予想外だったのか、それとも何かのトラブルがあったのか、敵の一機が足を止めていた。そこに爆発を割る様にして現れたカールがとらえる。
完全に切り倒せると思ったが、向こうも寸前にヒートホークを取り出して受け止めた。
そのまま、もつれ合う形となったが、カールはそれを利用して死角を生み出し、あるタイミングで機体を回転させると、隙間から僅かに見えた背後の相手を狙ってビームを撃つ。
直撃した相手は、爆散した。
「これで、一機」
敵の動揺の様な物を僅かに感じたカールは、相手ハイザックを蹴り飛ばして距離を取る。
すると、ハイザックは姿勢を制御して逆さまになり、カールの下へと回り込みながらビームを撃ってきた。その為、カールは上へ逃げるしかない。
ところが、それを狙ってもう一機のハイザックが、今度はビームサーベルで上から切り込んできた。
タイミング的に考えれば完璧であり、下のビーム攻撃はかわせるかも知れないが、上の攻撃は防げない。
「ウェーブライダーになれ無いからって。 変形は、何時だってできるんだ!」
ゼーラスのフライングアーマーが回転すると、そのまま頭頂部で停止、必然的に、敵はそれに攻撃を当てる事になる。
敵のビームサーベルは、僅かにフライングアーマーを切り裂いたが、ある程度進んだ所で止まってしまった。
直後、カールは爆発ボルトを作動させてフライングアーマーを投棄すると、機体を捻りながら上昇、接近戦を挑んできたハイザックをすれ違いざまにビームサーベルで胴体から真っ二つにし、更に下方に位置するハイザックにビームライフルを食らわせて、これも命中させる。
カールが飛び去るのにやや遅れて、二機のMSが同時に爆発した。
「これで、三機」
「カール、あいつ」
二機のハイザックを同時に相手にしつつも、リシットは驚嘆の声を上げる。
二機の内一機が実体弾のマシンガンを使っており、こいつの連射力が厄介で手こずっていたのは確かだが、カールを気にしての戦いでもあった為、必然的に彼の動きは鈍くなっていた。
ところが、そのカールが真っ先に敵を片付けてしまったのだ。
MSパイロットは、ある時を境にして、その能力を開放させると言う。そのタイミングの多くは、敵を撃破した時に訪れやすい。
リシットにも覚えのある経験だが、カールのそれは出来すぎとも言えた。
瞬く間に三機を屠った事と良い、戦闘中には役に立たないとされていた変形を咄嗟に利用する事といい、そのセンスにも驚かされたと言っていい。
MSの性能なのか、それともカールの腕か。
すると、カール機が機体を回転させ、こちらの方を振り返る。まるで、大丈夫かと聞いているかの様だ。
それにリシットはビームサーベルを抜いて、二機のハイザックを振り払う様にしてから、行けと言う合図を送る。
伝わったらしく、カール機はジム2隊の方向へと加速していった。
流石は、両足にエンジンを備えるヤークトタイプである。
フライングアーマーを失ったと言うのに、通常のゼーラスと変わらない速度で移動していった。
「まさか、この俺がカールに心配されるとはな!」
リシットは、気合を入れ直した。
ハイザックらしきMSのミサイル攻撃を受け、更に1機のジム2が失われる。直撃した為に、パイロットは即死だったろう。
残りはグルードと増援に来たジム2の二機のみ。
残ったジム2のは動きが良かったが、相手との性能差が余りにもありすぎて、ギリギリと言った感じで対応している。
グルードも懸命に牽制に入るが、敵MSの多数の砲門と高い機動性に圧倒され、思うように行かない。
すると、残るジム1機が足に被弾した。途端にバランスを崩す。オマケに、敵はそれを盾にする様な位置に入った為、グルードも援護の射撃ができない。
「くそ!」
慌てて機体を移動させようとするが、これでは間に合わない。
「終わりか」
ジム2の足を失い、確実に狙われる状態になったのを見て、イドは呟いた。不思議と恐怖は沸かない。何故なら、彼は何度も死に損なっていて、これが初めてではなかったからだ。
今度こそ仲間の元に行くかと思った瞬間、敵MSの横合いからビームが撃ち込まれ、敵はそれを回避して射撃の機会を失う。
ビームが来た方向をモニター越しに確認すると、一機のMSが眩い光を放って近づいて来るのが見えた。
「ゼーラス? カールか!?」
「増援? ハイザック隊を抜けて来たというのか!」
ハイザック・エクスを急機動させつつ、モルフィデは反撃を試みる。
しかし相手は思った以上に素早く、大きく円を描く様にしてかわすと同様に反撃してきた。
「良くも、ジム2を」
尚も射撃を試みようとしたカールだったが、一発撃った所で反応が無くなる。モニターには残弾が無い事が表示されていた。
それでも構わず機体を加速させると、バルカンを放ちつつ突進する。しかし、単純な加速力なら相手の方が上だった。
追いつけない。
そう思った時だ、敵の進路を塞ぐ様にしてビームが撃ち込まれ、それによって相手は僅かに減速して急反転する。グルードの援護射撃だった。
そしてカールは、そのチャンスを見逃さない。
「ここだ!」
真上からビームサーベルで切り込む。だが、相手も右に持っていた大型のビーム兵器を捨てると、同じくビームサーベルを抜いて受け止めてきた。そのまま、鍔迫り合いとなる。
互いの推進機がフルパワーで唸りを上げた。
弾かれた方が、恐らく隙きを見せる事になるだろう。しかし、総推力では向こうが上なのは明らかだ。コクピット内に限界を知らせるアラートと赤い警告ランプが忙しなく点滅する。
「届かせろよ、ゼーラス!!」
一旦推進機をピークパワーで固定しておいてから、レバーからの入力を無効にし、手前に引いてから再び入力をオンにして前に押し出す。
機能上、これで何らかのパワーが上がる訳ではない。しかし、感覚と経験上、少しだけ上乗せされる可能性もあった。根拠は何も無い。
そして、その根拠のない操作によって、ゼーラスがジリジリと前に出る。
「何だ、このMS!?。 艦船並みの推力を誇るハイザック・エクスを押すだと!!」
一瞬驚いたモルフィデだったが、素早く操作してエンジンのリミッターを解除、更にパワーの上乗せを図る。途端に、相手を押し返し始めた。しかし、それでも粘られる事に舌打ちをする。
「その場に留まってくれるなら、当てること位できるんだよ」
互いに躙り寄りながら、機体を激しく回転させるゼーラスと敵MSを前に、グルードは冷静にビームを放った。
攻撃は敵MSの背部推進機を射抜き、爆発を引き起こす。寸前の所で相手は切り離したのか、辛うじて誘爆は回避した。
そこへ、カールが見逃さずに斬りかかる。しかし、彼も爆発の余波を受けていた為、飛ばされながらも懸命に繰り出したと言った有様だったので、敵MSの左部分を僅かに切りつけたに過ぎない。
それでも十分な被害を与えたと言って良いだろう。ハイザック・エクスの胸部から腰辺りに切れ目が入り、コクピット内部では火が吹く。
「やられただと。 脱出…装置が故障!? おのれ!」
モルフィデは、マウントラッチからマシンガンを取ると、それをカールのゼーラスに向けてばらまく。
飛ばされた上に主要な火器類が無いカールはバルカンで応戦するが、それも直ぐに弾が尽きる。
「やられる…!」
直後、目の前の敵は胸部付近にビームを受けた。片足を失ったジム2、イドが撃ったのだ。
「俺が、ティターンズが、スペースノイドごときに…」
モルフィデの最後の叫びは、誰にも聞かれる事ななく、ハイザック・エクスの爆発と共に消えた。
「クハーツ大尉が、やられたかも知れません」
ツインチューブのブリッジで、戦闘の様子を見張っていた乗員から報告が入る。
「何だと!? ティターンズ等と大見栄を切っておいて……」
「撤退しましょう艦長。 MS隊も、殆どがやられている可能性があります」
「ここまで来て、何の戦果も持ち帰らずに帰るなど。 せめて、敵母艦だけは頂く。主砲、どうした。 何故、当たらん!」
尚も激しく艦砲射撃が放たれるが、敵の母艦は回避に専念しているのか、一行に当たらない。いや、補正をかけて撃っている為、その回避も際どくなってきている。
あと数回、いや、あと数発撃てば当たるはずだと、ツインチューブの艦長は確信していた。
「何度も撃てば、居場所くらい」
ミュリアムはゼーラスをツインチューブに向けて加速させたかと思ったら、急制動をかける。そして、射撃の構えを取った。
前に出ていた敵母艦は知らない内に漂う残骸の側まで来ていた為、死角が生まれてミュリアムの接近には気が付かない。
ただし、必殺の機会を得る為、ミュリアムもセンサーの有効範囲ギリギリで止まったので、こちら側からも相手の姿を確認するのは難しい状況だった。
「最大望遠、画像補正。もう一度補正。 ビーム…最大出力。 真ん中狙うから、当って」
ミュリアムが放った渾身の一撃は、モニター上では吸い込まれる様にして敵母艦に消えた。
そして、数秒のタイムラグの後、大爆発を起こす。
隠れていた場所から出ると、ミュリアムはセンサーが一番鮮明となる位置まで近づく。
敵艦は完全に沈黙していた。直掩に出ていたMSも居たが、母艦を失ったのと爆発のせいで動揺したのか、動きが鈍い。反撃はしてきたが、ミュリアムはたやすく二機を片付けた。
完全に周りが静かになったのを確認してからミュリアムが信号弾を打ち上げると、それに応じる様にして、味方の方からも次々と信号弾が上がる。
どうやら今回は自分たちの方に運があったらしいと、彼女は安堵の息を漏らしてからジェミニボックスへと方向転換した。