ZガンダムAWS   作:ST郎

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13.アナハイム6

 モルド・サブルは、帰りの船でメカニック数人と、ゼーラスJ型のデータを見ていた。

 J型には、操作性を向上させる為の試作品が搭載されており、これによって反応速度の向上や、パイロットへの負担を減らす事が可能になっていると言う。

 仕組みについては極秘扱いになっているため詳細な事を知る者は少なく、モルドと乗り合わせたメカニック達でさえも、ただの補助装置だと教えられていた。

 もっともモルドは、これがニュータイプに関連する技術の一つではないかと、ある程度はつかんでもいた。ただし、証明できる術はない。

 

 第一、ニュータイプの能力を引き出すサイコミュなる物は、現在の状況では小型化が無理だと言うのが一般論であり、普通サイズのMSに搭載するには今少し時間がかかるともされていたからだ。

 逆に小型な物は能力が限定的ともされており、どの様な効果が期待できるかさえ不明のままだと言う。

 

 実際、ゼーラスJ型に搭載されている物も小型化を推し進めようとしたのか、或いは不完全故に妥協したのか、複数の箇所に跨って搭載されていた。

 よって、これらは、あくまでも類似の機能を再現する試作品に過ぎないだろうとモルドも考えている。

 

「ここです。 こんな異常な反応数値が出るなんて、常識じゃ考えられない事ですよ」

 メカニックの一人が、端末に表示されたグラフを見ながら興奮した声を上げた。

 そこには、補助装置の稼働状況を示すデータが出力されていたが、ある時間帯において、本来限界とされている以上に装置が働いている事が示されている。

 

 とは言っても数値的には、そこまで大きな振れ幅ではない。

 特にメカニックではないモルドには、試作品ゆえの誤差に見えなくもなかった。

 その異常な数値を端的に説明するなら、本来のスペック以上にMSを動作させたらしい事が分かるのだが、このデータだけでは、どの様な作用が行われたかまでは分からない。

 駆動系のデータも収集してはあるが、単に異常値がそこかしこに見られるだけで、何がどう作用したのかまでは不明だ。

 もっと詳しく分析するには手持ちの機器では、どの道無理だろう。

 

 ただし、戦闘データと照らし合わせて見ると、センサー等では捉えていない相手に反応している様な傾向も記録されており、異常な数値は、それらとシンクロしていると言う事実も見て取れる。

 これらを見て、モルドは人智を超えた何かを感じてもいたが、同時に、得体の知れない物を平気で組み込もうとしているアナハイムに、不信感の様な物を抱かずにはいられなかった。

 

(そう言えば、グスターブと言ったか? あの男、妙な事を聞いてたな。 私と同じ立場のパイロットに、心当たりはないかとか…)

 モルドは、何かを思いついたかの様に資料の束を引っ張り出し、その幾つかをめくって、ある一つの書類に目を止める。

(カール・ヒノ。 RS社の…社員? 確か、J型の担当者と聞いたが…こいつの事を言っていたのか?)

 様々な事を勘案しても思い当たるのは、この人物しかいない。更にめくって見るが、特に気になる様な事は書かれてはいなかった。

 むしろ、文面のみから判断したとしても、エスケープゴート的にRS社が寄越した可能性のある人物である事が分かる。

 もちろん、アナハイムともエゥーゴとも関係がない。至って平凡、いや、一般的な社員とも言える人物である。特に、興味を引くような物はない。

 

 そこまで見てモルドは書類を放り投げた。側では、まだメカニック達が騒いでいる。

 彼は椅子に深く座り込むと、メガネを外して目頭を揉む。

(それにしても、RS社はババを引いたな。 元アナハイムに雇われていたと言うだけで、解雇された人員を迂闊に雇うとは。 お陰で、周囲の何も知らない人間が迷惑を被っている)

 

「ふっ…」

 モルドは小さく笑った。一人の人間に企業が振り回されている様を滑稽だと思ったのだ。しかし、彼の場合も、ある意味ではその逆でもあったので、自嘲を含めての笑いでもあった。

 

 RS社製MSの顛末については、モルドもある程度は知っている。

 明らかな不具合を解消せず、生産に踏み切った事で問題となっていた。その辺の原因も既に報告が上がっているので、一部関係者のみとは言え知っている。モルドもその一人である。

 RS社は何としてもエゥーゴの次期MS機の採用競争に間に合わせたかった様だが、結果として、これによって失敗したと言って良い。

 選ばれなかった要因は色々あるが、テストパイロットによる不具合の隠蔽。

 これが最大の理由である事は確かだろう。

 

 本来であればRS社の管理体制や責任問題も問われる所なのだが、現在は状況が緊迫してきているだけに、多少の事は目を瞑ると言う事になったらしい。

 その様な経緯で、実績を積み上げつつあるジェミニボックスへの当面の装備品としても有効であるとして、アナハイムが自社負担すると言う形で不具合解消を買って出たらしい。

 しかも、エゥーゴの後押しもあったらしいので、ゼーラスと言うMS、或いはRS社は、ギリギリの所で幸運を掴んだとも言えよう。

 

「待てよ…」

 メガネを掛け直し、椅子に座り直すモルド。

(アナハイムが解雇したと言う人物…ワザとRS社に流したとは考えられないか? もしかしてアナハイムは、RS社のMSを自社の良い様にしたかったのでは?)

 RS社に流れたと言う人物には、モルドも色々と不審に感じる部分があった。

 その人物はアナハイムに急遽雇い入れられており、その後は素行の悪さと技術的な面で問題があるとして、僅か一年足らずで解雇されている。

 ここだけを取り上げるとおかしな点はないのだが、アナハイムには元から腕の良いテストパイロットなど沢山いるので、急遽採用する様な理由が見当たらない。

 更に言えば、採用と解雇の時期がRS社のMS開発時期と前後しており、その後は出来すぎなくらいに上手く採用へと至っている。疑う事などしなかったのだろうか?

 

 MS開発で一番良いデータが取れるのは、訓練でもテストでも無く、実戦である。

 当然、それをやれば損失を覚悟せねばならず、特にエゥーゴと秘密裏に事を起こそうとしているアナハイムにとっては、計り知れないリスクが伴う。

 そこでアナハイムは、自身には一切の損失を出さずに実戦データを取る方法を、RS社を利用して行おうとしているのではないか。

 そのお膳立てとして、解雇したテストパイロットを利用…いや、最初からそうするつもりで用意していた。

 

 全ては、モルドの憶測に過ぎないが、エゥーゴから出向を命じられたと時から、彼は常にアナハイムの深い闇を感じる事も多くなっており、一概には否定できないと溜息をつく。

 窓の外を見ると、今のモルドの心境を現すかの様に星があるのに暗さだけが際立って見えた。

 予め聞かされていた事とは言え、実際に襲撃を受けたと言う報告を受けると、モルドも胸の内に痛みの様な物を感じざる得ない。

 実際、死人が双方に出ているのだ。これから先、ティターンズを倒す為に必要な事とは言え、本当にこれで良いのかとも思う。そして、これはアナハイムの独断専行でもあった。

 

 今回の突然とも言えるジェミニボックスへの接触は、ゼーラスと言うMSを奪われたと言う演出の為だけに整えられていたのだ。

 これにより、今後は正体不明の連中がそのMSを使っていたとしても、アナハイムは色々と言い訳が可能になると言う。

 大事の前の小事と言ってしまえばそれまでだし、戦争も綺麗事だけでは済まない事も理解しているつもりだが、果たして、これは誰の為に行われている物だろうか。

 ティターンズ打倒と言う旗は掲げられてはいるが、その下に集う連中の目的は本当にそれだけなのか。

 

 モルドが見つめる何も変わらない宇宙空間。しかし、窓に映った彼の顔には、漠然とした不安の色が見えており、まるでそれを拾うかの様に星が瞬いていた。

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