ZガンダムAWS   作:ST郎

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14.アナハイム7

 ガウンの様な物を纏った一人の男が、テーブルに座り何事かを行っている。

 そこは個室ではあるが非常に豪奢な作りとなっていて、一人で使うには広すぎるとも言えた。

 実際、大きめのテーブルがど真ん中に置かれていたが、それでも部屋の広さに対しては小さく見えるほどだ。

 ソファも複数人が座れる物が置かれていたが、空間に対して占める面積は少なく、正にポツンと言った形容が相応しい様子を見せている。

 壁際には高そうな絵画や壺も置かれており、それらはどこか統一されていて、その殆どがアジア系、特に南方面当たりの影響を受けた様な物が多い。

 その絵画を飾っている下には棚の様な物もあり、その上には壁に飾らずに立てかけられた額縁が一つあった。

 額縁には、AEと言うマークが一際大きく書かれている。

 そうした空間で、その男は盤面に向かって駒を配置していた。

 

 全部で四種類のそれを、男はとっかえひっかえ並べていたが、それらの遊び方を知っている者からすると、デタラメに置いている様にしか見えなかっただろう。

 しかし、その男はある配置にした所で、満足そうに頷いて椅子へともたれ掛かる。

 暫くしてから引き出しを開けると、銀色の小型なアタッシュケースの様な物を取り出す。

 パチパチとロックを解除して開けると、プシュっとした音が鳴り、その中から紙を取り出して眺め、時計と見比べる。

 暫しそうした後、男は立ち上がると、シュレダーへとその紙を廃棄した。

 

「おい、誰か」

 そこまで大きな声では無かったが、直ぐに扉が重々しく開き、一人のスーツ姿の人間が入ってくる。扉は、その重みなのか機械的な仕掛けでもあったのか、特に入ってきた者が手を出さずとも、勝手にバタリと閉まった。

「お呼びでございますか」

 近づいて恭しく一礼をしてから、スーツの人物は尋ねる。呼び出した方は、大きめの壺に目をやったまま、スーツの方には目もくれない。

「何か連絡は?」

「今の所、ございません」

 その返事に、呼び出した方は「ふむ」と声に出したかも分からない様な返事をする。予想していた事でもあったので、特に返す事も無かったからだ。

 

 時間通りであったとしても、送り出した船と連絡がつくには後数日はかかるはずだった。それでも聞いてみたのは、予定外の事が起きてないか少し気になったからである。しかし、スーツの人物の対応を見ても、特に何も無いのは明らかだった為、対応する必要もないと考えたのだ。

 そのまま、壺の縁を指でなぞり無為な思案にふける。特に何も無ければ、スーツの男は勝手に出て行くはずだった。

 しかし、それに反してスーツの男が質問してきた。

「本当に、これで良かったのでございましょうか」

「何がだ」

 やはり、振り向かずに答えると、しびれを切らした様にスーツの方から勝手に喋りだした。

 

「今回の一件、余りにもリスクが高いのでは無いのでしょうか。 連邦同士の揉め事に首を突っ込むなど。 下手をしたら、我社の存続に関わるのでは」

 スーツのその質問に、ガウンの男は暫くは沈黙で答えたが、自分も考えをまとめる必要があると思い、ゆっくりと答える。

 

「ティターンズは利用するにはいい相手だが、力をつけ過ぎている。 このまま野放しにすれば、何れは我社の不利益に繋がりかねん。 その点で言えば、ワシとしては、むしろジオン残党の方が与し易いとすら思っておるよ。 …ところで、木星の方の動きは、どうなっている」

「既に船団は出発したらしいのですが、まだ、連絡できる範囲には来ていないようです」

「うむ。 あそこに居る例の男も、油断はならないと言うからな。 何としても対抗馬を用意せねばならん。 今回の事は、我社を守る為にも必要な措置だ。 その為には、多少のリスクを負うことも覚悟せねばならん」

「それは分かります。 ですが、あまりにも計画が複雑すぎるのでは…。 特に、例の技術に、そこまでの価値があるとも思えません」

 それを聞いて、部屋の持ち主は押し黙る。

 

 アナハイムが持つある技術データを得る為、非常にリスキーな計画が進行していた。

 例の技術とは、平たく言えばニュータイプに関連するかも知れない物だ。

 ニュータイプに関連する技術はアナハイムでも研究中ではあるが、大っぴらに進められていない以上、実用性に乏しく、更には不明な点も多いとされている。

 大体、アナハイムのニュータイプ技術は、見方によっては残りカスを掠め取って来た様な物であり、連邦及びジオン残党が今も研究している物とは比べ物にならない。

 それらに対抗する為には、危ない綱渡りをしてでも両陣営から何かしらを引き出す必要もある。今後、アナハイムが生き残って行くには必要な事だ。故に、危ない橋を渡ろうとしているのだ。

 

 理想としては強すぎない程度の敵をコンスタンスに生み出し、それをアナハイムの利益になる様に制御して行くのが望ましい。

 その為には、カウンターとなる独自の武器が必要だ。高性能なMSなら簡単に用意できるが、一年戦争の結果を見るに、それだけでは限界がある。

 ならば、別の方法で並び立つ必要がある。それも、脅威とならない程度に。

 それ故の例の技術と言われる物であったが、説明では限りなく一般的な装置に近いと言う者と、未解明故に思わぬ結果をもたらすと言う両方の意見があって、今は海の物とも山の物ともつかない。

 しかし、部屋の持ち主としては、逆にそこが狙い目とも考えていた。

 

 他のサイコミュと比べたら能力は限定的でありながら、ポテンシャルは未知数。それならば、自分たちが抱える陣営に配布するには、強くなり過ぎる事もないので都合が良い。

 MSの高性能化が今の所の切り札だが、それにプラスアルファできるかも知れない例の技術が上手く働けば、それだけで儲けものである。

 ただし、それだけに強さの測定が出来ない為、切り札として数えて良いのかの不安もあった。

 

 部屋の持ち主はニュータイプの可能性は信じてはいたが、不確定な力に関しては懐疑的でもある。これに付いては、一種の自己矛盾を抱えているとも自覚していたが、彼は自分がビジネスマンであると言う理念も持っていた為、数値化できない事には慎重でもあった。

 その為に、納得できる情報が少しでも良いので必要だったのだ。

 特に問題であったのが、例の技術は人の精神的な作用によっても左右されると言うので、その為には人間を極限にまで追い込んでの運用が理想とされている。

 しかし、アナハイムは表立って人体実験などやる分けにはいかない為、別の手段を講じるしかなかった。

 大体、例の技術に対応できる人間は、今の所は見つかっていないのだ。

 

 ならば、出来る限り多くの機体に似た様な技術を仕込み、そのデータを得るしか無い。もっとも、それとて雲を掴むような話だろう。

 だからこそ幾つかの情報を元に、それらしき人材をピックアップして用意もした。

 既に、その為のお膳立ては出来上がっている。それを元に、本命である計画に流用すれば上手く行くはずなのだ。

 部屋の持ち主は、まだ何か言いたそうにしていたスーツの男に手で合図を送ると、下がらせる。

 

「さて、アルファベットの並び通り、計画が我々にとって最後の切り札となればいいが…」

 扉が閉まる音に合わせる様に、部屋の持ち主は呟いた。

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