かなりの原型を留めた宇宙艦の残骸に、RGM-79Z バウンド・ジグが身を潜めて待機していた。
そして、そのゴーグルタイプのカメラカバーには、MSらしき推進機の光が遠く反射して映る。
『大尉、あれでしょうか? しかし…自分にはMAか戦闘機にしか見えませんが』
随伴する六機のティターンズカラーのアクトザクの内、一機から通信が入る。
通信を送った相手の名前は、ダフ・レグナム。コロールMS部隊の隊長であり、階級もラフトと同じであったが、任務の都合上、その座をラフトに譲る形となっていた。
その為、暫定的とは言え今はラフトが全体を預かっている。
「ハズレ…の可能性もあるが、ここは、ティターンズらしく取り締まる必要がある。 ダフ大尉、三機程連れて行ってくれるか?」
『了解』
ラフトのオーダーに対し、ダフは何の躊躇もなく聞き分けると、アクトザクの腕でジェスチャーを送り三機を引き連れて行く。
その背後を見送りながら、ラフトも何時でも飛び出せる様にした。
『グスターブ、8時方向、何か来る…アクトザクだ!』
早速ミュリアムから報告が入り、グスターブも確認すると、サブモニターに青色に見えるハイザックが映し出される。直ぐにティターンズだと分かって緊張が走った。
(ガンダムは…どこだ?)
グスターブは各種のモニターやセンサー類を操作し、それらしき物を見つけようとしたが、お目当ての物は見つからない。
(ハズレか…)
彼は少し肩を落とした。それと同時に、向こうから通信が途切れながら入る。
『わ‥れ‥は、ティタ…そ‥らの、所属‥的‥らかにせよ。 応答‥い場合‥みなし…する』
「よく聞こえんな。 警告のつもりなんだろうが…全機、反転。 逃げるぞ。 所定のポイントまで誘き出す」
グスターブの号令により、全機が一斉に向きを変えて離脱を開始するが、自身は一発だけビームを撃ってから反転した。
「撃ってきた!? やはり反連邦どもか。 ラフトの奴は見ているだろうな。 全機、追撃するぞ」
ダフのアクトザクが、やはり手振りのみで合図を送ると、彼が引き連れてきたMS達が加速を始める。
しかし、単純な速度で言えば向こうの方が速かった。距離が開いていたと言う事を差し引いたとしても、随分と差が出てしまい、センサーで捉えられるギリギリの範囲に収めてしか追う事ができない。
「クソ! 何と言う速さだ。 こっちだって性能は良いはずなんだぞ」
歯ぎしりするダフ。すると、一機のアクトザクが彼に接触してくる。
『隊長、妙ですよ。 あの速さで、こっちを振り切ろうとしていない。 誘っているって奴です』
「分かっている。 それでも乗ってやるさ。 我々はティターンズだ。 卑怯なスペースノイドごとき正面から叩き潰せんでどうする。 それに、切り札も控えている。 ラフトの奴に期待する。 行くぞ」
ダフの返事に、相手はホンの少しだけ間を置いてから短く返した。
「付いてきているな。 良く訓練されたティターンズの猟犬だ。 だが、それで良い」
モニター越しに相手の様子を伺ったグスターブが徐に機体を左右に振ると、それを合図として四機のゼーラスは、それぞれの方向に散開して姿を消す。
「分散した? 何だ」
相手がモニターから完全に消えてしまったが、それでもダフ達は直進する。どの道、敵が消えた地点までは行って確かめなければならない。
それが明らかな罠だったとしてもだ。
と、彼らがゼーラス隊が消えた地点まで差し掛かった時だ。
遥か彼方に一点の光が現れたと思った瞬間、強力なビームの帯が彼らの横を掠めていく。
「艦砲射撃だと!? いや、MSか何かの長距離射撃か!」
撃ってきた方向を素早くモニターで確認しながら、それらしき反応が無いのを見たダフが経験も加えて判断する。
同時に、各アクトザクは回避行動を取る様にして動くが、それでも前進を躊躇うようなことはしなかった。
「…当たらんか。 だが、これで突付いて見せたはずだ」
大型ビーム兵器のスコープ能力により、敵MSをモニター越しに確認しながらグルードが呟く。
光学センサー類が強化されているとは言え、ミノフスキー粒子下では画像補正をかけたとしても遠距離になるほど実際には誤差が生じる。
しかもMSサイズでは、遠距離になるほど的と言う意味では限りなく小さくなるのだ。
その様な条件下、掠めるだけでもグルードは凄腕だと言えた。
オマケに、敵はグルードの一撃を受けて急機動を始めてもいる。
こうなると、もはや遠距離から当てるのは限りなく難しい。MSと言うのは、それだけ機動力が高いのだ。
それを分かりながらも、グルードは牽制のビームを放ちながら移動を開始する。出来る限り、相手をジェミニボックスから離すためだ。
アクトザク隊が攻撃を受けたのを見て、ラフトも動き出す。
ジム本体の方の腕を動かして、残ったアクトザクに合図を送ると、打ち合わせていた通りにアクトザクはバウンド・ジグに掴まる。
それを確認後、ラフトはアクトザクごとバウンド・ジグを移動させた。
ただし、推進機は最小限に使い、残骸に上手く隠れながら進ませる。
相手の動きを見る限り、明らかに誘っているのが分かった。恐らくだが、最初に遭遇した戦闘機の様な機体は囮だろう。
そして、撃ってきた方向もフェイクの可能性が高い。
とは言え、敵が誘い出している方向以外に、この広大な宇宙では検討をつけるのは容易ではない。
ならば敢えて敵のど真ん中に入り込み、そこから打破する方法を取る方が得策だ。
ただし、敵の誘いに乗るのは先行したアクトザク部隊であり、ラフト達は相手を打破する役目である。
ある意味で責任重大であり、しくじれば味方を失うだけでは済まない。
ラフトは、我知らずとツバを飲み込んでいた。
「やはり、ハズレか? いや…母艦が見えない。 なら、まだ可能性は!」
グスターブは、グルードの牽制攻撃を受けながらそちらの方向へ誘導される様に加速するアクトザク隊を見ながら機体を駆る。
モニター等を確認してみるが、やはり、他に敵影は確認できない。
情報が確かなら、ティターンズ側の戦力がこれだけとは思えないが、逆に言えば向こうも慎重に動いているとも考えられた。
「厄介だな」
単純な戦闘で終わりそうにない事に、グスターブは苛立つ様に顔をしかめる。
と、ミュリアムから通信が入った。
『5時方向、下方。 火が見えたよ』
それに慌ててグスターブも確認する。しかし、何も見えない。
勘違いでは…と、思ったその時だ。
『もっと進んでる。 ヤバイよ。 あっちには、ジェミニボックスが』
「待て、迂闊に動くな。 偶々って事もある」
独断で動き出しそうになるミュリアム機の前に、ぶつけるつもりで前に出て阻止したグスターブは、モニターを弄ってようやく、それらしき物を捉える。
残骸に上手く隠れている為に姿は確認できなかったが、確かにMSらしき推進機の火が見えた。
ただ不可解なのは、確認できる推進機だけを見ると、相手は複数にも一機にも見えると言う事だ。
複数のMSが移動しているにしては、推進機の出どころが余りにもかたまり過ぎている。かと言って一機にしては、噴射されている間隔が広い。
「敵は大型機…?」
モニター越しでは判然としない相手にグスターブは検討をつけると、敵の死角になる位置へと隊を誘導し、追撃の体制に入った。
ミノフスキー粒子が濃い中、各種の索敵装置が潰れた状態ではパイロットの目だけが頼りだ。
しかし、それでも死角は生まれる。
それを承知の上でラフトは動いていた。それも、敢えて自分を囮とする形で。
彼の読みが正しければ、敵は仕掛ける為にここに来ているはずだった。ならば、バウンド・ジグの推進機の光を目にすれば、必ず追って来るはずである。
後方の視界はアクトザクに任せてあるので、敵が網にかかればそれらが対応する。
もし居ないのであれば、このまま交戦中の敵部隊に奇襲をかければ良い。
何れにしても手探り状態ではあるが、取れる手段が少ない以上、今はやれることをやるしか無い。
と、アクトザクから早速通信が入った。
『敵影接近。 数は…3、いえ4。 最初に見たMAの様です』
「よし、牽制してくれ。 こっちも動く」
それを合図にアクトザク二機が、バウンド・ジグから離れると、推進機を吹かして加速して行く。
モニター越しにそれを確認した後、ラフトもバウンド・ジグの推進機を全開にした。
「アクトザクが二機? いや、もう一機居るぞ。 ミュリアムは俺と来い。 残りはアクトザクを頼む」
グスターブの合図により、それぞれが迅速に動き出す。
グスターブがそのまま機体を加速させ、離脱した大型の機体らしき物を追えば、それにミュリアムも追随する。
後方監視のモニターを見ると、ウェーブライダー形態のゼーラスがMSに変形し、アクトザクとの交戦に入っていたところだった。
「死ぬなよ」
通信が届かない事を承知で、グスターブは一人呟く。
アクトザクと離れてから直ぐに、後方よりビームがラフトの乗るバウンド・ジグをかすめる。
「やはり、来たか。 この進路、母艦が居る可能性が高いな」
片手で機体の操縦をしながら、もう片手でコンソールを素早く操作する。
すると、バウンド・ジグの背部バックパックから伸びた二つの巨大な腕が分離され、一瞬の間の後に推進機を働かせて加速して行く。
「バウンド・ジグの力、特と味わえ」
近づくに連れて敵の形状が分かってくると、それはMS、或いはMAとも言える奇妙な姿をしていた。
いや、彼の脳裏に直ぐに似た機体が浮かび上がったが「まさかな」と、否定する。
どちらにしろ倒さなければならないのだ。その時、敵の背部から何かが射出されたが、それはグスターブの予想と違って横に広がっただけだ。
何かをしようとしているらしい事は分かったが、最短距離を進む敵を目の前にして取る行動とは思えない。
ならば、何かを仕掛けて来る前に本体を叩けば済むことだ。
グスターブは更にゼーラスを加速させた。
と、突然グスターブの機体は彼も予想だにしない挙動をする。不自然に上へと浮き上がる様な動きをしたのだが、直ぐに原因が分かった。
MSへと変形したミュリアム機によって、強制的に進路を変えられていたのだ。
その直後、両側から複数のビームが襲うが、ミュリアムによって軌道を変えられた為に下を通過するだけとなる。
「攻撃!? どこから!」
いや、直感的にグスターブも理解する。あの大型機が射出した何かが攻撃してきたのだ。
だとしたら、彼が否定した機能を眼前の敵は持っている事になる。
そして、下手をしたら相手がニュータイプと言う可能性さえ出てきた事に、グスターブは戦慄した。
「ミュリアム、お前は母艦まで撤退しろ。 グルード達と合流するんだ」
『何でさ! こいつ、只者じゃないよ』
「だからだ。 もしかしたら敵はニュータイプかもしれん」
暫しの沈黙。だが、ミュリアムは短く応答すると全速力で宙域を離脱し始めた。
「それで良い」
小モニターに遠ざかるミュリアム機を横目に呟いたグスターブだったが、すぐさま機体を急機動で振り回す。
敵の攻撃が見えた訳では無かったが、彼の長年の経験と蓄積してきた訓練によって動かされたのだ。
結果、見えない方向からの敵の攻撃を何とかかわし切る。
しかし、タイミング的には本当にギリギリであり、数本は機体の直ぐ側を掠めた為にコクピット内には警報が鳴り響く。
「また、かわされた!?」
シミュレーションと実際の訓練でバウンド・ジグに手応えを感じていたラフトだったが、目の前の敵は二度もコチラの攻撃をかわして見せた事に驚くと共に苛立つ。
相手は可変MSとか言う奴らしく、それだけで高性能機であろう事は分かる。
だが、それだけで予測不能と思われる攻撃をかわすのは驚きでしか無い。
「相当な手練…エース級って奴か!?」
突っ込んでくる敵に備え、ラフトは本体の方に武器を構えさせた。
ウェーブライダーの加速力を頼りにグスターブは敵に肉薄する。
ウェーブライダーは直線での動きこそ良い物の、運動性と言う部分では流石にMS形態には劣るために、彼の腕一つだけで敵の変則的な攻撃に対応するしかない。
相手の正体は知れないが、ニュータイプにしろ高性能機にしろ、随分とスキのない相手である事だけは分かった。
訓練としての相手にグルードが居なければ今頃やられていたかも知れない。
つまりは、敵の強さはグルードにも匹敵するエース級と見て良いのだ。
そして、その感覚はグスターブに一つの推論をもたらせてもいた。
目の前の相手はニュータイプではない可能性だ。
根拠は無かったが、自分のところに居るそれらしい人物の動きと比較すると、何となくそう思える。
変則的な攻撃は確かに脅威だったが、人の持つ鋭さと言うのを感じない。何より、グスターブの予想の範囲を出ていない感じだったので、これは違うと言う感じがするのだった。
その推察は現時点では当たっていたのだが、鋭すぎる洞察は後に混乱を招く原因となる事を今のグスターブでは知る由もない。
「何者かは知らんが、今回ばかりは俺の方に運があったな」
グスターブの脳裏に訓練に付き合った連中の顔が浮かび、それらの連中が目の前の敵を上回っていた事に感謝した。
「随分と腕が良いじゃないか」
ラフトは素直に感心した様に声を上げた。
バウンド・ジグのAIによる自動化された攻撃は並の物ではない。幾重にも予測された状態から更に可能性の高い物を選び、加えて相手の動きを分析して、その都度修正した攻撃を加える。
それでも足りない部分においては、複数のビームを同時に発射する事で対応するなど、一見するとスキが無くてラフトも実戦でも使い物になると納得していた程だ。
ただし、それは並のパイロット相手には通じるだろうが、それ以上となるとどうなるかは疑問が残ると彼自身も考えていた。
確かにAIにしろ機構にしろバウンド・ジグのそれは優れてはいたが、MSの限界を引き出すパイロット相手には通じない可能性もあると見ていたのだ。
複雑な機動や予兆を捉えて先手を打てるのがMSと言う機動兵器であり、腕の立つパイロットはそれを平気でやってのける。
MS戦における上位同士の戦いは、常にギリギリの線で行われるとラフトは考えていた。
当たりそうで外れ、外れそうで当たる。
正に紙一重の世界と言っても良い。裏を返せば死と生の制御を自ら生み出し、そこに生まれる機会を自らの者にしているのがエース級と呼ばれる連中なのだろう。
これらの行為は反撃を得る機会を身を晒す事で成していると単純に説明する事もできる。
要は肉を切らせて骨を断つと言う奴なのだが、頭で分かっていても実際に命を晒しつつも、自ら拾うと言う緻密さをもってやれるかどうかは別の話だろう。
この様な流れが何時生まれたかは定かではないが、間違いなくニュータイプと言う存在が意識された事も一つの要因にはなっているはずだ。
故に、どうしても単調さが出る機械の僅かなパターンすら優れたパイロットは見抜いてしまう事がある。
実際、ラフト自身もバウンド・ジグの装備に僅かなスキを見る事ができていた為、自分と同等以上の敵には通じないであろう事も予見していた。
しかしそれは、自分以下のパイロットがバウンド・ジグに乗った場合の話だ。
「この動き、ジオンか?」
ラフトは冷静にビームライフルを構えると、敵の動きを予測して放った。
「何!?」
敵の攻撃パターンが急に変わった為、グスターブはMS形態を取らされてしまう。
機体の限界を超える形で急機動をかけて何とかかわしたが、彼はこれまでに無いプレッシャーの様な物を感じて冷や汗をかく。
それだけ絶妙なタイミングで撃ってきたのだ。
「コイツ、只者じゃないのか?」
グスターブの呟きは、目の前の光景を見て咄嗟に口を出た物に過ぎなかったのだが、現実は更に彼の予想を超えていた。
そしてそこには、対象となっているラフトも知らない事実がある。
ラフト・サイマー。彼の記憶は改ざんされているが自身はそれを知らない。
自らも知らない記録によれば、彼は元々連邦のとある極秘実験に関わっていた者であった。
彼が所属していた実験組織、それはM機関と言った。
それがどんな機関であったかは知る者は少ない。いや、殆どの者が知らないと言っても良いだろう。
資料的にも残されたものが僅かであり、しかも後年になってその存在が知られた程度だった為、どの様な事をしていたかは謎のままである。
だが、その残された一部の資料によると、その機関はどうやら何かしらの兵士育成の研究を行っていたらしい事が示唆されている上に、今も連邦内に存在する、とある研究所との関連も噂される様になったが、全てを知る者は居ない。
それらを持ってニュータイプを生み出す組織ではなかったかと推測する者もいるが、後年になるに連れ、現在ではむしろ強化人間と言った方が近いとされている。
その方法はオカルト的とも非人道的とも言える様な要素を含んでおり、もっとも端的な表現をすれば、優れたパイロットの臓器を移植すると言う物であったのではないかとも言われている。
これは臓器移植された人間が、それによって性格が変わったり、記憶を受け継ぐと言う報告例にヒントを得たともされて行われたらしいのだが、それによって本当にパイロットの能力向上が可能であったかは、現在でも真偽の程は定かではない。
何れにしろ、ニュータイプに関しては懐疑的で理解も進んでいなかった連邦軍にあって、その様な試みを行っていたとなれば浮上してくる人物は限りなく少ないのだが、既にこの世には存在していないので尚更真相は闇のままである。
ただし、その成果の一部はティターンズに流れている事も事実であり、それによってラフト・サイマーが入隊したのも決して偶然ではなかったのだ。
彼が成功例なのかは分かっていないが、パイロットの技量と言う点では年齢に比して異常であると言う事実のみを汲み取り、彼は良いように使われていたとも言える。
何せ、唯一残された資料により、ラフトの制御だけは簡単にできたからだ。
そしてもう一つ、ラフトの存在と資料をもたらしたのは連邦内部からではない。
誰が何の目的の為に寄越したかは不明のままとされているが、その後に行われた幾つかの取引を見れば、ある企業が関わっているであろう事は見る者が見れば明らかでもあった。
しかも、その企業は建前では非人道であると言う理由を掲げながらも、ラフトを売ったと言う可能性すらあったのだ。
ただの駒として盤面に置かれている可能性すら知らず、ラフトは与えられた自分を忠実にこなす。
即ちティターンズとして眼前の敵を排除すると言う事である。
そして、徐々にその本領と本性を発揮し始めた。
「今度は、そこに動くんだろ?」
顔つきまで変わり始めたラフトは、笑いながらビームライフの引き金を引く。
機体に鋭い衝撃が走り、警告装置が知らせるまでもなくグスターブは敵の攻撃が当たった事を知る。
だが、長年の経験から直ぐに脚部付近に被弾した事も分かった為、冷静に対処した。
しかし、その一方でもらった事には少なからず動揺もする。
何故なら敵との攻防の寸前、彼の経験と勘、更には相手の銃口の射線を見て自分的には完璧な回避を行ったつもりであったからだ。
(何故、当たった? マグレか? それとも…)
グスターブは更に回避を予測で賄いギリギリの状態で反撃を試みたが、相手はその図体に反して軽々とその必殺の攻撃を掻い潜ると、その直後、予想だにしなかった行動に出た。
ビームを乱射し続けるグスターブに背を向けると、ミュレアムが飛び去った方向へ全力で移動を開始したのだ。
(不味い!)
慌てて食い下がろうとしたグスターブだったが、それを見えない方向から放たれたビームが妨害する。
更には彼が放ったビームを、敵はこちらを見もせずに回避すると、完全にグスターブを置き去りにして彼方へと去って行く。
尚も追いすがろうとするグスターブだったが、想定外を遥かに上回る方向、背後から来た攻撃によって遂に左肩に被弾する。
何とか体制を立て直して、それ以上に食らうのだけは回避したのだが、その時には追いすがるタイミングを完全に逸していた。
「くっ、この俺が完全に足蹴にされた。 カール、頼むぞ…」
それだけを呟くと、グスターブはアクトザクと交戦中の味方の援護へと回った。
「ゼーラスが一機? 何かあったのか」
最大望遠のモニターに突然飛び込んできたMSの姿を確認したグルードが呟く。
しかも様子がおかしい。
と言うのもアクトザクが居るのにも構わず、それを突っ切る形でこちらへと向かって来るからだ。
当然の様に四方八方から攻撃を浴びせられるが、それを急機動で見事にかわしたので直感的にミュリアムだと判断する。
しかし、それによって進路を変更せざる得なくなってしまい、更に藻掻く様に動いてしまったので、こちらへ上手く来る事ができない。
それを支援する為、グルードは更に長距離狙撃を試みた。
『グルード、あれってミュリアムじゃ?』
同じくセンサーが強化されているゼーラス・ヤークトに乗るカールも気づいたらしく、助けに行くと言い出しかねなかった為、グルードが声をかけようとした正にその時だった。
予想外の場所から高出力ビームが何本か伸びたと思った瞬間、その一本がグルードの持つ大型ビームライフルを撃ち抜き、更には側に居たジム2も破壊した。
途端に慌てだす味方機達は、それぞれにバラバラに回避運動を取る。
しかし、グルードだけは冷静に大型ビームライフルを廃棄しつつも、ジム2の誘爆から逃れたコクピットを回収した。その間も敵の動きから目を逸らさず、何が起きたのかを探す。
だが、モニターには何も写っていない。
撃った方向にはMS特有の推進機の火も熱源も感知できず、移動した跡すら発見できなかった。
その何もないはずの空間から、更に数本のビームが放たれたのでグルードは驚かされる。
「何だ? MSじゃないのか」
敵の攻撃を回避しつつも他にも持っていた狙撃用ビームライフルを構え、攻撃が来た方向に数度射撃してみる。
やはり、何も反応はない。それどころか、更に予想外の所からビームが立て続けに撃ち込まれてきた為、回避行動を取るしか無かったグルード達は、遂にアクトザク三機の接近すら許してしまった。
そして、それを待っていたかの様に彼方から大型のMSらしき物が姿を表す。
「コイツ。 まさか、グスターブを!?」
叫びながらミュリアムはビームを乱射するが、正体不明の大型機はその図体に似合わない動きで簡単に回避してみせる。
普段であれば、その位の事で慌てる様なミュリアムではなかったが今は違っていた。
残っていたアクトザク一機の相手もしていた上に、予想外の所からも攻撃を受けていたからだ。
最初に接触して敵の動きをある程度見ていなかったら、恐らく殺られていたかも知れない。
いや、今も気を抜くことができずにいた。
見えない方向からの攻撃を警戒しつつも、接近してきた敵も同時に相手にしなければならないからだ。
オマケに大型MSの攻撃は非常に厳しい。まるで、こっちがどこに動くかを読んでいる様にビームを撃ってくる。しかも、残っているアクトザクのパイロットも並の腕ではない。
それでも何とか互角に戦えているのは、長距離からの味方の援護があったからだろう。
援護をしているのは恐らくグルードだ。要所要所でビームが走り、寸前のタイミングでミュリアムは助けられる。
モニターで確認する余裕などミュリアムには無かったが、恐らく向こうも厳しいに違いない。
普段のグルードの動きから考えると、援護射撃のタイミング間隔が空き過ぎるのだ。
ミュリアムの考えていた通りに、グルードは苦戦していた。
見えない方向からの攻撃に、味方機が翻弄されて体制を崩されていた上、脱出ポッドを抱えたままアクトザク3機と戦っていたので思う様に動けなかったのだ。
それでも隙きを見て援護射撃をするあたりに、グルードがエース級と呼ばれる所以が見える。
(グスターブはどうしたんだ? まさか…いや、ミュリアムがあのタイミングで来たんだ。 奴は無事なはず。 だが、この状況は不味い)
もしグスターブが死んでいたなら、ミュリアムが独断で戻ってくるとは考え難い。むしろあの娘の性格からして、味方を殺した敵を無傷で引き連れてくる事など無いだろう。
そう考えての結論だが、逆にミュリアムを寄越したと言う事は、引き連れてきた敵が相当にヤバいと言う可能性をグルードは見ていた。それこそがグスターブからのメッセージであるとも考えられる。
とは言え、状況は完全に敵に先手を取られた状態であり、ある意味で押し込まれてもいた。
本来であれば、これを避ける為にグスターブはミュリアムを寄越したのかも知れない。だとすると、敵の実力は想定を上回っている可能性も出てきた。
そして、もう一つ懸念すべき事がある。
アクトザクのパイロット達も相当な腕前だということだ。
そもそもアクトザク自体の性能が秀でており、下手をしたらスペック的にはゼーラスと互角か、それ以上の可能性もある。
それを手足の様に操る辺り、かなり訓練して使い熟している証拠だ。
「くそ、このままでは…!」
グルードが吐き捨てる様に言った、その時だった。
敵の大型MSが突然方向を変えると、最大出力で移動するのが見えた。
「見つけたぞ。 あれが母艦か」
目が釣り上がり口を大きく歪めて笑みを張り付かせたラフトは、自分でも知らずに舌なめずりをすると、全力でその方向に向かった。
バウンド・ジグの小モニターには、ノイズが走りながらもしっかりとジェミニボックスの姿が捉えられている。
「不味い。 あっちにはジェミニボックスが!」
突然方向転換した大型MSを見て、ミュリアムが叫ぶ。
慌てて追撃しようとした所にアクトザクが割って入ると、その行動を妨害された。
「邪魔なのよ」
ビームサーベルを抜いて斬りつけるが、向こうもビームサーベルで受け止めると、途端に鍔迫り合いとなって完全に足を止められてしまった。
しかも、ミュリアムが上手く受け流して隙きを作ったというのに、敵は機体ごと体当たりして強引に流れを戻す事をやってみせる。
この乱暴さはミュリアムにはない物だ。
相手は単に腕だけではない。相当な修羅場を潜り抜けた上に、ミュリアムに一番無い信念と覚悟、そして絶対的な補給量に裏打ちされた自信を持っているのだろう。
「抜けられた! ジェミニボックスが!!」
尚も続くアクトザクの猛攻を回避しつつも、グルードは牽制のビームを大型MSに浴びせるが、それで足を止める様な相手ではなかった。
『行かせるか!』
今まで何処に居たのか、そう叫んで飛び出したのはカールだった。
「ま、待て、カール…!」
追いかけようとしたグルードを、二機のアクトザクが回り込んで制する。
その僅かな瞬間にカールはあっと言う間に遠ざかって行った。
流石にゼーラス・ヤークトの加速力は半端ではない。
あれなら大型MSにも追いつくだろう。
だが、追いついた所で勝てるのか?
珍しくグルードは焦った。
「何?」
真っ直ぐ獲物へと向かえると思っていたラフトは、背後からの突然の攻撃に驚きの声を上げた。
小モニターにはMAらしき機影が映し出されている。
ここに来る前に遭遇した機体にも似ていたが、細部が異なって見える様な気もした。
何より加速力が段違いだ。
「特別仕様機?」
驚きながらもパネルを操作すると、バウンド・ジグの大型腕部が射出される。
「何だ? 機体を軽くしたのか」
敵の不可解な行動にカールは呟く。
全くの初見な上に、データ上にも無い敵の行動にカールは首をひねる。特にMSに関心の無い彼には、全く思い当たるフシがない。
だが、カールはそれでも予想外の攻撃に対処してみせた。
「上だ!」
加速を維持したまま機体を捻って上方へビームを放つと、何も見えない空間で火花が上がった。
「当てただとぉ!?」
外を映し出すモニター映像と、ダメージ報告を同時に見せられながら、ラフトは驚きの声を上げた。その動揺が僅かな隙きを生んだのか、彼は遂に敵に追いつかれてしまう。
鋭い衝撃が走り、初めて敵のMAに追突されたのを知った。
その反動によってバウンド・ジグは目的のコースから大きく逸れてしまう。
「このヤロウ!」
体制を整えてビームサーベルを抜いて斬りかかろうとした瞬間、相手もMSに変形してバルカンを放ちつつ距離を取ると、至近距離からビームライフルを撃って来る。
並のパイロットなら回避できなかっただろう。
だが、刹那の瞬間にラフト自身の何かが外れると、敢えて敵に突っ込んで距離を潰しつつビームを掻い潜る。
上手くビームこそ避けたが、その代償にバルカンをメインカメラに食らってしまった。
「長距離狙撃ができなくなったくらいで!」
敵MSに組み付いたラフトは、推進力を全開にした。
「これで、この位置からジェミニボックスは狙えない。 後は!!」
敵の特攻に対しカールもゼーラス・ヤークトをがっぷり四つに組ませると、全てのスラスターを開けて押し合う形を取った。
総推力では恐らく向こうが上だろうが、機体の形状からして全部を同一方向へ持って行く事はできないのだろう。何とか互角に持ち込む事ができていた。
とは言え、それはこっちも同じであり、脚部の推進機を上手く操らないと途端に弾かれる事になる。
押し負ければ体制を崩す事となり、そこを敵も逃さずに攻撃してくるだろう。
場合によっては、再びジェミニボックスに近づかれる事にも成りかねない。それだけは避けなければならなかった。
「接近中の敵MS、味方MSによって動きを止められました。 恐らくカール機です。 艦長!」
「他のMSの動きは?」
「敵MS残り4。 依然としてグルード隊と交戦中と思われますが、同宙域に留まっています」
「援護は得られんか。 ダミーバルーンを射出しつつ全速前進。 対空射撃開始、主砲も準備しろ。 敵の母艦も出て来るかも知れん。 急げ」
ハッサスの檄が飛び、クルーがそれに素早く応じると、ジェミニボックスは静から一転して動へと見事に行動を変えてみせる。
オンボロ船とは言え乗っている連中がそれなりだと、艦も性能に反してキビキビと応えて見せた。
もっとも、それは逃げ慣れていると言い換えても良かったのだが、少なくとも判断だけは一流と言えた。何故なら、ジェミニボックスが移動した事でカールが自由に動ける様になったからだ。
「今だ!」
ジェミニボックスが逃げ出したのを確認した後、カールはワザと推力を落として相手を呼び込むと、その反動を利用して逆に敵を受け流してみせる。
しかし、これは相手も読んでいたらしく、そのまま加速して距離を取ると同時に攻撃を仕掛けてきた。それも、見えない方角からだ。
だが、カールはそれを難なく交わすと逆に反撃の一打をお見舞いする。
「まただ。 このパイロット、バウンド・ジグの動きを読んでいるのか!?」
ラフトは動揺した。
以前にも攻撃は確かにかわされはしていたが、そのどれもがギリギリの余裕が無い状態での話であり、それによって少なくともラフトが戦場をコントロールできていたのだ。
ところが、今相対している敵は完全に攻撃が来るのが分かっていて回避しており、それによって反撃する余裕を持っている。
しかも、ラフト自身も得体の知れないプレッシャーの様な物を常に感じ取っており、それによって集中を乱されてもいた。
更に言うのであれば、それは恐らく敵パイロットにではない。
明らかにMSの方から不快感を感じるのだった。
「何だと言うのだ。 このMSは!?」
「今度は、そこ!」
広がった感覚から伝わる情報を完全に自分の物としていたカールは、敵が見えないと思って繰り出しているであろう攻撃を面白い様に読み取ってはかわしていた。
相手は特殊攻撃に頼り切っているのか、それさえかわせば特に脅威ではなく、容易に隙きを突いて攻撃も可能だった為に、ある意味で楽な相手とも認識する。
また、敵は何かしら動きに乱れが見える様にもなっていた為、それがカールに更に付け入る隙きを与えてもいた。
MS単体の性能は確かに脅威であったが、今は搭乗するパイロットの動きが手に取る様に分かる様だった為、カールは勝てると確信するに至る。
「ううう…ぐああああ!!」
コクピットの中でラフトは半狂乱に叫びを上げた。
グチャグチャになった感情と不快感に自分ではどうにもできず、押さえつけていた何かを自分で更に強制的に外す。
すると、彼が忘れていた記憶の断片の様な物が一瞬だけ脳裏に過ぎり、彼はうなだれる。
「ふふふ。 ははは。 そうだ、この感覚だ。 忘れていたぜ」
その顔には凶暴さが浮かび上がり、口からは涎が垂れていた。
「こんのおおお。 しつこい男は嫌われるってのに!」
アクトザクを振り切れず、ミュリアムは叫ぶ。
戦ってみて分かったが、相手は恐らく隊長機だろう。
大局を読んだ戦い方が、どことなくグスターブに似ている。
機体性能、パイロットの腕と言う部分では僅かにミュリアムの方に部があると感じるのに、先を読んだ形で動く為に、勝てないまでも目的を果たす戦い方に引きずり込まれてしまう。
結果、一刻も早くカールの元に駆けつけたいと言うのに、それが出来ないでいたのだ。
しかし、遂にそれが可能となる瞬間が訪れる。
別の方向で爆発が上がったのだ。
そして、狙い澄まされた一撃がミュリアムの相手をしていたアクトザクに撃ち込まれる。
相当に研ぎ澄まされた一撃だったのだろう。アクトザクは、これまで見たこと無い程に大きく動いて回避した。当然、そこには隙が生まれ、それをミュリアムは見逃さない。
「ありがとう、グルード」
爆発の余波と距離がある為に確認はできなかったが、それでもこんな芸当ができるのは一人しか居ないとミュリアムは確信していた。
実際、追撃しようとしたアクトザクの行く手を阻む様に、更に数条のビームが走り、完全にミュリアムをフリーにしてくれたのだ。
「あの娘には先客が居るんだ。 お前の相手は俺がしてやる」
グルードは立て続けにビームライフルを放つ。ただし、当てる必要が無かった為に、敵の進路を塞ぐ位置に適当に打ち込む。
だが、それだけで相手は目的を潰されたはずだ。
3機のアクトザクの内1機を撃ち落とす事に成功した為に、ようやくグルードは別方向の敵に対しても牽制する余裕を得ていた。
味方機も混戦状態から体制を整えていたので、実質的に五分以上に戻してもいたのだ。
「頼むぞ、ミュリアム、カール。 俺達の船を守ってくれ」
そう呟くと、グルードは更に引き金を引いた。
すると、遠方に居たアクトザクは、意外にもこちらに向けて加速して来る。
随分と切り替えが早い。
知らず、グルードはグスターブの相手をしている気がした。
「!? 波動が…変わった?」
広がった感覚でとらえた相手の情報に変化が訪れた瞬間だった。
それまで緩慢だった敵の動きが急に鋭くなる。
しかし、動きを読むと言う事がまだ出来た為に、それでもカールは冷静だった。その時までは。
しかし、徐々に異変が訪れ始める。
「何だ? 誰だ? この混ざった記憶……」
広がり過ぎたカールの感覚は、見えないはずの相手のパイロットの姿をハッキリと捉え、更には別の誰かの映像までも見る事となって混乱を招く。
「ラフト・サイマー? いや、他にも…」
「カール…カール・ヒノ! お前は俺の!」
一方的に見ていたと思っていた瞬間、向こうもこちらに気が付いた様に手を伸ばしてきた。そこには恐ろしい程の悪意と殺意が込められている。そして、ラフト・サイマーと言うパイロット以外の何かがカールに流れ込んできた。
(俺の物をぉ…返せぇ)
「だ、誰だ? 止めろ、止めてくれ!」
恨めしい声が四方八方から降り注ぎ、カールは酷く慄いた。
瞬間、機体に鋭い衝撃が走る。
モニターを見れば、機体の一部に被弾したと警報が出ていた。ただし、掠った程度なのか、軽微とだけ表示されている。
顔を上げれば敵が武器を乱射しながら突っ込んでくる所だった。
それを、カールは慄きながらも必死に回避する。
「どうした、カール・ヒノ。 俺を殺してみろおおお!」
(お前もぉ…俺の元にぃ…来ぉい)
「く、来るなあああ」
恐怖で反撃する事を忘れたカールに敵が襲いかかる。
そして、致命的なポジションで敵の攻撃が放たれる瞬間を、カールはハッキリと目にしてしまう。
「カール!」
敵の特攻に不可解に引き下がるカール機。そこに必殺の一撃が放たれ様としていた瞬間、ミュリアムは全速力でその間に割って入った。
激しい衝動が機体全体に走り、コンマ数秒を置いて爆発が起きる。
「ミュリアム!! コイツ!」
仲間の犠牲に怒りが湧いたカールの感情は、恐怖を一瞬で凌駕して引き金を引かせていた。
敵の攻撃は味方機が盾になった事で防がれ、更には隙が生まれてもいた為にカールの反撃は的確な物となり、逆に必殺の一撃となって敵MSの右肩を撃ち抜く。
それでも相手は怯まない。
今も空間に見える狂気をはらんだパイロットは、残った遠隔武器にエネルギーの様な物を走らせると、それを自在に扱って攻撃を仕掛けてきた。
だが、既にそれが見えていたカールには通じない。
逆にミュリアム機を抱きかかえながらも相手の死角に入ると、すれ違いざまにビームサーベルで下部付近を切りつけた。
はずだったが、敵も寸前で回避しており、結果、ダメージは思ったよりも浅く、せいぜいスカートとも言われる装甲に切れ目を入れた程度だった。
それでも何かに引火したのか、切りつけた部分から小規模の爆発が起きて相手は体制を崩すと、不利と見たのか消火剤を撒き散らしながらその場から急速に遠ざかる。
直後、その飛び去ったと思われる敵MSから信号弾の様な物が上がり、更には敵母艦らしき物から牽制のビーム砲が放たれた。
遅れる事数秒後、別々の場所からビームの光が数条伸び、敵母艦の撃ったらしき場所へと放たれる。
恐らくだが、グルードかジェミニボックスの反撃だろう。
その後、何回かのビームの応酬があった後、辺りは急に静かになった。
撤退したのは、どうやら敵の様である。
その証拠に、味方側から信号弾が打ち上がって知らせてきた。
「ミュリアム! ミュリアム!」
カールは必死に叫んだ。
モニターで確認する限り、ミュリアムの機体は背部バインダーにダメージを負っているだけで、本体の方は無事に見える。
だから彼女は生きているに違いなかった。それでも、カールは血の気が引く思いで必死に名前を呼ぶ。
すると、ミュリアム機のコクピット辺りから火を吹き、ついでハッチが吹き飛ばされた。
あっと叫んだカールだったが、直後にミュリアムが消火剤を纏いながら中から出てくると、こっちに手を振る。どうやら無事だった様だ。
それを見て、カールはヘナヘナとシートに沈み込むのだった。