ZガンダムAWS   作:ST郎

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17.顛末

 数条のビームが撃ち込まれ、そして流れて行く。それらから判断しても、敵のMSは最低でも4機はいるだろう。

 それに対し、反撃の為に撃ち込まれたビームは、僅かに二本のみ。

 その二本の攻撃に、倍以上の反撃が撃ち込まれてくる。

 それに返されたビームは、今度は一条だけだった。

 

 だが、そのたった一つが敵を捉えたのか、遥か遠くで爆発が起こる。

 しかし、致命傷とは成らなかった様で、先程と同じ数のビームが撃ち込まれてきた。それも、狂ったかの様に。

 逆に、撃ち込まれた方は、遂に反撃すらしなかった。

 

「残弾1か。 カール、そっちの弾は?」

『残弾0です』

「今来られたら、本格的にヤバいな…」

 グルードのゼーラスが、首だけで後方を振り返る。

 既に応援のMSは無い。

 ジェミニボックスに残された実質的な戦力は、グルードとカールのゼーラス・ヤークトの二機のみである。

 そのカールの機体も脚部付近には被弾の跡があり、整備もままならない状態で出てきていた事を物語っている。

 それも含めて、敵はコチラの惨状に気がついている可能性はあったが、それでも迂闊に飛び込んでこないのはグルードのお陰だと言えた。

 

 彼は、この様な事態に陥る事を予測して、敵がある範囲に近づいて来た場合だけ、きっちり当てると言う芸当をやってみせた。

 距離があり過ぎる為、必中弾とは成らなかったが、それでも敵に近づく事の危険性を認識させるには十分だったと言えるだろう。

 しかも、事前にワザと撃たないと言うフェイントも入れておいた為、コチラが本当に窮地に陥った今も、敵は接近するのを躊躇っているのだ。

 

 それに対し、敵は物量で圧倒する事を選んだらしく、今も派手にビームを撃ち込んできていた。

 すると、予定していた通りに、ジェミニボックスから全力の艦砲射撃が、反撃として放たれる。

 幾らオンボロ船とは言え、武器の威力だけは本物であり、それによって敵も沈黙した。

 だが、それは今のジェミニボックスにとっても、最初で最後の攻撃となる。

 もはや、船にも攻撃用のエネルギーは残っていないのだ。

 

 グルードは、注意深くモニターを覗き込む。

 もし、敵が更に撃ってくる、或いは近づいてくる様子を見せた場合、最後の一発を撃つつもりでいたからだ。

 だが、敵は撤退したのか、遂に攻撃が返される事はなかった。

 

 

 敵の撤退を確認した後、グルードとカールはジェミニボックスへと戻った。

 甲板には二機のゼーラスが雑に駐機されており、何時もは忙しなく動いているはずの人の姿もない。

 それでも、二機が甲板に着艦すると、宇宙空間なのにヨロヨロとした動きで、数名が出てきて固定作業を始める。

 

 あれから、10時間以上もぶっ続けで戦っていた。

 ジェミニボックスに残された実質的な兵力は、僅かにMS四機のみ。

 それを二機ずつ交代させる形で対処してきたのだが、補給が追いつかずに遂にグルード達が最後の戦力となってしまう。

 敵が本当に退却したかは、まだ分からないが、もはやコチラに正面切って戦う能力はない。

 それでも敵が仕掛けてくるとしたら、最後はMSで文字通りに切り込んで行く他ないだろう。

 

 コクピットを出たカールは、そのまま甲板を伝ってMSコンテナの方へと入り込む。

 中では宇宙用スーツを着た連中が、固定用のベルトを各々が好きな所に、勝手にかけて宙に浮いていた。

 全く動かないので、一見するとまるで死体が浮いているにも見えるが、勿論死んでいる訳ではない。

 多くの場合、疲労によって眠っているのだ。

 

 敵の執拗な追撃を全力で振り切ろうとした結果、ジェミニボックスは、無い物資を総動員すると言う羽目に陥り、それぞれが無理な形で働いた為にこうなったのだ。

 実質的に最後の戦力となったカールとグルードを送り出した後、全員が精も根も尽き果て、その場で休息に入ったに違いない。

 そのカールも少しでも気を抜くと、直ぐにまぶたが落ちてきそうだった。

 その眠る一歩手前の彼の肩を、グルードが叩いた。

 

「カール、お前は休め」

「え、でも…グルードさんは?」

「俺は、万が一に備えて待機する」

「…流石ですね。 なら、お言葉に甘えさせて頂きます」

「ああ。 だが、何かあったら叩き起こすからな」

「はい…」

 そうは言っても、カールは動くのも億劫だった為、暫くはその場に留まる。

 チラッと目をやると、グルードとグスターブが何やら話しているのが見えた。

 

 流石に、あの二人はタフだった。いや、艦長やイドも例の如く疲れ知らずであり、特にイドは手の足りない部署にまで駆けつけていたので、一番動き回っていたのではないだろうか。

 ただ、最後の出撃前、モニターに映し出された艦橋には、艦長であるハッサスが仁王立ちしている以外に人の姿は見えなかったので、艦の操作自体、彼一人で行っていた可能性すらある。

 ミュリアムはメカニックらと動いていたのを見かけたが、ある時から姿が消えたので、やはり途中からギブアップしたのだろう。

 普通に考えれば大抵の者はそうなるはずであり、グルード達がタフすぎるのだ。

 

 もはや疲れて気力も失いかけていたカールは、最後の力を振り絞るかの様にして無重力の中を自分の部屋へと進んだ。

 部屋にはパイロットスーツのまま入り、そのまま眠る体制を取る。

 出撃時に着る手間を省くと言うよりは、もはや脱ぐ気力すらなかった為、カールはそのまま眠りについた。

・ 

 

 ジェミニボックス側の死者は3名と確認された一方で、敵側はMSこそ失ったものの、死者は恐らく1名程度であろうと結論付けられた。

 逆にジェミニボックス側はグスターブが引き連れていた先発隊から一人、ジム2に乗っていた者が一人、更にグルード隊のゼーラス一機がパイロットもろとも失われる結果となっている。

 脱出装置が働いたはずのジム2のパイロットは直後は生きていたらしいのだが、後に中で致命的な傷を負っていた事が分かり、それが元で結局は死んでしまう。

 こうした装備関係の問題は以前からジェミニボックスの泣き所であったが、整備員が少なくなった事で、より危険は増していたとも言えるだろう。

 それが最悪な形で表面化したとも見られていたが、今回は不運が重なった面もある為、余計にジェミニボックスの面々はやるせない思いになっていた。

 そして、人的損失もそうだが、戦力の要であるMSの損耗も著しい事が更に彼らの気持ちを暗くする。

 

 カールのゼーラスが小破、グスターブとミュリアムのゼーラスが中破、二機のゼーラスと一機のジム2が爆砕して消失。

 無傷なMSは実質的に3機だけであり、カールのゼーラスが小破程度で直ぐに修理が済むとしても、戦力は3分の1程度に低下したと言えるだろう。

 相手の方が質、量共に上だったと言う事実を突き付けられた分けだが、これにガンダムが居たらどうなっていたのかと、怒りを隠さなかったのは艦長のハッサスである。

 

「たかが支援部隊に、本格的な戦闘をさせた結果がこのザマだ。 その上で何を無傷で捕獲しろだと? ふざけるな!」

 あの後、一旦は撤退したかに見えた敵は、直ぐに補給と修理を済ませると、再度ジェミニボックスに襲いかかってきた。

 幸いと言えたのは、何故か大型MSが追跡には加わっていなかった事だろう。

 だが、戦力の消耗著しいジェミニボックスは逃げるのが精一杯で、どうにかこうにか振り切る事には成功したのだが、もはや戦う力など残ってはいなかった。

 

 命からがら逃げ出したジェミニボックスは、合流予定地点に向けて移動していたが、偽装貨物船が確認の通信を送って来た事で、ハッサスが責任者を半ば恫喝に近い形で呼び出して文句を言っている最中なのである。

 その文句を聞いている相手は、今回の任務を直接手渡してきたモルド・サブルだった。

 

『では、ガンダムはいなかったと?』

「居たら、お望み通りに全滅していたかもな? 不服かね?」

 嫌味たっぷりにハッサスはモルドに返す。

『いえ、一応は確認の為ですよ。 実は、ガンダムの捕獲は別の部隊が成功させました』

「成程。 陽動が上手く行った訳か。 そいつは目出度いな。 死んだ連中に祝杯でも上げに来い」

 ハッサスは珍しく感情的になっていたと言えるだろう。

 見かねたイドがなだめに入る程だ。

 

『…情報はできるだけ集めたつもりですが、それでも全てを予見できる訳ではありませんよ。 それに、上手く行った方も色々と面倒があった様です。 詳しくは話せませんが、取り敢えず、あなた方は補給後に休息を取る様に指示が出ています…』

「休息? 次は何をさせるつもりだ。 MSとパイロットの補充ができたからと言って、この船ではまともな戦闘などできんぞ」

『分かっています。 我々…いや、エゥーゴもそこまで馬鹿じゃない』

「! 今、エゥーゴと言ったか? では…」

『ええ、近々正式に発表があるでしょうが、組織として本格的に活動を開始する予定です。 今度こそ、あなた方は裏方に回るので安心して下さい。 では、後ほど』

 そう言ってモルドは通信を切った。

 

「ふん、何を安心しろと言うのだ。 あの企業が裏で手を引いている限り、何も保証などされる事はない。 コッチを捨て駒の様に使いおって」

 ハッサスが吐き捨ている様に言う側で、イドは星が瞬いているのに暗いと感じる宇宙空間を、ただ黙って見ているだけだった。

 

 

 ミュリアムは二の腕に包帯を巻いていた。

 特に大怪我を負った訳ではないのだが、念の為と言う事でサムに手当されたのだ。

 そのせいでも無いだろうが、意識するとヒリヒリとした痛みが伝わってくる。

 あの日、大型の敵と戦った時、カールを助ける為に思わず身を挺したミュリアムは、寸前の所で命を拾う事ができた。

 あれがゼーラス以外のMSでなかったら、彼女は死んでいただろう。

 

 敵ビームの直撃を食らったにも関わらず機体が爆散しなかったのは、背部バインダーのお陰だと言える。

 直後にカールが反撃した事で相手の攻撃が中断された事も幸いだった。

 もう少し照射時間が長かったら、下手をしたらコクピットごと撃ち抜かれていたかも知れない。

 実際、熱による影響は直ぐ側まで来ていたらしく、コクピット内は火災が発生した上に開閉装置も故障して出られなくなっていたのだ。

 もっとも、あのタイミングでは、ポッドであろうと身一つだろうと、外に出ていたら死んでいたかも知れない。むしろ、故障していた事こそが幸運であったとも言える。

 

 あの後、何とか爆発ボルトを作動させて外に出られたのだが、その間、カールの悲鳴に近い叫びをずっと聞く羽目になった。

 無線の方も壊れていたらしく、こっちから通信はできなかった為に相当に心配させた様だ。

 まあ、面白いカールの一面が見られたので、ミュリアムとしては得した気分でもあった。

 ただし、カールは相当に怒っていた様だ。

 

 あれ以来、そのカールとは微妙な距離が生まれている。

 いや、ミュリアム自身が多少は突き放したと言うべきか。

 ジェミニボックスは、戦力の補充と人員の休息の為に間もなくドック入りする。

 それにより、まず間違いなくカールは船を降りる事になるはずだ。

 彼は元より兵士ではない。

 引き止める理由も無いし、これ以上戦わせるのも無理がある。

 彼を生きて帰すと言う役目も終わろうとしている今、ミュリアムも必要以上に彼と付き合う必要は無い。

 むしろ、妙な居場所を与えてしまう事の方が不味いと言えた。

 

 だから、ミュリアムはカールと今までの様な付き合いを止めたのだ。

 態度の急変に明らかに戸惑っている様だったが、それでもカールは優しかった。

 人としてだけではなく、カールは明らかに男性としても成長している様だ。

 むしろ、前に進めず時間が止まったままなのは、ミュリアムの方とも言えるだろう。

「カール…」

 ミュリアムは自分でも意識せずに、彼の名を呟いていた。

 

「うおおおお、解けー。 俺を戦わせろ。 アイツを、アイツおおおおお」

 一人の男が隔離された一室でベッドに拘束され、狂った様に叫び続けていた。

 その男の名は、ラフト・サイマー。

 戦闘終了後、彼の様子は完全におかしくなってしまい、手が付けられない程に暴れ回る為に仕方なくこの様な処置が取られていた。

 

「安定していると言う話ではなかったのか?」

 将校らしき男が語りかけた相手はグリタス・デンケである。

 彼もこの事態には困惑するばかりであり、何と返事して良いか分からなかった。

 そもそもバウンド・ジグの調整役として乗り込んで来た彼にしてみれば、ラフト・サイマーの体調までは専門外なのである。

 大体、彼自身もラフトは大丈夫だと聞かされていたくらいだ。

 

「私も専門外でして…どうにも」

「このままでは不味い。 変な噂を立てられても困る。 何とか落ち着かせろ」

「では、これしか無いでしょうね」

 そう言ってグリタスは銀色の小箱を取り出すと、中から何やら注射器の様な物を手にする。

 注射器、と言ってもあからさまに針の付いた物では無い。もっと機械的な仕組みが施された何かであり、それによって素人でも扱いが容易となっていた。

 因みに、これを開発したのもアナハイムである。

 

 それを手にしてラフトに近づいたグリタスは、眼鏡を怪しく光らせて叫ぶ彼に無造作に押し付けると、効果は直ぐに現れた。

 あれだけ狂った様に騒いでいたのに、数秒で大人しくなってしまったのだ。

 麻酔か何かの作用もあるらしく、しばらくするとラフトは完全に眠ってしまう。

 

「コイツは駄目だな。 やはり、原理不明ってのは始末に負えない。 欠陥品だ」

「それは…どうですかね。 分析して原因を探ってみない事には…」

「それこそ専門家の都合だ。 少なくとも厄介者を押し付けられたコチラとしては、使えないと言う事実だけで十分だろう」

 そう言って将校らしき男は一切振り向かずに去っていった。

 

「欠陥品…厄介者…」

 一人呟くグリタスは窓の外を見る。

 星は何事も無かった様に煌めいていたが、何もない宇宙空間からは冷たさの様な物が漂ってくる感じがした。

 まるで、絶望と言う判決を、ラフトにではなくグリタスに突きつけているかの様だ。

「そう言えば、この艦もこれでお役目御免でしたね」

 実験艦コロールの壁を撫でる様にした彼は、何かを決心した様に歩き出して行った。

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