「事情は分かった。 全てを話してくれた上に、そこまでやってくれたアンタには感謝しよう。 しかし、ババを引けに行けと言われた人間の気持ちが分かるか?」
「そんな…僕は仕向けられて…」
全ての事情と経緯…中には自分の推論も挟むと言う断りを入れながら、モルドは包み隠さず話した。
それによって初めて知る事が多かったカールは、ショックを受けた様な顔をする。ただ、ハッサスとイドだけは相変わらず普段通りで、大して驚いた様子を見せてはいなかった。
恐らくだが、何かしらの形で概要くらいは掴んでいたのかも知れない。
「申し訳ない。 これが今できる精一杯だ。私の立場では…」
「いや、アンタを責めている訳じゃないさ。 所詮は傭兵だと、自分に言い聞かせただけの事だ。 気にするな」
ハッサスの言葉にイドも頷く。やはり、こうなる事をある程度は予見していたのだろう。何せ、モルドは突然来たのではなく、事前に連絡くらいは入れていたからだ。
「さて、話が分かったところで、カール。 お前は帰れ」
「い、嫌ですよ。 パイロットが居ない事くらい、僕も分かってます。 特にゼーラス・ヤークトは僕じゃないと駄目なんでしょう?」
そう言いながら、カールは不安げにモルドを見た。だが、モルドは何も言わずに眼鏡をかけ直すだけである。
「帰れ」
更にハッサスが強く言ったが、カールは拒否する言葉を残してその場を出ていってしまった。
「意地悪が過ぎませんかね。 聞いての通り、私の誘導があったとは言え、彼なりに思うところがあって来たんだと思いますよ」
「だからこそだ。 アイツは…カールは、戦いに囚われ始めている。 そうなってからでは遅い」
「私は、そうは思いませんね」
「どうして、そう言い切れる?」
モルドの言葉に反応したのはイドだった。鋭い眼光をコチラへと向けている。そこには、多分に非難の意味も込められていたのだろう。
「彼の生い立ちを、ちょっと調べたんですよ。 両親を失い、貧困で天涯孤独。 カールくんは、ある意味で最初から戦場にいた。 それでも、彼は自分を見失っていない。 あまり、見くびらない方が良い」
それを聞いて、ハッサスとイドは同時に「ほぅ」っと息を漏らした。
「カール? どうしたの?」
船の外に飛び出す勢いでやって来たカールに追いすがったミュリアムは、その顔を心配そうに覗き込む。
少し沈んだ様な顔をしていたからだ。
恐らくハッサス達に何かを言われたのだろうが、その内容も大体察しが付く。
ただミュリアムにしても、それは仕方がない事だと思った。戻ってきてくれた気持ちと、顔を見れただけでも十分だ。彼は兵士ではない。
「帰れって言われた」
「ああ、やっぱり」
そう言ってミュリアムは腰に手を当て、少し海老反りになった状態で顔を背けた。相変わらず、器用なポーズを取るなとカールは思う。
そのまま一回転してカールに向き直った彼女は言う。
「みんな、カールの事を心配して言ったのよ」
「じゃあ、僕が皆んなを心配するのは駄目なんですか? グスターブにはここでの事は忘れろって言われたよ。 それで忘れる努力もした。 仕事に打ち込んだ。 でも…でも、ミュリアム、君たちジェミニボックスの皆んなを忘れるなんて無理だよ。 そして、悩んで悩み抜いて。 それでも、皆んなの力になりたいと思ったんだ!」
「カール…」
その時初めて、ミュリアムはカールが自分よりも年下なのだと実感する。
彼女はカールを優しく抱き寄せると、その頭をやはり優しく撫でてやるのだった。
「そ、そうだ。 グスターブとグルードは? 何か、見ない気がするんだけど」
ミュリアムの思わぬ抱擁に、しばし呆然とされるままにしていたカールだったが、ハッと気が付いて彼女を離すと、照れを隠す様にして別の話題を振る。
「二人共、外に出てるわ。 伝手を何とか頼るって。 ただ、私らって裏切り者って言うか、どっちつかずだから厳しいかもね」
そう言ってミュリアムはカールの手を引くと、船の床へと降ろさせた。近づいて来るコンテナに気が付いた為、進路を空けようとしたのだ。
その真上をコンテナが通って行く。
それを二人で暫し眺めていたが、そこでミュリアムが気が付いた様にして、手にしたバインダーをめくると辺りを見回す。
「何、コレ? 搬入の予定に無いんだけど。 カール?」
「いや、僕も知らない。 持ってきたのは3つだけだし」
それを聞いてミュリアムが弾かれる様に動きながら、更にカールに合図を送る。
それだけで直ぐに理解したカールは、指摘されたコンテナへと用心しつつ近づいた。
壁際に寄ったミュリアムは受話器を掴み取ると、関係部署に連絡を入れる。
「こちら搬入口ブラボー。 リスト外のコンテナが搬入されてます。 何か、追加の報告、あります?」
『搬入口ブラボー? こっちに報告は無いぞ。 ちょっと待て。 艦長達に確認…』
「いいわ。 直接聞くから。 ただし、そっちも待機してて」
『了解』
素早くパネル部分を操作するミュリアム。
しばらくした後、艦長のハッサスが出た。その間にも、ミュリアムはコンテナの動きから目を離さない。また、カールもコンテナを運んで来た連中に話を聞いている様子だった。
『どうした』
「ミュリアムです。 搬入口ブラボーに、リストに記載されていないコンテナが運び込まれています。 アナハイムの人から、何か聞いてます?」
『待て』
長い沈黙。振り返るとカールがコンテナを運んできた作業員と何かを喋っているのが見えた。何やら、激しく言い合っており、不穏な空気を感じる。
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「こっちの客じゃ無いらしい。 構わんから警報を鳴らせ。 警備連中め。 幾ら人手が足りないからって…イド!」
ハッサスが振り返った時、既にイドは部屋から出ていく所だった。
ミュリアムも返事をする前に警報機を鳴らしたらしく、受話器向こうでその様子が伝わると同時に、直ぐに艦内全体にもそれが鳴り響く。
「私は、どうしましょうか。 一応、確認に行きます?」
「客人は念の為、ここで大人しくしていてくれ」
そう言ってハッサスもブリッジへと向かった。
「な、何だ。 この警報?」
コンテナを運んできた一人がキョロキョロと辺りを見回す。
お前らのせいだよ。と、カールは心の中で舌打ちした。
「もう一度聞く。 どこの所属だ。 もしくは、搬入者名は?」
警報が鳴っている事もあって、カールは大声で怒鳴った。
「だから、ジェミニボックスだってよ」
それに対し同じく向こうも怒鳴り返すが、さっき聞いた答えと同じだ。
流石に、その返答はおかしい。
「ジェミニボックスは、この船の名前だ。 そんなの、おかしいでしょ」
「知らないね。 コッチは言われた通りに運んできただけだし、書類だって、ホラ!」
そう言って差し出された書類には、確かにnameの所にジェミニボックスとある。内容の所には単に装備品とだけ書かれてあって、何が入っているのかは明確にはされていない。
「中身は何です?」
「だから、知らないって。 俺達は届ける様に依頼されただけなんだ。 じゃ」
「あ、おい!」
カールの制止も無視して、運んできた連中は、その一人の合図によって次々と引き上げて行ってしまった。
「カール」
呼ばれて振り返ると、そこにはイドが居た。
「何だ。 このコンテナ。 どこからだ?」
「それが…」
そう言って書類を手渡すと、イドは眉間に皺を寄せた。
「本当に、お宅らの物じゃないんだな?」
強引に置かれたコンテナを前に、ハッサスはモルドを呼びつけて聞く。
「いえ、全く。 そもそも、アナハイムならエゥーゴの名前を使うでしょう」
それはそうだ、とハッサスは内心で納得する。だとしたら、これは一体何なのか?
「爆発物は仕掛けられていない様です。 どうします?」
整備員の一人がコンテナを調べる機器を手にコチラに呼びかける。つまり、開けるかどうかを仰いだのだ。
「…カール、パイロットスーツを完全着用して居るのはお前だ。 お前が開けろ」
「はい」
「え、ちょっと、艦長!」
ミュリアムは止めようとしたが、その前にカールが直ぐに開けてしまった。
「コイツは…」
中身を見た瞬間、これを送って来たのがどこなのか、分かる者達には直ぐに分かった。
そこにはMSの追加装備品が納められており、特にカールには良く見覚えがある物だった。
「ゼーラス用、追加装備…」
「RS社の連中か。 余程厄介払いしたい様だな」
そう言って、ハッサスは溜め息を付いた。