UC.0087年、11月2日。
エゥーゴ、カラバ両軍によるキリマンジャロ攻略作戦が遂に開始された。
実際の攻略部隊はカラバが担当し、それをエゥーゴが宇宙から支援、或いは陽動をかける。
しかし、ティターンズもこれに対抗して軍を逐次投入、激しい戦闘へと突入するのだった。
その6時間ほど前、ジェミニボックスは距離をとってアーガマと並走し、予定地点へと向かう道中にあった。
アーガマの方は周囲への警戒と最終チェックを兼ねる為にか、艦船からは仕切りにMSが出入りを繰り返している。
ジェミニボックスにもMSが張り付いてはいたが、悲しいかな、アーガマの様に贅沢な運用は出来ないので2機のみが甲板に出て待機しているだけだった。
その2機とは、カールとミュリアムの乗機である。
ここに来てカールは、これ以上に無い程に緊張していた。何故なら、だんだんと地球が目の前に近づきつつあったからだ。
これまで地球に降りたことが無く、どっちかと言うと遠くから眺めるのが当たり前だったカールにとって、その近くに行くと言うのは得体の知れない恐ろしさがあった。
ただし、自分でも何が怖いのかは良く分からない。
久しぶりの実戦からかなのか、本物の重力に近づくからなのか。何れにしろ、緊張ばかりしてどうにも落ち着かない。
そんな時、急にミュリアムから通信が入る。
『あれ! あれ見て』
ミノフスキー粒子が既に散布され、通常手段の連絡が難くなっている為か、ミュリアム機は接触してきた上で、MSの指でその方向を差し示す。
その方向をコクピット内で見ると、遠くにアーガマが見えた。既に見飽きた光景でもあった為、カールは疑問符を浮かべる。
『あれって、噂のゼータじゃない?』
その言葉に慌てて小モニターを呼び出すと、最大望遠で確認する。
すると、一瞬だけ白いMSが映し出され、直ぐにカタパルトから滑り出したかと思うと、ウェーブライダーらしき形態に変形してあっと言う間に去っていってしまった。
一瞬の事と最大望遠でやっと見える距離でもあった為、その姿をハッキリと確認する事はできなかったが、変形したと言う事は先ず間違いないはずだ。
「す、すごい…」
カールの驚きには、幾つかの意味が込められていた。一つは本物を見たと言う事だが、後の一つはその性能にある。
遠目から見ても、その加速性能がゼーラス・ヤークトを上回っているのが分かったからだ。
「あんなMSを操るって、どんな凄いパイロット何だろう…」
『噂だと、ハイスクールの子が乗っているって話だよ』
「まさか!?」
ミュリアムが冗談っぽく言った事もあり、カールはとても信じられなかった。
ただ、流石にカールもアムロ・レイの話しくらいは知っていたので、完全には否定できない。
そもそも、Zガンダムには色々な噂がついて回ってもいたので、どれが本当で嘘かも分からないのだ。
それだけ重要機密と言う事なのだろうが、ある意味で外部組織であるジェミニボックスだと余計に正しい情報は入って来ない。
そのままカールはZガンダムが消えていった宙域を眺めていた。もしかしたら、戻ってきたのを見る事が出来るのではないかと思ったからだ。
しかし彼の願いも虚しく、両艦はどんどんと距離が開いて行き、モニターの拡大機能を使っても形状がやっと分かる程に離れてしまう。
そして、カールは何時の間にか緊張から解き放たれていたのだが、それに気が付くことさえ忘れる程に宇宙空間を見入っていた。
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戦闘は、遠く離れた宙域に居るジェミニボックスの位置からでも、激しく行われているのが見えた。
無数のビームが飛び交い、MSが機動しているらしい推進機の光が付いたり消えたりしている。
一方で、ジェミニボックスの居る宙域は嘘の様に静かであり、それが余計にカールには不気味に思えた。
目の前には、これまで見たことが無い程に巨大な地球と言う星が眼下に存在し、油断していると吸い込まれそうにさえ思える。
カールには地球は美しいと思えると同時に、やはり理解できない何かがあった。
「あんな窮屈そうな所に、人が犇めいているってのか」
それはスペースノイド特有の感想でもあろう。
地球の人間からすれば、スペースコロニーはとても小さい空間と考えるが、逆にスペースノイドにしてみれば、スペースコロニーは宇宙空間ともイコールであり、どこまでも広がった空間を身近に持っていると考えていた。
それを当たり前と考えていたカールには、どうしても地球と言う存在がピンと来なかったのである。
『カール、あまりボサッとしているな。 何時の間にか引っ張られて落っこちるぞ』
ミュリアムと交代したグスターブが注意を促してくる。
計器類を見てみると、確かに予定地点より流されているのが分かった。慌てて推進機を使って元の位置へとゼーラス・ヤークトを戻す。
ジェミニボックスに目をやると、甲板にはウェーブライダー形態のゼーラスがワイヤーで固定されて待機状態にされていた。
この後交代するグルード達の為に用意された物だ。
既に地球に近づいている為、ここからは万が一に備えてウェーブライダー形態で任務に当たると言う事らしい。
ミュリアムの機体もコンテナ内部で今頃ウェーブライダー形態にされているはずであり、グルードらと交代したら次はカール達の番となっている。
ただし、甲板に並べられたウェーブライダーは耐熱塗装の真っ最中でもあり、交代には今少し時間を要するだろう。
何より、普段は使わないワイヤーでガッチリ固定されてもいるので、それの取り外しと回収にもやや時間を要する事になる。
これらからも見ても分かる通り、こうした決定は急遽行われた物だ。
決定を下したのはハッサスらしい。
彼らは地球圏近くでの作戦活動は初めてでは無かったはずだが、それだけに実際の現場を見て、兵士としての嗅覚が念の為を想定させたのかも知れない。
そして、それは最悪な形で現実の物となるのであった。