ZガンダムAWS   作:ST郎

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25.キリマンジャロ4

 

 

 

「! 来る! こちらカール機、MSらしき物発見」

 通信状態が悪い為、必然的に会話は光による合図とMSの指差しによってのみ行われていた。

 パイロットの音声を拾ったコンピューターは、決められた通りにライトを点滅させて味方機に合図を送るので、特にそれらを意識して操作する必要はない。

 実際、それに気が付いたグスターブやジェミニボックスでは、カールの呼びかけに気がついたらしく、慌ただしく動き出すのが見える。

 同時に、カールの方にも光を使った指令が送られてきた。敵を牽制しろ、と。

 それに応じてカールは遠距離からの射撃を開始する。

 それによって敵にも動きが見られた為、それで数を推測した。恐らくだが、敵の数は最低でも4機。

 ただ、その内の1機には違和感を感じた。スピードが違うと思ったのだ。

 直後、強力なビームが二つ撃ち込まれてきた。

 

「この火力、MSじゃないのか?」

 カールも反撃のビームをお見舞いしようとしたが、それよりも早くグスターブのゼーラスからビームが発射される。

 追加装備からも放たれた三本のビームは、的確に相手が居るポジションへと撃ち込まれ、それによって回避運動を向こうに強いる。カールもそれに習い、残った1機へ回避を取らせる為にビームを撃つ。

 ジェミニボックスは既に移動を開始していたが、敵の移動が速過ぎて全く回避が間に合わない。カールでさえも、これは流石に不味いと焦る。

 

『ワイヤーを今直ぐ外せ! 作業は中止しろ』

 甲板のパイロット用待機スペースから飛び出したグルードは、ゼーラスの周りで作業をしていた連中の一人に接触しながら怒鳴った。

 ミノフスキー粒子が濃い為、この様な形でしか会話ができないので伝達がどうしても遅れてしまう。

 しかも中途半端な状態で敵に襲われてしまった為、慣れた連中でも右往左往していた。

 それでもグルードはメカニックを信じてコクピットへと滑り込むと、素早くスイッチを操作して必要最低限の形で起動準備に入る。

 モニターを見てみれば、自分が接触したらしいメカニックが、他の者に伝達している真っ最中だった。

「早く、早くワイヤーを外せ!」

 コクピット内でも聞こえないであろう事を承知で怒鳴るグルード。その時だ。

 強力なビームがジェミニボックスの直ぐ上を通り過ぎ、直後に降りて来ると、甲板に固定されていた一機のゼーラスに命中、爆散させた。

 それによって吹き飛ぶメカニック。そしてジェミニボックスも左舷に被弾して爆発を起こす。

 

「ジェミニボックスが! どこから!?」

 カールは索敵を試みるが、ゼーラス・ヤークトのセンサーですらも捉える事はできない。

 それ程遠距離から撃ってきたと言う事だが、それにしても当てると言う事に驚いた。

 マグレか?それとも、狙ってやったのか。

 直後、更に同じと思われるビームが、今度はジェミニボックスの後方に走る。

 

「全速前進。 ビーム撹乱膜を撃て! 被害状況お!」

 嫌な予感が当たったと内心思いながらも、ハッサスは必死に指示を出す。

 敵の来た方向は全くの予想外であり、これによって発見も対応も遅れていた。

 てっきりキリマンジャロを守る為に敵は動くと思っていたのに、まさか自分たちを狙ってくる様な位置から襲われるとは誰も考えていなかったのだ。

 

「艦長、左舷被害拡大! 炎症を食い止められません」

「左舷部、隔壁全閉鎖! いや待て、避難警報を出して現場と連携させて行え」

「艦長! 推力が低下しています。 このままでは地球の重力に捕まる。 直ぐに離脱を!」

「今は方向を変えられん。 ノロノロ向きを変えていたら、それこそ狙い撃ちにされるぞ。 イド!」

「了解。 操舵を受け持つ」

 そう言ってイドが常駐の操舵手と変わる。ハッサスはジェミニボックスの運命を彼に一任する事にした。イドならば、何とかしてくれるはずだと信じて。

 

 

「もう、駄目なのか?」

 ラフトはコクピット内に走る警報を止めつつ呟いた。

 センサーすら有効ではない長距離から駄目元で撃って見たのだが、一発は上手く当てる事ができた。

 いや、彼の感覚がそこに目標が居る事を教えてくれていた為、さほど難しいとは考えない。逆に、彼の能力が長距離射撃で当てる方向へと武器を酷使した結果、予想よりも早く武器の方が限界を迎える事になる。

「仕方がない」

 そう言って、ラフトは増設装備を強制排除した。すると、バウンド・ジグは枷が外されたかの様に速度を増す。

 

「速い! アレが撃ってきたのか」

 ようやく敵らしき物がモニターに映し出されたが、カールは何処かその姿に見覚えがあると思った。

 とは言えMSなど似たものが多いので、その感覚も当てには成らない。

 それよりも、今はジェミニボックスを守る事の方が先だった。

 しかしながら、数的にもコチラは絶対的な不利にある。

 グスターブのゼーラスが火力面では数合わせ出来ていたが、それでも圧倒的に不足していた。

 何より、敵の主力と思われる2機が遂に接近してきたのだ。

 

「ええい、次から次へと」

 急接近してくる敵に三つ同時にビームを浴びせながらグスターブが吠える。

 狙いすまして撃っているはずなのに、菱形の敵は驚異的な加速力でそれを回避しながら突っ込んできた。

 いや、その加速性を活かしてグスターブをやり過ごして背部にさえ回る。

 もう一機速いのが来ていたが、そっちはカールに任せる事にした。

 後三機ハイザックが迫って来てもいたが、それらに関しては臨機応変に対応するしかない。

 一応、ジェミニボックスからビーム撹乱膜が発射された為、敵の牽制攻撃に関してはある程度無視できるはずだ。

 グスターブは機体を反転させると、菱形のMAらしき敵を追いかけた。

 直後、敵のハサミの様な部分から強力なビームが放たれた為、グスターブも容易に近づく事はできないと覚悟する。

 

 グスターブが敵の一機を追いかけた事により、カールもすぐ様敵の一機が自分に任された事を理解した。

 ビームライフルを放ちながら敵を誘き寄せる様に動いたが、彼は経験の不足から無意識に楽な方向、つまり地球へと降下していたのだが、それには気が付かない。

 いや、或いは敵に対して、精神的な駆け引きを無意識に行った可能性もあるが、戦闘と言う特殊環境下では自らの判断を省みる暇などなかったであろう。

 そして、カールが仕掛けたかもしれないチキンレースに敵も応じて追いかけて来る。

 地球の引力に捕まるにはまだ早かったが、それでも二機は競う様にして加速し、互いにビームを放ってはギリギリでかわして反撃する事を繰り返す。

 その腕前は、両者に強敵だと認識させるのに十分だった。

 

「動け!」

 被弾して火を吹く甲板に今も固定されていたグルードは、ゼーラスを無理やりに動かして、その拘束を解こうとしていた。

 駐機していたもう一機のゼーラスが爆発した事により、頼るべきメカニック達は吹き飛ばされてもう居ない。

 ワイヤーが機体に擦れて嫌な音がコクピット内に響く。MSを留め置く程に頑丈な素材で出来ているので、下手をしたら機体に損傷を負う可能性もあったが、それでも構わずに彼はスロットを開いた。

 既に肉薄しつつあるハイザックからもビームが撃ち込まれ、それが頭上をかすめて行く。

 ビーム撹乱膜が拡散している為に威力こそ削ぎ落とされていたが、それでも当たれば少なくない被害を負うだろう。更に言うのであれば、ビームの貫通性から見て上手く撹乱膜は散布できていない様でもある。

 このまま行けば直ぐに効果は切れてしまうだろう。特に今のジェミニボックスでは持ち堪えられないはずだ。

 更にゼーラスの頭上ギリギリをビームがかすめた時、グルードはMS形態へと変形させた。

 聞いた事の無い音が外部で鳴り響き、コクピットに警告音が鳴り響く。モニターには装甲にダメージを負った事を知らせる表示が出ていたが、グルードはかまっていられなかった。

 推進機を吹かして無理やり動こうとしていた事が功を奏したのか、或いは複合的な要素が絡んだのか、変形した事でグルードはようやくワイヤーからの拘束から逃れる事ができる。

 直後、ハイザックがヒートホークで切りかかってきた。

 

 グルードはそれを追加装備された片方のシールドで受けると同時に、もう一方からグレネードランチャーを撃って仕留める。ビーム撹乱膜の影響はまだ残っていたので、彼にしては最良の手段を取ったつもりだ。

 グレネードはハイザックの急所に滑りこむと、あっという間に撃破する。

 だが、更に残りの二機が連携してグルードを襲ってきた。

 その俊敏さを見て、相手が良く訓練されている事をグルードは理解した。

 

「私のゼーラス、出してよ」

「無茶言うな。 まだ変形途中だ。 それに、退避命令まで出ているんだぞ」

「じゃあ、自分でやるわよ」

「って、オイ。 ミュリアム、危ないんだぞ」

 命中した敵の攻撃は、ジェミニボックスの中央MSコンテナ内にも被害を及ぼしており、少なくない火災を発生させていた。

 衝撃にもよって、ミュリアムのゼーラスはコンテナ内を変形途中のまま漂っており、出撃が出来ない状態となっている。

 それに彼女は駆け寄ると、外部からのマニュアル操作を試みようとした。

 だが、時折走る衝撃とゼーラスが漂っている為、想像以上に困難な作業となる。

 既にウェーブライダー形態に近い状態に成っている為、このまま変形を進めるしか無い。

 このゼーラスは、機能上、ある程度の変形をするとセーフティーが働いてしまう為、今のままではどの道動かす事が出来ないのだ。

 内心では焦りながらも、ミュリアムは落ち着けと自分に言い聞かせながら作業を進めた。

 

 

「この動き、このMS! 俺は、コイツを知っている。 お前は…誰だ!」

 地球に落下しながらも、激しい機動戦を行いながらもラフトは叫んだ。

 記憶の中にこびり着いた何かが浮上しようとしてきたが、それを何者かが留める。

 それを示すかの様に特注のパイロットスーツが激しく反応すると、やがてラフトは異常な高揚感を得て奇声を上げた。

「はああああはっははは!」

 

「何だ!? 攻撃が更に鋭くなった」

 カールは、敵の攻撃と迫りくる重力の井戸に、恐怖で押しつぶされそうになるの何とか繋ぎ止めながらも、必死に抵抗を試みていた。

 基本性能では明らかに向こうが上であり、何とか回避に専念する事で互角に持ち込んではいたのだが、相手は更に一段回能力を上げた様な挙動を見せる。

 実際、今まで回避できていたはずのビームが装甲をかすり、それによって今まで鳴らされる事がなかった警報まで発せられる様になった。

 背後には地球が迫ってきている様な感覚もあったが、今は省みる余裕もない。

 敵の攻撃は更に鋭く、的確に成り始めていた為、カールは決断する。

「ここだ!」

 敵の攻撃終わりに推力を全開にして一旦上に出ると、地球の重力さえも利用して相手に肉薄する。

 それでも敵はビームを撃ち込んで来たのだが、カールは機体を回転させて勘頼みで背部バインダーに受け止めさせると、加速事態は殺さずに敵に切り込んだ。

 

 

「この宇宙カニが!」

 敵との速度差に予想外に手こずっていたグスターブだったが、ふとモニターに目を落としてぎょっとする。

 「カール! 戻れ、そのままだと地球に落ちるぞ」

 当然だが、彼の叫びなど聞こえるはずもない。

「くそ」

 コンソールを素早く操作すると、グスターブは追加装備を強制排除する・・・と言う割には、非常に丁寧に宇宙空間へと外していった。

 イチかバチかで軽量化した上での加速にかける事にしたのだが、ちょっとした仕掛けも施してある。これが駄目なら、もはや打つ手はない。

 

「おおおお!」

 雄叫びを上げながらグスターブはビームを乱射しながらゼーラスを突進させる。

 だが、敵は当たり前の様にそれらを、直線的だが驚異的な速度で回避した。

「かかったな」

 直後、彼が宇宙カニと呼んだ敵は被弾して動きを止める。

 よく見れば、グスターブが外した追加装備のシールドの一つが、機械的にビームを連射しており、やがてエネルギーが切れたのか動きその物を止めた。

 

 敵と戦っている内に、グスターブは相手が必ずしも複雑な動きをしていない事に気が付いていたのだ。

 恐らくだが、機体の性能にパイロットの方が追いついていなかったのだろう。

 それでも速度差は明らかだったのだが、パターンを読んだグルードは、シールドにちょっとした細工を施した上で、定位置に来たら自動的に射撃する様に仕掛けておいたのだ。

 狙いは見事に当たり、遂にグスターブは敵を捉える。

 後は、このまま接近戦で圧倒するだけだと思ったのだが、敵も変形した事で今度はグスターブが驚く。

「今度は…今度は、宇宙ゾックかよ!?」

 前後に張り出した装甲は、かつてのジオン公国の水中用MSを咄嗟に思い出させた。

 しかし、その状態での敵の動きは緩慢であり、変形前と比べると明らかに戦闘力が下がっている。

 どこから出してきたのか、一応は手持ち用のビームライフルも撃ってきたが、今までの事があってグスターブには完全に見切る事ができた。

 そして、遂に必殺の一撃が敵の頭部を撃ち抜く。

 

 はずだったのだが、寸前に変形を試みた敵は、それによって頭部こそ失った物の、それ以上の損害からは逃れると、何と、その頭部を切り離して再び加速を始める。

「くそ、今度はこっちがペテンに!」

 慌ててグスターブは追いかけるが、速度差があり過ぎた。

 そして、敵の狙いは明らかにジェミニボックスなのも分かる。

 

「グスターブが抜かれました。 敵MS接近」

「対空砲火! グルードは?」

 艦内にハッサスらのやり取りが大音量で直接響く。

 ミノフスキー下にあっては通信がまともに機能しない為、全クルーに逐次状況を伝える為に艦内のスピーカーは開放状態で使われていた。

「通信不能。 ハイザック二機に対処中ですが、あっちも…」

「ええーい、ウチのエースが何をやっとるか!」

「艦長! カールが地球の重力に捕まりました!」

「なに!?」

 受話器を片手にがなり立てていたハッサスだったが、呆然としてモニターを見る。

 そこには、二機のMSが降下速度を上げて落下して行くのが見えた。

 

 

「死ねえええはああはははっはは!」

「お前こそオオオ!!」

 敵の攻撃を背部バインダーで耐えると言う離れ業をやってのけたカールは、ビームサーベルを抜いて格闘戦に持ち込んでいた。

 ここまで接近すれば機動性の差など無視できると考えたのだが、異常な状態においては既に二人共まともではなく、どちらかと言うと喧嘩に近い状態で取っ組み合う。

 初撃で敵のビームライフルを切り落とし、接近戦以外の手段を封じたと思った瞬間、敵は何と、使えなくなったビームライフルで殴りかかってきた。

 予想外の攻撃にカールは対応できず、それをまともに食らって胸部装甲付近にダメージを負う。

 いや、エネルギーパックらしき物が残っている以上、迂闊にビームサーベルで切りかかると爆発を招きかねない為、こうも接近してしまっては受ける以外になかったのだ。

 ただし、タダで食らってやった訳ではない。カールも相手を殴り付けて背部推進機の幾つかを潰してやった。

 これに呼応して敵もビームサーベルを抜いたので、ようやく鍔迫り合いになったのだが、敵の狂気の行動は更に続いた。

 今度は頭突きをしてきたのだ。

 幸いにも当たったのは背部バインダーの方だった為にダメージは大した事は無かったが、明らかにコチラの頭部を狙っている攻撃にカールも焦る。

 今の状態でメインカメラをやられてしまうと、彼には到底対処しきれないからだ。

 

「何なんだよ、お前!」

「ひあああはっはは」

 接触している為に相手との会話…と言うより一方的な怒号と奇声が互いのコクピット内に響く。

 しかし、カールが怒鳴っていたのは、相手の異様な殺気に飲まれまいとしていた結果でもある。

 

 相手は自分の命など全く顧みておらず、カールを殺す為なら何でもすると言う狂気がそこにあった。

 少しでも気を抜けば、それだけで殺されると言う雰囲気があった為、カール自身も必要以上に気を吐いていたのだ。

 だが、それが彼自身にも冷静な判断と周囲への状況認識を滞らせてもいた。

 いや、それだけ相手が異常であった故に、そうせざる得なかったのかも知れない。

 既に帰還不可能な形で地球の重力に捕まっていたが、目の前に居る死神のインパクトが強すぎて、カールの本能は戦う事だけにスイッチしていたのだ。

 

 

 グルードは、モニターをちらっとだけ見て信号弾を上げた。

 特に意味を持たないそれは、敵だけではなく味方が見ても意味がわからなかったはずだ。

 だが、それでも彼は仲間なら答えてくれると信じた。

 直後、急機動をかけてハイザック二機から遠ざかると、振り向きざまにビームを放つ。

 ジェミニボックスへと直進してきた敵可変MSは、完全に不意をつかれてしまったのと絶妙なタイミングにより、完璧に撃ち抜かれて爆発した。

 逆に無防備となったグルードに、今度は2機のハイザックが完璧なタイミングで襲いかかる。

しかし、今しがた爆発したMSの爆炎を割る様にしてビームが現れると、1機のハイザックを撃ち抜いて撃破。

 その爆発の余波で体制を崩した所を、更にグルードが残りのハイザックを逃さずに撃ち倒した。

「流石だな、グスターブ。 信じていたぞ」

 モニターに遠く映し出されるゼーラスを見てグルードは額を拭った。

 

 

「おい、ミュリアム。 耐熱処理は済んでないんだぞ」

『館内放送聞いたでしょ。 カールが地球に落っこちてんのよ』

「だからって、無茶だ」

『他よりはマシでしょ。 カタログでも一回ぐらいなら大丈夫って。 どいて、発進するわよ』

「くそ、艦長。 ミュリアム機が…って、オイ!」

 メカニックとの短いやり取りの後、ミュリアムはウェーブライダー形態へと変形させたゼーラスを無理やり発進させた。

 火災と被弾の影響によりコンテナの入り口付近も歪になっていたのだが、それでも彼女はすり抜けると言う腕前を見せると、真っ直ぐにカールの所へと機体を加速させる。

 

「こちらMSデッキ、艦長、どうしますか」

『どうもこうもない。 こっちも不味いんだ。 後は信じるしか無い』

 実際、ジェミニボックスもギリギリの状態であり、少しでも進路を外れると逆に地球の引力に捕まりかねない状態にあった。

 更に言うのであれば、グスターブとグルードを回収する意味でも留まっていた為、非常に厳しい状態にあったのだ。

「ワイヤーを放て。 グルードとグスターブを回収次第、当宙域を離脱する」

「了解」

 クルーの返事を受けて、ハッサスはモニターと肉眼の両方で外部を確認する。

 外ではゼーラス二機がワイヤーに掴まっている最中なのが肉眼でも見え、モニターには既に地球の重力に掴まって断熱圧縮で真っ赤になりつつあるMSの姿が見えていた。

 

 

「ハァハァ…死ぬぞお前。 殺してやるぞお前」

 絶望的な状況になっていると言うのに、敵は相変わらず狂気を含んだ殺気を放っていた。

 既にモニター側の処理でも追いつかない程に、機体の周囲が熱で赤くなっているのがカールにも分かっていたが、どうする事もできない。

 ただ、不思議とそれに対する恐怖はなく、逆に相手への闘争本能が彼を突き動かしていた。

「死ぬのはそっちも同じだろ!」

 今までずっと力押しをしていたカールは、ここで一旦引くと言う操作を行う。変化を付けたパターンにより、敵は隙きを見せると考えたのだが、実際にはそれすら布石であった。

「はひゃ!」

 案の定、敵はそれに対しても異常な反応速度で対応してきたのだが、カールはこれを待っていた。

 背部バインダーにまだ残っていたビームライフル。それを今度はカールが棍棒代わりにして殴りつける。

 敵は当たり前の様に反応してビームサーベルで切りつけたが、それには残弾も残っていた為、爆発を起こした。

 直後、カールはビームサーベルを横に払い、敵MSを真っ二つにして見せる。

 相手の奇声は全く聞こえなかった。即死したのか、あるいは驚いて声も出ないのか。

 どちらにしろ両機はそれで離れてしまったので、確認する事はできない。いや、永遠に無理だろう。

 何故なら、敵MSは爆発したからだ。

 その光景を最後に、カールのゼーラスにも異常事態が発生する。

 モニターの幾つかがブラックアウトし、ダメージ報告が機体の全体に及ぶ事を示して警報が鳴り響く。

 騒々しい中にあって、不思議とカールは静かだと思った。

 

「カール!」

 ミュリアムは全速力で落下中のMSの元へと向かっていた。

 向かう途中、既に真っ赤な炎に包まれた二機のMSの内、一つがが爆発したのが見えた為、もしかしたらカールは死んでいる可能性もあると考えたが、もう後戻りは出来ない。

 彼女は、可能性の方にかけて無茶を通す事にした。

 降下速度がどうとか、角度がどうとかマニュアルにはあった気がしたが、そんなのはお構いなしだ。

 途端に地球の重力に掴まった事で警報が鳴り響く。

 機体がガタガタと激しく振動し、操縦さえ困難にさせたが、それでもどうにか体制を立て直しつつ機体を操ってみせる。

「ゼーラス、私に力を貸して!」

 気を吐くと同時に、ミュリアムは更に無茶な速度でカール機らしきMSに追いすがった。

 

 

 その様子をグスターブはモニターで見ていた。

 二機のMSらしき物が、地球の大気圏に突入して赤い火の筋を引いている。

 どれがどれかは分からず、更にはカールが生きているかは、今の状況では知る事さえできない。

 

『あの二人なら、きっと大丈夫だ』

 グスターブの心境を察してか、既にジェミニボックスに共に回収されたグルードから接触通信が送られてくる。

 だがグスターブにも、それは気休めに過ぎない事が分かっていた。あの状態では、二人共到底助からないだろう。

  だが、それでも、カールとミュリアムの無事を願わずにはいられなかった。

「ああ、分かっている」

 そう言って、グスターブは二筋の火が消えてもモニターを見続けていた。

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