ZガンダムAWS   作:ST郎

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29.遠く長く続く道のり3

 

 

 道中は凄く順調であった。

 推進剤に余裕があると言う安心感もあってか、カールは軽快にゼーラスを飛ばす。

 と言っても、アランの忠告を守る為、地上スレスレを推進力を頼りにホバー走行の様にしての話だ。

 ただ、それによって砂が派手に巻き上げられてもいるのに、今の所、懸念される様なMSや航空機と言った物の接近は見られない。

 これなら直ぐに目的地にも着くなと思っていた正にその時だった。前方に砂塵を上げて近づく物体を発見する。

 

「何だ?」

 センサー類を操作しつつ、モニターの方も最大望遠で確認を試みるが、巻き上げられた砂と熱せられた空気による陽炎によって、距離が離れていた事もあって確認できない。

「ミュリアム、これって不味いんじゃ…」

 そう言って急ごしらえに備え付けられたシートに座る彼女を振り返ったが、何か真剣な顔で自分用に展開していたモニターを食い入る様に見入るだけで、返事をしなかった。

 しかし、ポツリと呟く。

「ドム…?」

 その言葉通りに、近づくに連れてその姿がハッキリしてくると、それはドム…の様な何かだった。

 ベースは確かにドムであったのだが、両腕は大きく湾曲したスパイクを持つ部品が付いている。イドに教え込まれたMSの中に、確かグフと言うMSがあったが、それの物と酷似していた。

 それが右にバズーカを構え、背部にはヒートソードを備えている。胸部にはペイントでもしたのか、大きな目が描かれていた。

 

「オーガ…?」

 思わずカールが呟くと、ミュリアムも反応して言葉を漏らす。

「もしかして、ライアック?」

 ある程度まで近づいてきたその奇妙なドムは、カール達の前に立ちはだかる様にして停止する。

 意図が分からず、カールも機体を停止させた。

「ライアックさん? どうしたんですか。 こんな所で…」

 外部スピーカーをONにし、相手に呼びかけてみる。もしかしたら、見送り…或いは護衛に来てくれたのかとカールは淡い期待を込めて喋りかける。

『俺と、勝負しろ。 ガンダム!』

 それだけを言い放つと、彼はバズーカを構えて問答無用で撃ってきた。

 

 

「止めて下さい、ライアックさん。 俺達です。 カールとミュリアムですよ。 忘れたんですか!」

 相手の攻撃を回避しつつも、カールは必死に呼びかけた。

 逃げると言う手もあったが、相手は追いかけて来る勢いの為、それも簡単にはできない。

『うるさい、俺と戦え。 俺は、この時を待っていたんだ。 ガンダム、お前を倒して、俺は仲間の所に帰る!』

「無茶苦茶だ。 何でコッチが…」

「そう…これが、アラン達の狙いだったのね」

「え!?」

 ミュリアムの言葉にカールは驚いた。いや、ある程度、それで全てが繋がったのを理解出来もしたのだが、簡単には信じられないと言う思いもあって聞き返す。

 

「最初からおかしいと思ってた。 こうも準備万端に何もかも面倒見てくれるなんて。 全て、この為のお膳立てだったのよ」

「!! そうか、だから推進剤を・・・ビームライフルも最初に持っていったのか!」

 今になってカールは悔しがる。

 だが、どうすれば良いのか。本当に戦ってしまって良いのか。カールは悩んだが、それをミュリアムがあっさり結論づける。

「カール、戦って。 倒して」

「え? でも…」

「彼はジオンの兵士よ。 この先もずっと…ずっと執念深く戦うわ。 だから、ここで終わりにして上げて」

 そう言ったミュリアムだったが、その言葉の中には自分へ当てはまる部分もあって唇を噛み締めた。

 

「終わりにするって、良いのか。 だってライアックは…」

「戦わないと、私達が死ぬわ。 そんなの、嫌でしょう?」

 ミュリアムは体ごとコチラに向けてカールを見つめる。それに対し、カールは目配せだけして、分かったと答えた。

 

 

 2機のMSが砂を巻き上げて激しく蛇行し、位置を入れ替えて相手に対して優位な位置を取ろうと動き回る。

 先手を取るのは常にドムの方であり、バズーカが火を吹いてゼーラスを狙い撃つ。

 しかし、それをカールは軽快にかわしてみせた。

 相手は確かに速いし火器類も持っていたが、動きが単調過ぎて避ける事自体は簡単だったのだ。

 ただし、近づくとなると難しいのも確かだった。

 遠距離からはバズーカが、中距離では胸部から威力を伴ったビームらしき物が放たれる。

 ドムには確か無い装備なので、ライアックが独自に施した物だろう。

 最初はバズーカの弾切れを狙って懐に入るつもりだったのだが、どうやら予備弾倉もかなり携行しているらしく、それも難しい事が分かる。

 

「どうすれば…」

 コッチはビームサーベルとバルカンくらいしか武器は無い。

 仕留めるならビームサーベルによる接近戦しか無いのだが、相手はそれを分かっていて容易に近付けさせない様にしていた。何より、カールの中には未だにライアックを殺したくないと言う思いもある。

 と、ミュリアムが叫んだ。

「カール、上に飛びなさい!」

 それに素早く反応してカールは推進機を吹かす。アランの警告がちらりと頭に過ぎったが、今はそれどころじゃない。

 直後、ライアック機から発射されたらしいワイヤーの様な物が下を通過する。グフ系の機体が装備するヒートロッドとか、その様な類だろう。

 だが、今まで見せたことのない縦の動きは好機を生む事なった。

 

 ライアックは尚もバズーカを構え直して撃ってきたが、それをカールは機体を捻ってかわすと、そのまま落下する重力と推進機の速度を活かして詰め寄る。

 しかも、バズーカを持つ右側から突進した為に、必然的に中距離用のビームからも死角となっていた。

 ビームサーベルで切り込むと、バズーカを持つ右腕を肩から切り落とす。

 尚もライアックはヒートサーベルを掴んで反撃を試みようとしたが、それよりも早くカールが大腿部から足を切り落としてドムを転倒させる。更にヒートサーベルを構えた左腕さえも、手首付近から切り落として完全に戦闘力を奪ってやった。

 言っては悪いが、カールからしたらライアックはパイロットとしては格下だった。何せ、カールはミュリアムを始めとした連中に鍛え上げられた上に、実戦を経験してもいたのと、MSの性能もあって手加減する余裕があったのだ。

 また、戦っていて分かった事だが、ライアックは明らかにMSによる実戦慣れはしていない様であった。

 

「…」

 沈黙した相手をミュリアムは悲しそうに見ている。その横顔を見て、カールは彼女が抱えている闇に少しだけ触れた様な気がした。

 彼女もまた、戦場で何かを探しているのかも知れない。ただし、それに他人が土足で踏み入る事も許されないのだろう。

 すると、コクピットからライアックが這い出てきて、銃を撃ち込んで叫び始める。

 

「かかってこい、ガンダム! 俺は、まだ生きているぞ。 どうした、殺してみろ!」

 その姿にミュリアムは俯いたが、カールに無言で立ち去る事を要求したので、それに従ってゼーラスを発進させるのだった。

 

 

「やれやれ。 最後まで世話の焼ける」

 カール達が戦っていた場所からそう遠くない丘に車を止め、その傍らに立って覗き込んでいた双眼鏡を外すと、アラン・ウィリスは呟いた。

 やがて、昨日から弄るだけだった葉巻に火を付けて一服すると、無線機を手にして連絡を入れる。

 嵐が近づいている影響なのか、無線には雑音が混じる。しかし、アランは慣れているのか、少し機械を弄って調整すると何事も無く喋りだした。

 

「俺だ。 例の地点に回収班を寄越せ。 後、客人が予定地に到着するから、くれぐれも失礼の無い様に連絡を入れろ。 ああ、客人に何かあったら、サクルの名にかけて容赦はしないとも伝えておけ」

 通信を切ると、彼は更に数回葉巻を吸ってから、車に持たれかかって空を仰ぐ。

「あのパイロット、カールとか言ったか。 腕は良いが、とんだ甘ちゃんだな」

 アランは誰に言っているつもりなのか、空に向けて一人呟く。

 

「ありがとうよ、俺の友人の命を助けてくれて」

 そう言った彼の足元には数滴の水が落ちる。

 珍しく、その日は砂漠に雨が降り注いだ。

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