道中は凄く順調であった。
推進剤に余裕があると言う安心感もあってか、カールは軽快にゼーラスを飛ばす。
と言っても、アランの忠告を守る為、地上スレスレを推進力を頼りにホバー走行の様にしての話だ。
ただ、それによって砂が派手に巻き上げられてもいるのに、今の所、懸念される様なMSや航空機と言った物の接近は見られない。
これなら直ぐに目的地にも着くなと思っていた正にその時だった。前方に砂塵を上げて近づく物体を発見する。
「何だ?」
センサー類を操作しつつ、モニターの方も最大望遠で確認を試みるが、巻き上げられた砂と熱せられた空気による陽炎によって、距離が離れていた事もあって確認できない。
「ミュリアム、これって不味いんじゃ…」
そう言って急ごしらえに備え付けられたシートに座る彼女を振り返ったが、何か真剣な顔で自分用に展開していたモニターを食い入る様に見入るだけで、返事をしなかった。
しかし、ポツリと呟く。
「ドム…?」
その言葉通りに、近づくに連れてその姿がハッキリしてくると、それはドム…の様な何かだった。
ベースは確かにドムであったのだが、両腕は大きく湾曲したスパイクを持つ部品が付いている。イドに教え込まれたMSの中に、確かグフと言うMSがあったが、それの物と酷似していた。
それが右にバズーカを構え、背部にはヒートソードを備えている。胸部にはペイントでもしたのか、大きな目が描かれていた。
「オーガ…?」
思わずカールが呟くと、ミュリアムも反応して言葉を漏らす。
「もしかして、ライアック?」
ある程度まで近づいてきたその奇妙なドムは、カール達の前に立ちはだかる様にして停止する。
意図が分からず、カールも機体を停止させた。
「ライアックさん? どうしたんですか。 こんな所で…」
外部スピーカーをONにし、相手に呼びかけてみる。もしかしたら、見送り…或いは護衛に来てくれたのかとカールは淡い期待を込めて喋りかける。
『俺と、勝負しろ。 ガンダム!』
それだけを言い放つと、彼はバズーカを構えて問答無用で撃ってきた。
「止めて下さい、ライアックさん。 俺達です。 カールとミュリアムですよ。 忘れたんですか!」
相手の攻撃を回避しつつも、カールは必死に呼びかけた。
逃げると言う手もあったが、相手は追いかけて来る勢いの為、それも簡単にはできない。
『うるさい、俺と戦え。 俺は、この時を待っていたんだ。 ガンダム、お前を倒して、俺は仲間の所に帰る!』
「無茶苦茶だ。 何でコッチが…」
「そう…これが、アラン達の狙いだったのね」
「え!?」
ミュリアムの言葉にカールは驚いた。いや、ある程度、それで全てが繋がったのを理解出来もしたのだが、簡単には信じられないと言う思いもあって聞き返す。
「最初からおかしいと思ってた。 こうも準備万端に何もかも面倒見てくれるなんて。 全て、この為のお膳立てだったのよ」
「!! そうか、だから推進剤を・・・ビームライフルも最初に持っていったのか!」
今になってカールは悔しがる。
だが、どうすれば良いのか。本当に戦ってしまって良いのか。カールは悩んだが、それをミュリアムがあっさり結論づける。
「カール、戦って。 倒して」
「え? でも…」
「彼はジオンの兵士よ。 この先もずっと…ずっと執念深く戦うわ。 だから、ここで終わりにして上げて」
そう言ったミュリアムだったが、その言葉の中には自分へ当てはまる部分もあって唇を噛み締めた。
「終わりにするって、良いのか。 だってライアックは…」
「戦わないと、私達が死ぬわ。 そんなの、嫌でしょう?」
ミュリアムは体ごとコチラに向けてカールを見つめる。それに対し、カールは目配せだけして、分かったと答えた。
2機のMSが砂を巻き上げて激しく蛇行し、位置を入れ替えて相手に対して優位な位置を取ろうと動き回る。
先手を取るのは常にドムの方であり、バズーカが火を吹いてゼーラスを狙い撃つ。
しかし、それをカールは軽快にかわしてみせた。
相手は確かに速いし火器類も持っていたが、動きが単調過ぎて避ける事自体は簡単だったのだ。
ただし、近づくとなると難しいのも確かだった。
遠距離からはバズーカが、中距離では胸部から威力を伴ったビームらしき物が放たれる。
ドムには確か無い装備なので、ライアックが独自に施した物だろう。
最初はバズーカの弾切れを狙って懐に入るつもりだったのだが、どうやら予備弾倉もかなり携行しているらしく、それも難しい事が分かる。
「どうすれば…」
コッチはビームサーベルとバルカンくらいしか武器は無い。
仕留めるならビームサーベルによる接近戦しか無いのだが、相手はそれを分かっていて容易に近付けさせない様にしていた。何より、カールの中には未だにライアックを殺したくないと言う思いもある。
と、ミュリアムが叫んだ。
「カール、上に飛びなさい!」
それに素早く反応してカールは推進機を吹かす。アランの警告がちらりと頭に過ぎったが、今はそれどころじゃない。
直後、ライアック機から発射されたらしいワイヤーの様な物が下を通過する。グフ系の機体が装備するヒートロッドとか、その様な類だろう。
だが、今まで見せたことのない縦の動きは好機を生む事なった。
ライアックは尚もバズーカを構え直して撃ってきたが、それをカールは機体を捻ってかわすと、そのまま落下する重力と推進機の速度を活かして詰め寄る。
しかも、バズーカを持つ右側から突進した為に、必然的に中距離用のビームからも死角となっていた。
ビームサーベルで切り込むと、バズーカを持つ右腕を肩から切り落とす。
尚もライアックはヒートサーベルを掴んで反撃を試みようとしたが、それよりも早くカールが大腿部から足を切り落としてドムを転倒させる。更にヒートサーベルを構えた左腕さえも、手首付近から切り落として完全に戦闘力を奪ってやった。
言っては悪いが、カールからしたらライアックはパイロットとしては格下だった。何せ、カールはミュリアムを始めとした連中に鍛え上げられた上に、実戦を経験してもいたのと、MSの性能もあって手加減する余裕があったのだ。
また、戦っていて分かった事だが、ライアックは明らかにMSによる実戦慣れはしていない様であった。
「…」
沈黙した相手をミュリアムは悲しそうに見ている。その横顔を見て、カールは彼女が抱えている闇に少しだけ触れた様な気がした。
彼女もまた、戦場で何かを探しているのかも知れない。ただし、それに他人が土足で踏み入る事も許されないのだろう。
すると、コクピットからライアックが這い出てきて、銃を撃ち込んで叫び始める。
「かかってこい、ガンダム! 俺は、まだ生きているぞ。 どうした、殺してみろ!」
その姿にミュリアムは俯いたが、カールに無言で立ち去る事を要求したので、それに従ってゼーラスを発進させるのだった。
「やれやれ。 最後まで世話の焼ける」
カール達が戦っていた場所からそう遠くない丘に車を止め、その傍らに立って覗き込んでいた双眼鏡を外すと、アラン・ウィリスは呟いた。
やがて、昨日から弄るだけだった葉巻に火を付けて一服すると、無線機を手にして連絡を入れる。
嵐が近づいている影響なのか、無線には雑音が混じる。しかし、アランは慣れているのか、少し機械を弄って調整すると何事も無く喋りだした。
「俺だ。 例の地点に回収班を寄越せ。 後、客人が予定地に到着するから、くれぐれも失礼の無い様に連絡を入れろ。 ああ、客人に何かあったら、サクルの名にかけて容赦はしないとも伝えておけ」
通信を切ると、彼は更に数回葉巻を吸ってから、車に持たれかかって空を仰ぐ。
「あのパイロット、カールとか言ったか。 腕は良いが、とんだ甘ちゃんだな」
アランは誰に言っているつもりなのか、空に向けて一人呟く。
「ありがとうよ、俺の友人の命を助けてくれて」
そう言った彼の足元には数滴の水が落ちる。
珍しく、その日は砂漠に雨が降り注いだ。