ZガンダムAWS   作:ST郎

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7.訓練

「出撃する。 行くぞ、ドルバ、カール、遅れるなよ。 管制」

『こちら管制、進路良し。 発進を許可する』

「ゼーラス。 グスターブ・バレン、出るぞ」

『同じく、ゼーラス。 ドルバ・ノッシュレー、出ます』

 開放型甲板にウェーブライダー形態で待機していたゼーラスが、上下の推進機を細かく噴射して艦の外側、ほぼ真横へと移動すると、推力を全開にしてあっという間に遠ざかって行く。

 

 それを横目にカールも発進する。

「ゼーラス・ヤークト。 カール・ヒノ。 行きます」

 下面の推進装置を吹かせて甲板から機体を浮かせると、そのままスロットルを全開にして加速する。

 

 新米扱いのカールは、特別に、そのまま真っすぐ発進する事が許されていた。それを行う為に、わざわざ先の二機は横にズレて進路を空けてくれたのだ。

 同じゼーラスでも、機動力は、このJ型改めヤークトタイプとされるカールの乗機の方が上だ。

 先行していた二機に瞬く間に追いつくと、決められた編隊位置へと付く。

 それを見てグスターブは目を細めた。

 

 カールへの周りの評価は、本人がどう思っているにしろ、良い方向に上がっていた。実際、MSの腕前はメキメキと上がり、恐ろしいほどの操縦センスを見せつけている。

 

 この編隊を組むのだってそうだ。

 正規の訓練を受けた兵士でさえ、相当な訓練を積まなければ、ここまで見事な編隊行動はできない。

 カールは、それを意図も簡単にやってのけた。

 MSの性能と言うのを加味したとしても、ある意味でこれは異常とも言えるだろう。一つの仮説も囁かれてはいたが、確信はない。

 

 ただ、操縦の上手さを褒めても本人はピンときていないのか、或いはその前の経験からか、複雑そうな表情を返してくるだけだ。

 まあ、そうなる理由も分かる。恐らく、言葉通りに素直に受け取っていないのだろう。少々、いじめ過ぎたかも知れない。

 だとしたら、そろそろ自分たちが持っていた誤解を話し、謝る頃合いだろう。

 グスターブはゼーラスを急機動させたが、やはり、カールは楽々と付いてきた。

 

 補給船に乗れなかった日から、更に一ヶ月が経とうとしていた。

 ジェミニボックスは良く分からない航路をフラフラと移動しており、カールにも何処に向かっているかは分からない。

 行き先を悟られない様にしているとの事だったが、それが余計に不安を煽る。

 

 一応、今回は監視活動が任務と言うのは聞いてはいるが、予定より早く着た補給船と良い、何か起ころうとしている感じがしたのだ。

 さらには、カールも何時の間にかそこに組み込まれている為、他人事では無くなってきている。

 

 帰る事が叶わなくなった後、彼は必然的にゼーラスJ型の各種テストを担う事になり、しかも、MS部隊の一員として今後は動く様にと釘も刺された。

 戦闘宙域に出向く以上、万が一と言う事も含めて、戦力となれそうな人間を遊ばせておく余裕は無いというのがその説明でもある。

 パイロットスーツも支給され、各種の本格的な注意事項を徹底的に叩き込まれる事になったのだが、その教育係は元連邦軍少佐のイド・ノーガルが努めた為、カールは戦々恐々とした。

 

 だが、意外にも分かりやすく親切丁寧に教えてくれたので、そこら辺はすんなりクリアする事ができた。

 見た目と印象に反して、根は良い人なのかも知れない。

 もっとも、見え隠れする狂気の様な物があるので、彼は彼で、何かの闇を抱えても居るのだろう。

 

 とは言え、色んな意味でキツくなったのは、それからだ。

 ミーティングに訓練、訓練にミーティング。その合間を縫って、ゼーラスの調整とテスト。更にはデータの整理と報告用テキストのまとめなど。

 

 他所者扱いされていた頃は気が付かなかったが、ジェミニボックスは傭兵の流儀で厳しい規則が設けられており、階級を是としない代わりに、皆がそれを守る様に鉄の掟が存在していた。

 ただ、本当にカールにとって辛かったのは、高度な操縦技術の訓練と、他のMSとの連携と言った物だ。

 

 前者は身体的な辛さがあり、後者は精神的な苦痛を伴う。

 カール的には、息も絶え絶えに食らいついていると言った感じだったのだが、意外にも、周りからの評価が高いことには戸惑った。

 煽て上げておいて、何かを企んでいるとしか思えなかったからだ。

 実際、カールはゼーラスJ型以外の操縦は及第点以下であり、MSの性能でようやく一人前に並べていると考えている。

 それなのに褒めちぎられる事が信じられなかったのだ。

 

『全機、MS形態。 カール、前に出すぎるなよ』

 予定宙域に到達した所で、グスターブからMSへと変形する様に指示が出される。

 まだ宙域はクリアな状態なのか、レーザー通信の感度も良い。

 ゼーラスはMSからウェーブライダーへの変形はかなり時間がかかるのだが、その逆は速い。と言っても他に比べる物が無いので、使える速さという意味での話だ。

 

 前方には大破した宇宙船の残骸が幾つも漂っていた。

 ここがどこの宙域かは分からないが、ジェミニボックスの連中に取っては馴染みの場所なのだろう。訓練場所に利用しているという時点でも、それが分かる。

 残骸を観察してみると、戦艦やシャトルなどが混在していた。

 

 隊員たちの話によると、ここは名もなき戦場なのだそうだ。ただし、本当に戦闘が行われたかは分からないと言う。

 残骸は単に漂ってきただけの可能性もあるし、本当に戦闘が行われた可能性もある。

 何れにしろ、一年戦争から引きずっている混乱は確認できない様な事例も含めて、あちこちで戦闘を引き起こしているらしく、全てを網羅するのは不可能に近いと言う事だ。

 漂っている残骸も長く漂っていたせいなのか、それとも激しい戦闘の結果か、所属を確認できる様な物は無い。

 ジャンク屋が盗んでいったと言う痕跡もある様だが、残念ながら、世間は忘れられた存在にまで目を向けられるほど余裕は無いらしい。

 

『ドルバ、右に付け。 カールはケツだ。 残骸に気をつけろ』

 グスターブの指示に従い、カールは逆噴射をかけて速度を落とし、二機の後ろに付く。

 この宙域には既に先行して到着した別のMSが隠れているはずだ。数は不明。

 ここに来た目的とは、模擬戦闘の訓練だった。

 シチュエーションとしては、航路の残骸に隠れている敵を、グスターブ隊が発見して排除すると言う物だ。

 

 相手側のMSにはミュリアムが加わっている。

 ミュリアムとは既に何回か対戦を行っているが、勝ち星で言えばカールが先行していた。

 と言っても、毎回ギリギリのラインで勝ちを拾えていると言う有様であり、MSの性能差が無ければカールの全敗だったろう。

 

 こうした面からゼーラス・ヤークトは、ミュリアムが乗るべきだとカールも進言したのだが、却下されている。

 理由として、代替の無い機体では、部隊全体としての見通しが立て難いからだとの事だった。

 確かに、ゼーラス・ヤークトは調整用の予備パーツはあったが、連続した作戦参加への対応や、二機目を維持するだけの余裕はない。

 致命的な損傷を負えば、そこまでだ。

 コレを当てにして部隊を編成すると、大きなマイナスとなるのだろう。

 カールが戦力として数えられているのは、あくまでもオマケ程度に過ぎず、様々な事情を鑑みても、ジェミニボックスにはそれだけ余裕が無いという現れでもある。

 

 それに異存はない。

 準軍人として扱われてはいるが、所詮カールなど素人に毛が生えた程度だ。

 実戦を経験してない以上、本番で使えるとは誰も思っていないのだろう。

 故に、常日頃から戦闘に巻き込まれたら、足を引っ張らないように全力で逃げろと言われている。

 それで囮くらいには使えるのだとか。

 参加させられている訓練にしても、ある意味で、それをイザと言う時に実行に移す予行演習として、やらされている様な物だと考えている。

 下手をしたら、ミュリアムを初めとした隊員達も本気を出していない可能性もあるからだ。

 

 実際、カールの訓練数が少ないのに対し、ミュリアムを始めとした連中の訓練数は多い。

 彼らが訓練から返ってくると大抵は酷く疲れているので、どれほど激しくやっているかが分かる。と言っても、彼らに言わせるとコレでも正規軍に比べると全然足りないと言う話らしい。

 この様な経緯から、カールは自分がお荷物になっているらしいと勝手に思い込んでもいた。

 それだけに時々褒められるのでさえも、嫌味なのか分からなくて困惑していたのだ。

 

『前方のでかいヤツに、三時方向から回り込むぞ。 警戒を怠るな』

 前に見える一際大きい残骸を前に、カール達は迂回を始める。太陽光を避け、出来る限り目立たない位置を取るためでもあった。

 各種の操作を行い、カールも索敵を行う。ゼーラス・ヤークトのセンサー類は、性能と言う点では、ジェミニボックスに配備されたMSの中では抜きん出ている。

 ミノフスキー粒子の影響も最小限に抑えてくれるし、OSとAIの高度な連携によって、不鮮明な情報も発見し、判別してくれた。

 しかし、機械である以上、限界はある。

 

 実際、模擬訓練をしていると、センサーに捉えられていない相手から不意打ちを食らうなんてのは、当たり前に起こった。

 それが何かはカールには分からなかったが、これが兵士と一般人の差でもあるのだろう。

 ところが、カールもそれに対抗できる術を持っている。

 最初のテスト起動以来、ゼーラス・ヤークトに乗ると現れる不思議な感覚がそれだ。

 全方位に感覚が研ぎ澄まされると言うか、相手の動きが分かると言う力により、カールは時に互角に、時に上回っても見せたのである。

 ただし、最初の内は制御の仕方がよく分からず、感覚は鋭くなったり鈍くなったりして、彼を苦しめたりもした。

 一応、マニュアル類などを見て、それらしき装置や扱い方が無いかと探してみたりしたが、そんな物はなかったので、カールは自分がおかしくなったのだとも思ったりしてみた。

 

 精神的な病気と言う可能性にも怯えた為、誰にも相談できなかった結果、最終的には慣れてしまって制御の仕方まで身につける様になる。

 お陰で、最近では感覚を絞ると言う方法により、無駄に神経を疲れさせないと言う芸当まで発揮できる様になっている。

 全方位から感覚を得ると言う方法に比べると、能力の点では劣ってしまう面もあるが、継続して使えるのはありがたい。

 

 因みに、他のMSにも乗せてもらった事があるが、こうした能力は発動しなかった。やはり、AE社の新装備に何かしらの仕掛けがあるのだろう。

 とは言え、この能力も万能と言う訳ではないし、それで飛び抜けた何かがあるかと聞かれても困るのも確かだ。

 制御する為には相当な集中力を要する上に、余計な情報が過多に入り込んで逆に混乱しそうになる事さえあった。

 何より、うっかりするとMSの操縦さえおぼつかなくなるのだ。

 カールが上手くやっているのは、ある意味でグスターブ達でさえも慣れて雑にやっている事を、バカ正直にやっているからかも知れなかった。

 

 即ち、基本中の基本を、彼は何時の間にか高レベルの水準で行っていたのだ。

 そうした面は当たり前にこなしていた連中に取っては、時に足元をすくう対抗手段ともなっていた。

 

 そのカールの能力に関してはジェミニボックスの何人かは薄々感づいている者も居たのだが、カール自身がそれと気が付かなかったのは、所詮は民間の人間には都市伝説以上に正しい情報が伝わっていないと言う証拠でもあろう。

 

「左下方、7時方向に注意」

 何かを感じ取ったカールが通信を送る。センサー類も操作してみるが、特に何も拾わない。

 勘違いの可能性もあったが、グスターブからは、気になる事があれば即座に報告しろと言われていたので、その通りにする。

『何も無い様だが?』

 そう答えたのは、ドルバだった。

 

 ドルバ・ノッシュレー。

 元ジオンの軍人で、最終的な階級は大尉とか中尉とからしいが、本人から語られた事はないそうで、本当の所は分からない。

 一つ言える事は、優秀なMS乗りという事だ。

 彼は一年戦争の時にガンダムらしきMSと戦った事があるらしく、そして部隊ごと全滅させられたという。

 軍を止めたのは、それが理由なのだろうか。

 

 と、グスターブから鋭い声が飛ぶ。

『散開!』

 同時に模擬のビーム光線が撃ち込まれてきた。案の定、射点はカールが注意した場所からだった。

 訓練では実弾と区別する為に模擬弾のビームは色が変えられている。

 カール達の隊は緑色が指定され、相手側は白だ。

 撃った相手のMSは残骸を蹴飛ばして姿をくらました為、その姿を見る事は出来なかった。

 この動きと勘の良さは、ミュリアムかも知れない。

 少なくともジム2では無いだろう。

 訓練では事前に相手の戦力は知らされていない為、その辺も考える必要がある。

 

「ゼーラスを囮に……て事は」

 カールは機体を急加速させると、現在の位置関係からした戦場の真上へと出る。

 普通、この様な行動は的になるだけであるのだが、事前に訓練では臨機応変に試せることはやれと言われている。もし間違いであったなら、後でそこをミーティングで指摘されるだけだ。

 

 すると、残骸の一つに隠れるジム2を発見した。

 直後にカールは機体を加速して降下を行い、ビームを撃ち込む。相手はシールドを掲げた為、撃墜判定にはならない。しかも反撃してきたので、緑と白の模擬弾が交差した。

 それをカールは巧みに交わしつつ、ビームを続け様に放って、相手をその場に釘付けにする。

 そして、そのカールを狙って別の所からビームが放たれたが、これをカールは急機動でかわした。

 

「今のをかわすのかよ」

 望遠用のモニターから目を離し、模擬用のビーム光が宇宙に吸い込まれて消えるのを見ながら、グルードは笑った。

 彼はロングビームライフルを装備したジム2に乗っている。

 

 グルディ・バッジ。彼は元連邦のMS乗りだ。

 長距離射撃を得意とし、部隊を後方から支援する強力な味方だったが、それでいて部隊指揮や近接戦闘まで卒なくこなす。

 その実力を誇る事もなく、前にも出ない彼は、ジェミニボックスの静かなエースとも呼ばれて頼りにされていた。

 その事にグルードは内心では不本意だとも思っている。

 自分以上のMS乗り等、この世界にはゴロゴロしている事を身を持って知っていたからだ。

 

 ジェミニボックスの人員は確かに優秀だが、MSと言う物は、それだけで強さが決まらない厄介さがある。

 何でも屋は特化したパイロットやMSに簡単に狩られる事もあるし、その逆に高度な万能型は戦場を支配する事もあった。

 最終的に連邦軍は物量で圧倒したと識者は言うが、彼に言わせれば、ジムと言うMSの優秀さと、パイロットの練度あってこその結果だと考えている。

 数で事足りるのであれば、ボールでも大量生産すれば良い。

 そうならないのは、やはりMSと言う兵器が一筋縄では測れない存在だからだ。

 

 だからこそ、彼は長距離射撃と言う能力を磨いた。

 パイロットと言う個が群雄割拠する今の世の中で、少しでも自分と味方の生存率を上げる方法が、一芸を磨く事だと考えてもいたからだ。

 しかし、今しがたターゲットとなった相手は、それを否定してきた。

 何度も見た光景だ。

 当たると思った相手がかわし、かわしたと思った攻撃が当たる。

 もしかしたら、人は大きな外郭を着込む事により、神へと近づくのかも知れない。

 そんな迷信じみた事の間で、グルードは常に揺れ続けている。

 

「上手いぞ、カール。 射点は特定した。ここは任せる。 ドルバ、お前はカールの補佐に入れ。 俺は、グルードをやる」

 グスターブが呼びかけると、二人は短く返事を返す。恐らく、ミノフスキー粒子やそれ以外のゴミが濃くなったのだろう。雑音が入ったり、声が途切れて届く。

 カールとドルバは、訓練された通りにキビキビと動いた。既に隙きを見せたジム2は、グスターブによって撃破判定を食らわせてある。

 残りは恐らく四機だろう。ジム2を囮同然に配置した感じから、そう判断したが、明確な根拠はない。

 しかし、長年の勘と培われた経験から、相手の動きを分析して導き出す。

 今のところ、どちらが有利とも言えないが、相手のカードを一つは潰せたはずだ。

 それに、グルードをグスターブが抑える事により、こっちの二人は思いっきり動ける様にもなる。

 恐らく、この宙域における主力は、ゼーラスに乗ったミュリアムだろうが、カールとドルバが連携すれば、十分に勝ち目はあるはずだ。

 

 ゼーラスを加速させながら、グスターブは素早く前方の宙域を見回した後、勘で左側付近にビームを撃ち込む。

 すると、僅かにズレた所から直ぐに反撃が返ってきた。

(そっちか!)

 一瞬だけ加速レバーに力を込めようとして、直ぐに止める。罠だ。

 頭で考えるよりも早く体が反応して急制動をかけると、全速力で逆進をかける。

 直後、彼が進もうとしていた地点とその周辺に、ビームの帯が通過していく。

(相変わらず、恐ろしい奴だ)

 

 何度も訓練して来た為に今でこそ対応可能となっているが、初期の頃には距離取ったグルードを捉えるのは至難の技だった。

 そして、今でも決して楽な作業ではない。

 ダミーバルーンを展開しながら、デタラメにビームを放ちつつ、グスターブは一際大きく空洞となっている残骸の中に隠れた。

 グルードの弱点、それは距離が離れている為、隠れる事ができれば一応のイニシアチブをこちらが握れるという事だった。

 

『カール、お前は左から回り込め。 俺は、右から行く』

 ドルバが指示を出し、カールもそれに従う。

 加速の良いカールが前に出るが、これは織り込み済みだ。

 それによってドルバが後方を警戒し、カールが前の奴を追う。

 

 実際、ドルバのMSが指でも合図を送っていたので、それで正解なのだ。

 左右から残骸をパスした直後、留まっていたゼーラスが見えたが、コチラを確認すると即座にダミーバルーンを射出し、機体を反転させて離脱する。

 やはり、この動きの良さはミュリアムだ。

 一気に挟み込もうとした時、残骸に隠れていたジム2が二機、ドルバに襲いかかった。

「ドルバさん!」

 既にレーザー通信は使えない状態であった為、叫んでも向こうには届かない。

 ただし、これで、相手の戦力が合計で4機である事は判明した。

 ジェミニボックスには、ジム2が4機、ゼーラスが5機搭載されている。

 その内、ゼーラス1機はオーバーホール中なので、これ以上の機数は出しようがない。

 数が分かったので多少気分的には余裕が生まれたが、こちらが不利なのに変わりはない。

 

 単純な性能差ならゼーラスの方が上なのだが、ジム2に乗り込んでいる連中も腕は良い。

 実際、ドルバは二機に翻弄されていた。

 援護に入りたかったが、前方のミュリアムはそれを狙っている可能性もある。ならば、急いで倒してから駆けつけた方が懸命だ。そして、こうなる展開を読んだ配置だろうと、カールはチラッと頭の隅で考える。

 機体を全力で加速させたカールは、狙いを定めながらミュリアムを追う。

 と、相手はコンパクトに鋭く機体を回転させた。

 慌ててビームライフルを構えるカールだったが、向こうの方が僅かに速かった。

 ミュリアム機から放たれるビームにどうにか対応した…と言うよりは、たまたま構えた自機のビームライフルが偶然にも射線に入り、機体への直撃を避ける事に成功する。

 しかし、ビームライフルには撃破判定が出され、使用不能となってしまった。

 それでも構わずカールは機体を加速させ、ビームサーベルで切り込む。

 相手も左手でビームサーベルを抜いて受け止めた。訓練色ではないビーム光がぶつかり合う。

 

 ビームサーベルも訓練時にはそれぞれに定められた色が出る様になっているが、それ同士がぶつかり合う場合は、それは解除される。そうしなければ、すり抜けてしまうからだ。

 機体に命中する瞬間には切り替わると言うが、そこは機械を信用するしかない。無茶をすると、どちらにも安全装置が働く様になっている。

 

 カールは機体を更に加速させて、強引にパワーで押し込もうとした。

 それに対し、相手は至近距離からビームライフルを撃ち、コチラの体制を崩す。

 僅かなバランスの狂いを相手は見逃さず、機体を上手く制御すると、カールの左側へと脱出、直様ビームライフルを撃ち込んできた。

(距離を取られたら負ける)

 カールは盾を構えながら細かく機体を振り、攻撃をどうにか防いで相手の懐に飛び込んだ。

 

 残骸に隠れたグスターブは、機体の外に出てゼーラスをウェーブライダー形態へと戻していた。

 ゼーラスがウェーブライダー形態へ戻る為には、機体の凹凸に気をつけて背部フライングアーマーを慎重に操作する必要がある。

 ある程度フライングアーマーを前に回した後は、ちょっとずつ動かしては、様子を見ながら作業しなければならない。

 

 ゼーラスのフライングアーマーは小型のシャトルを逆さまに背負っている様な物であり、機首から少し離れた位置にヒンジがあって、そこから貝の様に開くようになっていた。

 頭部付近まで回転させたら、そのヒンジから開いてMS本体を挟み込む様にするが、これだけでは機体全体を覆えないため、更に内包されているパーツがスライドし、折りたたまれている小さなウィング状のパーツが左右へと展開してから機体下面の全体をカバーする。

 貝状に開くパーツでMSを挟むと言うのが、ゼーラスの変形の仕方だが、ここからが厄介であり、MS本体の熱や冷却によって微妙に歪みが出ているのに合わせ、調整する必要があるのだ。

 センサー類も付いているらしいのだが感度はあまり良く無いため、マニュアルではウェーブライダーにする場合、必ず目視確認を行う様にと厳重な注意書きがされている。

 スライドで出てくるパーツは何も機体下面を覆うだけが役割ではなく、ゼーラスのメイン推進装置、テール・バーニアスタビライザーを所定の位置へと収める役目も持っており、これによってMSの股の間に同パーツが来る事で、そのままウェーブライダー形態でも推進装置として利用できた。

 また、フライングアーマーに設けられている本来なら上方向への姿勢制御装置類も後方にまとめられる為、瞬間的にではあるが加速力は必然的に上がる。

 ヤークトタイプでは更に両足がコンパクトにまとまって、それも推進機として利用できる為、単純な速力ではノーマルよりも更に高いらしい。

 ただ、ウェーブライダー形態が速いとされるのは、単純な加速力だけの話ではないだろう。

 頑丈なフライングアーマーと言う盾を前面に出す為、デブリや敵の攻撃に際しても、ある程度無視して良いと言う安心感があるからだ。

 ウェーブライダーに戻す作業は平均で2分程度。上手く行けば1分でも出来ると言うが、ガタがあると安全装置が働いて強制的に変形が解除される為、慎重にやる必要があった。

 

 戦場でこれをやるのは自殺行為だが、グスターブは、この訓練場では何時かこれをやろうとずっと考えてもいたのだ。

 やろうと決断した一つの理由には、カールと言う新たな可能性を得たからでもある。

 それに、模擬弾では残骸を撃つことはできない。それも計算に入れての作戦であった。

 こうした大胆な作戦をワザワザ取る理由としては、単純にグルードの方がパイロットとしての資質と腕の両方で上だからである。

 実際、グルードはエース級の一人としてかつては数えられていたらしい。

 何より勘違いしては行けないのは、グスターブは確かに経験豊富なMSパイロットであり兵士ではあったが、腕前としては平均的でしかないのだ。

 MS戦とは、ある意味でパイロットの腕がそのまま戦いを左右する部分もあるので、格下が格上に勝利する為には一工夫も二工夫も凝らす必要があるのだった。

 

 グルードは、各種の装置を駆使してグスターブを探していた。

 最初に接触した時の画像も引っ張り出し、ビームの方向、ダミーバルーンの射出も解析して、大体の位置を絞り込んで行く。

 遠距離攻撃を切り札とした以上、相手を見失うと言うデメリットにも、対処方法を確立する努力はしてきたつもりだ。

 しかし、戦いにおいては、幾ら研鑽を積もうと足りないとも感じている。

 実際に、最終的には機械よりもグルードの勘と経験が、最大の判断基準ともなるからだ。

(そこか?)

 そうした手法を用いて、グルードは、一つの残骸に注目する。

 何かの筒状の残骸…恐らくだが、燃料運搬用のタンクだろう。サラミス級よりも全長が長く、隠れる場所にはうってつけだ。

 実戦ならビームを撃ち込んで様子を見る事もできるかも知れないが、大事な訓練場所を派手に壊す事はできない。

 訓練弾は破壊力を持たないので、ただ撃つには問題ないが、プログラムが働かない残骸相手には意味がない。 

 どの道、これが本番だとして、グスターブ相手に混戦を招く手段は悪手だ。

 単に、こちらの位置を教えるだけで、反撃を受けかねない。

 だとしたら、両側の何れかの開いた部分から入る必要があるが、それは完全に相手の思惑に乗ってしまう行為だ。

 無視したら無視したで、背後から狙われる可能性もある。

 

(相変わらず上手いな)

 グルードは苦笑した。恐らく、グスターブが思っている以上にグルードは彼の事を評価していた。

 元ジオン兵と言うグスターブに、特に思うところはない。

 ジェミニボックスに集まった人員の多くは、ある意味で似たような人間の集まりであり、それぞれが腕が立って戦闘経験が豊富という代償と引き換えに、何かしらの心の傷を負っていた。

 

 仲間と言う意識は今も微妙だが、MS乗り、兵士と言う点では見ればグスターブは本当に尊敬できる相手であった。

 特に戦局を大きく捉えて動くと言う点においては、ジェミニボックスでは一番だろう。だからこそ、彼が隊長を任されてもいるのだ。

 MSパイロットとしての腕は多少は自分の方が上かも知れなかったが、戦争とは大局を見て判断できる者が絶対的な有利を得る事になる。

 局地的な勝利を幾ら重ねようと、最終的に負けを掴まされては何も意味がないのだ。

 もしかしたらだが、グスターブがジオンを抜けたのは、ある時点で大勢を確信したからなのかも知れない。

 もっとも、聞き及んだ噂によれば、彼はある作戦で多くの部下を失った事で責任を感じて軍を辞めたとも聞いている。

 ただ、今もこうして戦っていると言う事は、それが全てでは無いのだろう。

 戦争に関わって途中でリタイアした者の中には、戦いの中に置いてきた物があって舞い戻る物が居る。

 

 それはグルードの事でもあったが、時にそれは戦いの中でしか自分を見いだせない、或いは能力の出し方が分からない悲しい者の言い訳でもあったのかも知れない。

 そうした様々なバックボーンがあるからこそ、この詰将棋の様な状況をグスターブは生み出せるのだろう。それは、彼が生き残る為に身に付けた能力の一つなのかも知れない。

 

 さて、どうしたものか。

 グルードが一つ気を抜いた瞬間だった。残骸の中央付近を突き破り、ウェーブライダー形態のゼーラスが突進してきた。

「変形してただと!?」

 完全に虚を突かれてしまい、グルードはウェーブライダーの突進を許してしまう。数発ビームを放ったのだが、命中した部分がフライングアーマーだった為か、攻撃は無効だと表示される。

 仕方無しに盾で受け止めたが、鋭い衝撃と共に機体は弾かれた。

 モニターには相手が再度変形する姿が映し出されるが、こちらも姿勢を制御するのに手一杯で、相手の隙きにつけ込めない。

 瞬間、モニターに警告表示が出て一瞬だけダウンし、再び表示される。

「バルカンか?」

 実弾兵器であるバルカンは訓練では実際に発射される事は無いが、システム的なやり取りによって、効果だけは拾われる。

 その為、攻撃の痕跡はなかったのに、モニターにはメインカメラがダメージを受けたと表示されていた。

 サブカメラに切り替わっている上に、この時代の全周囲モニターならば単純な視覚の確保なら問題にはならないが、これで精密な長距離射撃は不可能になる。

 

 懐に飛び込んだカールはビームサーベルを投げつけて牽制し、その隙きに更にもう一本のビームサーベルを抜いて、相手のビームライフルに攻撃判定を与えた。

 両機は、そのままビームサーベルの鍔迫り合いとなる。

『女の子を虐めるなんて、酷いよね?』

 接触した事で相手と通信が繋がる。やっぱりミュリアムだった。恐らく、カールの動揺を誘おうという魂胆なのだろう。

「そっちが虐めた回数と比べて下さいよ」

 言い返しながら、カールは必死に機体を操る。

 ミュリアムは微妙に機体をコントロールし、常に駆け引きを強いて来た。

 MSをここまで繊細に扱える事には、何時もながら驚かされる。

 その駆け引きにちょっとでも雑に対応すれば、瞬く間にいなされて隙きを作ってしまう。

 

 実は、ミュリアム相手に接近戦をするのは非常にリスクが高いのだ。

 カールは今までの戦闘で得たデータを自前の端末に打ち込み、それで作ったプログラムを走らせている。

 これがあるからこそ何とかミュリアムと互角に格闘戦ができていた。

 もちろん、相手の方が引き出しが多いので、長く続け過ぎると確実に負けてしまう。

 しかし、そこにこそ勝機があった。

 相手が攻撃に転じる時、そこには隙きも生まれるのだ。

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