訓練は突然中止となった。
ジェミニボックスから中止を知らせる信号弾が上がり、続けて全機帰還せよとの合図が出たからだ。
これにより予定していた訓練は全てキャンセルされ、カール達は母艦へと戻ることになる。
帰還後、グスターブは艦長たちに呼ばれたのか、呼びに来た者と一緒に直ちに行ってしまった。
残されたカール達は何も事情を聞かされないまま、モヤモヤとした気持ちを抱えてそれぞれの作業に移った。
「今回は、私の勝ちだったよね」
ゼーラス・ヤークトのチェックを、格納庫の床に座ってやっていたカールの傍らに来て、ミュリアムが言った。
腕を頭の後ろに組み足も胡座と言う、やはり器用なポーズで浮かんでいる。器用と言う意味は、何も姿勢の事だけを言っているのではない。無重力の中にあって、こちらを向いたままの状態を維持できている事も不思議だったからだ。普通なら、回転していてもおかしくはない。
結局、模擬戦での決着はつかなかった。
ジム2一機が撃破の判定を受けていたが、後はそれぞれに少なくないダメージを負い、これからどうなるかと言う所で中止になったからだ。
「かも知れませんね」
カールはそっけなく答えたが、それが気に入らなかったらしい。ミュリアムはカールの背後に回ると、両頬を引っ張る。
「ひゃ、ひゃめてくらひゃいひょ」
変な発音をしながらも、カールも両手の指で相手の腕を叩く。
暫くじゃれ合った後、ミュリアムはカールの背中に自分の背中をくっつける様にして座った。
「……ねえ、何で途中で終わったんだろうね?」
「さあ?」
「なんだかさ、今回、ヤバいんだよね」
その言葉に、カールは手を止めてミュリアムを振り返る。
彼女もコチラを見ていた。
浅黒い顔色をしているが、薄茶の瞳はとても透き通って綺麗だ。
ショートカットが少し伸び、女性らしさが感じられる様にもなっている。
彼女は年上のはずなのだが、仕草や対応だけを見ると、時折カールよりも年下では無いかと思うことがあった。
ただし、そこに彼女の傷の様な物が感じられもしたので、あえて指摘はしない。
「…っ」
カールは何かを言いかけたが、それよりも早く、メカニックに呼ばれてミュリアムは行ってしまった。
「船? 今頃何だ?」
艦長に呼ばれて来てみれば、補給船が接触してくると言う話を聞かされて、グスターブは眉間にシワを寄せる。
「作戦行動中だぞ」
尚も艦長のハッサスに問うてみたが、小幅に首を振るだけで、知らんと言った感じだ。そのハッサスも、ちょっと苛立っている感じがする。恐らく、こちらの位置が知れる事を向こうがしてきたのだろう。
「カール絡みかも知れん。 一応、MSの受け取りも要請されてはいるがな」
代わりに答えたのはイドだ。ただし、彼が主に指しているのは、ゼーラス・ヤークトと言うニュアンスが含まれていた。
今やジェミニボックスでは、カール、イコール、ゼーラス・ヤークトとセットの意味を持っていたのだが、イドまでそれを言うのは珍しかった。
イド・ノーガルは、導入初期において混乱を招いたゼーラスを嫌っており、形式番号の前半のみで呼ぶという雑な扱いをしていたので、ある意味で改善されつつあるとも言えるだろう。
「アナハイムだと? 出る前に断ったって聞いたが?」
監視任務を言い渡された直後、AE社からも連絡が来たらしいのだが、作戦の性質上、延期するか、問題があった時だけ改めて連絡すると言う事で話は付いたはずである。
もっとも、カールのお陰か結局調整は順調に行っており、コチラから招くと言う事もしていなかったはずだ。
「ともかく、既に近くにまで来ているらしいから、接触の準備をしてくれ。 航路を知っている時点で(任務と)無関係とは思えん」
イドが眼光鋭く言い放つ。
その時点では、グスターブはイドの眼光の鋭さを測りかねたが、ある意味で慣れてもいた為、軽く受け流すと「分かった」とだけ短く返した。
しかし、出て行こうとする直前になって、艦長が付け加えてくる。
「護衛にカールも連れて行け。 出来ることなら、追い出せ」
一見すると妙な言い回しだが、全ての判断を任せる意味だとグスターブは受け取った。そして、イドが鋭い目を向けて来た意味も。