第一話
「はぁ」
エレンの目覚めは憂鬱だった。
最近よく見る夢に悩まされているのだ。
夢の中の自分は男で立体機動装置を華麗に駆使し、巨人を何体も殺していた。
だが夢から覚めれば自分はか弱い女に戻っている。
どんどん大きくなってく胸と尻、低い身長、高い声。
どんなに洗面台の鏡を見つめても夢の中の自分とは重ならない。
鏡を見つめていると自分がだんだんと情けなくなってくる。
こんなことで本当に巨人達を駆逐できるのかそんな考えが頭をめぐり終いの果てには自分を卑下する言葉ばかり思いつく。
そんな自分にもう一度「はぁ」とため息がでた
「どうした鏡を見てため息をつくなんて鏡の中の自分に見惚れてるのか?」
急に聞こえてきたその言葉にエレンは驚き体をビクッと震わせた
「はぁなんだユミルか」
「人の顔を見るなりため息とはさすが自分の顔に見蕩れる奴は違うな」
「馬鹿、そんなことしていない」
「じゃあなんだ?この前の訓練のときに頭をぶつけたのがまだ効いてんのか?かなり勢いよく行ったんだろ?ありゃあ笑いもんだ
兵士になってすらいないのに負傷兵になったのはお前がこの世界で初だろうな」
正直エレンはユミルのことが苦手だ常にヘラヘラと笑い軽口を叩き人をイラつかせる。
だが、ユミルが本気を出せば成績上位10名に名を連ねるは楽なことだろう、だが彼女は本気を出さない
それは彼女のためなのだろう、彼女を成績上位10名にするためだが、その彼女はユミルの頭部を拳で軽く叩き母親のようにユミルを叱り付けている。
その様はなんだか微笑ましくもありなんだか笑えてくるものでもあった。
エレンがユミルに対してふつふつと湧いていた怒りが消えエレンの口からは「フフっ」と笑いがこぼれてしまった。
「てめぇ今笑ったな?」
「コラ!ユミル!今は私が喋ってるでしょ!」
「わかってるよ、クリスタ」
これ以上笑ったら後が怖いと思いつつ洗面所をあとにしようとするエレンを引き止める声がした
「エレン、ちゃんと顔を洗わなきゃダメ」
これまたエレンが苦手とする人物が現れた
「うるせぇなあちゃんと洗ったよ」
「嘘」
これもエレンがミカサを苦手とする要因の一つだ、ミカサはなぜだかエレンの嘘をよく見抜く。
ミカサはエレンの腕を強引に引っ張ると洗面所へ連れ戻し手で少量の水を救うとグイグイとエレンの顔に押し付け、ゴシゴシと洗った。
エレンがミカサを苦手とするもうひとつの要因が出た、この大胆で強引な性格、ミカサがエレンに接する態度は母親のようだった。
「自分でやれるって!」
「ダメ…エレンは手を抜く……次は口を開けて」
「だから!自分でできるって!」
「ダメ、エレンは歯磨きで手を抜き痛い思いをしたことがある…ので徹底的にやらないといけない」
彼女には過保護的な面もあり、過剰なまでにエレンに世話を焼く。
それをエレンは嫌い跳ね除けようとするが、その抵抗も虚しく結局はミカサに押しきられてしまう。
今もそうだ抵抗の末エレンが折れ、ミカサが念入りにエレンの歯を磨いている。
その姿を見てユミルは爆笑しクリスタは小刻みに体を震わせながら笑いを堪えている。
エレンは心の底から思った(あぁ、早起きしてよかった)と。
他人に歯を磨かれている姿は実に滑稽でおかしなものだ、エレン自身がこの場面に遭遇したのなら笑いを堪えきれないだろう。それを自分で分かってるからこそ心の底から思う。
(もう……やめてくれよ)
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*****
洗面所をあとにしたエレン達は食堂にいた。
当たり前のようにミサカが隣にいて当たり前のようにアルミンが隣にいる。
ミカサは黙々と食べアルミンは不気味で恐ろしいことを語っている。
いつもの何気ない日常だ。
今日も今日とて巨人を駆逐するための鍛錬にはげまなければならない。
だが、エレンには不安がある。
(本当に私は、巨人を駆逐せるのか?)
「はぁ」
また、エレンの口からため息がこぼれた
「エレン、ため息は幸せを逃がす」
「ごめん、ボクの話がつまらなかったかな」
「いや、そんなことねぇよもっと聞かせてくれ」
「そう?じゃあ…だからこのままいくと立体機動装置に使われる燃料は……」
最近の自分はおかしいとエレンは感じていた。
不安なことがあるとなぜかライナーに視線が行ってしまう。
そしてライナーと目が合いそうになると目をそらす。
こんなことの繰り返しだ
やはり最近の自分はおかしい…エレンは再びそう思った。
ライナーのことを考えると体の中心から暖かくなるような感じがする。
「……」
エレンの頬が赤くなっていく様子をミカサだけが静かに見ていた
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*****
ココは格闘訓練場
今日もまた金髪の大男が華奢な少女に投げられている。
「ぐはぁっ」
「よし!」
「全く大したもんだ女なのに俺を投げ飛ばすとはな」
「そうか?」
「あぁほんと…大したもんだよ…だがなんでたって俺ばっかり投げ飛ばす」
「ライナーは投げやすいんだよ」
「だからってバカスカ投げられるとこっちも大変だ」
対人格闘は唯一エレンが得意とする科目だ。
だからかいつも対人格闘訓練の時はいつも調子づいてしまう。
「よし、じゃあ次はライナーが襲ってくる番だ」
「次
2人がもう一度戦いの姿勢に入ると上から何かが降ってくる。
あれは鳥か?馬か?いや、ジャン・キルシュタインだ。
ジャンは「ぐええ!」と断末魔をあげ白目を向いていた。ジャンを投げ飛ばした張本人が顔を顰めて近寄ってくる。
「次…私がそいつを使いたいんだけど……」
「ちょっとまてよ、今私がライナーとやってるだろ…アニ」
「さっきから見てたけど……ライナーを投げ飛ばすだけで全く進歩してる様子がない
私の方がそいつを有効活用できる」
「有効活用ってどんなことだよ…」
「アンタには知る必要が無い…」
アニとエレンが睨み合っているなか、ライナーは何も出来ず座っていた。
「じゃあライナーに決めてもらおうぜ」
「え」
「エレンか私か選びな」
「いや、その…俺はどうせ投げられるならどっちでもいい……かな」
人差し指で頬をポリポリとかきながら忍びなさそうにそう言うライナー
を2人は冷たい目をしながらライナーに歩み寄る。
その冷たい視線を感じていたライナーは覚悟を決め身を任した。
だが次の瞬間上からまた何かが降ってくる、あれは鳥か?超大型巨人か?いや、ベルトルト・フーバーだ。
ベルトルトは「あぁぃ」と微かにうめき声をあげ白目を向いていた。
ベルトルトを吹っ飛ばした張本人が険しい顔をしてやってくる
「エレン…同じ相手とばかりやっていても実践的じゃない…だから私とやるべき」
「良かったね代わりの相手が見つかって」
アニは座り込んでるライナーに手を差し伸べ、ライナーはその手に応えアニの手を掴み立ち上がった。
アニは手を握ったままライナーを引っ張って連れて行ってしまった。
(なんでだ……ライナーがアニに連れて行かれてるだけなのに……心がぎゅうって締め付けられてるみたいだ……)
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